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誰かいしよし小説かいてくれ!!

1 :ポルノ : 2001/03/20(火) 00:39 ID:0w8gZvTE
うまいひと、よろしこ  

2 :名無し娘。 : 2001/03/20(火) 00:41 ID:cpVnaBJI
これなんかどうですか?私的にはいしよしで、好きです。

3 :: 2001/03/20(火) 00:42 ID:cpVnaBJI
http://www.interq.or.jp/yellow/hiuga/morning/novel/anotherlife.html

4 :名無し娘。 : 2001/03/20(火) 00:54 ID:tSXJK8R.
オレも読みてー

5 :名無し娘。 : 2001/03/20(火) 00:56 ID:PKUJ6GRc
logが居るだろ

6 :これでいいのか? : 2001/03/20(火) 01:07 ID:q6YxRHus
突然吉澤の前に石川が現れた。
「さあそこの愚民!りかっちの前に平伏しなさい!」
「ハァ?何言ってんだクソが!」
吉澤のかかと落としが石川の頭蓋骨にヒット!
逆ギレした石川が吉澤にバックドロップを返す。
こうして二人は永遠に殴り合いをした。



7 :木村 : 2001/03/20(火) 01:15 ID:kyuCrojM
じゃあ、俺書いて良いすか?今中断してるの投げ出してさ。

8 :名無し娘。 : 2001/03/20(火) 01:21 ID:LtYQVOYQ
>>7
向こうの続き書けよ

9 :名無し娘。 : 2001/03/20(火) 01:25 ID:lQnCvH/A
シャウト2000「いつか俺も武道館でやってみたいんだよ」
バンッペッボゥ「俺はお前なら出来ると思うけどな」

シャウト2000「ケッ、心にも思ってない事言いやがって。気休めなんかいらねーよ」
バンッペッボゥ「何だよ!!俺はお前のためを思って言ってやったんだぞ!!」

シャウト2000「この際はっきり言わせてもらうがな、俺は前からお前のその安直な考えが大っ嫌いだったんだよ!!」
バンッペッボゥ「何だとコノヤロウ、言わせておけば好き勝手な事いいやがって!!」

シャウト2000「オゥ、やるか?言っておくけど俺はギターで本気で殴るからな。死ぬぞ。」
バンッペッボゥ「うるせぇ!!殺してやる!!」

〜〜〜〜〜〜続く〜〜〜〜〜〜〜〜

10 :名無し娘。 : 2001/03/20(火) 01:27 ID:RW4ZbSZQ
木村途中で投げ出しすぎ(藁

11 :ポルノ : 2001/03/20(火) 01:31 ID:tSXJK8R.
向こうってなんですか

12 :名無し娘。 : 2001/03/20(火) 10:52 ID:SZgDXRHo
書いてもいいけど途中で放棄しないでほしい

13 :瞬殺 : 2001/03/20(火) 10:53 ID:3MFK6M4U
logに頼め。

14 :名無し娘。 : 2001/03/20(火) 10:58 ID:SZgDXRHo
頼んでも無理だろ?

15 :名無し娘。 : 2001/03/20(火) 10:59 ID:SZgDXRHo
俺的にはいしごまがいいけどな

16 :ミルク : 2001/03/20(火) 11:06 ID:5MqT5PeI
おれ、書こうか?

17 :瞬殺 : 2001/03/20(火) 11:07 ID:3MFK6M4U
>15
俺もいしよしはもうあきた。違う展開が見たい。

18 :名無し娘。 : 2001/03/20(火) 11:14 ID:um6uCf6I
いしごまは、なにげに少ないですよね。私は知りません。
後藤に翻弄される石川が見たいです。

19 :名無し娘。 : 2001/03/20(火) 11:18 ID:SZgDXRHo
じゃあ石川と吉澤と後藤の3人の小説は?
最近、石川と中澤のやつが見てみたいと思う。
でもいしごまが1番好きだ

20 :名無し娘。 : 2001/03/20(火) 11:24 ID:d/roOswI
石川と加護が見たい。
奔放なようで実は独占欲の強いやくざな加護亜依、
そんな加護を可愛いと思いつつもどこかでかなわないと感じてる石川。

21 :名無し娘。 : 2001/03/20(火) 11:25 ID:SCvZj7UM
もちろん加護攻めで?

22 :名無し娘。 : 2001/03/20(火) 11:29 ID:1vX8UpfE
>>19
禿げしく胴衣。
いしごま好きだけど石川と中澤のが読みたい。
俺は絶対書けないけど

23 :名無し娘。 : 2001/03/20(火) 11:30 ID:d/roOswI
>21
YES!!!

24 :名無し娘。 : 2001/03/20(火) 11:33 ID:SCvZj7UM
とにかく石川のオロオロしてるところが見たい。
それなら加護か中澤、後藤がベストだと思うが。

25 :名無し娘。 : 2001/03/20(火) 11:37 ID:SCvZj7UM
とにかく書いてほしいなら名作集いったほうがいいんじゃない?

26 :名無し娘。 : 2001/03/20(火) 11:51 ID:gF3/Vq96
>>9の続き

そういうとシャウト2000は傍らに置いてあったギターを取り、B!に飛び掛った。
B!の肩口に鈍い音とともに大きな衝撃が走る。
「ニギャァァ!!」
B!はその場に崩れ落ちた。
シャウト2000「ハァ、ハァ、口ほどにもないじゃねぇか。止めをさしてやる!!」
シャウト2000が鞄から牛刀を取り出そうとし、背を向けたその時、
「ビュンッ!!」
シャウト2000の頬を何かが貫通していった。
「ウギャァァァァッ!!ハヒ、ハヒィィィ」
何とシャウト2000の頬に釘が打たれている。
そこには電動釘撃ち機を持ったB!がたたずんでいた。
B!「俺があんなのでぶっ倒れるわけないじゃねぇか!!さぁ、今度こそ終わりだ!!」
B!が悶え、動けなくなったシャウト2000にゆっくりと一歩ずつ近付いていく。
「じゃあな、アディオス…。」
シャウト2000の脳天にB!は釘撃ち機を構えた。
?「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!」
そこには顔をクシャクシャにし、真っ赤に泣き腫らした梨華が立っていた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜続く〜〜〜〜〜〜〜〜

27 :名無し娘。 : 2001/03/20(火) 11:57 ID:SCvZj7UM
それか小説載せてるとこのHPでキリバンとればいい

28 :名無し娘。 : 2001/03/20(火) 12:03 ID:um6uCf6I
いしごまの名作知りませんか?
名作集行ったけど、見つかりませんでした。
いしよしはたくさんあったんですが。いしよしも好きです。

29 :名無し娘。 : 2001/03/20(火) 12:06 ID:d/roOswI
logのを読め。

30 :名無し娘。 : 2001/03/20(火) 12:17 ID:SCvZj7UM
いしごまあるよ。検索してみたら分かる。
白以外にならある。

31 :名無し娘。 : 2001/03/20(火) 12:24 ID:SCvZj7UM
青なら「小説・・・」「年少チ−ムの伝説」とか
赤なら「さっ地味に書いてくで♪」
緑「3月7日」
黄「チャ−ミ−石川と・・・」
探せばもっとあると思う

32 :名無し娘。 : 2001/03/20(火) 15:13 ID:um6uCf6I
>>30,>>31
ありがとうございます。探し方が甘かったようです。

33 :EJP : 2001/03/20(火) 15:42 ID:DI9LoHdM
問1:次の文を読んで後の問に答えよ
(吉澤は今年で20!大人の仲間入りだ。
吉澤はタバコをふかし、それを石川が嫌がる場面である)

吉「・・・・ふぅ〜〜〜」
吉澤は何気なく煙草を吸いはじめた。
@「あの・・止めていただけますか・・???」
吉「ぁ!?」
ふと、吉澤が振り向くと、そこには石川がいた。
石「たばこ・・きらいなんです・・」
吉「へ〜んじゃぁ、この部屋から出れば?」
吉澤は見下したようにそう言った
石「・・・・シクシク」
石川は吉澤の出ていけと言う言葉で泣いてしまった。
吉「なに?泣けば言いとおもってんのかよ!ぁあ?」
石「わぁぁぁぁん!!」
石川は本格的に泣き出した。
吉「・・あああ!!!もぅ!!!消せば良いんでしょ!」
吉澤は灰皿にタバコを押し付け消した。
吉「これでいいんでしょ!」
石「始めからすれば良いのに。」
吉澤がびっくりして石川をみると、涙1つ流れた後が無かった。
吉「(うわっ・・・・)」

石川の勝利!!

34 :あいう : 2001/03/20(火) 16:12 ID:gJErnEh.
ぱぁ

35 :名無し娘。 : 2001/03/20(火) 17:48 ID:7F9/.BDI
ttp://www20.freeweb.ne.jp/art/log0076/ishiyoshi.html

logの過去の作品。
勝手に貼り付け。まあいいや。logだし。

36 :U-名無しさん : 2001/03/20(火) 17:56 ID:Q26kP0Ng
書くぞ。いいか?

37 :名無し娘。 : 2001/03/20(火) 17:58 ID:vgqyMtck
どぞどぞ

38 :U-名無しさん : 2001/03/20(火) 18:00 ID:Q26kP0Ng
じゃあちょっと待ってね。一日ぐらい

39 :名無し娘。 : 2001/03/20(火) 18:05 ID:vgqyMtck
期待してます。がんばってくれYo!

40 :U-名無しさん : 2001/03/20(火) 18:06 ID:Q26kP0Ng
やべー。軽はずみにいっちゃった・・・

41 :名無し娘。 : 2001/03/20(火) 18:08 ID:vgqyMtck
まあ気楽にマターリ行きましょうや。

42 :名無し娘。 : 2001/03/20(火) 18:12 ID:WrpRpSDY
あげ

43 :名無し娘。 : 2001/03/21(水) 09:49 ID:i2CkYY2g
楽しみ

44 :名無し娘。 : 2001/03/21(水) 11:10 ID:OmpH7Jzg
>>26の続き
シャウト2000 「あっ、梨華ひゃん…。」
B! 「り、梨華ちゃん!」
梨華 「私のために何で二人が喧嘩しなきゃいけないの!!一番辛いのは私なの!!分かる!?」

シャウト2000 「うっ…」
B! 「……、でも……」
梨華 「あー、もうじれったい!!こうなったら私が二人を楽にしてあげる!!」
そういうと梨華は背中からロケットランチャーを取り出し、二人に照準を合わせた。

梨華 「おんしらのこと、忘れないけんね。成仏しぃや。」
シャウト2000 「ううっ、ま、待ってくへ〜」
B! 「梨華ちゃん、落ち着いてくれ!!ゆっくり話そう!!」

シャウト2000とB!の言葉を遮り梨華はミサイルをぶっ放した。
シャウト&B! 「ギャァァァァァァァ!!!!!」

〜〜〜〜〜〜〜〜続く〜〜〜〜〜〜〜〜

45 :U-名無しさん : 2001/03/21(水) 17:30 ID:JVcR1/qM
やべー。全然アイデアが浮かばねー

46 :名無し娘。 : 2001/03/21(水) 17:38 ID:gINl7ZMY
ま、気楽にマターリマターリいきましょうや。

47 :チャーミー剣士 : 2001/03/22(木) 21:25 ID:CE4DALR2
今ちょうど >>18 >>19 で言ってるようなの書いてます・・・
そのうちどこかで上げようと思ってます。
期待されてないならヤメますから、いじめないで下さい・・・
シリアス系。

48 :名無し娘。 : 2001/03/23(金) 00:13 ID:FEfsq99o
>>47
チャーミー出るんなら読みます。


49 :チャーミー剣士 : 2001/03/23(金) 07:37 ID:xeIhB7Hw
>>48
チャーミーは主人公です。もちろんです。
登場する娘。は吉澤、後藤、辻、飯田、加護(?)、中澤(?)です・・・
重要度順。


50 :名無し娘。 : 2001/03/23(金) 10:17 ID:xeIhB7Hw
普通の小説読みたい。
もうバトロワとかそういうのはいいよ。
あーいうのって設定やらストーリー作りが楽だから書いてんですよね?

>>チャーミー剣士
期待してますよん

51 :名無し娘。 : 2001/03/23(金) 10:23 ID:xeIhB7Hw
と、自分で応援してみました。こ、これはダメかな・・・

52 :名無し後藤。(一日目) : 2001/03/23(金) 12:21 ID:CuoAU3VA
チャーミー剣士さん>頑張ってください。

53 :名無し娘。 : 2001/03/23(金) 12:53 ID:mAxtqJug
楽しみにしてます

54 :チャーミー剣士 : 2001/03/23(金) 19:52 ID:CZICvHfA
とりあえずどうしましょう・・・
ここに書いてもいいですか?
様子見で10発言分くらいアップしようと思ってますが・・・

55 :名無し娘。 : 2001/03/23(金) 20:16 ID:JlOt201M
やっちゃえ、まずやっちゃえ。

56 :大河好き : 2001/03/23(金) 20:22 ID:IvivTac6
石川「ヨッスィーは将来どんなヒトとケッコンしたい?」

吉澤「ううん そうねえ・・・」

石川「あたしはね ハンサムでお金持ちの人と結婚するの 氷川きよしみたいなちょっとカヨワイかんじのボンボンがいいなぁ」

吉澤「ああ そうなの・・・」

石川「ヨッスィーは将来どんな家に住みたいの?」

吉澤「ううん べつになにも・・・」

石川「やっぱりイシカワはね大っきな家にすみたいの お城みたいな家もいいけど、それじゃお掃除が大変そうだからね やっぱ平屋の普通の家がいいわ」

吉澤「へえ そうなの・・・」

石川「でもってお庭にはプールが欲しいわ そのプールのサイドにパラソルひろげてコーラとかを飲むの 氷川きよし似のだんなさんと一緒にね!」

吉澤「へえ・・・すごいじゃん」

石川「だからねイシカワが将来結婚したら、ヨッスィーを家に招待してあげるからね!」

吉澤「ああ・・・ありがとう」

57 :名無し娘。 : 2001/03/23(金) 20:23 ID:PDlhpYQA
>>56
ワラタ

58 :名無し後藤。(一日目) : 2001/03/23(金) 20:55 ID:qGWG6bhc
後藤「わざわざこんな人の少ないとこまで連れてくるなんてどーしたの、よっすぃ〜?」
吉澤「あのさ…、今度私の家こな…」
石川「よっすぃ〜、どーしたの〜?早くかえろ〜。」
吉澤「うん、あとで行くから外で待っててね。」
石川「私がいるといけない話でもしてるのかなぁ〜?よっすぃ〜は。」
吉澤「ち、違うよ。りかちゃんに隠してる事なんて無いよ〜。」
石川「だよね〜。よっすぃ〜、愛してるよ〜。」
吉澤「う、うん。」
後藤「で、どーしたの?」
石川「そ〜だよ〜、隠さずにチャーミーにも教えてよ〜。」
吉澤「え、え〜とさぁ…明日って何の収録の日だっけ?」
後藤「明日はMUSIXの収録だよー。しっかりしなよ、よっすぃ〜。」
吉澤「ゴメンゴメン。」
石川「じゃあよっすぃ〜、かえろ〜よ。」
吉澤「うん…。」


59 :名無し娘。 : 2001/03/23(金) 22:34 ID:fTe7vprs
>>58
あ!「よろしくね」が「大阪出身です」に変わってるね!
チャーミーは押しが強いイメージなんすか?

60 :名無し娘。 : 2001/03/23(金) 23:21 ID:fTe7vprs
石川は、押しが強いと言うより空気が読めない。

61 :名無し娘。 : 2001/03/23(金) 23:24 ID:z8LhwYgc
というか状況を考える、という言葉があることを知らない。

62 :U-名無しさん : 2001/03/23(金) 23:59 ID:lQGJeElo
つーかエロ小説じゃなきゃ駄目なのか?

63 :名無し娘。 : 2001/03/24(土) 00:15 ID:yglWvric
そうそう空気の読めない天然っぽい石川が
出てくるやつが読みたいれす。
エロで有りでも無しでもどっちでも〜

64 :チャーミー剣士 : 2001/03/24(土) 00:58 ID:1iyN/2RQ
適当なくらいまでスレが下がったら
書き込みマス・・・

65 :ポルノ : 2001/03/24(土) 01:23 ID:6vN3yW3g
エロ有り希望


66 :名無し娘。 : 2001/03/24(土) 18:51 ID:VOjOXNlU
チャーミー剣士さんとにかくがんばって

67 :名無し娘。 : 2001/03/24(土) 19:19 ID:JN5XHiHs
>>66
お前面白い(w
わざわざ上げて書くところに煽り根性を感じたヨ


68 :名無し娘。 : 2001/03/24(土) 22:14 ID:IdLPdkLA
>>66
煽り目的じゃなくてほんとに読む気なら
sageましょー\(^▽^)/


69 :U-名無しさん : 2001/03/25(日) 02:05 ID:MQD.lfiI
駄目だ・・・全然うかばねー。サッカーばっか見てる

70 :チャーミー剣士 : 2001/03/25(日) 02:30 ID:ZrSCZk6o
ということで、小説書かせていただきます・・・
ちなみに加護は登場予定だったけど、このままの流れだと
たぶん出てこないです。中澤も怪しいです
後は >>49 の通りかな
あ、書き忘れてたけど矢口は結構絡んできます

それでは、稚拙な文章だとは思いますが
お楽しみいただけると嬉しいです・・・


71 :チャーミー剣士 : 2001/03/25(日) 02:31 ID:ZrSCZk6o


タイトル: 『返事はいらない』
ほのぼの〜シリアス系(?)



72 :チャーミー剣士 : 2001/03/25(日) 02:32 ID:ZrSCZk6o
−午前6時30分−

ピピピピピ・・・
「・・・」
ピピピピピ・・・
「・・・んー・・・」
カチャッ

−午前6時35分−

ピピピピピ・・・
「・・・」
ピピピピピ・・・
「・・・」
ドンドンドン!!
「お姉ちゃん!起きて!!お姉ちゃんってばー!!!」
「んー・・・」
カチャッ
「お姉ちゃんっ!!」
「ぁ・・・おはよぅ・・・」
朝。今日も気持ちの良い朝だった。まだ眠気の方が強かったが、なんとか
ベッドから出ないように注意しながらカーテンを開けてみる。
「・・・んー!!!気持ち良い・・・!」
そう言うと中々ベッドから出ようとしない少女は小さく背伸びした。

石川梨華、16歳。市内の私立高校に通う高校1年生。
友達思いで優しく、彼女の周りは常に明るい友人に囲まれている。ただ、周囲
の様子を気にしすぎて身を引くこともしばしば。自分から目立とうとはしない。
それから、少し朝には弱い。

「もぉ!気持ち良いじゃないよ!何回目覚まし止めれば気がすむのよー!」
「えへへ・・・だって朝は眠いよー」
「朝じゃなくても眠そうな顔してるでしょー、ほんとにもぉ・・・」


73 :チャーミー剣士 : 2001/03/25(日) 02:33 ID:ZrSCZk6o
梨華は毎朝繰り返されるこの何気ない日常が好きだった。
中々起きることができない自分と、それを知って毎朝起こしに来てくれる
少女、そして繰り返される取り止めの無い雑談・・・
朝の気分でその日の気分が決まってしまう梨華にとって、この少女との会話
は一日でもっとも重要なイベントである。
この一連の作業を終えると、いつものようにやる気が出てくる。
「あ!朝練に遅れちゃうっ!じゃあ、お姉ちゃん私もう行くよ!」
「はーい。バレーがんばってね、ののちゃん」
「うん!お姉ちゃんもちゃんと朝ご飯食べて行ってね」
「はーい」

辻希美、13歳。市内の私立中学に通う中学2年生。
2人の通う学校は中高一貫のエスカレーター式で、校舎自体も隣同士。
家も隣で、梨華とは小学校に入る前からいつも一緒だった。
人見知りしない明るい性格から、特に年上の受けは良い。



74 :チャーミー剣士 : 2001/03/25(日) 02:34 ID:ZrSCZk6o
「じゃあ、行ってきます、お父さん」
梨華は居間に置いてある小さな仏壇にそう言うと、元気に外へ走っていった。
梨華には父親がいない。彼女が小学校に上がる前に何かの事故でこの世から
去ったと母親から聞かされた。だが、母親は具体的なことは何一つ教えてくれ
なかった。
母親は朝が早い。いつも梨華が目を覚ますと母の姿はすでに無い。その代わりに
梨華が学校から帰ってくると必ず家で待っていてくれていた。
そして、必然的に隣に住んでいる希美が毎朝梨華を起こしに来るようになった。

梨華は自分を取り巻くこの環境が好きで仕方がなかった。
学校の友達、可愛い妹のような希美、母の作ってくれるホットケーキ、向かいの
家で飼っている犬のロシナンテ。父親がいないのは確かに寂しいと思うが、物心
ついた頃にはすでに母と2人だったため、正直あまり考えられなかった。

「はいっ!戸締りおっけぇ!」
家を出ると、必ず一度戸締りを確認する。
それからいつも通りの道を歩いていった。途中で一箇所急な上り坂があり、そこ
だけは苦手だった。梨華にとってはこれが大きな関門で、ここを超えると学校へ
の道が開ける、いわゆる精神力の試練である。と、昔希美に話したことがあった
が、思い切り笑われて落ち込んだこともある。
「っよし!」
今日も小さく気合いを入れて、梨華はその坂に挑んでいった。


75 :チャーミー剣士 : 2001/03/25(日) 02:35 ID:ZrSCZk6o
「電車っ、電車っ、まだかな〜♪」
急な上り坂を超えるとすぐに駅が見える。梨華はその駅のホームの一番前で電
車を待っていた。
梨華たちの通う学校は電車で3駅のところにあり、十分自転車でも通える距離
だったが、梨華は電車通学が好きなので毎日電車で通うことにしている。
たまに部活帰りに遅くなると希美や他の友達の自転車に乗せてもらうこともあ
る。
「あ!梨華ちゃん、おはよー!」
と、突然後ろから元気な声がした。自分の世界に入り込んで歌っていた梨華は
驚きつつも後ろを振り返る。
「あ、よっすぃーじゃない!もう、驚かさないでよー」
「え??そんなこと言われても普通に声かけただけだってばぁ」
「うふふっ、ごめんね!おはよ、よっすぃー♪」

吉澤ひとみ。15歳、梨華と同じ私立高校に通う1年生。
さっぱりした性格でありながら面倒見が良い、容姿もどちらかと言えば長身で
格好良いタイプであることから、女子からの人気は圧倒的に高い。
梨華とは大の親友で、切っても切れない仲。

「あ、そう言えばよっすぃー昨日さぁ…」
どこでも見ることのできる普通の光景だった。
学校に行く途中の友達同士のたわいのない雑談。だが、当の本人たちからすれば
これはとても大事なことで、今生きていることを確認できる大切な時間だった。


76 :チャーミー剣士 : 2001/03/25(日) 02:36 ID:ZrSCZk6o
「…それでさ、もうののちゃんってばお母さんみたいなこと言うの」
「あの子ほんとに可愛いよねー」
梨華は吉澤とごく普通の会話をしながら電車を待っていた。
周りには梨華たちと同じ制服を着た学生がぽつぽつと見受けられる。
電車で3駅という近さのために登校時間も遅くなり、どう贔屓目に見てもラッシュ
とは言えないホームには、それでもけだるそうなサラリーマンやOL、さらには何
が目的で電車に乗るのか分からない一見大学生風の猫背の男など、いろいろな種類
の人物を見ることができる。
そういった、すいてるとも混んでるとも言えないホームに電車の到着を知らせる放
送が流れた。ゆっくりと電車の乗降口を示すラインに人の流れができていく。
自然と梨華たちの後ろには人の列ができることになる。
そのとき、梨華は後ろにふと何か別の気配を感じて反射的に振り返ろうとした。
「??
きゃっ!!!!!」
梨華が振り替えるほんの一瞬前、突然伸びてきた手は梨華の背中に深く沈んでいた。

ドンッ!!
「きゃぁぁー!!!」
そのまま何の抵抗も無く梨華は線路に落ちていく。
「梨華ちゃん!?」
一瞬何が起こったか分からなかったが、ホームを大きくそれて線路に落ちていく梨華
を見て吉澤は体中に悪寒が走る。血が沸騰するのを全身で感じた。
吉澤は梨華を助けようと手を伸ばすも、ぎりぎりで届かない。
梨華と目が合った。
息はできない。
頭が真っ白になった。
横を見る。
「!!電車が…!!」


77 :チャーミー剣士 : 2001/03/25(日) 02:37 ID:ZrSCZk6o
吉澤の体は硬直した。助けようとして、線路に飛び降りようとしても体がそれを
許さない。また、梨華も同様だった。線路から逃げようとしても上手く体が動かせ
ない。
電車は体の奥まで響くような警笛を鳴らしながら、車輪からは白い煙をあげながら
必死に止まろうとしていた。
「やばい…むりだ…!」
誰かがつぶやく。梨華たちは不運にもホームの後ろの方で待っていた。
いくらスピードを緩めているといっても電車は止まれそうもない。
「梨華ちゃん!梨華ちゃん!早く逃げてぇぇ!!」
吉澤は半分狂ったように叫ぶ。
電車はもうすぐ近くに迫っていた。梨華の座り込んでいる場所で止まることができな
いということは、物理を勉強していない小学生でも理解できた。
ジリリリリリリ…
誰かが警報機を押したらしく、ホームが騒音に包まれる。だが、これで電車が止まる
わけもなく、周りの人間をさらにパニックさせるだけだった。
吉澤は梨華と電車を交互に見ていた。電車がものすごいスピードで近づいてくるのに
比べ、梨華の動きはイライラするほど遅く見える。
認めたくないと強く思いながらも、もうだめだという気持ちはぬぐいきれなかった。
吉澤に予知能力はなかったが、梨華と電車が重なる瞬間が鮮明に見えていた。
もう声も出ない。涙も出ない。ただ夢を見ているようにふわふわと飛んでいるような
感覚しかなかった。
と、突然吉澤の身体が軽く突き飛ばされる。
「どけっ!!」
一人の人間が吉澤の脇を通り抜けて線路に飛び降りていた。
吉澤はその姿に見覚えがあった。


78 :チャーミー剣士 : 2001/03/25(日) 02:38 ID:ZrSCZk6o
線路に飛び出したのは髪をブラウンに染めた少女だった。
「…捕まってろ」
そう言うと少女は梨華を抱き上げ、機敏な動きで反対側の線路へ飛ぶ。
キイィィィィ…!!!
ほぼ同時にたった今梨華が座り込んでいた場所を耳障りな音をたてて電車が通り
過ぎていく。
「・・・!!
 梨華ちゃん!梨華ちゃん!?」
目の前を鉄の塊が通り過ぎる様子を見て、やっと吉澤は正気を取り戻した。
電車を挟んでいるために梨華の姿が見えず、吉澤は大きな不安に襲われる。
梨華が居た位置からかなり進んだところでようやく電車は止まり、乗客もなにご
とかと騒ぎはじめている。悲鳴が上がらないところを見ると、最悪の事態は回避
されているはずだ。そう信じたかった。
「梨華ちゃん…!」
我慢できずに吉澤は電車を回り込んで線路に降りようと走っていた。
恐い。
もし梨華ちゃんが大怪我でもしていたらどうする?自分が助けなかったから?
梨華ちゃんは私を許してくれるかな。ダメだろうな…
走る速度がだんだんと遅くなるのが分かった。でも、なによりも梨華の顔が見た
かった。見て何を言われてもいい。とにかく梨華に会いたい。
一度落とした速度をまた上げて電車の先頭車両を越えた。後はここから線路に降りて
戻るだけだ。
「梨華ちゃん!」


79 :チャーミー剣士 : 2001/03/25(日) 02:38 ID:ZrSCZk6o
そこには呆然と立ち尽くす梨華の姿があった。
吉澤は急いで駆け寄ると梨華の肩をゆすりながら話しかける。
「梨華ちゃん!大丈夫!?」
しばらく梨華はそのまま呆けていた。そして、突然糸が切れたように泣き出した。
「よっすぃー!!私、私…恐かったぁ…
死んじゃうかと思って…もう…よっすぃーに会えないって」
吉澤は今にも崩れ落ちそうな梨華の体を必死に支えていた。
「梨華ちゃん…私…ごめんね!
助けに行こうと思っても、体が、体が全然動かなかった…!」
「いいの…いいよ…よっすぃーは全然悪くないよ…」
吉澤も泣いていた。

その後は精神的に疲れることが多かった。
駅員から呼ばれたと思えば警察まで出動していて、午前中はとうとう学校に行く
ことができなかった。
駅員は優しかったが、警察の態度は酷いものだった。
散々その時の状況を聞いておいて、5分後にはまた同じことを聞こうとする。
何回説明しても同じ質問の繰り返しで、梨華も泣きそうになっていた。
結局、たいして解決もしてないまま2人は開放されることとなった。
「また」という警官の声はもう一生聞きたくない。
2人で駅前のマックで昼食を食べた後学校に行くと、今度は連絡を受けた学校で
大きな噂になっていたらしく、午後はほとんどの時間を職員室で教師相手に話す
ことで過ぎていった。


80 :チャーミー剣士 : 2001/03/25(日) 02:39 ID:ZrSCZk6o
午後4時。
やっと開放された2人は、とにかく人気の無いところへ行こうと屋上へ来て
いた。
「んー!気持ち良い!
やっと自由になれたねー、梨華ちゃん」
晴れ晴れとした表情で吉澤は梨華に言った。
「はぁ…もう私疲れたなぁ。
よっすぃーは元気だね、いいな、うらやましいよぉ」
それからしばらくは2人とも黙っていた。
屋上に吹く春の風は本当に気持ち良く、梨華もようやく落ち着いていた。
「ね、梨華ちゃん…」
5分くらいたっただろうか、吉澤が梨華に話しかける。
「え?なぁに?」
梨華もそれに眠そうな声で応じる。もう少し放っておいたら眠っていただろう。
「あのさ、助けてくれた人ってほんとに分からない…?」
実際、今までいろいろと聞かれてきたが、梨華はずっと誰が助けてくれたのか
は分からないと言っていた。
「…うん、実はね、見たことがあるような気はするんだけど、本当に誰だかは
分からないの。誰だったのかなぁ、お礼言わないといけないのに…」
気が動転していた梨華は、あの時のことをほとんど思い出す事ができなかった。
何とか分かるのは、助けてくれたのが女性だったことと、髪の毛に色が入って
いたことだけだった。声も思い出せない。
「あ、あのね梨華ちゃん。私その人にちょっと心当たりがあるんだけど…」
「えっ!?ほんと?
誰なの?私も知ってる人かな?」
「う、うん。あのね、たぶんだとは思うけど…」
嬉しそうに聞いてくる梨華に、吉澤は複雑な気持ちになりながらも、ゆっくりと
答えた。
「後藤さん…かな」


81 :チャーミー剣士(休憩) : 2001/03/25(日) 02:44 ID:ZrSCZk6o
すこし短いですが、この辺で今日はやめときます・・・
導入部分はこれで半分くらいかな
あの・・・良かったら読んでください

82 :名無し娘。 : 2001/03/25(日) 03:34 ID:EyFrj1VE
面白そうです。
頑張ってください。

83 :名無し娘。 : 2001/03/25(日) 12:23 ID:NJymHCPg
夜になる前に一回ageときます

84 :名無し娘。 : 2001/03/25(日) 12:25 ID:NJymHCPg
>>チャーミー剣士さん
面白いです!
続き期待してます

85 :名無し娘。 : 2001/03/25(日) 15:49 ID:36KUBs1k
良いだべさ。後半期待sage

86 :チャーミー剣士 : 2001/03/26(月) 03:14 ID:pz7Jxy3o
続きいきます

87 :チャーミー剣士 : 2001/03/26(月) 03:14 ID:pz7Jxy3o
「後藤さん??」
自分の思っていた人物とは違ったのか、梨華の反応は薄い。
「梨華ちゃん知らない?」
「うーん…よく分かんない…」
「あのね、一応この学校の娘なんだ、後藤さんって」
「えっ!?そうなの?それなら早くお礼言わなきゃ!」
そう言って今にも出て行きそうな梨華を吉澤は制止する。
「ま、待って梨華ちゃん!
ほらほら、話は最後までちゃんと聞かないと」
少し冗談っぽく言うと、梨華も微笑してまた床に座り込んだ。それでも早く後藤と
いう人物に会いにいきたがっていることは容易に分かる。
「どうしたのよっすぃー?あ、後藤さんって何組の人?」
「うーん、それが…
あのね、梨華ちゃん。後藤さんってずっと学校に来てないみたいなの」
「え?そうなの?」
「うん。なんかさ、いろいろと問題が多い人みたいだよ」

後藤真希。16歳、梨華と同じ私立高校に通う1年生。
入学してから学校にはほとんど姿を見せず、後藤を良く知る人物はいないが、どこ
そこで見たという目撃情報は意外に多く、それらを総合すると決して良い噂が流れ
るような人物ではない。


88 :チャーミー剣士 : 2001/03/26(月) 03:15 ID:pz7Jxy3o
「…私を助けてくれたのがその後藤さん…?」
梨華は一通り吉澤の話を聞いても信じる気にはなれなかった。
それは、自分を助けたのが後藤であることを信じたくないのではなく、自分を助けた
後藤がそういう人物であることを信じたくないという気持ちだった。

吉澤がどこまで後藤を知っているのかが分からないが、話を聞く限りでは梨華を助け
た人物は後藤であると言わざるを得なかった。
「うん、だからさ…どこにいるかも分からないし、その、あんまりお礼とか言わない
方がいいんじゃないかな」
「そっかぁ…」
露骨に残念がる梨華に、吉澤の胸は苦しくなっていた。
(後藤さんの悪い噂…梨華ちゃんには言えないよ…)

「お姉ちゃーーーんっ!!」
ふいに下のほうから大きな声がした。梨華たちが屋上の手すりからグランドのほうを
見ると、希美がぴょんぴょんと飛び跳ねながら叫んでいる。
「あ、ののちゃん!どうしたのー!?」
梨華も叫んで聞いてみるが、いまいち声が小さくて聞こえないようだった。
「梨華ちゃん、グランドに行こうか?」
「…そうだね!」


89 :チャーミー剣士 : 2001/03/26(月) 03:16 ID:pz7Jxy3o
「ほんと、心配したんだからね!!!」
梨華がグランドに来るなりそう言うと、希美は梨華に抱きついてきた。
「うん、ごめんね」
梨華も希美を優しく抱きしめる。

そして、希美はぱっと梨華から離れると少し下がって言う。
「ね、今日はもう帰るの?」
これも良くある光景の1つだった。隣の中学が終わると希美はちょこちょこと
こちら側に来ては梨華たちを誘って家に帰っていた。
「うん。疲れちゃったし、今日は部活も休もうと思ってたし」
梨華はそう答えると今度は吉澤に向かって言う。
「よっすぃーも、一緒に帰るよね」
「あ、うん。私は帰宅部だしね」
「それじゃ、テニス部の先輩に言ってくるからちょっと待ってて」
そういうと梨華は小走りに部室の方へ走っていった。
残された2人は顔を合わせて笑いあう。
「あれ?ののちゃんは部活どうするの?」
「あ、私も今日休んじゃった!
だって心配でバレーも手につかないよー」
「はは、そうだよね。梨華ちゃんだけに余計心配だし」
「あー!よっすぃーひどいなー!」


90 :チャーミー剣士 : 2001/03/26(月) 03:16 ID:pz7Jxy3o
帰りは3人に対し自転車が1台しかなかったため、歩きになってしまった。
梨華は希美に「今日は自転車を学校に置いて電車で帰ろう」と何度も言ったのだが、
希美はそれを断固として拒否した。
確かにあんなことがあった後で、梨華としても望んで電車に乗ろうという気分には
ならなかったが、2人の顔には出さないが疲れた心情を考えると電車で3駅は遠い
と思っての提案だった。
そんな梨華の配慮も吉澤の「こんな時まで私たちに気を使わなくてもいいよ」とい
う一言で杞憂のものとなった。
実際、梨華は気の置けない親友に対しても気を使うことが多かった。
自分では癖のようになっていて、それをよく吉澤に指摘されてようやく気付くとい
ったことも多い。


91 :チャーミー剣士 : 2001/03/26(月) 03:17 ID:pz7Jxy3o
「ね!ちょっと寄っていかない?」
ちょうど家と学校の間くらいのところで吉澤が言った。
吉澤が指さす先には『I WISH』と書かれた看板が立っている。
位置的にも学校の近くのため、ここにはよく学生が集まっている。梨華も例に違わ
ずたまに利用していた。
店内はカウンターの周りにテーブル席が6つほど置いてある、一見すると西部劇風
のバーのようなところだった。ただし、西部劇と違うところはマスターが口ひげを
生やした無口な男ではなく、学生達と気軽に雑談を交わしては表情豊かに笑顔を見
せる20代半ばの女性というところである。
「あ、私ここ入ったことなーい!入ってみたいな!」
希美がすかさず賛成する。中学生の彼女には普段の生活では入る理由もなかったし、
梨華と一緒の時でもなんとなく入ろうとは思わなかった。でも、興味がないわけで
はないし、こういうちょっと大人の世界が見てみたいというこの時期の少女ならで
はの憧れもある。
「・・・うん、疲れちゃったしね、入ろっか」
梨華が答えると希美は「やったー!」と飛びはねて喜んでいた。
その様子に2人は思わず笑ってしまった。
(やっぱりまだ子供だねー)
吉澤が希美に聞こえないように耳打ちしてきた。


92 :チャーミー剣士 : 2001/03/26(月) 03:19 ID:pz7Jxy3o
カランカラン・・・
「いらっしゃーい、って梨華ちゃんによっすぃーやんか!
久しぶりやなー、もう来てくれへんのかと思ってたわ」
店に入るなりマスターである女性が言ってくる。
まだ早い時間のためか客は梨華たちだけで、3人はとりあえずカウンター席に並んで
座ることにした。
「裕子さん久しぶり!電車通学してるとどうしてもねー」
吉澤が笑いながら答える。
「あれ?そっちの可愛いお嬢ちゃんは初めてやな。お名前は?」

中澤裕子。27歳、喫茶『I WISH』の店長。
梨華たちの学校の女生徒にとっては姐御的存在で、恋愛や勉強の相談をよく聞いてい
るため、人によってはクラス担任よりもその人物を良く知っている。

いつも思うのだが、梨華はこの中澤を『保健室の先生みたい』だと表現している。
何かあれば何でも相談に乗ってくれるし、何よりも相手の立場になって考えてくれ
ている。中澤に相談して進学先を決めた人もいるそうだ。


93 :チャーミー剣士(休憩) : 2001/03/26(月) 03:23 ID:pz7Jxy3o
2回で導入部分は書いてしまうつもりだったんですが、時間の都合で
今回全部書けませんでした。
ということで導入部はもう1回あります・・・ごめんなさい

それから、感想ありがとうございました!
楽しんでくれている人がいて嬉しいです

94 :名無し娘。 : 2001/03/26(月) 09:01 ID:FJdQT9zo
続きが楽しみです。ガンバッテ。
稚拙どころか、文章も読みやすくていいです。
石川を押した犯人は絡んでくるの?

95 :ポルノ : 2001/03/26(月) 12:38 ID:/6qIn5ac
今、全部読みました!
おもろいっすねエ
続き期待しています

あ!金がヤバいかも


96 :名無し娘。 : 2001/03/26(月) 15:58 ID:vvqmWyaM
保全sage

97 :名無し娘。 : 2001/03/26(月) 16:23 ID:Qd8C4Teo
こんなとこに超優良小説が!!
マジ面白いデス!

98 :チャーミー剣士 : 2001/03/26(月) 21:12 ID:MPdib51g
続きいきます
これで導入部は終わりです・・・

99 :チャーミー剣士 : 2001/03/26(月) 21:14 ID:MPdib51g
「あー!あんたがあのののちゃんか!
梨華ちゃんがいつもののちゃんの話してるから初めて会った気がせぇへんわ」
初めて来た希美も中澤の人当たりのよさにすっかり慣れたようだった。
すでに友達のように冗談を言い合っていた。
「あ、そんな話ばっかしてたらうちがもうからんわ。
なんか注文してほしいな」
中澤が笑いながら言った。
「私はいつもの『ミラクルナイト』!」
すかさず梨華が答える。
「あ、じゃあ私も」
吉澤もそう言った後、希美は周りを見回して普通の喫茶店とメニューがまったく違う
ことに気付いた。
「みらくるないとって何ですか??」
中澤に聞いてみる。
「あー、うちの店はな、メニューが全部オリジナルなんや」
中澤の話によると、今梨華が頼んだものはコーヒーの種類で、裕子姉さんオリジナル
のブレンドだそうだ。中身は企業秘密で教えてくれなかった。
そのほかにもいろいろと不思議な名前のものがあったが、そのどれもが最後には中澤
オリジナルの企業秘密とやらでごまかされてしまった。
「えっと、そしたら私は・・・あのバイセコー?っていうサンドイッチお願いします」
変な名前だな、と思いながらもおなかの空いていた希美はサンドイッチらしきものを
注文した。中澤は「はーい」と言って背を向けて調理を始めた。


100 :チャーミー剣士 : 2001/03/26(月) 21:14 ID:MPdib51g
「でもお姉ちゃん、なんで線路に落ちちゃったの?
いくらお姉ちゃんでもホームで寝てたってことはなさそうだし」
「あー、ひどいなー、いくら私でもそんなことしないよ」
サンドイッチを食べながら希美は聞いた。特にどこが特徴的とは言えないが、これも
裕子姉さんのオリジナルらしい。注意して食べると確かに少し普通とは違う香りがす
るような気もしたが。
「あ、でも梨華ちゃん誰かに押されたって言ってたよね・・・?」
吉澤が口をはさんだ。コーヒーを口につけ、熱かったのかすぐにまた離して受け皿に
戻す。猫舌の吉澤はさっきからこの作業を繰り返しているため、コーヒーの中身は全
然減っていない。
「うん・・・でもね、ほんとに押されたのか分からないし、ただぶつかっただけだと
思うんだけど・・・」
梨華のコーヒーはすでに半分ほど減っていた。
「なんや梨華ちゃん、線路に落ちたんかいな!!?」
しばらく奥に行っていた中澤が戻ってくるなり話に参加してくる。
梨華たちは今日のことを中澤にゆっくりと順を追って説明した。朝から数えてもう何
十回と説明してきたことだが、不思議と今回は話していて嫌な感じは無かった。
詳しい話ははじめて聞く希美も真剣に耳を傾けていた。

「はぁー、そりゃ大変やったな・・・」
10分後、すべてを聞き終わって最初に口に出たのが中澤のこの言葉だった。
希美もすでにサンドイッチは食べ終わり、おまけでもらったココアを飲んでいる。
「うん。でもやっぱり押されたのかぶつかっただけなのかは分からないの・・・」
梨華はそう言うと2杯目のコーヒーを飲み干した。


101 :チャーミー剣士 : 2001/03/26(月) 21:15 ID:MPdib51g
「祐子さん、またねー!」
あの後、小一時間ほど雑談を交わして梨華たちは店を出た。
帰り際に中澤が言った「もっとちょくちょく顔だしてなー」という言葉にみんなで
答えて再び帰路につく。
「すっっっごくおいしかったね!また行きたいな」
希美は『I WISH』が相当気に入ったようで、いつも以上にはしゃいでいた。
中澤も希美は気に入ったらしく、なにかある度に希美の頭を撫でていた。その様子
を2人で「親子みたい」と言ったら中澤に怒られてしまった。
「あ、それじゃあ私はここで」
さらに10分ほど歩いたところで吉澤が言う。
「あ、そうだね、うん。それじゃあまた明日ねっ!」
そう言って梨華は軽く吉澤に抱きつく。
「きゃははっ、もう梨華ちゃんやめてよー」

このとき、梨華の心はあることでいっぱいになっていた。
冗談のふりをして吉澤に抱きついていったのだが、本当は吉澤に自分を抱きしめて
欲しかった。
誰かに状況を話す度に大きくなっていったある1つの確信。
(あれは偶然の事故じゃない)
「梨華ちゃん・・・?どうしたの?」
思わず力が入ってしまい、吉澤も梨華の異変に気がついた。
梨華の顔をのぞき込むと、少し涙ぐんでいた。
「!う、ううん、何でもないよっ!
それじゃあまた明日ねっ!遅刻するんじゃありませんよー」
梨華はそれだけ一気にまくして、吉澤に背を向ける。
「さ、ののちゃん帰ろう」
そして希美を促すと、家に向かって足早に歩き出していた。
「あ、うん」
希美はとまどいながらも梨華の後を追う。
残された吉澤はしばらくそこを動かなかった。
「梨華ちゃん・・・」


102 :チャーミー剣士 : 2001/03/26(月) 21:16 ID:MPdib51g
家に帰り着くと、今度は母親に説明をすることになった。
よほど心配していたらしく、夜ご飯も作らないで梨華を待っていた。
梨華は途中で寄り道したことを少し悪いと感じながら、再び今日の事故を母親に話
した。
それから、いつもより時間をかけてお風呂に入り、早めに寝ることにした。

「長かったな・・・」
こんなに一日が長いと感じたことはなかった。
あの事故にあったのはもう昨日のことのように感じる。実際、あのときの恐怖はす
でに薄れている。今の不安は線路に落ちたことではなく、もう1つのことだった。
「やっぱり・・・事故じゃないのかな・・・」
つぶやいて、大きなため息をつく。
『1回ため息をつくと幸せが1つ逃げるんだよっ』
梨華の脳裏に昔の記憶が蘇ってくる。
ずっと昔、小学生の低学年の頃だったと思う。あの頃はよくため息をついていた。
何がイヤだったというわけではない。ただ、ちょっとしたことですぐため息が出た。
そんな時に希美に言われた言葉だった。
詳しい経緯は忘れたが、それからはため息はつかないように心がけてきた。
すると、自分でも驚くくらい周りが明るくなったのを覚えている。確かにため息をや
めてからはずっと幸せだった。
「幸せ・・・逃げちゃったかな」
今日一日を振り返ってみても、知らず知らずため息をついていたことに気付いた。
それを思い出してまたため息をついてしまう。


103 :チャーミー剣士 : 2001/03/26(月) 21:17 ID:MPdib51g
その日、梨華は夢を見た。
今朝の事故の夢だった。
電車の来訪を知らせる放送が流れて、自分の後ろに人の流れが集まってきて・・・
そして、突然時間が止まる。
しばらくたって、動き出したかと思えば人の流れがもとの位置に戻っていった。
ちょうどビデオの巻き戻しのような感じだった。
それからまた電車の来訪を告げる放送が流れて人が集まってくる・・・
これを数回繰り返していたが、ある時これまでと違うことが起こった。
電車が近づく放送が流れたあと、人の列ができる。そこまでは同じだ。だが、急に
後ろの方に何かを感じる。夢の中で梨華は振り返った。
しかし、やはり振り返る直前に背中に衝撃が走る。
それからはひどくゆっくりと線路へ落ちていった。
スローモーションで転落していく中、梨華はいろいろなものを見た。
吉澤が手を伸ばしてきた。必死にそれを掴もうとするが、ぎりぎりのところで届か
なかった。
天井が見えた。
横を見ると電車が近づいてくるのが分かる。
そして――


104 :チャーミー剣士 : 2001/03/26(月) 21:17 ID:MPdib51g
梨華の目に1つの影が映った。何故目に入ったのか分からない。
分からないが、梨華にはその影しか見えなくなっていた。
深く帽子をかぶり、カジュアルな格好をした人間。短いスカートをはいていた。
帽子の間から鋭い目が光った。
周りが暗黒に包まれる。いつの間にか電車の音も聞こえなくなっていた。
真っ暗な空間には自分とその少女だけになっていた。
少女が笑ったような気がした。いや、確かに笑っていた。
口の端をつり上げ、冷たい目をしながらほんの一瞬だけ笑っていた。
そして、くるりと振り返り、歩き出した。
──少女は金髪だった──

「!!」
自分の叫び声で梨華は飛び起きた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
ひどく汗をかいている。ベッドから抜けだし、電気をつける。
急な明るさで目がくらむが、無視して時計を見た。
「・・・3時・・・」
取りあえず着替えて、またベッドに入った。
電気はつけたままで、さっきの夢を思い出していた。
「誰・・・なの・・・?」


105 :チャーミー剣士(休憩) : 2001/03/26(月) 21:25 ID:MPdib51g
これで導入部(プロローグ)は終わりです
特に章分けはしてないですが、ここまでで第一段階ということで・・・

これから先は毎日更新はできないと思いますが、なるべく早く更新
してくつもりなので見捨てずに読んでくれると嬉しいです

それから、感想ありがとうございます!
みなさんのおかげでやる気が出てます。辛口な意見でもどんどん
言ってください

>>94さん
今回の更新で少し話が見えてきたと思います・・・
この後は私自身もどうなるか分かりませんが、是非続きを期待して
下さい

106 :名無し娘。 : 2001/03/27(火) 01:37 ID:JMNDIFSU
期待sage
面白いです。

107 :ポルノ : 2001/03/27(火) 02:04 ID:oedvz1CE
金ないけどいっか
続きを期待、、

108 :スカパー : 2001/03/27(火) 19:51 ID:teD/UHao
>>チャミ剣
金髪って・・・
矢口!矢口なのかっ!?
まあ、普通そうだと思うけど(笑

てか面白いです、続き期待してます。


109 :名無し娘。 : 2001/03/28(水) 08:00 ID:ssMXBULo
昨日はなかったのですね
期待しつつsage

110 :チャーミー剣士 : 2001/03/28(水) 23:27 ID:rtm8BdY2
なるべく2日おきには更新したいと思ってます・・・
それでは続きをアップします

111 :チャーミー剣士 : 2001/03/28(水) 23:28 ID:rtm8BdY2
ピピピピ…
「…」
カチャ
「…はぁ、もう朝になっちゃった…」
結局昨日はほとんど眠れなかった。庭で涼んだりして気分転換してみたが、ベッド
に入るとまた事故のことを考えてしまい眠れなくなる。
テレビをつけてみても、すでにプログラムは終了していて砂嵐が流れているだけで
さらに気分が悪くなった。
最後の手段だと思い、キッチンに行って母がよく飲んでいるワインをグラス1杯分
飲んでみた。確かにふわっとした感覚はあったが、ただそれだけで眠くなるとは少
し違う感じだった。
「気持ちよくなーい…」
普段は寝付きが良いこともあり、眠れない辛さを経験するのは久しぶりだった。
カーテンを開けて朝日を浴びるが、ただ気だるい。
もう梅雨の時期だというのに、ここ数日間は太陽が隠れるようなことは全くない。
いつもは天気が良くて喜ぶ梨華も、今日ばかりは大雨に降って欲しい気分だった。

コンコン
「お姉ちゃーん?起きてるの??」
ドアの向こうから希美の声がした。いつもはうるさいくらいに響いている目覚まし
の音が聞こえないために戸惑っているようだった。
しばらくして、ゆっくりとドアが開く。
「あ、やっぱり起きてたんだ。おはよ!」
希美の様子はいつもと変わらなかった。
「おはよーののちゃん…相変わらず元気だね
もう太陽より明るいから目が眩むよー」
梨華はそう言って力無く、それでも少しいたずらっぽく笑う。
「あれぇ?お姉ちゃんが朝から冗談言うなんて珍しいね!
どうしたの?」


112 :チャーミー剣士 : 2001/03/28(水) 23:28 ID:rtm8BdY2
「昨日あんまり眠れなくて」
「え…それってやっぱり昨日の…?」
「うん、それもあるけど…それだけでもないのかな…
うまく説明できないよ…」
「そっか…」
それから少し2人とも黙っていたが、突然希美が声を上げる。
「ご飯食べよ!ね?
お腹いっぱいになったら気分も良くなるよ」
そう言うと、梨華は半ば無理矢理引っ張られる状態でキッチンへ連れて行かれた。
「食欲ないなぁ」
と言いながら、梨華はテーブルの上に2人分の朝食が並んでいることに気付いた。
無言で希美を見ていると、自分の反対側に回り込んで椅子に座った。
「あれ?ののちゃんも食べるの?」
この状況だとそうだとしか言えないが、一応聞いてみる。
「うん、そうだよ」
予想通りの答えなのだが、やっぱり何か気になる。梨華の不思議そうな顔に気付い
たのか、希美が続けて話し出す。
「昨日の夜におばさんに電話して、私の分の朝ご飯も良かったら作ってくれません
か?ってお願いしたの」
「どうして?」
「えっと…あ、今日は朝錬ない日だから、たまにはお姉ちゃんと水入らずで朝ご飯
でも…ダメかな?」
「うーん、言い訳としては20点」
「うあ…」
口ではそう言いながらも正直言って嬉しかった。
希美も自分なりに、自分のやり方で梨華を励まそうとしている。そう考えると胸が
じんとくる。
やっぱりののちゃんが居てくれてよかったよ。このままだと私今日は学校休んでた
かもしれない。あの坂でギブアップしてたかも。
「ののちゃん…ありがと」
梨華はそう言って微笑んだ。
「…うん」
希美も内心照れながらも、それを隠して答える。
「食べよっかな」
梨華はそうつぶやいて、手近なところにあった卵焼きをとって口に運んだ。
いつもよりも美味しく感じた。


113 :チャーミー剣士 : 2001/03/28(水) 23:29 ID:rtm8BdY2
「実はね」
今日は梨華も自転車を引っ張り出してきた。しばらく使ってないためにサドルの部分
には埃が溜まっていて、タイヤの空気も抜けていたのだが、とりあえずは乗れそうだ
った。埃を払って、倉庫をひっくり返して空気入れを探し、ようやく見つけた空気入
れの使い方が分からずに手間取ったりもした。
そして、やっとのことで出発して2人で並んで走っているときに希美が切り出した。
「よっすぃーに言われたの」
「え?何のこと?」
「昨日の夜電話があったの」
「よっすぃーから?」
「そう」
「…」
「あのね、梨華ちゃんが心配だから明日の朝は一緒に行ってあげて、って」
「…よっすぃーが…」
もう時期は過ぎてしまったが、ほんの1ヶ月半前は桜の季節だった。学校へ続く桜並
木は幻想的な桃色の花を咲かせていたのだが、今はその面影が少し残る程度だった。
風がそよぐたびに葉っぱは地面へと落ちていき、それは雪のような動きをしていた。
歩道が広く作られているため、2人が並んで走ってもまだ前から来る人がすれ違う
余裕はある。
その歩道が広いのが原因なのかは分からないが、逆に車道は狭くつくられていた。
そのためにドライバーからは裏道として認知されているようで、もともと表通りも
そんなに車が多いわけではないこともあって車はほとんど通らなかった。
「奇麗だね…たまには自転車もいいよね」
梨華がつぶやく。


114 :チャーミー剣士 : 2001/03/28(水) 23:29 ID:rtm8BdY2
「あ!よっすぃー!」
希美が前方を指差して言った。その先にはちょうど昨日別れたあたりで吉澤がこちら
に向かって手を振っている。
2人はスピードを上げて吉澤のもとに急いだ。
「おはよー!」
希美がそう言いながら派手にブレーキをかけて止まる。
それに続いて梨華もゆっくりと吉澤の前で停車した。
「よっすぃーおはよっ!」
「ののちゃんに梨華ちゃん、おはよ!」
思ったより元気な梨華の姿に安心したのか、いつも以上に声が張っていた。

吉澤が加わり、今度は3列に並んでの走行になった。
さすがに前から人が来ると避ける必要はあったが、この時間に学校側がら来る人は珍
しく、ほとんどそうすることはなかった。
朝という誰もが急いでいる時間の中、梨華たちはゆっくりと学校へ向かった。
それでも余裕を持って学校に着くはずだったが、途中で出会った真っ白な犬――サモ
エドという種類だそうだ――に希美ががっちりと心を奪われてしまい、学校に着いた
頃にはすでに大半の生徒は登校していた。

「それじゃあねー」
中学校に行く希美と別れて、梨華と吉澤は高校の自転車置き場に入っていった。
なるべく校舎に近い方に自転車を止め、教室へと向かう。
「梨華ちゃんもう大丈夫?」
吉澤が口を開く。
「あ、うん!昨日はよく眠れなかったけど、今は全然大丈夫だよ!」


115 :チャーミー剣士 : 2001/03/28(水) 23:30 ID:rtm8BdY2
授業が始まると、吉澤は本当に梨華が大丈夫だという事を実感した。
驚くことに、梨華は4時間目まで休むことなく眠りつづけ、昼休み前には完全にいつ
もの梨華に戻っていた。
普段は真面目な梨華が堂々と居眠りする姿に、教師たちもどう言って良いのか分から
ないらしく、結局注意を受ける事はなかった。
それに対して梨華は「これが人徳ねっ」と自信満々に言っていた。

昼休みは売店でパンを買って2人で屋上へ行った。
4時間目が早めに終わったおかげで、2人そろって一番人気のやきそばパンを買うこと
ができ、梨華もいつも以上にご機嫌だった。
「そろそろ暑くなってきたねー」
澄み切った青空を見上げながら吉澤が言う。
「んー、でもまだまだ夏には遠いよ
もーっと暑くなるよ、そのうち」
梨華は少し大袈裟に腕を広げて答える。
梨華は夏が好きだ。確かに暑いとテニス部の練習も辛くなるが、それでも冬に凍えそ
うになりながら練習するのよりはだいぶマシだ。
それに、夏はプールで泳いだりみんなでキャンプに行ったりと楽しいことがたくさん
ある。長い長い夏休みがあるのも大きい。
「あー、だめだなぁ、私…
寒いのも嫌だけど暑すぎるのもねー」
吉澤は典型的な春が好きタイプの人間で、周りが描いているいつでもさわやかな『吉
澤像』とは少し違い、ゆったりと過ごす方が好きだった。
真夏は何もせずに寝転んだままアイスをかじる姿を見ることも多い。


116 :チャーミー剣士 : 2001/03/28(水) 23:30 ID:rtm8BdY2
午後一の授業は体育だった。
梨華と吉澤も体操服に着替えてグランドに出ていく。
「じゃあ3チームに別れてソフトボールな。
…チームの代表出てこーい、じゃんけんして…
うん、じゃ、最初おまえたちが審判な
そしたら先攻後攻決めて…」
方言ではないだろうが、少し特徴的な体育教師の指示に従い7人程度のチームを作る。
梨華は吉澤と同じチームに入りたかったのだが、出席番号順でチーム分けされてしま
い結局同じチームに入ることはできなかった。
「よっすぃーいないとつまんなーい」
半分冗談ですねている梨華を見て、吉澤はもう心配することもなくなっていた。

最初は梨華のチームが審判で、吉澤は試合をしている。
吉澤は帰宅部のわりには運動神経が良く、4打数4安打と大活躍していた。
周りの女子から黄色い声援を浴び、照れながらも汗一つかかずにホームインする吉澤は
やはり格好良かった。
「さっすがよっすぃー!」
審判といっても全員でするものでもないため、梨華はベンチで試合を見ていた。
吉澤が活躍するたびに大声で祝福し、吉澤もそれに軽く手を振って答えていた。
「よっすぃーも何か部活すればいいのにねー」
隣で見ていた少しぽっちゃりとした少女が言う。
中高一貫の私立学校であるがゆえに、ほとんどの生徒は中学校からそのままこの高校に
上がっくる。そのため、たいていの生徒とは顔見知りだった。
この少女も例に違わず中学校からの仲良しグループの一人だった。
「だめだよ、いくら運動神経が良くても本人のやる気がないもん」
「だよねー、高校入ったら少しはやる気出すと思ってたけどやっぱだめか」
2人で話していると、ファールボールが転がってきた。
「なっちー!!ボール取ってー!」
遠くで吉澤が叫んでいた。


117 :チャーミー剣士 : 2001/03/28(水) 23:31 ID:rtm8BdY2
「よっすぃータッチ!」
パシッ
「梨華ちゃんがんばれ!勝つのよっ!」
15分後、見事吉澤のチームは勝利をおさめ、勝ちぬけということで梨華のチームと入れ
代わる。梨華は吉澤とすれ違いざまに勝利の約束を交わし、はりきってフィールドへと
走っていった。

「よし、じゃあ始めー」
相変わらずな体育教師の掛け声で試合は始まった。
梨華はというと、気合は入っていたものの2回ほどエラーをしてしまい、ひたすら苦笑
いで切り抜けていた。
「梨華ちゃんテニスは上手なのになんだかなー」
吉澤は誰にというわけでもなく呟く。
そして、ふと目線を上げた。
「あ、3年生…」
グランドを挟んで向こう側にある体育館から、3年生と思われる集団がぞろぞろと
出てくる。
進路相談でもあったのかな?などと思いながら大して気にせずにまたソフトボール
の試合を観戦する。
「あ!ねぇねぇよっすぃー!あれあれ!!」
と、隣で一緒に観戦していた少女が3年生の一団を指差した。
「え?どうしたの?」
吉澤は何に向かって指差したのかが分からなかったため、少女に聞いてみる。
「ほら!あの人!矢口さん!」
「矢口さん…?」
一瞬分からなかったが、吉澤はその名前に聞き覚えがあることを思い出した。


118 :チャーミー剣士 : 2001/03/28(水) 23:33 ID:rtm8BdY2
矢口真理、18歳。梨華の通う私立高校の3年生。
おしゃべりが大好きで明るく、ムードメーカー的な存在。先輩後輩といった壁に関係
なく誰にでも優しく、小さい体に金髪といったキャラクターも手伝って後輩にとって
は一種の憧れとして人気絶大。

「矢口さん格好良いよねー…」
これ以上ない憧れの目をしてとなりの少女は呟いた。
「私矢口さんのこと良く知らないけど、そんなにすごい人なの?」
吉澤は素直に聞いてみることにした。少なくとも、第一印象では不良的な感じがして
好きにはなれそうもないタイプだった。
「あのねぇ、そうだなー・・・とにかく優しい人だよ!
よっすぃーも一回話したら絶対好きになると思うけどなー
うーん・・・ものすごく明るい梨華ちゃんって感じかな」
ものすごく明るい梨華ちゃん・・・分かりにくい例えだったが、それでも矢口の人の
良さは分かったような気もする。
今度話してみようかな?と思いながらもう一度矢口を見てみる。
確かにそう言われてから見てみると、矢口の笑顔は見ていてとても気持ちが良い。
周りの友達も純粋に矢口を慕っていることが良く分かり、吉澤は自然と矢口に惹かれ
ていた。

ふと、矢口と目が合った気がした。
「あ・・・」
「ん?よっすぃーどうしたの?」
「今・・・矢口さんがこっち見てたような気がして」
そう言ってもう一度矢口を見る。
「あ、やっぱり」
確かに矢口はこっちを見ている。が、吉澤を見てはいないようだった。
何故かがっかりしながらも、吉澤は矢口の目線の先を追っていた。
そして、矢口の見つめる先には梨華の姿があった。
「矢口さん・・・梨華ちゃんのこと知ってるのかな・・・?」
2人が友達同士であっても別におかしくはないが、吉澤にとっては意外な組み合わせ
だ。そうなんだ、と思いながらもう一度矢口を見る。
ただ、梨華を見つめる矢口は笑顔ではなかった。


119 :チャーミー剣士(休憩) : 2001/03/28(水) 23:35 ID:rtm8BdY2
今日はここまでということで・・・
なんでもいいので感想下さい
あ、今回なっちが出てきたのはほんの気まぐれでした

120 :名無し娘。 : 2001/03/29(木) 01:45 ID:W4H/H19Y
かなり良い感じです。
期待sage

121 :名無し娘。 : 2001/03/29(木) 02:19 ID:PSwcmKRc
矢口登場ですか。矢口にはなにか裏がありそうですね。
もしかして、怖い話になる?どうなるか楽しみです。
期待sage

122 :名無し娘。 : 2001/03/29(木) 22:13 ID:9fupSWjQ
いいっす!


123 :名無し娘。 : 2001/03/30(金) 03:11 ID:eMh1gGDc
>>119
気まぐれってことは、なっちは話に絡んでこないの?
矢口が押したんだとすると、凄い展開になりそうだ…。
期待sage。

124 :名無し娘。 : 2001/03/31(土) 01:50 ID:s0S8byG.
期待sage

125 :チャーミー剣士 : 2001/03/31(土) 03:30 ID:nqEe4u2M
続きいきます

126 :チャーミー剣士 : 2001/03/31(土) 03:30 ID:nqEe4u2M
「あれ?目覚ましの時間間違えたのかな…」
目覚ましが鳴って数秒とたたないうちにスイッチの部分を軽く叩いて止める。
吉澤は寝起きは良かった。目覚ましの音に逆らわずいつも通り体を起こす。
そして、寝起きの心地よい気分にまどろむこともなくベッドを離れ、部屋の反対側に位置
するカーテンを開けてみた。
「うわぁ…すごい大雨…どうりで暗いわけね」
6月のとある土曜日。
ようやく梅雨らしい大雨が降っている、特に普通と何も変わらない日だった。

あの日、梨華が電車事故にあった日からもう2週間が過ぎようとしていた。
今では梨華も事故のことなんて全部忘れているようだった。事故が起こる以前とまったく
変わることもなく普通に過ごしている。
先週から、梨華はまた電車で学校へ通うようになった。
列の先頭のほうで待つことはなくなったが、特にショックを受けているようでもなく梨華
の中ではすでに『過去のこと』になっているようだ。

「こんなに降ってると出かける気も起きないな…」
いつもの癖で着替えようとしていたが、たまにはパジャマで過ごすのも悪くないかな、と
思って着替えは中断することにした。
今日は学校は休み。せっかく買い物にでも行こうと思っていたのだけど、これだと中止に
するしかないようだ。
「梨華ちゃんは今日部活だって言ってたけど…」
この大雨だと休みになってないかな?
吉澤は携帯を取り出し、リダイヤルで梨華に電話をかけた。


127 :チャーミー剣士 : 2001/03/31(土) 03:31 ID:nqEe4u2M
呼び出し音は鳴っているが、しばらくたっても電話に出る様子がない。
(あと5回…4回…)
ベッドに寝転んで、残り回数を自分で決めてカウントダウンをする。
と、残り2回のところで突然呼び出し音が途切れる。
「あ、梨華ちゃ…」
てっきり梨華に繋がったものと思って話し始めたが、電話の向こうから聞こえたのは
梨華の声ではなかった。
『――ただいま、電話に出ることができません…』
「あ…」
どうやら梨華も電話には気付いているみたいだが、忙しいのか話すことはできないよ
うだった。まあ、梨華の性格上早いうちに折り返し連絡してくるだろう。
どうせ暇だし、もう少し待ってようかな。
吉澤はそう思ってベッドに寝転んでテレビを付ける。
しばらくそのまま横になってテレビを見ていたが、すぐに飽きてきた。
土曜日の朝というのはなんでこう面白い番組をやってないんだろう…
くるくると一通りチャンネルを変えてみるが、吉澤の興味を引くような番組はまったく
ない。
少し考えて、今度はコンポのスイッチを入れる。
部屋の中に心地よい音楽が流れ出したところでとりあえず満足し、パンでも焼いてこよ
うかなと部屋を出ようとした。
だが、ドアを閉める直前にテーブルの上に置いた携帯がブルブルと振動を始めた。
「あ、梨華ちゃんだ」
電話ではなくメールを送ってきたようで、いつも流れる梨華専用の着信音ではない。
それでも吉澤は急いでメールを見る。
『ごめんねよっすぃー!今日も部活あるんだってさ
今電車だから電話できないの、ほんとごめんねっ』
ごめんねっ、の後ろにはハムスターが頭を下げて謝っている絵が付けてあった。


128 :チャーミー剣士 : 2001/03/31(土) 03:31 ID:nqEe4u2M
午前11時。吉澤は駅前にいた。
バケツをひっくり返したとまではいかなくても、洗面器くらいはひっくり返したような
大雨の中、たいした用もないのに駅にきているなんて自分でもばからしいと思う。
でも、なんとなく昨日から今日はデパートでもうろつこうかな、と決めていたこともあ
り、大雨がほんの少し小降りになったスキをついてやってきたのだった。
デパートに行く、といってもただのウインドウショッピングだし、どうせ何も買わない
ことは分かっている。
「なんだかなー」
いつもに比べて全然やる気がでない。
周りの様子も普段の土曜日と比べるとやはり活気はなく、ちらほらと色とりどりの傘が
揺れているだけだった。

「…よし!」
いつまでもこの調子だと埒があかないと思い、自分に言い聞かせるように気合を入れ
て、吉澤はデパートの中へと入っていった。
とりあえず傘をたたんで、入り口に束ねてある専用のビニール袋の中にしまう。
それから目標を決めて洋服売り場へと向かった。
外は大雨ながらもデパートの中はやはりそこそこ混んでいて、休日特有の騒がしい雰
囲気が味わえた。車で来ていると思われる家族連れが多く、小さなゲームコーナーか
らは耳を塞ぎたくなるような音量で泣いている子供もいる。
洋服売り場は3階にあるため、エスカレーターで行くことにした。
2階に上がるとスポーツ用品店がある。吉澤にはほとんど行くこともない店だったが
入り口に掲げてある大きな看板に自然と目が向いた。
『全商品 40%OFF!!!』
そう言えば梨華ちゃんガットがどうとか言ってたな…
テニスのことはよく分からないが、梨華ちゃんに教えてあげようかな。
他には特に目を引くものもなく、吉澤はそのまま3階へと上がっていった。


129 :チャーミー剣士 : 2001/03/31(土) 03:32 ID:nqEe4u2M
20分後、3階のフロアを一通り見て回った吉澤はエスカレーター付近のベンチに腰掛
けていた。
やはり何も買うことはなく、持ち物は来たときと同じリュックだけである。

女の子っぽいスタイルは苦手なため、どうしてもカジュアルでさっぱりとした服装に
なってしまう。そのために、ウインドウショッピングとは言っても普通の女性のよう
に試着といったこともほとんどすることはなく、適当にぶらぶらしているだけだった。
確かに今日のスタイルもTシャツの上に薄手のジャケットを羽織り、下はジーパンと
いう地味なものだ。
地味なのだが、それを吉澤が身につけるととたんに存在感が大きくなる。
梨華の母いわく「よっすぃーは完璧に洋服を着こなしてるからすごくカッコ良い!」
だそうだ。自分ではそんなつもりもないのだが、周りから見るとそう見えるらしい。
本当は梨華が着ているようなピンクを基調とした可愛い服にも憧れている。一度梨華
の服を着てみたこともあったが、鏡に映っている自分がしっくりこなくて直ぐに着替
えた。
それでも梨華は相当気に入っていたらしく、今でも2人で買い物に出かけると何かと
可愛い服を選んでくれる。その度にやんわりと断っているが、内心では嫌な気はしな
いし、やはり憧れも弱くはない。とは言うものの、実際に買ったとしても着る勇気
がないことは分かりきっているために、いまいち踏み切れないのだった。


130 :チャーミー剣士 : 2001/03/31(土) 03:33 ID:nqEe4u2M
しばらくして、吉澤は昼食でもとろうかと1階に戻ってきた。
「軽いものがいいなー・・・ベーぐる食べたいな・・・」
時間はたっぷりあるんだし、散歩気分でゆっくり選ぶことにしよう。
飲食店が並ぶこのフロアでは、ファーストフードから少し高めのイタリア料理店まで
一通りのものは揃っている。
それでもベーグルが置いてありそうな店はなかなか見つからなかった。

「うーん、ベーグルないならやっぱりドーナツかな・・・あれ?」
手近にあったミスタードーナツには入ろうとしたが、見覚えのある人影に立ち止まる。
「・・・矢口さんかな・・・?」
小さなカフェテリアのような店の、店頭のテーブル席に座っているのは確かに矢口に
見える。周りに友人らしき人物はいないようで、どうやら1人で来ているようだ。
矢口は読書をしているためにこちらには気付いておらず、前のテーブルには小さな
コーヒーカップが置いてある。
(どうしよ・・・)
以前から矢口のことが気になっていた吉澤にとって、話しかけるにはこれ以上ない
シチュエーションなのだがなかなか決心がつかなかった。
一方的に知っているだけで、向こうは自分のことを知ってるとは思えないし、いきな
り話しかけても大丈夫だろうか?
(・・・いってみよっかな)
吉澤は矢口に向かって歩き出した。
カフェという場所で本を読む矢口の姿は、よくあるドラマの風景のようだった。
(うわぁ、近くで見るとほんとに可愛い・・・)
吉澤の方が年下なのだが、矢口を先輩だとはどうしても思えない。
背だって希美と同じくらいじゃないだろうか?
近くで見るとやはり全然不良という感じはなく、フランス人形と言った方が分かり
やすいかもしれない。
そして、吉澤はテーブルの反対側に周りこんで声をかけた。
「あ、あの・・・!」


131 :チャーミー剣士(休憩) : 2001/03/31(土) 03:34 ID:nqEe4u2M
短いですが、なんとか更新しました・・・
話としてはまだまだ前半です

それから、少しずつ読んでくれてる人も増えてるみたいで
ほんと嬉しいです!いつも感想ありがとうございます!
先は長いけど、最期まで付き合っていただけると本望です・・・

矢口は結構重要な役回りなんで注目してると面白いかもです
>>123さん
梨華と同級生の友達役だから、なっちは年齢的に無理があるんで
これから安倍なつみとして関わることはないです
安倍夏美とか言うオリジナルキャラとでも思って下さい
だ、だめかな

132 :ポルノ : 2001/03/31(土) 06:09 ID:mA8F0aTU
なーんかいい止めかたしますね
期待age

133 :名無し娘。 : 2001/03/31(土) 08:31 ID:vtZ/6SXM
>>132
同意じゃあ。
気になる所で止めたな。
う〜む。

134 :名無し娘。 : 2001/04/01(日) 05:59 ID:OF0DwWoM
面白いです。
次の更新が楽しみ。

135 :名無し娘。 : 2001/04/02(月) 15:24 ID:5b.hcLmo
期待sage

136 :チャーミー剣士 : 2001/04/02(月) 22:38 ID:Ab32NeNA
続きでございます

137 :チャーミー剣士 : 2001/04/02(月) 22:38 ID:Ab32NeNA
「矢口さん…ですよね?」
自分でも不自然なくらい緊張しているのが分かった。
いくら周りから「矢口さんって良い人だよ」と言われていても、元々自分の苦手な
タイプはやはり話すのに勇気がいる。
しかも相手は同じ学校の先輩で、アイドルのような人だ。
「え?…あ、そうですけど…」
声に気付いた矢口は、戸惑いながらもはっきりとした口調で答えた。
パタンと本を閉じ、吉澤の次の言葉を持つ。整った顔立ちは子供のような無邪気さを
想像させる。
「あ、あの私同じ高校の吉澤といいます。あ、1年3組です!」
後から考えると恥ずかしい自己紹介だったと思う。
が、今はこうするのが精一杯で、真っ白だった頭の中からこれだけの言葉をひねり出し
たんだから十分良くできたと思うことにした。
「えっと、うん。吉澤さんね
私は矢口真理、よろしくね」
矢口はくすっと笑うと右手を差し出してきた。
吉澤はあわてて手を握る。
「よ、よろしくお願いします…!」
最初は警戒していた矢口も、同じ高校の後輩だということで安心したらしく、読みかけの
本を机に置いたまま吉澤を見てにっこりと微笑んでいた。
「うん、よろしく。あ、それで私に何か用なのかな?」


138 :チャーミー剣士 : 2001/04/02(月) 22:39 ID:Ab32NeNA
実際に会ってみると、矢口は本当に親しみやすい人物だった。
あの後、とりあえずコーヒーを注文してから矢口の前の席に座った。
言葉に詰まりながらもただ矢口と話したかっただけだということを伝えると、矢口はそ
れこそ子供のように笑っていた。
「でもほんとに緊張したんですよー」
いろいろと話していくうちに吉澤も少しずつ慣れていったのか、だいぶ落ち着いた口調
になっていた。
それが矢口の持つ独特な空気なのかは分からないが、吉澤には矢口が自分と同じ目線で
話しているような気がして、とても先輩だとは思えない。
目の前で楽しそうに話している少女は、どう見ても自分より幼く見える。

そして、吉澤はすぐに矢口の世界に引き込まれていった。
自分でも驚くくらいすぐに矢口と打ち解け、すでに緊張感は感じなくなっていた。
矢口のほうも、吉澤に好意を持ったのかそれとも普段からこうなのかは分からないが、
とても楽しそうに会話を楽しんでいた。
目の前で表情豊かに、そして少し大袈裟に話している矢口を見るとこの人がみんなに好か
れている理由も分かる気がした。
ただ、前に言われた「ものすごく明るい梨華ちゃん」というのはやはりよく分からない。
似てる気がしないでもないが、梨華ちゃんはもう少しドジかなぁ。そう考えて思わず笑み
がこぼれる。


139 :チャーミー剣士 : 2001/04/02(月) 22:39 ID:Ab32NeNA
吉澤は意外に顔見知りする方だったが、矢口は人と話しをすることがとても上手く、途中
で話が途切れるといったことは無かった。
「…それで、この前の体育の授業の時に初めて矢口さんのこと教えてもらったんです」
「あー!もしかしてあのソフトボールやってたやつでしょ!
私ほんとあの体育教師だめでさー!なんていうか生理的に体が拒否しちゃうの
『はいじゃあじゃんけんして〜』とか言うでしょ、なんか気持ち悪いんだよね」
まさにその通りだったので吉澤は飲もうとしたコーヒーを吹き出しそうになった。
「ぷっ、あはは!ほんとにそっくり!
みんなあいつのこと気持ち悪がっちゃって体育のたびに文句言ってますよ」
「だよね、もうすぐ体育でプール始まっちゃうから覚悟したほうがいいよぉ」
そう言って矢口は上目遣いでじっとりと吉澤を見る。
「うわぁ!そんな目で見られるんですか!?
セクハラですよ、それ!」
「まあ、これはやりすぎかもしれないけど、やっぱ注意はした方がいいかもだよね
ひとみちゃんみたいな純情な乙女は騙されやすいからねー」
「大丈夫ですって!私だったらプールに突き落としてやりますから!」
「おー、頼もしいじゃん!ひとみちゃん格好良いから女の子にもてるタイプでしょ」

吉澤は一気に矢口のファンになってしまった。
確かに先輩なのにこんなに話しやすい人はいないだろうと思うし、すごく明るくて話題
も抱負でしかも優しい。
これで嫌いになれと言う方が難しい。
さっき知り合ったばかりでも矢口の性格はよく分かったと思う。

梨華ちゃんにも教えてあげようかな、と思ったところでふと先日の体育の授業のことを
もう一度思い出した。
確か矢口さん、あのとき梨華ちゃん見てたような気がするけど…


140 :チャーミー剣士 : 2001/04/02(月) 22:40 ID:Ab32NeNA
「あの、矢口さん私と同じクラスの石川さんって知ってます?」
すでに友達のように話していたため、話を切り出すことには特に神経を使うこともな
くなっていた。ごく自然に矢口に聞いてみる。
「え?イシカワさん?
うーん…良く分からないなぁ、顔なら知ってるかもしれないけど」
矢口は当然のように顔をしかめて考え込んでいたが、やはり聞いたことがない名前の
ようだったのか、逆に吉澤に質問してきた。
「そのイシカワさんがどうしたの??」
「え?あ、いや特に意味はないんですけど、私の友達なんです、その子」
そう言われるとここで梨華の話をするのは唐突すぎた。どうしてこんなこと聞いたのか
自分でも不思議だったが、矢口にしてみればさらに意味不明だっただろう。
それでも、矢口が梨華を知らないことは分かった。
「あ、そうなんだ。良く分からないけど納得しておく」
矢口はそう言ってまた笑顔を見せた。
と、吉澤のポケットから最近流行のメロディが流れてきた。女性10人組みのグループで
ここ1年でメンバーの加入や脱退を繰り返し、現在爆発的な人気を誇っているアイドルの
歌だった。
「電話?」
矢口が聞く。
「あ、はい、すいません」
そう言って吉澤は電話を取った。着信メロディで、相手は石川であることは分かっている。
「もしもし、梨華ちゃん?うん、私…どうしたの?」
矢口は電話をしながら笑顔を見せる吉澤をじっと見つめている。
その視線に気付いたのか、きまりが悪そうに吉澤が苦笑すると矢口はもう一度にっこりと
笑ってコーヒーを口に含んだ。
「あ、そうなんだ。うん…うん、分かった…それじゃ、後で駅前ね
分かってるってば、梨華ちゃんこそ忘れずに来てよねっ」


141 :チャーミー剣士 : 2001/04/02(月) 22:40 ID:Ab32NeNA
ピッと電話を切って一息つき、矢口に「すいません」ともう一度言う。
「ね、もしかして今のがイシカワさん?」
矢口が笑顔のまま聞いてくる。
「え?あ、そうです。何で分かったんですか?」
吉澤が驚きながらも問い掛けると、矢口は一言「女の勘よ」と口に人差し指を当てて答え
た。その様子があまりにも彼女の幼い容姿にそぐわない仕草で、思わず吉澤は笑ってしま
った。矢口もそれに合わせてくすっと笑う。
「今からイシカワさんと会うんだ?」
「はい、後30分後くらいに駅前ってことで」
「それならもう少し時間あるね。ひとみちゃんがここ出るまで私も付き合おうかな」
矢口は腕時計を見ながらそう言って、コーヒーのおかわりをもらっていた。
「あ、そういえば矢口さん今日はなんでここにいるんですか?
誰かと待ち合わせなんですか?」
ふと吉澤は今まで疑問に思わなかったのが不思議なくらい自然な質問をする。
確かに、この大雨の中ただカフェで読書をするためだけに外出するとは思えない。
「私?うん、この後ちょっと人に会うことになってるけど」
やっぱりそうなんだ。当たり前といえば当たり前なのだが、本人の口から聞いてやっと
納得する。
「時間は大丈夫なんですか?」
「あ、全然平気だから気にしないでいいよ。時間なんてどうにでもなるって」
「あははっ、どうにでもなるって矢口さんらしいなー」
「私らしいって、それ私が時間にすごいルーズみたいじゃん!」
「いや、だって自分でそういったじゃないですか」
今日会ったばかりとは思えないほど楽しくおしゃべりをする2人は、誰が見ても友達同
士に見える。
吉澤も、まさか一日でここまで仲良くなれるなんて思ってもないことだった。
そして、思ってもなかっただけに、とても嬉しいことだった。


142 :チャーミー剣士 : 2001/04/02(月) 22:41 ID:Ab32NeNA
「今日はいきなり話し掛けちゃってどうもすいませんでした」
「ううん、私も楽しかったよ
今度学校で会ったら声かけてよね」
「はい!喜んでっ」
「あは、そんなにかしこまらないでよ、こっちが照れちゃう
それじゃあまたね、ひとみちゃん」
「さよならー」
矢口と別れた後も、吉澤はしばらくその場に立っていた。
予想以上に可愛くて、予想以上に話しやすくて、予想以上に優しかった。
吉澤には矢口が完璧な人間に見えた。
「すっごい人だなぁ…」

5分後、吉澤は駅前にいた。
途中で傘を忘れたことに気付いてカフェまで戻ったこともあり、急いできたのだが
梨華の姿はまだなかった。
少し安心しながらも、改札口の近くで梨華を待つ。
あれだけ酷かった雨も、今では多少静かになっていた。
それでも人通りは少なく、ロータリーで順番待ちをしているタクシーのドライバー
たちも、暇そうに煙草を加えたりスポーツ新聞を読んだりしている。
「よっすぃーごめん!」
突然後ろから梨華の声がした。驚いて振り向くと、梨華が両手を合わせてごめんねの
ポーズで固まっていた。
「おっそーい!あれほど言ったのに梨華ちゃんってばもう!」
吉澤が半分冗談で言うと梨華も手を合わせたまま笑顔になる。
「だってぇ、あの後いろいろあったんだよ。
ね、聞いてよよっすぃー!」
静かに降る雨の中、静かな街を、そんなことはお構いなしといった感じで梨華たちは
騒ぎながら歩き出した。


143 :チャーミー剣士(休憩) : 2001/04/02(月) 22:46 ID:Ab32NeNA
更新できました
今回はもうダメだと思ったです・・・
最近忙しくなったんで、少し間があくことがあるかもしれませんが
絶対に書き上げますのでよろしくです
基本的に2日毎に更新を目標にしてます・・・

>>ポルノさん
小説上げるきっかけになるスレ立てて頂いてありがとうです
ポルノさんの満足できる作品になってるでしょうか?


144 :名無し娘。 : 2001/04/03(火) 03:47 ID:ubuXcCUc
凄く面白いです。
これから後藤や飯田がどう絡んでくるのかも楽しみです。
ゆっくりでも頑張って下さい。

145 :名無し娘。 : 2001/04/03(火) 07:22 ID:0jT0i9Pg
まだ先は長そうですな。
期待age。

146 :名無し娘。 : 2001/04/03(火) 07:23 ID:0jT0i9Pg
あげちゃまずかったかな?
みんな見ろこれ、オモロイよ。

147 :ポルノ : 2001/04/03(火) 08:02 ID:QbDoJg5E
>>チャ−ミー剣士さん
礼なんていいですよ!こっちがこんなおもしろい小説書いてくれて
礼をいいたいぐらいなのに。
続き期待してます!

148 :名無し娘。 : 2001/04/03(火) 21:11 ID:ILXSYfVU
ほんと面白いです
超絶期待sage

149 :名無し娘。 : 2001/04/04(水) 07:58 ID:l8wZ9rPs
徐々に期待度アップですよ。
がんばって書いてくださいsage

150 :名無し娘。 : 2001/04/04(水) 16:44 ID:LpTnWFe2
がんばってください

151 :チャーミー剣士 : 2001/04/04(水) 21:50 ID:ERutKRMU
「あのね、今日部活が早く終わったから、ちょっと調べ物してたの・・・」
2人はデパートに戻り、吉澤は半ば連れ去れる格好で3階まで来ていた。
吉澤1人なら避けて通るようなコーナーで梨華は立ち止まり、カラフルな洋服の中から
ピンク色のものばかりを選んでは吉澤の体に合わせていた。
「調べ物?」
「うん、後藤さんってどんな人なのかなと思って・・・
新入生の写真見てたの」
服を手に取りながら梨華は答えた。
「へー、にしても突然だよね、何かあったの?」
あの事故から半月近く経っているのに、どうして今になって調べたんだろう。
何かあったのかな。そう思って梨華に聞いてみる。
「うーん、良く分からないけど急に思い出しちゃって・・・
トレーニング終わって着替えてたらビビッときたの。ビビッと」
そう言って、梨華は笑いながら耳のあたりを指で押さえた。
吉澤にとってみれば、梨華にはなるべく後藤に関わって欲しくない。
確かに自分も面識があるわけじゃないし、噂だけを鵜呑みにするわけでもないが、やはり
火の無いところには煙は立たないと思う。

「よっすぃーはいつもストレッチシャツとか多いから・・・
うーん、やっぱりデニムボトムにピンクのスエットなんかどうかなぁ
あ!それともインナーをピンクにしてスエットは無地の方がいいかな?」
そんな吉澤の気持ちは知ることも無く、梨華は着せ替え人形のような状態で立っている
吉澤に次々と新しい服を持ってきては鏡を見て一喜一憂していた。


152 :チャーミー剣士 : 2001/04/04(水) 21:51 ID:ERutKRMU
「疲れたぁ・・・」
外に出ると、雨のせいもあるがもう暗くなっていた。
近くの会社からは仕事帰りのサラリーマンが出てくる姿も見ることができる。
吉澤はやはり今回も梨華のおすすめを買わなかった。いつかは、と思うのだがなかなか
決断が付かない。
「でも楽しかったねー!」
体育祭の後のように疲れた表情の吉澤とは対照的に、梨華は元気そのものだった。
朝は部活で汗を流し、昼からは延々と買い物をこなす。この小さい体のどこにそれだけ
のエネルギーがあるのか吉澤には不思議でしょうがなかった。
「梨華ちゃんなんでそんなに元気なのよー」
立ちっぱなしで疲労した足を押さえながら梨華に聞いてみる。
「えー?だって楽しいことはどれだけやっても疲れないよ!」
こともなげに笑顔で答える梨華に呆れながらも、その体力にはやはり感心する。
(私も何か運動してみるかなぁ)
口に出すと、梨華から怒涛の勢いでテニス部に勧誘されそうなので心の中で考える。
運動嫌いではないのだが、何かに縛られることは嫌いだから部活は苦手だ。特に高校の
運動部といったら1年生だとろくに試合にも出られないらしい。
そこまでして部活で運動するのはどうもな、とやはりいつもと同じ結論に達する。
「梨華ちゃん部活楽しい?」
特に聞こうとは思わなかったのだが、ふと口をついて梨華に問い掛けていた。
梨華の手には例のスポーツ用品店で買ったテニス用のシューズが入った袋がぶら下がって
いる。
「え?うん、まあまあ楽しいよ
やっぱり1年生はコート使って練習って少ないけどね
でもテニス好きだし、みんな良い人ばっかりだよ」
「そっかー」


153 :チャーミー剣士 : 2001/04/04(水) 21:51 ID:ERutKRMU
「あ、忘れてたけど結局後藤さんのことって何か分かったの?」
すっかり暗くなった人通りの少ない道を、2人で並んで歩いていた。
頭の上では2つの傘が当たったり離れたりしている。
「うん、顔は覚えたよ。可愛いよねー、後藤さん・・・
でもそれだけで、後は何にも分からなかったの」
「そうなんだ・・・」
少し安心しつつ吉澤は相づちを打つ。
傘に落ちる雨音の中、2人はゆっくりと進んでいく。

「それじゃねー!」
いつもの交差点で吉澤と別れ、梨華は家に向かう。
ここから家までは10分とかからないが、やはり1人で10分というのは長く感じる。
少し歩く速度を上げることにした。
吉澤には元気に見えていたかもしれないが、さすがに一日中動き回っているため梨華
も疲れていた。
(これが朝だったらあそこの坂でギブアップしてるかも)
小学校の頃の遠足を思い出す。さんざん歩いて学校に戻ってきて、疲れ果ててグランド
に座り込む。それから先生の話も終わり、さあ家に帰ろうと立ち上がったときの信じ
られないような足の重さ。
「遠いなぁ・・・」
今日はゆっくりとお風呂に浸かって体を癒さなきゃ。


154 :チャーミー剣士 : 2001/04/04(水) 21:52 ID:ERutKRMU
「・・・」
遠くで声が聞こえた。
まるで子守り歌のような、優しい声・・・
「梨華ぁ!起きろー!」
突然耳元で聞こえた声に梨華ははっと体を起こす。
混乱しながらも横を見ると母親が腕をくんで笑顔でにらんでいた。
「あぅ、おはよう・・・」
「・・・おはようって梨華・・・まだ夜よ」
「へ?」
まだ寝ぼけているのか、枕元の時計を見る。
「8時・・・」
「そ!晩御飯できたから呼んでるのにちっとも返事しないんだもん
お母さん1人で食べちゃうよ?」
「え?え?食べるよ、夜ご飯でしょ、食べる」
梨華は母の後に付いて階段を降りていった。
吉澤と別れて家に帰ってきた後、母からまだ晩御飯の準備ができていないと言われ、梨華
は先にお風呂に入った。
ゆっくりと30分ほどかけてお風呂から上がり、まだもう少し時間がかかりそうだった
ためにベッドでごろごろしてるうちに眠ってしまったらしい。

夕食は豪華だった。テーブルに並べられた2人分のスープパスタを見て、梨華は驚きの声
をあげる。
「うわぁ!おいしそう!」
「でしょ、せっかく腕を振るったんだからちゃんと目を覚ましてから味わうのよ」
母親は笑いながら言う。
明るい家庭。
母と娘の2人家族だが、誰よりも幸せな生活だった。


155 :チャーミー剣士 : 2001/04/04(水) 21:52 ID:ERutKRMU
翌日、梨華は再び駅に向かっていた。
昨日の様子から見ると、今日は晴れるとまではいかなくても雨は上がると思っていたの
だが、甘かったらしい。
雨は相変わらずいろいろな場所に水溜まりを作りながら降り続けている。
特に用事がって駅に行くわけではない。ちょっと散歩に出ようと思い、ついでだから
目的地を駅にしただけのことだった。
雨が嫌いではない梨華にとってはこれも良い気分転換になる。
運動に慣れているのか、若さのせいなのかは分からないが、昨日の疲れはすっかりと
れていた。

「うーん・・・」
いざ駅に着いてみると、何もすることが無かった。
昨日よりは雨の勢いも弱まったせいか、平日の昼くらいの賑わいはある。
散歩で来たのだから目的はなくて当たり前なのだが、少し考えて駅の周りをぐるっと
一周回ってみることにした。
線路を越えて向こう側へ行き、あまり記憶に無い道をゆっくりと歩いていく。
「あっ!あんなとこに雑貨屋さんがあったんだ・・・」
普段曲がることの無い交差点で曲がってみると、見たこともない店が数件並んでいた。
細い路地になっているために人通りも少なく、夜に通るのは梨華でなくても避けそうな
暗い場所である。
店に近づいて外からショーウインドウ越しに中を見る。
「うわぁ、なんかすっごく良い感じ…」
店内にはいろとりどりの商品が奇麗に並べてあり、こんな路地の中にはもったいないく
らいの可愛い店だった。
「入ってみようかな…」
梨華は誘われるように中に入っていった。


156 :チャーミー剣士 : 2001/04/04(水) 21:53 ID:ERutKRMU
店内には梨華の他に客が2人と、この可愛い店にまったく似合わない熊のような大男の
店主のみだった。店主はたまに客の方を見ながら眠そうに目をこすっている。
(あー!これ可愛い!)
静かな音楽が流れているだけなので、なるべく声を出さないように物色する。
どうやら他の2人の客も女性らしい。
(男の人にはちょっと入りづらいかな、やっぱり)
そう思うと、レジに座っている大男がさらに場違いに見えてきた。
それでも、奥に並んでいるぬいぐるみの集団の中で一際大きな熊のプーさんに似ている
と言われればその通りだった。
(これはこれでバランス良いのかな)
どうでも良いようなことを考えながら、ふと隣にいた客を見る。
何か理由があったわけではないのだが、梨華は無意識に客の動きを追っていた。

何気なくその客は小さな犬のぬいぐるみがぶら下がったキーホルダーを手に取り、
そしてごく自然にその手を持っていたカバンに詰め込んだ。
(…え?)
あまりにも一瞬のことで、梨華には目の前で起こった出来事が理解できなかった。
そして、その客は梨華の横を何もなかったかのように通り過ぎる。
呆気に取られていた梨華だったが、すれ違った瞬間に再びあることに気付く。
(うそ!?…これって?)
客はそのままドアをくぐって店を出た。
店主も何事もなかったように眠そうに座っているだけだった。
(今の人って…確かに…!)
梨華は少し混乱しながらも急いで店を出る。
(見えた!)
まだそんなに遠くはない、これなら追いつける。
そう思い、梨華は走り出した。
「後藤さん…!」


157 :チャーミー剣士(休憩) : 2001/04/04(水) 21:54 ID:ERutKRMU
うぁ。最初に「続きいきます」って書き忘れた・・・

ともあれ、更新です。
こんなにスムーズに更新できてるのが自分でも驚いてます・・・

>>144さん
飯田ですか・・・
うーん、飯田の登場予定はまったく無いと思っていただいたほうが良いかも
しれないです。もし出てきたとしてもなっちのような扱いになると思います

それから、期待してくれてるみなさん、ありがとうございます!
読みづらい所なんかもあると思いますがこれからもよろしくです・・・


158 :名無し娘。 : 2001/04/05(木) 04:23 ID:awVEhmy.
今回も凄く良いです。
後藤がどんなキャラなのか楽しみです。

159 :ポルノ : 2001/04/06(金) 09:13 ID:WrrvEXc6
性格がまったく反対っぽい二人の、今後の関係に注目。

160 :チャーミー剣士 : 2001/04/07(土) 14:03 ID:n4zKQGwY
続きです

161 :チャーミー剣士 : 2001/04/07(土) 14:03 ID:n4zKQGwY
テニス部に所属している梨華だったが、走ることは得意ではなかった。
後藤らしき人物はかなり速いペースで歩いているらしく、差は思ったほど縮まらない。
「お願いだから…もう少しゆっくり…走って…くれないかな」
息を切らしながら懸命に走り、そろそろ限界が近づいてきたところで、後藤がここより
もさらに小さな路地に入っていくのが見えた。
その先が後藤の目的地であることを願って、梨華も数秒遅れて路地に入る。

「あ…」
梨華が路地に入ると、後藤はこちらを向いて待っていた。
「何?」
たった一言。実質的に、これが始めて聞いた後藤の声だった。
思ったよりも奇麗でよく通る声だと思った。
後藤は黙ったままじっとこちらをにらんでいる。
「あ、あの…後藤さん…?」
目の前に立っている少女が後藤だという確信はあったが、それでも梨華は聞いてみる。
まだ息は苦しいが、なんとか普通に話すことはできそうだ。
地面に向けていた顔を上げ、後藤を見る。すると、一瞬後藤の顔がこわばった様に見え
た。
「…あんた誰?」
梨華が同じ店から出てきたため、おそらくカバンに入っているものについて聞かれる
と思っていたのだろう。
まさか自分の名前を知っているなんてことは考えもしなかったのか、動揺の色は隠せな
い。
「私、同じ学校の石川っていうの…
えっと、さっきあそこのお店で後藤さん見かけたから…その…」
「だから何の用なの?」
後藤はゆっくりと話す梨華がもどかしく、途中で言葉を遮った。


162 :チャーミー剣士 : 2001/04/07(土) 14:04 ID:n4zKQGwY
「え、あの…だから…あ!私のこと覚えてないかな?」
後藤の表情は明らかに曇っていた。
梨華はその重圧に負けそうになりながら、それでも一生懸命に話す。
「誰?分かんない」
そっけない返事。
後藤は梨華に対して何の興味も示さず、ただ機械的に受け答えをしているように感じら
れる。
「ほら!私が線路に落ちた時にあなたが助けてくれたじゃない!」
声が上ずっているのが分かる。
それとは対照的に、後藤の答えはあっさりしたものだった。
まるで昨日の晩御飯を思い出すような様子で答える。
「…ああ、それで?」
梨華にとって、後藤はあの時動けなかった自分を救ってくれた命の恩人だった。
今ここに自分が立っていられるのも全部後藤のおかげだった。
だから、嘘でも良いから「大丈夫だった?良かったね」と言ってもらいたい。
じゃないと私は何のためにあなたに助けられたか分からない。
あなたが命を懸けてまで救ってくれたのに、私はそこまでの人間じゃないみたいで…
梨華は多少ヒステリックになりながらも、後を続けた。
「だから!だから私は後藤さんにお礼を言いたくて…!」
期待を裏切られた感じがした。
自分を助けてくれた正義のヒーローは、どんな時でも全てに平等で、皆に優しい人間だ
と思っていた。吉澤からどんな話を聞かせれても「それでもあの時は命を懸けて私を助
けてくれた人」だから実際に話してみると本当はすばらしい人間だと思い込んでいた。
「あっそう、それじゃもう用は済んだでしょ」
後藤はそのままくるっと振り返り、梨華に背を向けて歩き出した。
予想外の突き放され様に、梨華は言葉を失った。
後藤の背中を見ながら必死に頭の中を整理する。


163 :チャーミー剣士 : 2001/04/07(土) 14:04 ID:n4zKQGwY
「ちょっと待って!」
梨華はほぼ無意識に叫んでいた。
後藤は振り返ることはなかったが、その場で立ち止まった。
「あ、あの!ありがとう…」
後藤の背中に語りかける。
「・・・」
それでも、後藤は振り向かなかった。
しばらくその場で留まっていたが、すぐにまた歩き出す。
「あの!それから・・・!」
2人の距離は少しずつ広がっていく。
梨華にはほんの10メートル程度の距離がどうにもできない位に離れて見えた。
今度は後藤も止まることなくゆっくりと歩みを進める。
徐々に小さくなる後藤の後姿を目で追いながら、それでも構わずに話し続ける。
「それから・・・!」
声が小さくなる。
「カバンの中の・・・返した方が良いと思う・・・よ」

その言葉が聞こえたのかそうでないのかは分からないが、後藤は立ち止まった。
そして、振り返る。
「何のこと?」
分かりきった表情で、少し笑みを浮かべていた。
「だから・・・さっきのお店で・・・」
「あの店が何?私が何かした?」
後藤はさらに楽しそうな顔をすると、梨華に対して挑戦的な言葉を投げかける。
梨華はその様子を見て、後藤は今の状態を楽しんでいるのだと思った。
そう思うと怒りが込み上げてくる。
何で人の命を救うような人が物を盗んだりできるの?
そんなことしても何も良いことなんか無いのに。


164 :チャーミー剣士 : 2001/04/07(土) 14:05 ID:n4zKQGwY
「後藤さんはそんなことするような人じゃないでしょ!」
もう一度声に力を入れ、叫ぶように話しかけた。
ぐっと握った手には汗が滲んでいる。
「あのさぁ・・・」
何かを言いかけると後藤はこちらへと戻ってきた。
梨華の目の前までゆっくりと時間をかけて近づく。
そして立ち止まると、特に何を言うでもなくしばらく黙っていた。
「な、何・・・?」
後藤は笑っているが妙な圧迫感がある。
思わず黙り込んでしまった梨華は、突然右の頬に衝撃を感じた。
パンッ!
「・・・え?」
一瞬何が起こったか理解できなかったが、少しずつ顔が熱くなっていくのを感じる。
手のひらで頬を押さえ、初めて自分が叩かれたことが分かった。
「ふざけないでよ!!!」
ほぼ同時に後藤が叫んだ。見る見る顔が紅潮してくのが分かる。
「なんであんたなんかに説教されなきゃいけないの!?
何様よ!?いい加減にしてよ!」
後藤は怒りを爆発させていた。
今まで溜め込んだものを吐き出すように、全てを梨華にぶつけていた。
「あんたみたいな偽善者見てるとほんとにムカツクんだよ!!
何偉そうに言ってんの?ウザイから早く消えてよ!!」
パンッ!
梨華は再び衝撃を覚える。
何が起こっているのか分からなかった。
どうして後藤が怒っているのかも、どうしてこんなに頬が痛むのかも。
ただ後藤を見ているしかなかった。


165 :チャーミー剣士 : 2001/04/07(土) 14:06 ID:n4zKQGwY
次々と浴びせられる罵声の中で、梨華が1つ理解したこと。
後藤はたぶんあの時、こっちを見て笑っていた時にはすでに何かが切れていた。
何がトリガーになったのかは分からないが、後藤を怒らせてしまった。
(嫌われちゃったのかな・・・)
この状況の中で、梨華は自分をひどく客観的に見ていた。
夢の中で空から自分を見下ろしてる気分だった。
後藤は何かを忘れるように、夢中になって梨華に当たっている。
徐々に勢いは無くなっているが、それでもやめようとはしない。

そして、梨華にはどれくらいの時間がたったのか分からなかったが、いつの間に
か後藤は肩で息をしながら元の無表情な顔に戻っていた。
「あんたみたいな奴・・・助けなきゃ良かった」
そう言って、後藤は去っていった。
『あんたみたいな奴・・・助けなきゃ良かった』
最後の言葉は、梨華の身体に深く突き刺さった。
(私、やっぱり助けてもらえるだけの価値なんか無いんだ・・・)
今になってやっと涙が出てくる。
後藤の姿はもう見えない。
その場に座り込み、手で顔を押さえたまま、梨華はしばらく泣いていた。
気が付くと傘は持っていなかった。
幸いにも霧雨のような雨だったため、特に濡れることはなかった。

166 :チャーミー剣士(休憩) : 2001/04/07(土) 14:09 ID:n4zKQGwY
ごめんなさい!ちょっと更新遅れました
前回から今回にかけてはかなり辛かったです
5回くらい書き直しました・・・
それでもなんとか次に繋げるように書きあがったんで
期待してください・・・

167 :名無し娘。 : 2001/04/08(日) 04:06 ID:85ZEz9wo
とても興味深い展開ですね。
面白いので、これからも頑張って下さい。

168 :名無し娘。 : 2001/04/08(日) 04:33 ID:oIlASAwM
後藤にも色々ありそうですね。矢口のこともあるし、
続きが楽しみです。

169 :名無し娘。 : 2001/04/08(日) 18:04 ID:PUsC80Is
とても面白いです。
ゆっくり続き書いてください。


170 :名無し娘。 : 2001/04/10(火) 09:38 ID:P4YqEOFs
ほぜん。

171 :チャーミー剣士 : 2001/04/11(水) 21:56 ID:lyeK/fvo
遅くなりました・・・
続きです

172 :チャーミー剣士 : 2001/04/11(水) 21:56 ID:lyeK/fvo
「・・・はぁ〜・・・」
「なんや梨華ちゃん、ため息なんかついて」
「・・・はぁ」
「・・・私の声も聞こえへんのか
なあなあ、梨華ちゃーん、梨華ちゃーん」
そう言って中澤は梨華の目の前で指でくるくると円を描く。
「・・・はぁ、裕子さん、私どうすれば良いのかなぁ・・・」
「なんや聞こえとったんかいな」
中澤の指をつかみ、その先にある奇麗な爪を見ながらぼそっと言う。
月曜日。雨はやっとのことで上がったが、梨華の心の中は大雨だった。
学校が終わったと同時に席を立ち、部活に行くと言って吉澤と別れた。
そして、下駄箱から外に出て遠くにある部室を眺めていたら、なんとなくそこまで行く
のが億劫になってそのまま校門を出てきてしまった。
それから何分たったか分からないが、歩いているうちに『I WISH』に着いた。
店内の時計を見ると5時を少し回ったところだった。

「私部活さぼっちゃった・・・」
スプーンでいつものミラクルナイトをかき混ぜながら梨華が呟いた。
「・・・」
悪いことをしたなぁ、という思いのほかにももっと大きな別の理由があるのだが、今
はとりあえず部活のことを中澤に報告する。
その様子を見ていた中澤は優しく梨華を見つめ、それから芝居がかった口調で話しは
じめた。
「おおっ!あの真面目な梨華ちゃんが!
ついに大人の仲間入りやなー!」
両手を使って大袈裟に話す中澤に呆れつつ、梨華はスプーンを動かしながら答える。
「・・・大人って言ってもやっぱりさぼるのは良くないよ・・・はぁ」
「なに言うてんのー、つまらんことはやめてええねんって!
馬鹿正直になんでもはいはいってやっててもダメやわ」


173 :チャーミー剣士 : 2001/04/11(水) 21:57 ID:lyeK/fvo
「嫌いなわけないよ・・・私テニス好きだもん・・・!」
少しむっとした様子で梨華は言った。
「好きやゆうても、実際ここでコーヒー飲んでるやんか」
「それは・・・」
言葉に詰まる。
確かに、今ここにいる以上反論の余地はなかった。
「あんな、ここで梨華ちゃんはこうやってくつろいでる。
それが何よりの証拠やって」
反論する言葉もないが、中澤は梨華が口を挟む隙を与えなかった。
「部活さぼったくらいでいちいち気にせんと、もっとばぁーっと
いったらええねんって!」
中澤はまるでこの場を盛り上げるように話している。
それに比例するように梨華の表情も曇っていった。
「・・・」
手にとっていたスプーンも受け皿に収まっていた。コーヒーを飲むわけでもなく、ただ
カップを持って揺らしている。

「あのなぁ梨華ちゃん。梨華ちゃんくらいの年の子ってもういろんな悩みがあると思う
わ。でもな、それを全部1人で受け止めたらいかんと思う」
少し間をおいて、中澤は再び口を開いた。
「特に梨華ちゃんみたいな素直な子は何でも自分で解決しようとして、そのせいで自分
で自分を潰してしまうことがあるんや。
そんな時はな、誰でも良いから相談するの。意外と誰かに話すとすっきりして気分も
良くなるもんやで。な?」
それだけ一気に話し、やっと一息ついてから最後に一言だけ追加した。
「部活行かなかったのも理由があるんやろ?」


174 :チャーミー剣士 : 2001/04/11(水) 21:57 ID:lyeK/fvo
「あんな、子供の頃はなぁんにも疑問なんか感じないまま周りの言うことを聞いてお
けばええねん。周りがなんでもしてくれる。
でもな、そのうち絶対に自分で悩む時が来ると思うわ。
そん時は、自分で悩んで、考えて、それから答えを出せば良い。
一生懸命悩んだんや、誰も梨華ちゃんに文句なんか言わへんよ」
「裕子さん・・・」
「あとな、今私は悩んでる!っちゅう時にそんな部活したり勉強したり、何でも全部
できるわけない。ほんとに全部やってたら体も頭もパンクするわ。
要はな、梨華ちゃんが自分の力でがんばって、それで梨華ちゃんなりに出した答えを
貫いたったらええ。胸張って良いことやで!」
そう言って中澤は梨華の肩を軽く叩いた。
「裕子さん、ありがと」
梨華は肩に置かれた手を取り、心からお礼を言う。
実際、中澤にはこれまでにも数え切れないくらいの相談をしてきたが、今回は特別だ
った。いつもの中澤だと、叱咤して背中を押してくれる感じだったのだが、今回は優
しく励まされたと思う。
どこがどう違うかは分からないが、確かに今までとは違っていた。それでいて、いつ
もみたいに心の中には心地良い温かさがじんわりと広がっていく。
「これが大人の階段っちゅうやつかな。
♪君はまだ シンデレラっさぁー、ってな」
中澤はまたにっこりと笑うと、梨華の前で大袈裟に歌う。
その様子がおかしくて、梨華は思わず微笑んでしまう。
(裕子さん、あったかいなぁ)
もう少し悩んでみようと思った。


175 :チャーミー剣士 : 2001/04/11(水) 21:58 ID:lyeK/fvo
「さて、どうしようかな」
放課後の教室、吉澤は暇を持て余していた。時計は4時半を指している。
梨華は部活に行ってしまったし、他の友達もほとんどは何かしらの部活に入っている。
たまにだったら良いのだが、こう毎日暇になると困ってしまう。
「ののちゃんも部活だろうなー」
時計を見ながら教室をうろうろと動き回る。
いつものパターンだと、このまま家に帰ってそれからどこかへ出かけるか、どこかの
文化系の部室にまぎれこんでみんなで雑談でもして騒ぐかだった。
ただ、他の部に行くというのは結構勇気がいるし、ただでさえ立場的にはまだ新入生
の吉澤が気軽に立ち寄れるところはほとんど無い。
「とほー・・・」
途方に暮れている自分を表現してため息をついてみる。
周りを見回すと、自分と同じ境遇の人影がちらごらと見えるが、それぞれ自己流の暇
つぶしを行っていた。
小説を読んでいるクラスメイトの横を通りすぎ、とりあえず廊下に出る。
「・・・帰ろっと!」
このままここで考えても仕方が無い。これなら家に帰ってテレビでも見ながらお菓子
を食べる方がまだ充実してる。
これまたいつも通りの理論を展開し、吉澤は下駄箱へ向かった。

「あれ?ひとみちゃん!」
職員室の前を通りすぎ、もう少しで下駄箱だというところでふいに背中から声がした。
ひとみちゃんという呼び名に慣れていない吉澤は一瞬戸惑ったが、後ろを振り返って
矢口の姿を確認すると直ぐに笑顔になった。


176 :チャーミー剣士 : 2001/04/11(水) 21:58 ID:lyeK/fvo
「私帰宅部だから放課後暇なんですよー」
下駄箱を出てすぐの、花壇に腰掛けて2人は話していた。
制服を着ているものの、矢口は相変わらず目立っていた。下校していく生徒はちらちら
とこちらを見ては友達と何やら盛り上がり、中には知り合いなのか声をかけてくる者も
多かった。矢口はそれに1つ1つ答えながら手を振っている。
「ひとみちゃん運動神経良さそうだけど、ほんとはダメなの?」
吉澤の体を眺めながら、矢口は聞いてきた。
「うーん、運動は好きなんですけど、部活の空気がどうも合わなくて・・・」
矢口の視線にどきどきしながら吉澤は答えた。
それから、疑問に思って矢口にたずねる。
「あ、矢口さんは何かやってるんですか?」
「私?うん、部活してるよ」
矢口さんが部活。何が似合うかなぁと色々と想像するが、どうも運動部だとは考えられ
ない。かといって茶道なんかの文化系も少し違う気がする。
「あのね、ブラスバンド部」
ブラスバンド――?
あまり聞かない名前だった。そんな部あったかな、と大昔の新入生のための部活動紹介
というイベントを思い出そうとしたが、なかなか思い出せなかった。
ただ、矢口が楽器を演奏する姿を想像すると、ものすごく似合ってそうだ。


177 :チャーミー剣士 : 2001/04/11(水) 21:58 ID:lyeK/fvo
「今日は行かないんですか?」
矢口の話によると、彼女はトロンボーンを吹いているらしい。
あまりにもピッタリな楽器だったので、実際に演奏する様子を見たことがない吉澤で
もすぐに想像できた。
「うん。今日はお休みの日
というか、各自で練習して金曜日にみんなで合わせてるから、基本的にフリーだよ」
「あ、そうなんだ、それ良いですね!」
時間を決めての練習じゃなく、自分で好きな時に好きなだけ練習できる。
他もそんな風にしてくれたら部活入るのに。
そう思いながらグランドでランニングをしている生徒を見る。
「ひとみちゃんって何かに縛られるのが嫌いなタイプでしょ
確かに運動部って時間にうるさいし上下関係も厳しいからねー!」
矢口は吉澤の心を容易に読み取り、そして自然に聞いてくる。
口数の多くない吉澤にとってはありがたいことだった。
「周りの友達見てるとほんと大変みたいで、私には無理だなーって思いますよ
球拾いとか面倒で寝てそう」
吉澤はもう矢口に打ち解けていた。
先輩後輩という境界はあるものの、ほとんど友達感覚で話すことができる。
「あははっ、ほんとに寝そうー!」
矢口の笑い声は典型的なコギャル風といった感じで、かなり遠くまで響いている。
それでも嫌な感じがしないのは彼女の人柄なんだろうなぁ、とつくづく思う。
私がこんな風に笑ったら梨華ちゃんはなんて言うだろ。


178 :チャーミー剣士 : 2001/04/11(水) 21:59 ID:lyeK/fvo
「ね?もう帰るんでしょ?」
花壇から立ち上がり、スカートの埃を払いながら矢口が言った。
「あ、はい。そのつもりです」
吉澤も立ち上がり、同じように埃を払ってから答える。
こうやって見ると、やはり矢口はすごく小さいと思う。自分の胸元の辺りに
ちょうど矢口の頭があって、撫でるにはぴったりだ。
そんな吉澤の胸中を知ってか知らずか、矢口は歩きながら質問を投げかける。
「ね!家はどっちの方向?」
「ええと、あっちの方かな・・・」
「あっち・・・って、ああ、電車で来てるんだ
それじゃあここでお別れね、私自転車なんだ」
「え?矢口さんどっちなんですか?」
「えっとねぇ、あっちかな」
矢口は吉澤の家がある方向を指差す。
「あ、電車か自転車の違いで方向は一緒なんだ」
矢口はそう言うと、しばらく考えてから口を開いた。
「それじゃあ私の自転車に乗っていく?
ひとみちゃんの運転で」
キャハっと笑い声をあげながら矢口は自転車を押してきた。

「あー!自転車の後ろって気持ち良いねー!!」
吉澤の後ろで、矢口は子供のように喜んでいた。
これを見ると誰も矢口の方が年上だなんて思わないだろう。
さっきから10分近く走っているのだが、矢口の勢いはまったく衰えない。
もうすぐ初夏の季節になろうとしているため、日を追うごとに夜が来るのが
遅くなっている。5時を少し回ったくらいだろうが、周りはまだ昼間のよう
に明るい。
と、吉澤は自転車をこぎながら100mほど先のほうに見慣れた喫茶店を見つけ
た。
「あ、矢口さんあそこ寄って行きませんか?」
「あ!いいねー!ひとみちゃんも疲れたっぽいから少し休憩しようか」
2人は自転車を『I WISH』の前に止め、中に入っていった。
「いらっしゃーい」


179 :チャーミー剣士(休憩) : 2001/04/11(水) 22:03 ID:lyeK/fvo
休憩です
すでにお気付きのように、更新のペースがちょっと遅くなって
しまいました・・・
これでもお給料を貰ってる身なので、なかなか時間がとれないんです
2日に1回ペースは厳しいなぁ、ということで1週間に約3回にします
これでもほとんど変わらないけど・・・

それではみなさん、これからもよろしくです

180 :名無し娘。 : 2001/04/11(水) 23:51 ID:1Tmk0hG6
オモロイ!
けどそろそろ上げんかこれ
だいぶ落ちてるよ。

181 :名無し娘。 : 2001/04/12(木) 03:28 ID:yIg8vE2.
遂に矢口と石川が対面することになりそうですね。楽しみです。
無理をせず、都合のいい時に書いて下さい。


182 :名無し娘。 : 2001/04/12(木) 06:07 ID:fnRIVY6.
面白いです。
これからも頑張って。

183 :名無し娘。 : 2001/04/13(金) 18:26 ID:TwHoXFDM
頑張ってください!

184 :チャーミー剣士 : 2001/04/15(日) 03:43 ID:n9XksLSE
続きいきます

185 :チャーミー剣士 : 2001/04/15(日) 03:43 ID:n9XksLSE
「裕子さんこんにちはー・・・って梨華ちゃん!?」
『I WISH』に入るなり吉澤は大声を上げた。
部活に行ったはずの梨華がのんびりコーヒーを飲む姿を見れば当然だったが、それで
も後ろに居た矢口が驚くくらいの声量だった。
「ひとみちゃんミュージカルでも通用しそうな声・・・」
少し呆れた声で矢口が呟く。
周りの客もおしゃべりをやめて吉澤に注目している。
当の梨華はやはり驚いた様子で、何と言っていいのか分からないまま吉澤をじっと見
つめていた。
「よっすぃー大声出しながら店に入ってきたらびっくりするやんかー」
これを年の功と言っていいのか分からないが、中澤は特にびっくりしたといった感じ
はないようだった。
コーヒー豆をカップで計りながら、吉澤の方を見ずに話しかける。
「あっ・・・!ごめんなさい!
でも、梨華ちゃんどうしたの?部活休みになったの?」
そう言って、吉澤は梨華の隣の席に腰掛ける。
矢口も中澤に挨拶をしながらその隣に座った。
「あ!矢口久しぶりやなー!
私めっちゃ寂しかったで!」
矢口の声に気付くと、中澤は大急ぎでカップから顔を上げて言う。
まるで小猫を見るような目で矢口を見つめ、それからわざわざカウンターから回りこ
んでこちらまで来た。
隣で中澤に抱きしめられている矢口の声を聞きながら、吉澤は梨華に話しかける。
「部活なくなったんだ」
「ううん、違うの。私さぼっちゃった」
力の無い笑顔で梨華は答える。


186 :チャーミー剣士 : 2001/04/15(日) 03:44 ID:n9XksLSE
「イヤー!祐ちゃんやめてー!」
嘘なのか本気なのか分からないが、中澤と矢口は相当仲が良さそうだった。
中澤は椅子に座ったままの矢口を後ろから羽交い締めにして、ぐるぐると振り回して
いる。
「あ、よっすぃーところで、今裕子さんと・・・遊んでる人は誰なの?」
本当に遊んでるのかどうかは分からないか、どこかで見たことのある少女だと思う。
同じ制服を着ているところを見ると、同じ学校なのは分かるがいまいち思い出せない。
「あれ?梨華ちゃん矢口さんのこと知らないんだ」
「矢口さん?」
「うん、そう。学校のアイドルなんだってさ」
「アイドル・・・」
なんだか良く分からないが矢口はそういう人らしい。
「もう祐ちゃん苦しいってばぁー!」
本気で苦しそうな声をあげる矢口に、やっと中澤は手を放す。
「愛と憎しみは紙一重ってな」
中澤はこともなげに言い放ち、矢口の頭を撫でている。
そして、今まですっかり忘れていた梨華たちの存在をやっと思い出す。
「よっすぃーと矢口って知り合いやったんかいな?」
その問いに、矢口は頭に置かれている手を取りながら答えた。
「あ、つい最近知り合ったの。ね?ひとみちゃん」
うなずきながら、吉澤はミラクルナイトを注文した。


187 :チャーミー剣士 : 2001/04/15(日) 03:44 ID:n9XksLSE
ちょうど下校時間と重なっていることもあって、店の中はそこそこ賑わっていた。
外はまだ明るく、梅雨時にやっと訪れた天気のせいか遊びまわる子供が目立っている。
「あなたが梨華ちゃんでしょ」
先ほど中澤によってくしゃくしゃにされた髪の毛を直しながら、矢口は言った。
前のテーブルの上にはレモンをさしてあるカップが置いてある。
「あ、そうです。はじめまして」
何だかよく分からないままに、梨華も自己紹介をした。
「ひとみちゃんと話してるといっつも梨華ちゃんの話になるから、
私もなんだか初めて会った気がしないなぁ」
矢口は笑顔を見せながら梨華に言った。
そう言えば最近吉澤の口から「矢口さん」という言葉を聞いた覚えがある。
ああ、この人が矢口さんなんだ。と普通に納得して吉澤を見る。
吉澤はコーヒーを飲みながら梨華と矢口を交互に見ていた。
たぶん矢口を紹介できて嬉しいのだろう、いつも以上に吉澤は笑顔を見せていた。
「よっすぃーなんか今日はきらってしてるー」
「えぇー?そんなことないよ
第一私はいっつもきらっとしてるし」
梨華はかわいた声で笑いながら、それでも吉澤と話すことができて安心していた。
中澤に言われた言葉。「誰でもいいから相談するの」か・・・
それならやっぱりよっすぃーしかいないな、と思う。
吉澤の向こうを見ると、矢口と中澤は2人で楽しそうに話しをしていた。

「あ、そう言えば梨華ちゃん部活どうしたの?」
話がひと区切りしたところで、吉澤は何気なく聞いてみた。
さっき「さぼった」とは言っていたが、何か理由があるのだろう。
その証拠に、今日の梨華は何か調子が悪そうだった。体調が悪いのなら別に隠すこと
もなく、今日は気分が悪いと言うと思う。ということは、何かあったと考えるのが自
然だろう。
「うん、さぼっちゃった・・・」


188 :チャーミー剣士 : 2001/04/15(日) 03:44 ID:n9XksLSE
「私ね、昨日また駅に行ったんだ」
どこを見るわけでもなく、ただ前を向いて話し始めた。
「それでさ、特になぁんにもすることがないから、線路を越えて向こうの方に
行ってみたの」
「うん」
なんで今日の部活のことを聞いたのに昨日の話なんだろ、と思いながらもわざわざ
聞くこともないだろうと思ってうなずいた。
梨華はそんな吉澤に気付く様子もなく、温かそうに湯気を上げているカップを持っ
たままゆっくりと続ける。
「そしたらすっごく可愛い雑貨屋さんがあったから、ちょっと覗いてみようかな
と思って入ったの」
「うん」
「そしたらさ・・・」
そこまで言って「はぁ」と一回間を空ける。
「そこのお店に後藤さんがいたの」
「え?後藤さんってあの後藤さん?」
それ以外に考えられないのは分かるが、それでも確かめずにはいられない。
「うん、そう」
梨華は相変わらず吉澤の方を見ずに話している。
その様子に、吉澤はある種の危惧を覚えていた。
(もしかして梨華ちゃん、後藤さんに何かされたんじゃ・・・!)
「それからいろいろあって・・・後藤さんがお店から出ていったから
追いかけて、後藤さんと少し話したの」
たんたんと、抑揚の無い口調で話を続ける。
梨華はあえて「いろいろ」の部分は語らなかった。
「・・・私後藤さんに怒られちゃった・・・」


189 :チャーミー剣士 : 2001/04/15(日) 03:45 ID:n9XksLSE
「矢口どうかしたん?」
耳元で響いた中澤の声に、はっと顔をあげる。
目の前に中澤の顔が浮かんでいた。
「う、ううん!なによ、裕ちゃんいきなりー」
内心の動揺を隠しながら、なんとかいつものように答える。
それに気付いているのか気付いてないのか、中澤はそれ以上は追及しなかった。
隣で梨華たちがなにやら話をしていた。
その中に出てきた一つの単語。
(後藤・・・?)
確かに今この子たちは『後藤』と言った。

「梨華ちゃんあのさ」
後藤に何を言われ、何をされたのか。梨華がそれを吉澤に告げようとしたその時に
矢口は話を遮った。
「え?はい!何ですか?」
思わぬ声に驚きつつも、何とか平静を装って梨華は答えた。
隣の吉澤も驚きながら矢口を見る。
自分でもこのタイミングで声をかけた理由が分からないし、何を話していいのかは
もっと分からない。ただ、反射的に口が動いていた。
「・・・今言ってた後藤って、後藤真希のこと?」
言ってからさらに後悔する。
少し直球すぎたかもしれない。これだと相手が誰でも変に思われるだろう。
「え・・・?矢口さん、後藤さんのこと知ってるんですか?」
唐突な問いかけに、梨華ではなく吉澤が答えた。
心の準備をして、さあこれからというところで止められ、さらには今日初めて会う
人から変な質問を受けた。そんな状況の梨華にはこの質問に答えるだけの余裕がな
かった。
「あ・・・うん、少し・・・」
歯切れの悪い調子で矢口は答える。


190 :チャーミー剣士 : 2001/04/15(日) 03:45 ID:n9XksLSE
「あー・・・あのさ、後藤って今どこにいるか知ってる?」
こうなったらこのまま行くしかない。
下手に小細工してもさらに怪しまれそうだ。
心を決めて、自分を落ち着かせた。これでまた『いつもの矢口』に戻るはずだ。
優等生の矢口真里に。
「え・・・っと、普段どこにいるとかは分かりません・・・
でも、昨日は駅の裏通りにある小さな雑貨屋さんに・・・」
梨華にとっては一瞬の出来事だった。
矢口がふと見せた、違和感の残る表情。でも、今となってはその表情さえも忘れる
ほどに矢口は笑顔だった。
今まで何も注視することがなく、突然声をかけられて矢口を見た。目の前にぱっと
現れたのが矢口のあの表情だったから気付いたのかもしれない。
ずっと吉澤を見ていたら気付かなかっただろう。
「そうなんだ。分かった、ありがと」
軽く返事をして、矢口はそれ以上は聞かなかった。
そして、くっと一息でカップを空にすると席を立つ。
「さぁて、時間も時間だし、私はこれで帰るね」
全てが矢口のペースだった。
目まぐるしい展開に梨華も吉澤もついていけない。
「あ、はい」
まるで操られるように梨華も席を立ち、矢口に挨拶する。
「それじゃあ、梨華ちゃん今後ともヨロシクね」
矢口は冗談っぽく笑うと、梨華に手を差し出した。
「あ、こちらこそ・・・」
流される様に梨華は矢口の手を握った。

(・・・えっ?)
軽く握った手に力が入る。
思った以上に小さな矢口は、梨華を見上げる格好になっている。
そして、梨華を見上げる目はほんの一瞬だが、冷酷にみえた。
「それじゃ、ひとみちゃんもまたね!」
気が付くとまたもとの矢口に戻っている。
そのまま、まるで今まで遊んでいた小学生のように軽い足取りで矢口は店を後に
した。


191 :チャーミー剣士(休憩) : 2001/04/15(日) 03:50 ID:n9XksLSE
更新です
梨華と矢口の初対面でスリルのある展開を狙ってるだろうということで
今回は肩透かし的な内容にしました・・・
ただ、このシーンはもう少し続きます。矢口ぬきで

基本的に梨華とよっすぃーの2人視点でのみなので、今回みたいに
矢口の胸の内とかいったものはなるべく書きません
それでは、これからも楽しんでください・・・

192 :名無し娘、 : 2001/04/15(日) 09:30 ID:7//M8NaY
お疲れさまです。
流れが変わってきましたね。 次も楽しみです。
ゆっくりと自分のペースで頑張ってください。

193 :名無し娘。 : 2001/04/15(日) 22:32 ID:f5pU0i9c
e

194 :名無し娘。 : 2001/04/15(日) 22:34 ID:ZctFlFDU
チャーミーの持つ剣
はなかなか強い
入手可

195 :名無し娘。 : 2001/04/15(日) 22:37 ID:JytDKzBg
俺も書くかな・・・・。

196 :名無し娘。 : 2001/04/15(日) 22:39 ID:ZctFlFDU
七支刀を改良したものだ
それを鞭のような形状にした物
命中率なら娘。中トップクラスだぞ

197 :SR : 2001/04/16(月) 02:35 ID:O2CF4C/Y
結末が超気になります。がんばってください!!
いったい矢口と後藤の間には何が!?
石川はナゼ落ちた!?なぜ吉澤じゃなく石川が落ちた!?
そして辻は?(笑)


198 :名無し娘。 : 2001/04/17(火) 19:53 ID:imKlOMLc
そろそろ核心ですか?
楽しみにしてるんでガンバって下さい

199 :名無し娘。 : 2001/04/19(木) 00:30 ID:.aBZm6RI
hozen.

200 :名無し娘。:2001/04/21(土) 03:42 ID:d4tOHtXs
mada?

201 :名無し娘。:2001/04/21(土) 13:48 ID:UzzhUxQY
保全下げ。

202 :チャーミー剣士:2001/04/22(日) 02:28 ID:XI04bOwc
遅くなりました!
続きです

203 :チャーミー剣士:2001/04/22(日) 02:29 ID:XI04bOwc
矢口が『I WISH』を出ていった後、梨華と吉澤は再び席に座って話をしていた。
中澤も矢口を見送って、今は普通にカウンターにいる。
「後藤さんがさ、私のこと助けなきゃよかった…って」
「…そう言われたの?」
「うん」
「…」
悲しい笑顔を見せている梨華に、正直何と言っていいのか分からない。
「私どうすればいいのかなぁ」
ぼんやりと、上を見上げて呟く。
ちらちらとこちらの様子をうかがっている中澤に気付くこともなく、まるで夢でも見
ているかのような浮遊感を漂わせている。
時計は6時をゆうに回っていたが、それでもやっと日が落ちる気配を見せるだけで外
はまだ明るかった。
店内でおしゃべりをしていた他の生徒たちも、そろそろ帰り始める者が出てくる時間
である。これが7時を過ぎると、今度は部活帰りの生徒で賑わってくるため、中澤に
とってはちょうど良い休憩時間だった。
「後藤さんってさ…」
しばらくして、吉澤が口を開いた。
「うん」
今度は梨華も吉澤のほうを向いて話を聞いていた。
「ほんとはどんな人なのかな…」
「え?」
思いがけない吉澤の疑問に戸惑う。
「後藤さんって、噂はいっぱいあるけど本当に知り合いの人って聞いたことない」
吉澤は自分に言い聞かせるように話していた。


204 :チャーミー剣士:2001/04/22(日) 02:29 ID:XI04bOwc
そこへ、作業を終えてやっと休憩に入った中澤が話に加わってきた。
「あんな、よっすぃー」
奥から椅子を持ってきてカウンター越しに吉澤の前に座って言う。
「人間の心の中ってな、噂なんてもんじゃ全然当てにならへんよ
こんなことしてたからあの人は優しい人、とかおかしいやんか」
「そんなこと分かってるけど…」
「やっぱりちゃんと会ってから決めんとな
良い人悪い人はその後の話や」
そこまで言われて、吉澤は数日前のことを思い出す。
確かに、矢口には第一印象では良い感じを持っていなかった。
だが、実際に会って話してみると本当に良い人だと思った。
「うん、そうなんだよね…」
妙に納得してうなずく。
「私だってぱっと見たら恐い人やろ?」
そう言って、煙草を吹かすポーズをとりながら笑う。
「あ、ほんとそう!
私最初恐くて話せなかった」
「ほんとかよっすぃー?そんなこと初めて聞いたって!」
「言えるわけないじゃん!」
「あははっ、確かに言えないよね」
隣で笑う2人を見て、梨華もつい笑みがもれる。
「途中からしか聞いてへんから良く分からんけど
梨華ちゃんその助けてくれた子になんかいろいろ言われたんやろ?」
「うん」
「もし私がその子やったらな、安心してると思うよ」
「安心…?」
「自分が助けた子がお礼言いに来たんや
ああ、良かった。って思うやん、普通」


205 :チャーミー剣士:2001/04/22(日) 02:30 ID:XI04bOwc
「さすが裕子さん…だてに年取ってないね」
口に出すつもりはなかったのだが、聞こえていたらしい。
吉澤が言った言葉に敏感に反応する。
「あーもう!よっすぃー年のことは言わんといて!
ただでさえ毎日あんたらみたいな学生相手にしとるんやから!」
冗談にしては目が笑っていない。
吉澤は慌てて場を取り繕う言葉を考え、これだ!と思ったことを口にする。
「いや、そうじゃなくってさ!
その、裕子さんだってすごく若いよ!ほんと!」
「よっすぃーフォローになってないってば」
吉澤の言葉が刺さったのか、中澤が椅子から倒れ込んだ。
それからゆっくりと起き上がって恨めしそうに吉澤を見る。
「怒んないで!悪気はなかったの!」
笑って謝る吉澤の姿に、中澤も呆れたのかこれ以上は何も言わない。
「ほんまよっすぃーって得やわ
なんでも許されるオーラ持ってるもん」
これを人柄とでも言うのか、確かに吉澤は誰からも好かれている。
普通の人だと許されないようなイタズラでも、吉澤だとなんとなく許せてしまう。
ただ、中澤にしてみると梨華も同じようなオーラを持っている分、2人そろうとやりた
い放題されてしまうのが悩みの種だった。
嬉しい悩みなので特に害はないのだが、今のような話になると困ってしまう。

「よっすぃー私さ」
場が明るくなったところで、梨華は笑顔を見せて言った。
今度は悲しさが感じられない、気持ちの良い笑顔だった。
「うん」
それに吉澤も笑って答える。
「もう一回後藤さんに会ってみるよ」
さんざん悩んで、それからやっと自分で納得できる答えを見つけた時のすっきりとし
た表情。そんな顔だった。
「…そうだね、それがいいかも」
心の中で謝りながら、吉澤はうなずいた。
(後藤さんのことでいろいろ悩ませたのって私のせいだもんね)
「梨華ちゃん、ごめんね」
今度は口に出して梨華に言う。
「ううん、よっすぃーありがと!
何事もポジティブ、ポジティブ!だよ」


206 :チャーミー剣士:2001/04/22(日) 02:30 ID:XI04bOwc
心が軽くなった気がする。
家に帰って一息ついた梨華は、身軽な服装に着替えてベッドに寝転んでいた。
「今度の土曜日かな」
カレンダーに丸印をつけながら、自分のフリーな日を探す。
平日は学校があるし、放課後は部活がある。さすがに部活が終わった後にあの裏通り
に行くのは気が進まない。
今は火曜日だから、土曜日までには後3日ある。
「遠いなぁ・・・」
天井を見上げて呟いた。
せっかく決意をしたのだから、なるべく早いうちに会いに行きたい。
でないと、考える時間が増える分決意が鈍ってしまいそうだ。

特に意味もなくつけたままのテレビからは、何かの人生相談のような番組をやって
いるようだった。
たまに司会者らしき人物のすすり泣く声が聞こえては盛り上がっていた。
「・・・」
ちらっとテレビを見て、チャンネルを変える。
こういう番組は嫌いではないのだけど、苦手だった。
いろいろチャンネルを変えてみるが、結局いつもどおりの歌番組に落ち着いた。
吉澤が梨華からの電話の着信音に設定しているあのグループが、小さな舞台の中を
所狭しと動き回っては歌っている。
たまに思うのだが、もし自分があの中に入ったらどうなるだろう?
梨華も、普通の少女のように歌手に憧れたこともあった。
今ブラウン管の中で踊っている少女たちだって、ほんの数年前までは自分がアイドル
と呼ばれるようになるなんて思いもしなかっただろう。
何かの番組の公開オーディションで選ばれたのがこの少女たちだそうで、そういう
点では自分だってチャンスはあるかもしれない。
「でも大変なんだよね」
笑顔に見えるが、心から笑ってるとは思えない。
そう考えると、何も隠すことの無い生活を送れるのは幸せなことだろう。
「ま、私なんかじゃダメだろうけどね」
ふふっと少し笑いながらテレビを消し、ベッドに入った。
さあ、明日からも頑張ろうよ、梨華。


207 :チャーミー剣士:2001/04/22(日) 02:31 ID:XI04bOwc
――土曜日。
木曜日からまた降り出した雨は、今日も止むことは無かった。
活気の無い静かな土曜日。おかげで、昼前までぐっすりと眠ることができた。
11時過ぎに起きて、少し早めの昼ご飯を食べる。
それから着替えて駅に向かった。
「後藤さんいるかな・・・」
傘を揺らしながらゆっくりと歩いていた。
昨日の夜から後藤に何を言おうか考えているのだが、中々思いつかなかった。
そのうち眠くなって寝てしまったが、何回か夢の中でリハーサルをやったと思う。
「いざとなると忘れちゃうもんね」
シナリオを作っても、その通りに自分が動ける自信がない以上、考えるだけ無駄
だった。
なるようになる。これ以外に何もないのだが、不思議と以前のように緊張はして
いない。
今日の目的は後藤と会うためだけである。他は何も無い。
会って、それからは分からないが、会うことが大事だった。
「えっと、ここかな・・・」
あの雑貨屋があると思われる交差点を曲がる。
「あった!」
曖昧な記憶だったが、雑貨屋はそこにあった。
前に見たときとまったく同じ、この路地には似合わない可愛い店だ。
やはり前と同じようにショーウインドウ越しに店の中を覗いてみた。
が、どうやら後藤はいないようだった。
ちらりとこちらを見た熊のような店主と目が合ってしまい、あわてて逃げるように
店から離れる。
「いない・・・」
これは予想していたことだったからそう落胆はしなかった。
たぶん、勘でしかないのだがあの時に後藤と話した場所。その近くを探せば会える
ような気がする。
梨華は雑貨屋をあとにして、あの場所を目指して進みだした。


208 :チャーミー剣士:2001/04/22(日) 02:32 ID:XI04bOwc
「はぁ・・・」
あれからいろいろと探し回ったが、後藤の姿を見つけることはできなかった。
先週、後藤から罵倒された路地。そこを中心として何か手がかりになるようなもの
はないかと探したのだが、何もなかった。
寂れたビルや、何十年も前からそこにあるような古い家が立ち並ぶ街並みで、何か
を探す方が難しいのは明白だった。
もう一度あの場所に戻り、これからのことを考えてため息をつく。
人通りは極端に少なく、後藤を探し始めてから擦れ違った人は1桁に留まっている。

最後にもう一度、と思って梨華は再び路地の奥へ向かった。
「あ・・・公園」
さっきも通ったはずだが気付かなかった。
そこには誰も好んで来ようとは思わないような古びた公園があった。
小さな敷地に、ジャングルジムと小さな鉄棒、錆びてとても乗れないようなブランコ
に同じく錆びたベンチがあるだけだった。砂場も無い。
周りは大きな樹に囲まれているために日当たりも悪そうだ。
「え?」
そんな公園だから誰もいなくて当然だと思ったのだが、人影を見つけた。
大きな樹の影で雨をよけるように、ただ立っているだけのようだったが、梨華はそれ
が後藤だと分かった。
濡れているベンチに座ることも無く、後藤は何をするわけでもなく、本当にただ立っ
ている。
「後藤・・・さん」
近づきがたい雰囲気に戸惑ったが、ここに来た目的は他ならぬ後藤である。
思い切って公園に入り、後藤にの方へ歩いて行った。


209 :チャーミー剣士:2001/04/22(日) 02:32 ID:XI04bOwc
「後藤さん・・・!」
雨音に消されないように、少し大きな声で話し掛ける。
後藤も近づいてくる梨華に、すでに気付いていたようでこちらを向いていた。
そしてその人が梨華だと確認するとあからさまに嫌な顔を見せた。
「またあんた?今度は何?」
後藤は投げやりに答える。
この前は少し機嫌が悪かっただけ。小さな希望を持っていたのだが、やはりそうで
はなかった。
前と同じように話しにくい感じがする。
「あ、あの、特に用事があったんじゃなくて・・・」
「ならどっか行ってくれない?邪魔だから」
「あの!私・・・後藤さんと少しお話がしたくて」
いつもだったら自分から身を引くところだが、今日の梨華は少し違った。
後藤の応対に挫けることなく、一生懸命に後藤に話し掛ける。
「・・・」
後藤は答えなかった。
「この前は・・・後藤さん怒らせちゃって、ごめんなさい」
「この前?」
「あの、先週のこと」
「ああ」
それで終わりだった。
黙ったまま、何も言わない時間が過ぎていく。
いろいろ話そうと思っていたのに、後藤を前にすると言葉が出ない。
それでも何か言おうとして、自分でも分からないようなことを口にする。
「今日は、ここで何してるの?」
「・・・別に」
少し考えたようだったが、やはりあっけない返事だった。

しばらくこんなやり取りを繰り返したが、そのうち後藤は何もしゃべらなくなった。
梨華が何を言っても反応すらしない。
そして、何も言わずに突然歩き出した。
そのまま梨華に構うことなく公園を出て、どこかへ消えた。
後藤の後を追うことも考えたが、これ以上何を話して良いかも分からない。
取り残された梨華はやはり複雑な気持ちを抱えながら、静かに雨の音を聞いていた。


210 :チャーミー剣士(休憩):2001/04/22(日) 02:36 ID:XI04bOwc
すいません、ほんとに遅くなってしまいました・・・
今までは平日でも書く時間がとれてたのですが、4月になって急に忙しく
なってしまい、平日の更新が難しくなってきました・・・

ただ、宣言します
明日更新します。ほんとに
だから許してください・・・

それから、読んでくださってるみなさん、本当にありがとうございます
登場人物の微妙な心境はあえて書いてないことが多いので、いろいろと
想像してみてください
もしかすると、先が読めるかも・・・

211 :ポルノ:2001/04/22(日) 12:34 ID:pPHSYSuc
明日楽しみに待ってます!!

うーん、あほなオレには先は読めないッスねえ・・

212 :名無し娘。:2001/04/22(日) 12:42 ID:sQu3ldeA
無理は禁物!みんないくらでも待ってるから
頑張ってくれい!

213 :名無し娘。:2001/04/22(日) 17:48 ID:xnGLgFsA
無理をせず、都合の良いときに書いて下さい。
面白いので、展開を想像する楽しみがあります。

214 :名無し娘。:2001/04/22(日) 17:57 ID:ecD8HlhU
無理しないで頑張って。待ってるッス。

215 :チャーミー剣士:2001/04/22(日) 23:04 ID:PoFc77yo
できました!
続きです

216 :チャーミー剣士:2001/04/22(日) 23:05 ID:PoFc77yo
外を見る。
だんだんと強くなる夏の気圧団に、梅雨の季節もやっと終わろうとしていた。
久しぶりの、カラカラに空気が乾いた晴天だった。
カレンダーを見ると7月は目前に迫っている。
「あっついなー!」
天気が良いのは嬉しいのだが、朝からこうも暑いとゆっくり眠れない。
汗はかいてないが、さっぱりしたので着替えることにする。
そして、もう一度カレンダーを見た。
6月の最後の土曜日。
梨華が再び後藤に会いに行ってから、ちょうど一週間後。
あれから梨華を注意深く見ているのだが、特に変わった様子もない。
いつも通りに学校では猫のように笑い、周りを明るくさせていた。

「どうしよっかな・・・」
梨華は今日も例の公園に行くと言っていた。
結局、先週公園で何がったのかは良く分からないままだった。
一応梨華から話は聞いたのだが、どうもはっきりしない。
梨華自信も分かってないようだったからこれ以上聞きようがないのだけれど、
逆に気にはなる。
あれから自分でも後藤のことを調べてみた。
調べたとは言っても、後藤のクラスメイトから話を聞いた程度なのだが、それ
でも少しは分かったことがある。
1つ。後藤は高校に入ってまだ2回しか登校していない。
2つ。目撃するとしたら、必ず駅の周辺である。
3つ。家にはほとんど帰っておらず、家族らしき人も見たことはない。


217 :チャーミー剣士:2001/04/22(日) 23:06 ID:PoFc77yo
「・・・」
改めて整理しても役に立つような情報はまったくない。
実際に交友関係がある人物が高校に存在しないため、学校には頼れないことが
当然なのだが、それ以外の方法は思い浮かばなかった。
また、こういうときに学校というものは全然期待できないものだということも
分かった。
後藤のクラスの担任に少し話を聞こうと思ったのだが、こういった余計なこと
には首を突っ込まないことが暗黙の了解として教師の間で成り立っているらし
く、誰も何も教えてはくれなかった。
もっとも、後藤について何か知っているのかも怪しかったが。

もし。もし梨華を助けた人が後藤ではなく、後藤以外の誰か――後藤でなけれ
ば誰でも良かった――であったなら、梨華もこんな時期にまであの事故のこと
を引っ張る必要もなかったと思う。
普通の人だったら、その場で一言「ありがとうございます」と言えば、それで
終わりのはずだった。
同じ学校の生徒でありながら、その人を知る者はいない。
謎めいた人物。たぶんそれがキーワードなのだろう。
何も分からないから、知りたくなる。
自分とはまったく違う人生を歩んでいるからこそ、興味がある。
それは自分も同じだ。

「・・・今日はやめとこっかな」
家から一歩外へ出たが、あまりの熱気にまた家の中に戻る。
今日はゆっくりとテレビでも見ながら過ごそうかな。
梨華ちゃんなら大丈夫。ああ見えても、細くてか弱そうに見えても、心の奥に
はすごく強い芯を持っている。
そう、私なんかより強いんだよ、梨華ちゃんは。
自分じゃ気付いてないけどさ。
「でも、そんなところがみんなに好かれる理由なんだよね」
くすりと笑って、吉澤はテレビのスイッチを押した。


218 :チャーミー剣士:2001/04/22(日) 23:07 ID:PoFc77yo
「ちょっと早かったかな」
細い腕に巻かれた時計を見て呟く。
11時過ぎといえば、まだ午前中だ。太陽はほぼ頭の真上に位置しているが。
「今日は暑いな・・・後藤さん来ないかも」
吉澤だったら誘っても渋るような暑さである。
後藤の性格はまだ全然分からないが、なんとなく暑さが好きなようには見えない。
第一、先週この公園に後藤がいたからといって、今日もいるとは限らなかった。
どちらかと言うと、来るとは思ってない。

「でも、どこかにいるんだよね」
今、同じ空の下に後藤がいることは分かっている。
ここからは見えないだけで、近くにいることは確実なんだ。そう思うと来ないから
と言って素直に落胆する必要はなかった。
あれから、先週後藤に会ってから一週間の間。いろいろと考えてきた。
後藤のことについてではなく、自分のことを考えた。
自分はこれからどうすれば良いのか?
それは何よりも後藤が一番疑問に思っているはずだ。
助けた人がお礼を言いに来て、でもそれだけじゃない。
だとしたら何がしたくてこの人はここに来ているのか。そう思うはずだった。
「私が悪かったんだよね」
笑いながら言う。
考え方を変えてみると答えは簡単に出てきた。
あの事故のことはもうどうだって良かったんだ。ただ、後藤さんのことが知りたい。
だから自分は会いに行くんだった。
(後藤さんにはそれが迷惑なのかもしれない・・・けど)
それでも良かった。
今回だけは自分に素直に動いてみよう。じゃないと絶対後悔するに決まってる。
行こう、進もうよ、梨華。
自分に言い聞かせて、梨華はベンチに座る。そしてもう一度空を見上げた。


219 :チャーミー剣士:2001/04/22(日) 23:08 ID:PoFc77yo
日は傾きかけていた。
あれから夕方近くまで、5時間は待っただろうか。
後藤の姿は見えなかった。
ずっとベンチに座ってたわけではない。適当にその辺を歩いてもみたし、知らない
路地を探索したりもした。
昼食時には少し迷った。ここを小1時間程度とはいえ、離れている間に後藤が来る
ことも考えられた。
そこで、例の雑貨屋のある通りに小さな喫茶店があったことを思い出した。
中年のサラリーマンが時間を潰すような、少し汚れた感じの店だったが、この際だ
から文句も言ってられない。
とりあえず、外が見える席について通りをチェックしていたのだが、やはり後藤の
姿を見つけることは無かった。

ちょうどベンチの上にも大きな樹が立っているために、外の暑さに比べると涼しい
風が心地よい場所ではある。
暇つぶしに持ってきた小説もほとんど読み終わり、今日は諦めようかなと考え出し
た時だった。
遠くの方で子供のはしゃぐ声が聞こえた。
ここにいるとたまに聞こえる声なので特に注意もしなかったのだが、これまでもし
てきた通り一応目を上げてそちらの方を見やる。
「あ・・・!」
そこには後藤がいた。
向こうはまだ梨華に気付いてないのか、子供と手を繋いでいる。
(あ・・・)
後藤の意外な姿にかける言葉が見つからない。
(笑ってる)
少し腰をかがめて子供と笑いあう後藤は、一番最初に梨華が思い描いた後藤真希
そのものだった。


220 :チャーミー剣士:2001/04/22(日) 23:09 ID:PoFc77yo
梨華はベンチから立ち上がって後藤に何かを言おうとした。
だが、梨華が言葉を発する前に後藤がこちらに気付いた。
今まで笑っていた顔が一瞬で硬直する。それから、子供に何かを言ったようだ。
子供は繋いでいた手を話すと、走って路地の奥へ消えていった。
「あの・・・」
後藤の変わりように梨華は戸惑っていた。
いつ後藤が現れてももう大丈夫だと思っていたのに、ふいを突かれるとはこういう
ことを言うのだろう。頭が真っ白になる。
後藤もまた少し動揺しているようだったが、梨華の方にゆっくりと近づいてきた。

「またあんた・・・?」
前回のように言葉に棘は感じられない。今まで笑っていたのだから、急に怒れと
言われても難しいだろう。
「あの、こんにちは!」
戸惑ったのだが、心のどこかでは安心していた。
後藤の笑顔を見ることが出来た。それは梨華にはとても大きなことだった。
「今度は何?」
それでも、梨華の前では相変わらずな表情の後藤に少しがっかりする。
そっけない。それも分かっていたのだが、何度会っても慣れることはない。
「私、後藤さんと話がしたくって!」
努めて明るい声で後藤に話し掛ける。
「何言ってんの?
この前の電車のことは分かったからもう来ないでくれる?」
険しい表情で後藤は答えた。


221 :チャーミー剣士:2001/04/22(日) 23:10 ID:PoFc77yo
「ううん!あのことはもういいの
私は、あのことはもう無しにして、ただ後藤さんとお友達になりたくって・・・」
そうだ、これで良い。これが本当に言いたかったことなんだ。
今日じゃなくても良い。後藤だっていつか分かってくれる。
「はぁ?」
あまりにも予想通りの答えだったが、挫けることなく梨華は続けた。
「だから、今日は後藤さんも用事があるかもしれないから私も帰る・・・
けど、また私ここで待ってるから、また今度・・・会って欲しいの!」
ずっと言いたかったことだった。
この1週間、何度も心の中で後藤に言った言葉。
「ふざけてんの?」
「ふざけてなんかないよ!
私、ほんとにそう思ってる!」
少し怒ったように梨華が言うと、後藤は少し身を引いた。
思いがけない展開と梨華の勢いに困惑しているようだった。
「だから、今日はもうさようならだけど・・・
あの、これ」
梨華はそう言って後藤の手に小さな紙切れを渡し、そして名残惜しそうに公園を
後にした。

「なんなのよ・・・」
一人残された後藤は右手の中にある紙切れを開いてみた。
『石川梨華 090-****-****』
可愛い丸文字で書いてある。
「携帯の番号・・・馬鹿じゃないの?」
そう言って手の中の紙切れを握りつぶした。
「あんたみたいな奴、見てるとムカツクんだよ・・・」
誰もいなくなった公園で後藤は呟いた。


222 :チャーミー剣士(休憩):2001/04/22(日) 23:15 ID:PoFc77yo
更新です
と、その前に
>>216 ですが間違いがありました
>汗はかいてないが、さっぱりしたので着替えることにする。

>汗はかいてないが、さっぱりしたいので着替えることにする。
です・・・ごめんなさい

みなさん、いろいろと気遣ってくれたりして本当にありがとうございます
平日は書く暇が少なくなった分、休日に書くようにします・・・
急いだように見えるかもしれませんが、今日は比較的ゆっくり書けました
それでは、これからも楽しんでください

223 :名無し娘。:2001/04/22(日) 23:44 ID:ecD8HlhU
チャミ剣さん、ありがとうホゼム。

224 :名無し娘。:2001/04/23(月) 22:06 ID:NvHfYxFU
保全シマス

225 :チャーミー剣士:2001/04/24(火) 22:29 ID:VqWVgNlY
なんと、続きがかけました

226 :チャーミー剣士:2001/04/24(火) 22:30 ID:VqWVgNlY
「はあ・・・」
何回聞いても突拍子もない内容だ。
梨華にこれほどまでの行動力があったとは、吉澤の予想を少し超えていた。
ただ、その内容はやはり何度聞いても呆れてしまう。
「梨華ちゃん・・・漫画の読みすぎだって・・・」
携帯の番号を書いた紙を渡してその場を走り去る。そっくりそのまま何かの漫画で
見た記憶がある。それが何の漫画だかは忘れてしまったが。

梨華が後藤にあの紙切れを渡した次の日、つまり日曜日だ。
どこかへ出かけようという梨華の誘いを断って、吉澤の部屋に集まっていた。
昨日と同じく、外に出るだけで体温が1度は上がりそうな暑さ。こんな日にはどこか
へ行くよりも部屋にみんなを呼んだほうが都合が良い。
なにせ自分は外へ出る必要もないのだ。待っていれば向こうのほうから来てくれる。
ちょっと気は引けるが、たまにだから良いだろうと思い罪悪感はなるべく感じないよ
うにした。

てっきり梨華が1人で来ると思っていたのだが一緒に希美も付いてきていた。
3人が吉澤の部屋にそろうのは久しぶりだった。
この前は確か半年くらい前だったかな。でも、それよりも。
吉澤は、こうして誰かの家に3人がそろうと必ず思い出すことが有った。
そう、希美の中学受験の時期。あの頃は毎日誰かしらの家で騒いでいたと思う。
名目は希美のための勉強会。ふたを開ければただの女の子同士の雑談がかなりの時間
を占めていたのは言うまでも無いが。
ただ、希美は一生懸命だった。
「お姉ちゃんと同じ学校に入る!」
毎日のように言っていたあの言葉がすごく懐かしい。
梨華たちも、受験目前になると遊ぶことも忘れて希美のために頑張った。
2人はほとんど希美の家庭教師状態だったと思う。
学校帰りに参考書を買って自分で勉強してから希美に会いに行く。
可愛い妹のためならなんだって出来た。


227 :チャーミー剣士:2001/04/24(火) 22:30 ID:VqWVgNlY
吉澤は思わず遠い目をして希美の頭を撫でていた。
「なっ、なに!?」
ぶるっと体を1回震わせて希美がたじろぐ。
「あ、いや、ごめん
受験の頃を思い出したらつい手が出ちゃった」
「受験ってののちゃんの?」
梨華が聞いてくる。
「うん、そう
あの時のののちゃんが可愛くてさー!」
「あー!分かる!
ガンバッてるののちゃんは可愛かったねー」
「そう!あんな可愛い子は滅多にいないよ、ののちゃん?」
その可愛い本人なのだが、まるで他人のことのように話す吉澤に希美もなんと言って
いいのか分からない。
よく親や親戚に言われる、あんたが赤ちゃんの頃は〜と同じような感じだ。
「あのののちゃんには惚れるよね!よっすぃー」
両手を胸の前でくんで、憧れる乙女のようなポーズで梨華が言った。
「うん、惚れたぜぇ!」
冗談っぽく叫んで、吉澤は希美に抱き着いた。
「いやー!」
どたばたと希美が逃げ回り、吉澤が追いかける。
梨華はそれを笑いながら見ているという、これも良くある風景だ。
そんな、ごく普通の日曜日だった。


228 :チャーミー剣士:2001/04/24(火) 22:31 ID:VqWVgNlY
「でも、いきなり携帯の番号を教えるなんてお姉ちゃんもやるよね」
吉澤にもらったアイスキャンディーを舐めながら希美が言った。
外は暑いが、部屋の中はクーラーを稼動させるほどではない。
開け放しにしてある窓からは夏の乾いた風が心地よく入ってきている。
「そうだよ梨華ちゃん!
まっさか私もいきなりそんなことするなんて思わないって」
「えっ?そんなに変だったかな??」
何がおかしいのか心底分からないと言う顔をして答える梨華に、呆れたように希美
が言った。
「・・・お姉ちゃん相変わらず天然ボケしてるね」
「うっ・・・」
希美はたまにスラッときついことを、悪気なしに言うことがある。
根が純粋なだけに結構突き刺さるのだが、本人はそういうことには鈍いらしく天使の
ような顔をして笑っていることが多い。
「で、でも他にあの状況でお友達になる方法って・・・」
今の今まで自分のしたことに大満足していた梨華は、希美たちに言われて初めてあの
行動のことを考えさせられる。
「確かに後藤さんと仲良くなるのは難しいと思うけど
いきなり電話番号はどうかな・・・」
吉澤もやはり呆れた様子で梨華を見る。
「よ、よっすぃーまでそんな目で見ないでよっ
だって、あの時は・・・」
しつこく食い下がる梨華に、吉澤と希美は互いに目を合わせると冗談っぽくため息
をついた。


229 :チャーミー剣士:2001/04/24(火) 22:31 ID:VqWVgNlY
「まあ、確かに」
肩を落とす梨華に同情したわけでもないのだが、吉澤が言った。
「私にもどうすれば良かったなんて分からないよ
これで電話がかかってきたりしたら梨華ちゃんすごい!ってなるし」
「かかってくるかな・・・」
すっかり自信をなくした梨華は小さな声で呟いた。
吉澤たちにああ言われてみると、ちょっと強引だったのかなと思う。
自分が後藤の立場だったらと考えると、少し納得する。
普通に考えると引いてしまうかもしれない。
「えっと、大丈夫だって!
お姉ちゃんはなんだか嫌われないタイプだと思うし!」
言葉足らずながら、希美もフォローを入れる。
「もー・・・2人とも私で遊んでるでしょ!」
さっきから人を落胆させたりまた勇気づけたり、どう見ても遊ばれてるとしか考え
られない。
そして、それを肯定するように希美は舌を出してエヘヘと笑っていた。
吉澤も明後日の方を向いて口笛を吹いている。
「・・・なんだかなぁ」
そう言いながらも梨華は一緒に笑ってしまう。
久しぶりに心が軽くなっていた。


230 :チャーミー剣士:2001/04/24(火) 22:32 ID:VqWVgNlY
――梨華がはじめて後藤に会ってから3週間後。
つまり携帯の番号を渡してから1週間後が過ぎていた。
梨華は再び駅前に来ていた。
すでに世間は7月に入っている。
気の早い大学生はもう夏休み気分だし、空には積乱雲が昇ることもある。
露天ではかき氷やアイスクリーム屋が盛り上がりを見せているし、いつでも元気な
小学生たちはプールの道具を持って走り回っている。
街並みはすっかり夏模様になっていた。

「どこにいるんだろ」
今日も梨華は後藤を探している。
既に例の通りと公園は見てきた。
さすがに今日は来るまで待ってるつもりはなかったため、引き返してきたところだ。
相変わらず日差しはきつく、いくら夏が好きでもこの暑さは好きになれない。
一度立ち止まって汗を拭いてから、駅前を観察する。
「そう偶然に見つかるわけないかな、やっぱり」
今までは運でも良かったのか、会いに行くと必ずどこかしらで会うことができていた。
確かに珍しいことだと思う。
確立から見て今日はみつからないかも、と根拠のない理論を展開しながら周りを見回し
ていると、ふと見知った人影を発見する。
「あれ?あの人って確か・・・」
最近吉澤がお気に入りの先輩。
「あ、矢口さんだ!」
小さな体を隠すようにかなり高い厚底ブーツをはいてトコトコと歩く姿は確かに矢口
のものだった。
1人なのか、足早に駅の向こう側へ歩いていく。
なんとなく気になったので矢口の後を目で追っていると、あの路地に入っていくのが
見えた。
私ならともかく、矢口さんがあんなところにいったい何の用だろう。
そう思うと体は無意識に動き出した。
振り返って、矢口の後を追って再びあの路地に向かう。
(後藤さんじゃないけどなんだか気になるよね・・・)


231 :チャーミー剣士(休憩):2001/04/24(火) 22:35 ID:VqWVgNlY
更新です。

ちょっと時間が空いたので書いてみたら、思いのほか進んだので・・・
ええと、まだ不明ですが、GWに更新できるか分かりません。
なので今週中にもう一度更新します。

それでは、お楽しみください・・・

232 :名無し娘。:2001/04/25(水) 13:27 ID:i3lkDQ/M
矢口と対面・・・?(ドキドキ

ガンバッテネホゼムー

233 :ポルノ:2001/04/25(水) 16:05 ID:I7yE2P2g
おおーー、二日ぐらいあけて見に来たらこんなに・・
読みごたえたっぷりですなあ

234 :ポルノ:2001/04/25(水) 16:10 ID:I7yE2P2g
スマソ・・
ageちゃった・・・・(泣


235 :名無し娘。:2001/04/25(水) 18:46 ID:ZEtBJxgE
遂に矢口と後藤の関係が判明するのかな?
期待&保全sage

236 :名無し娘。:2001/04/25(水) 18:47 ID:sAWIANjk
遂に矢口と後藤の関係が判明するのかな?
期待&保全sage

237 :名無し娘。:2001/04/25(水) 23:50 ID:B9PcQuWY
面白いsage

238 :保全っ子クラブ:2001/04/26(木) 13:01 ID:Zt4iLbHE
ホゼム

239 :名無し娘。:2001/04/26(木) 21:48 ID:EB1E.bDk
助けたのは後藤じゃないとか・・・

240 :チャーミー剣士:2001/04/27(金) 22:53 ID:V34Nks6g
続きです

241 :チャーミー剣士:2001/04/27(金) 22:53 ID:V34Nks6g
厚底は履きなれているのか、かなり早いスピードで矢口は歩いていた。
こんなことが前にもあったな、と思いながら梨華も急いで後を追う。
いつもの雑貨屋を過ぎ、いつもの公園を横切った。
なおも先へ進む矢口を梨華も黙って追いかけている。
見つからないように尾行するのは緊張するが、自分が重大な事件にでも巻き込まれ
ているみたいで少し楽しい。
「私って婦警さんみたい!」
少しその気になって電柱で身を隠す梨華の姿は、周りから見ると滑稽なものだった
だろう。当の梨華はそんなことには気付くこともなく婦警になったつもりで矢口を
追っていたのだが。
「あ・・・!」
変なことを考えてる間にも、矢口はどんどん歩いていく。
そして、廃虚のようなビルの、錆びてボロボロになったドアの前で立ち止まった。
「あそこに何かあるのかな・・・?」
ばれないように、ビルの陰でじっと矢口を見つめる。
何をするんだろうか。
矢口にはまったくと言って良いくらい似合わない。
今、この場で写真を撮って後からそれを誰かに見せたとしても、それは合成だと言わ
れかねないような、それほど場違いな雰囲気を持っていた。
ギイィ・・・
矢口がその錆びた鉄のドアを開ける。
鉄の擦りあう嫌な音があたりに響いた。
ギイィ・・・
矢口がドアの中に入ると、再び嫌な音を上げながらドアは閉じられた。
「ど、どうしよう」
もう見つかる心配はほとんどないのだが、梨華はまだ隠れたまま呟いた。
いくらなんでも中に入るのはまずいだろう。
かといってこのまま諦めるのは忍びない。


242 :チャーミー剣士:2001/04/27(金) 22:54 ID:V34Nks6g
梨華はしばらくその場で悩んでいたが、意を決してドアの付近まで行ってみることに
した。
執拗に周りを警戒しながら移動する。
途中で自分が踏んだガラス片の音で心臓が飛び出しそうになったが、なんとか持ちこ
たえてドアの前までたどり着く。
「開けたら見つかるだろうな・・・」
ドアの前で何をするでもなく立っていたが、ふと横を見るとドアと同じくボロボロに
汚れている窓を見つけた。
中が見えるかもしれないと思って近づいてみるが、思った以上に汚れていて中まで見
ることはできなかった。
「見えない・・・」
まさかここが矢口の家であるわけもないし、誰か友達が住んでいるとも考えられない。
ましてや矢口が着るような服を売っていそうな店であるわけはなく、まったくもって
この場所に用事があるとは思えなかった。
だから余計に気になる。
なんとかして覗く方法はないものかと思案していると、少し上のほうから物音が聞こ
えた。
「にゃあーおぅ」
「・・・猫さん」
少し太った猫がバランスを取りながら、ビルにポッカリと空いた穴から這い出して
こようとしている。
「あ!あそこから中が見えないかな?」
昔はおそらく換気扇が付いていた穴だろう。
周りの壁にはヒビが入っており今では見る影もないが、昔は夕食時にはここから
美味しそうな香りが漂っていたに違いない。
梨華は周りを見回して台になりそうなものを探した。
「あっ」
裏通りなだけあって、小さなバケツが転がっている。
少し低かったが、上に乗ってみると何とか穴を覗ける高さにはなった。
梨華の軽い体だとバケツも大丈夫だろう。これで潰れたりしたら立ち直れない。
重さを気にしながら、体を左右に揺らしてバランスをとって中を覗いてみた。


243 :チャーミー剣士:2001/04/27(金) 22:54 ID:V34Nks6g
「よく・・・見えない・・・うーん」
梨華の目に入ったのは薄汚れた一面の壁、それだけだった。
なんとか背伸びをして視界を広げようとするが、平衡感覚が悪いのか中々バランス
がとれなかった。
「もう・・・少しなのに・・・!」
息を止めてぐっと体を伸ばす。
「あっ!」
一瞬だけ、壁とは違う何かが見えた気がした。
もう一度確かめようと必死になって体を伸ばすが、確認できない。
「これじゃダメだぁ」
体が痛い。
慣れない筋肉を使ったためか、腰がキリキリと痛んできた。
これ以上やると年甲斐も無く体を壊しそうだ。
そう思い、梨華はバケツから降りて周りを見回した。
「もうちょっと高いのないかな・・・」
と、少し遠いところにダンボール箱らしきものが見えた。
「あ!見つけたっ」
ぱっと顔を輝かせて走る。
ダンボール箱は中に何かが入っているのか、少し重かった。
それでも、持てはしないが押せる程度の重さだったため、梨華はそのダンボール箱
を穴の下に持ってくる。
「よしっ!これでおーけー!」
準備ができたところで再び穴の奥を覗いた。


244 :チャーミー剣士:2001/04/27(金) 22:54 ID:V34Nks6g
そこは小さな部屋のようだった。
ここが換気扇の穴なら、すぐそばがキッチンなのだろう。
ただ、やはり外と同じく室内も汚れていてそこがキッチンだと断言できる状態では
なかった。
奥には2つドアが見える。
1つは閉まっていたが、もう1つは開いていた。
そして、その開いたドアの向こうに人影が見える。
「矢口さん?違うかな・・・」
後姿だけで、しかもドアの影にほとんど隠れているために誰かは分からない。
ただ、奥にはもう1人いるようだ。
見たところ普通のアパートのような作りをしていた。
2LDKくらいはあるだろうか、かなり広いと思う。
ただ、部屋の汚れ具合から見てもここに住んでいる人間がいるとは考えられない。
取り壊されることもないまま使われなくなったアパート。そこを遊び場代わりに
使っているという感じである。
キッチンと思われる部屋には、やはり古いテーブルが1つだけ置かれていた。
「なんだか怖い部屋・・・」
梨華は素直な感想を言って、一度外を見る。

ドン!
と、大きな音が外まで聞こえた。
見ると、先ほどまで開いていたドアが閉まっている。
向こうの部屋に行ってたらどうしよう、と思いながらキッチンの中を捜す。
すると、2人の人影が向かい合ってテーブルに腰掛けようとしていた。
1人は後ろを向いているために分からないが、もう1人はすぐに分かった。
「矢口さん・・・」
部屋の中なのに靴を履いたままなのは気になったが、床を見るとそれも頷ける。


245 :チャーミー剣士:2001/04/27(金) 22:55 ID:V34Nks6g
耳を澄ますとかすかだが、2人の話が聞こえてきた。
「いいかげん帰ってよ」
梨華はこの抑揚の無い声に聞き覚えがあった。
これまでに自分も幾度と無く聞いたあの無機質な声。
(後藤さんだ!)
やはり2人は知り合いだった。
心臓が1回、どくんと音を立てた。
「やだ」
矢口の声だ。
あまり見たこと無いから分からないが、吉澤の話だと矢口はいつも笑っているそう
である。だが、今の矢口に笑う気配はない。
優しさとはかけ離れた、冷たい目をしてただ前を見ていた。
どちらかというと梨華には今の矢口の方が見慣れていた。
梨華に見せた冷たい目。全てを上から見下ろしているような目でじっと後藤を見て
いるようだった。

「ねぇ後藤・・・」
矢口の口が再び動いた。
表情は相変わらずで、視線だけを上げて後藤に話し掛ける。
「・・・」
後藤は答えない。
2人が会っている現場を初めて見た梨華でも、場がピリピリしているのが分かる。
いくら良い方向に考えても険悪な雰囲気だった。
壁1つ隔てたダンボールの上だと、2人の会話が全て聞き取れるわけではない。
矢口の口を注意して見るが、それでも話が分からないことも多かった。
「もう・・・しないでほしいわけよ」
話が見えない。
断片的にしか、それも声が大きくなるアクセントの部分しか聞き取れない。
短い単語なら分かるのだが、長い文章になるとよく分からなかった。
「・・・」
後藤はほとんど話さなかった。
一方的に、感情のない声で話しつづける矢口。


246 :チャーミー剣士:2001/04/27(金) 22:55 ID:V34Nks6g
しばらく、2人はそのままの状態で話していた。
もっとも後藤は何も言わず、後ろから見ていると話を聞いているのか寝てるのか
分からないが。
そして、10分も過ぎた頃だろうか。梨華が足に疲れを感じ始めた頃だ。
急に矢口の声が大きくなる。
「だからさぁ!何回も言ってるじゃん!
アンタはもう終わってんの!私の邪魔しないでくれる!?」
座ったままだが、イライラしたようにテーブルに肘をついて言う。
「ふざけんなよ・・・また何かするつもり?
次やったら先輩潰すよ?」
矢口よりは小さい声だったが、梨華にも聞こえる声量で後藤が答えた。
(な、何?何言ってるの?)
「やぁーっとしゃべったね、後藤・・・」
はぁっと1回ため息をつき、矢口は後を続けた。
「でもさ、アンタ頭悪いの?キャハハッ!まあそれは分かってるんだけどさ
あのね、よく思い出しなよ!アンタあの時どうなった?」
笑い声だけはいつも通りだと思った。
そして、笑ったことがきっかけなのか、矢口の表情が少し緩む。
人の良い顔に変わっていた。
「・・・うるさい!」
後藤は少し声を荒げた。
それを見た矢口はさらに顔の筋肉が緩んでいく。
「これ以上さ、私の邪魔すんなってこと!
少ない脳みそで理解できんでしょ?そんくらい
潰されるのはどっちかぐらいアホでも分かるんじゃないの?」
一言一言を、流すことも無くゆっくりと、そして嫌味な言い回しで話す矢口に
梨華は恐怖を感じていた。
(潰す・・・って、何のこと?
矢口さん何言ってるの?後藤さんだって・・・)
「先輩分かってないよ」


247 :チャーミー剣士:2001/04/27(金) 22:55 ID:V34Nks6g
「分かってない?誰が?アンタでしょ?アハハッ!」
矢口の笑い声が響く。
こんな時でもイヤな声ではなかった。
「いい加減にしなよ・・・ほんとに後悔させてやるから・・・!」
「後悔?へぇ!私が後悔するんだ
私後悔なんてしたことないから楽しみだよ!」
「・・・」
口は矢口の方が上手らしい。
後藤は次の言葉を考えているのかしばらく話さない。
そんな後藤を笑って見ながら、矢口は笑みを消す。
「・・・私もさ、アンタにちょっと飽きてきたんだよね
今回のことが片付いたら・・・捨ててあげるよ、待ってな」
「!」
ガタン!
音を立てて後藤が立ち上がった。
「やっぱりあんた、最低だよ・・・先輩」
必死に怒りを震わせて、唇を噛みながら後藤は言った。
矢口の目の前に立ち、一回り高い位置から見下ろしている格好だった。
「最低?何も知らないくせにそんなこと言って欲しくないんだけど」
逆に上を見上げて、矢口は言った。
「・・・?
先輩さ、何でこんなにこだわってんの?
このことがそんなに大事なわけ?」
頭までこみ上げそうな怒りを押さえて、後藤は疑問を口にした。
矢口の肩が少し揺れた。


248 :チャーミー剣士:2001/04/27(金) 22:56 ID:V34Nks6g
「・・・関係ないでしょ」
後藤に背を向けて矢口は答えた。
「アンタなんかには分かんない世界にいるのよ、私は」
歩きだす。
このまま帰るつもりなのだろうか、ドアに向かって進んできていた。
(!!出てくる!?)
突然のことに梨華は反応ができない。
(早く!早く!)
見つかると良くないことが起こるような気がした。
思わず混乱してダンボールも運ぼうとするが、途中で気付いて体だけ走って逃げた。
ギイィ・・・
ドアが開く音がする。
後ろを振り返る余裕もなく、ただひたすら走った。
ちょうどドアが開いている方向に走っているため、矢口に気付かれるとすればドア
が閉じられる時だろう。
鉄の軋む音がして数秒後。実際には3秒もたっていないはずだが、やっと梨華は角
を曲がってビルの影に隠れることが出来た。
「はぁ!はぁ!」
心臓の音が体の外まで聞こえている。
その場に膝をつき、まだまとまらない頭の中を必死に落ち着かせた。
「何・・・だったの・・・?」

ギイィ・・・
矢口は後藤に背を向けてドアから出た。
そして、何気なく周りを見回してみる。
「・・・?」
一瞬だけ見たことのあるような娘が目に入った。
「・・・見てたんだ、イシカワ」
そう呟くと、矢口は再び厚底の音を響かせて駅のほうへ歩いていった。
別に見られても構わない。
「どうせそのうち分かるんだからね・・・」


249 :チャーミー剣士(休憩):2001/04/27(金) 23:01 ID:V34Nks6g
GW前最後の更新です・・・
ずばっと核心に近いところを突いてみました
矢口の裏側です

ええと、GW中は更新できるか分かりません・・・
すいません
暇ができたら更新するので、待っていてくれれば嬉しいです


250 :名無し娘。:2001/04/27(金) 23:29 ID:2Lb6W7l6
ううむ、一気に話が進んだみたいっすね。
気になるとこで、ここまでっすか・・・
がんばれい。チャ−ミー剣士。

251 :名無し娘。:2001/04/28(土) 00:19 ID:92byQ4Wk
>>249
無理はしないでね。
にしても、石川凄い行動力だな…。

252 :名無し娘。:2001/04/28(土) 00:33 ID:bk5xxJoI
矢口が真っ黒くてイイカンジ。
ガムバレチャミ剣!

253 :名無し娘。:2001/04/28(土) 07:50 ID:E7mqUlp6
先が読めない
続き期待

254 :ななっすぃー:2001/04/28(土) 12:15 ID:uvpYMRaQ
ドキドキ・・・

255 :ややや:2001/04/28(土) 23:37 ID:d6LZBZcs
がんばってください


256 :名無し娘。:2001/04/28(土) 23:38 ID:atfkfnYA
何であげるのさ

257 :名無し娘。:2001/04/28(土) 23:42 ID:bk5xxJoI
気になる伏線がーーーー
どう知と絡むのかーーーーーsage

258 :保全っ子クラブ:2001/04/29(日) 14:54 ID:yjmQYlkA
ホゼム・・・??

259 :名無し娘。:2001/04/30(月) 14:05 ID:lP/AZBLs
楽しみに待ってますよー

260 :名無し娘。:2001/05/01(火) 07:15 ID:hwd4er0.
ほんと早く続き読みたいよー。
GW中にも読みたいな。。。

261 :チャーミー剣士:2001/05/02(水) 10:43 ID:IERU5gRA
暇を見つけて更新できました
続きです

262 :チャーミー剣士:2001/05/02(水) 10:45 ID:IERU5gRA
教室の中は静かな喧騒に包まれていた。
隣同士でこそこそと話しては、声を押し殺して笑っている。
教師が黒板に何かを書こうと背を向けるたびにそれは繰り返される。
週は明けて、月曜日。
季節というのは不思議なもので、今日も蒸し暑い1日だった。
誰もが夏になると冬の寒さを忘れ、冬には夏の暑さを忘れる。
それでも構うことなく日々移り変わる季節の中で、梨華も今日を過ごしている。
ここ最近は多くのことが起こりすぎて、頭の中で整理するだけで精一杯だった。
小学校の頃から付けている日記も、書いているうちにどうしても長くなってしまう。
1日で2ページ書いたこともあったくらいだ。
何もない、ただ同じことが繰り返される日常も面白くないが、ここまで目まぐるしく
変化する生活も疲れるものだった。

(梨華ちゃん…!)
後ろから小さな声で名前を呼ばれた。
同時に背中を突つかれる。
教師を気にしながら後ろを振り向くと、顔なじみの友達が手紙を渡してきた。
どこのクラスでもなぜか同じことが起こっている、授業中の手紙の回し読み。
いつものことなのでもう慣れっこになっていたが、今回は梨華宛ての手紙だった。
便箋をそのまま折って作った独特の手紙には『梨華ちゃんへ』と書いてある。
これもよくあることで、たとえ個人宛ての手紙であってもクラスの団結力はすごいもの
があって、1人1人の手を伝って必ず手元に届くようになっていた。
裏を見ると、青色の文字で『よっすぃ〜から愛を込めて』と書いてあった。
ちらっと吉澤の方を見ると向こうもこっちを見ていたらしく、ちょうど目が合った。
こちらを見てにっこりと笑う吉澤に、梨華も笑みを返す。
そして、再び手紙に目を落として吉澤のメッセージを読み始めた。

263 :チャーミー剣士:2001/05/02(水) 10:46 ID:IERU5gRA
『昼は屋上っすか!
ヤキソバパンをゲットして日陰を取ろう!
私パン買ってくるから先に屋上行っててね
P.S. 元気ないみたいだけどどうしちゃったの?
何かあったら私に言ってみなさい!』
吉澤にしては長い文章だった。
いつもは2、3行ですっきりした言葉でまとめて書いているのだが、今回はそうもいか
なかったらしい。
吉澤なりに考えたのかところどころに消しゴムで消した後が残っていた。
吉澤の方をもう一度見ると、梨華の視線に気付いたのか吉澤が振り返る。
梨華は吉澤に向けてVサインをしてにこっと笑った。
時計を見るとまだ昼休みまでは30分ほど残っていた。

「やっぱ月曜はいいよねー!」
やっと午前の授業を終えて、2人は予定通り屋上に来ていた。
階下ではやっと終業を知らせるチャイムが鳴っているようだ。
「絶対5分前には終わるもんね、あの先生大好き!」
梨華の言葉に答える吉澤は、手にヤキソバパンを持っている。
梨華も同じ物を持っているところを見ると、無事に昼休み時に起こる売店での戦争は
乗り切ったようだ。
また、梨華も屋上に1ヶ所だけ用意されている、テラスとまではいかないが少し汚れ
たひさしの下にあるベンチに陣どることに成功していた。
夏の焼け付くような日差しも、ゆるやかな風が通り過ぎる日陰に座ると気持ちの良い
ものだった。
そのベンチに、並んで腰掛けて話していた。

264 :チャーミー剣士:2001/05/02(水) 10:47 ID:IERU5gRA
「でも、さ」
涼しい風を感じながら心ここにあらずという状態だった梨華の耳に、隣から吉澤の声
が聞こえた。
昼食もとり終えて今は2人ともベンチで休んでいる。
「んー?」
このまどろんだ体を起こすのはもったいない。そう思って吉澤の方へ顔を向けること
もなく、喉の奥から眠たそうな生返事を返した。
「梨華ちゃん昨日だっけ?も後藤さんに会いに行ったの?」
吉澤の方も空を見ながらゆっくりと話していた。
「あ…うん、一応…」
聞かれると思っていたので特に緊張することもなかったのだが、思わず持っていた
空になったパンの袋を強く握ってしまう。
ガサッと音が鳴る。
その音にかぶせるように、梨華は続けた。
「でもさ、あ、行ったのは昨日じゃなくて土曜日なんだけど」
そこまで言って、起こしたくなかったのだが、体を動かして吉澤の方を見る。
吉澤の顔の前に自分の顔をもっていって、吉澤の目を覗き込んだ。
「ど、どうしたの?」
突然目の前に梨華の顔が現れ、驚きながらも――少しドキドキしながら――吉澤のも
一気に目が覚めた。
「うーん、あのね、話長くなると思うけど、良い?」
大きな、きらきらした澄んだ目で、そして無邪気な表情。さらにはとても心地の良い、
少なくとも吉澤はそう思っているのだが、この声。
これだけのことを自分の目前、わずか数センチの距離でやってくれる。
こんなことは考えたくないのだが、もしこれが吉澤ではなくて誰か男の人だったら。
誰であっても心臓が忙しく働き始めるだろう。
実際、こんな梨華と長い間付き合っている吉澤でも、思わず梨華を抱き寄せてしまい
そうな衝動に襲われる。
「あ、あー、うん、いいよ全然」
内心動揺しながら、梨華の目をじっと見つめて答えた。
屋上の涼しい風は、さらさらとした梨華の髪のシャンプーの香りも運んでくれた。

265 :チャーミー剣士:2001/05/02(水) 10:49 ID:IERU5gRA
「でぇ、矢口さんがあんなとこに行くなんて思えなくって
私、矢口さんの後をついていったの」
5分前に昼休みが始まるだけで、ずいぶんゆっくりと過ごすことができる。
昼御飯を食べて、梨華が土曜日のことを話し始めてからすでに10分は過ぎようと
していたが、時計はまだ12時半を指している。
「そしたら…公園の向こうにもう誰も住んでないようなビルがあるんだけど
そこの壊れたドアから中に入っていったの」
梨華も再びベンチに座り直して、また空を見ながら話していた。
1つ1つのできごとを思い出しながら、まるで子供に言って聞かせるようにゆっくり
と話す様子は、ぬるま湯のような昼休みには合ってるかもしれない。

さらに5分近くが経過した。
吉澤は、たまに見せるこの梨華の勇気に驚かされることがある。
その場に行ってみないと分からないとは思うが、自分が梨華と同じ場面に遭遇したと
考えると、さすがに換気扇用の穴から覗き見はしないだろう。
バケツに乗って体が痛くなったこと、押して運んできたダンボールがやっぱり重くて
疲れたことなど、あまり必要性のあるとは思えないことも細かく説明しているため、
梨華の言う通りに話が核心に近づくまでに予想外の時間がかかったように見える。
ただ、矢口と後藤の関係を少しずつ聞かされ始めた頃には、吉澤の顔から笑みが消え
ていた。
「うそ…」
梨華はたんたんと説明するが、吉澤には簡単に理解できる話ではない。
他ならぬ梨華の言うことだからその通りなのだろう。ただ、それが本当のことである
と思いながらも、心のどこかでは否定していた。
矢口さんはそんな人じゃないはず。
確かにまだ知り合って少ししかたってないが、そういう人だとはどれだけ考えても想像
できない。

266 :チャーミー剣士:2001/05/02(水) 10:50 ID:IERU5gRA
「正直、私ね…」
耳をくすぐるような梨華の声が、少しかすれた。
「初めて会った時から、矢口さんが恐かったな…」
「初めてって…『I WISH』で会った時?」
「うん」
そう言えば今になって考えると、梨華は矢口に懐く気配を見せなかった。
あまり人見知りはしない梨華がかなり身を引いていたように思える。
「あのねよっすぃー」
梨華はこちらを向いて、それから手を握ってきた。
いつになくまじめな顔をしている。
「私のお願いなんだけど…
私、あんまりよっすぃーに、矢口さんと話して欲しくないな」
「えっ??」
握った手に少しだけ力が入る。
「なんて言えばいいのか分からないけど
矢口さん、すごく冷たい目をしてる時があって…」
全てを言い終わる前に梨華は言葉を重ねてきた。
「あ!よっすぃーは気付かなくて当たり前だと思う…
なんかね、矢口さん私とよっすぃーで、全然違うの」
「全然違う…?」
「そう。よっすぃーはたぶん矢口さんに好かれてるから
だから大丈夫だと思う。だけど…」
そこまで言って梨華は吉澤の手を取ったままうつむいた。
「梨華ちゃん…
で、でもさ、矢口さんだってさ!」
少し大きな声で吉澤が言いかけた。
そこへ突然、後ろから聞こえた声が吉澤の言葉を遮った。
「あれ?2人とも何の話してるの?」
その声に梨華の肩は1回だけ、びくんと震えた。

267 :チャーミー剣士(休憩):2001/05/02(水) 10:57 ID:IERU5gRA
GW中に更新することは無理だと思ってましたが
何とかここに来ることができました
ただ、WIN3.1っていう環境はさすがに使いづらいです・・・

できればGW中にもう一度更新したいですが、こればかりは
分からないです
後、いつも感想を書いてくださってるみなさん、本当にありがとうございます
やっぱり励ましがあるとやる気がでます

それでは、今後も楽しんで下さい・・・

268 :名無し娘。:2001/05/02(水) 20:50 ID:lhRo4a9Q
おう、好きな時に書いてくれ。どっか行ってしまわない程度に。

269 :名無し娘。:2001/05/04(金) 00:30 ID:lBCjSUd.
sage

270 :名無し娘。:2001/05/04(金) 04:21 ID:zpHKujoY
や〜、面白いなぁ。いしよしスレというわりに、いしよし臭くないところがまたいい。
つか、いしごま色が強い印象があるのは、自分がいしごまフリークだからなのだろうか…まぁいいや。

更新お待ちしております。

271 :名無し娘。:2001/05/04(金) 23:43 ID:yhtdH4bQ
保全sage。
かなり下の方に来てるけど、一度上げた方がいいのかな?
でも荒らされるのも困るしね。

272 :保全っ子クラブ:2001/05/05(土) 13:39 ID:aQ4UUDFY
ヒッソリサゲ・・・

273 :名無し娘。:2001/05/06(日) 16:39 ID:boCrO/ZE
hozen!

274 :名無し娘。:2001/05/07(月) 00:07 ID:M3GZKQqM
保全

275 :名無し娘。:2001/05/08(火) 15:21 ID:BP7p2t5k
保全期待sage!

276 :名無し娘。:2001/05/08(火) 20:46 ID:c.klumfE
石川と後藤の複雑な関係が!と思ってた矢先に
実は矢口と後藤の方が複雑だったりして・・・
うーん、裏切ってくれますねー
期待しております!!

277 :名無し娘。:2001/05/09(水) 08:51 ID:ORU2cK8o
hozen

278 :ポルノ:2001/05/09(水) 19:44 ID:KeOtiqXI
忙しいのかな?がんばってくだせー

279 :名無し娘。:2001/05/10(木) 07:57 ID:2OGfDWpc
矢口は腹黒いキャラに書かれることが多いね。
なんとなく、頭の回転が速そうだからかな?

280 :名無し娘。:2001/05/11(金) 00:20 ID:xRvFMOXQ
hozen

281 ::2001/05/11(金) 01:45 ID:sYSlwGmk
>>1
>>1
>>1
>>1
>>1
>>1
>>1

壺飛び職人

282 ::2001/05/11(金) 01:50 ID:Wvm4xBxU
>>1
>>1
>>1
>>1
>>1
>>1
>>1

壺飛び職人

283 :名無し娘。:2001/05/12(土) 00:43 ID:ddAUCT7E
荒らしには負けん!
チャミ剣さんがむばって!
でもこんなに間があいたのって初めてじゃない?

284 :名無し娘。:2001/05/13(日) 10:52 ID:2UMSjv4E
age

285 :チャーミー剣士:2001/05/13(日) 23:20 ID:c4wJSozM
何日ぶりになるのでしょうか・・・
ほんとに申し訳ないです
続きを書きますです

286 :チャーミー剣士:2001/05/13(日) 23:21 ID:c4wJSozM
「あ・・・矢口さん」
後ろを振り返って吉澤が言った。
梨華の方は、後ろにいるのが矢口だと分かったのか、じっと前を見つめていた。
「なーに?2人して私の噂?」
そう言うと、矢口はベンチをまわって2人の前に来る。
そして、小さな体をさらにまるめて吉澤の前でしゃがみこんだ。
「えっと、あの、矢口さんちっちゃいなー、って」
吉澤自身もかなり驚いているのだが、なんとかそれを矢口に悟られないように必死に
なって弁解した。
もっとも、矢口がどこから聞いていたかは分からないのだが。
「えー!?2人して私のこと言ってるみたいだから何かと思えば・・・
ほんとひっどいなー」
それでも矢口は普段と変わった様子はなく、ごく普通の反応をしている。
(矢口さんが・・・ねぇ)
梨華の言っていることを疑いたくはないのだが、どう考えても吉澤には矢口が悪い
人間に見えなかった。
一応注意して矢口を眺めているのだが、梨華の言うようなそぶりはない。
矢口がちらりと梨華を見る瞬間も、普通に笑っているだけだった。
梨華はというと、笑ってはいるもののかなり警戒しているようで、さきほどから握った
ままの吉澤の手を放そうとはしなかった。
(梨華ちゃんの作り笑いはすぐ分かるんだけどね)
長い間付き合っていると分かるのだが、梨華の作り笑いには特徴があった。
どこがどう変わるといった明確な特徴ではないが、顔全体の雰囲気が少し緊張する。
だからと言って、その特徴を見破れないから梨華の作り笑いが判断できないかといえば
そうではないのだが。
(梨華ちゃんの態度がね・・・)
表現のしようがない。真面目な顔をして笑っているとでも言うのか、必死になっている
梨華を見て思わず吹き出してしまう。
「あはっ!」

287 :チャーミー剣士:2001/05/13(日) 23:21 ID:c4wJSozM
吉澤にとっては――
普段の生活の何気ないひとコマ。梨華の言うようなことだって、別段気にするようなこと
だとは思わない。「私はあの人なんか好きじゃない」こんなこと、学生生活を送っていれ
ばそれこそ日常茶飯事の出来事だ。
今、こうして真面目にそのことを語っている梨華を見ても、そう簡単に信じられるわけが
なかった。
『町でたまたま見たあの人とあの人が言い争っていた』
それがどうしたと言うのだろう?
誰だって、常に笑っていることなんてあり得ない。
――だから、笑うのも当然の、吉澤にとってはごく当然の反応だった。

突然笑う吉澤に、梨華は不思議そうな顔を向けた。
矢口は特に驚くわけでもなく、ただ笑って座り込んでいる。
「あはっ、ごめんなさい
笑うつもりはなかったんだけど、おっかしくて」
まだ笑いながら話す吉澤に、矢口が言う。
「ふーん、なんだか分からないけどそうなんだ」
「よっすぃー・・・」
たった今矢口には関わりたくないと言ったばかりなのに、笑いながら矢口と話している
吉澤を見ると不安はさらに大きくなった。
「あ、でも矢口さんなんでここにいるんですか?」
そんな梨華の気持ちを知ってか知らずか、吉澤は矢口と軽く言葉を交わす。
矢口もそれに答えて2人で笑っている。
(なんで?よっすぃー・・・)
あの時の、冷たい矢口を知っているからこそ、普段の明るい矢口が恐かった。
あまりにも激しいギャップで、まるで矢口が2人いるような感覚がある。
「私はね、お昼食べ終わって暇だったから散歩してたの」
「うそ・・・」
矢口の言葉に思わず反応する。
否定の言葉が口から出ていた。
「えっ?」
驚いてはいないようだが、吉澤がこちらを見た。矢口もそれにならう。
「どうしたの梨華ちゃん?」
吉澤が言った。
その言葉で、梨華は初めて自分が何を言ったのかを理解する。
「あ!ううん、何でもないよ!」

288 :チャーミー剣士:2001/05/13(日) 23:22 ID:c4wJSozM
梨華にとっては――
矢口という先輩、2つ上のこの先輩がどうしようもなく怖かった。
「私あの人なんか苦手・・・」こんなこと、誰もがどこかで毎日のように言っている
言葉なのは分かっている。
ただ、今回だけは何かが違うような気がした。
『普段笑ってるあの人気者の先輩が、冷たい目をしているの』
それで?
自分だってだからどうした、と思う。
だけど、これを予感とでも言うのか、今までに感じたことの無い不安が広がっていた。
――だから、自分でもわからないのに、吉澤に説明なんてできなかった。

「にしても仲良いんだねー」
矢口が、2人の間を見ながら言った。
吉澤はそう言われて、さっきからずっと手を握ったままだったことを思い出す。
「あ・・・」
吉澤は少し照れながら梨華の方に顔を向けた。
自分から手を離してもいいのだが、梨華がいつになく強い力で握っているために、
それもできない。
「え?」
そんな吉澤に気付いてか、梨華も手元を見る。
それから黙って2人に注目している矢口を見ると、あわてて手を離した。
「あ、よっすぃーごめんねっ」
梨華の顔が少し赤くなったような気がする。
「私さ、前から思ってたんだけど2人ってなんか変なオーラ出てるよー」
矢口はイタズラを計画している子供のような笑みを浮かべる。
「や、矢口さん何言ってるんですか!
変なオーラってわけ分からないし」
「いやー、怪しいなー
まあ、あれだね!こういうのって珍しくないみたいだし」
「いや、だから何が怪しくて珍しいんですかっ」

289 :チャーミー剣士:2001/05/13(日) 23:22 ID:c4wJSozM
自分の周りで楽しそうに話す矢口と吉澤。
その中に自分もいるとは考えられない。浮いてる気がする。
(何やってるんだろ、私・・・)
屋上には梨華たちの他にも数名の生徒の姿があった。
これだけ心地の良い場所だから、もう少し人がいても良さそうなのだが、
思ったよりは少ない。
何年も同じような学生生活を送っていると、自然と普段の生活も同じサイクル
で回ってしまうものである。それが原因なのかは分からないが、昼休みに屋上
に行くことがなければ、その人が3年間の間に昼休みを屋上で過ごすことはほ
とんど無いと言える。
そのせいか、屋上にはいつも同じ顔ぶれが揃っているようだ。
それだけに矢口の姿は目立っていた。

隣の吉澤をもう一度、こっそりと見てみる。
誰にでも見せるいつもの笑顔で、矢口と笑いあっていた。
吉澤が人から好かれる理由の1つに、人を選ぶことを知らない。ということが
あると思う。
こればっかりは自分もそうしよう、と思って直せる性格ではないことも分かる
が、やはり羨ましいところもあった。
(はぁ・・・)
心の中でため息をついて、何気なく腕に巻いてある時計を見る。
「あ、お昼休み終わっちゃう」
正直、早く終わって欲しいと思っていた梨華にとってはやっときたか、という
思いだ。
「え?・・・あ、ほんとだ」
話に夢中だったのか、吉澤も言われて初めて気付いたようだ。
1時まで後5分といったところだった。
「ね、遅れちゃうよ、よっすぃー行こ!」
そう言うと、梨華は半ば引っ張るようにして吉澤を連れて行こうとした。
「あ、ちょっ、梨華ちゃん分かったってば!」
ベンチから落ちそうになりながらも、なんとかバランスをとって立ち上がる。
「あ、それじゃあ矢口さん、失礼しまーす」
何とかそれだけ言って、吉澤は梨華に連れ去られた。
梨華はこちらを振り向こうともしない。
「あー、やっぱり見られちゃったのかなー」
屋上に1人、取り残された矢口は小さな声で呟いた。
「まあイシカワだったら見られてもいいんだけど・・・
どうしようかな」
少し考え込むそぶりをして、実際には考えるまでもないことなのだが、矢口も
自分の教室へと帰っていった。

290 :チャーミー剣士(休憩):2001/05/13(日) 23:27 ID:c4wJSozM
すいません、約10日ぶりの更新となってしまいました。
ストーリーとしてはもう結末まで決まっているのですが、そこにどう
持っていくかで悩んでます。
とはいえ、次回の更新は早めに行いたいです・・・
待っていてくれると嬉しいです

>>270さん
痛いところを突かれてしまいました・・・
これについては、なんとも・・・です。

291 :名無し娘。:2001/05/14(月) 10:25 ID:nmdtBWe2
更新お疲れ様です。

292 :名無し娘。:2001/05/14(月) 15:02 ID:td9LafHE
ひさびさ更新よかったです。気長に待っております。

293 :名無し娘。:2001/05/14(月) 15:35 ID:FU9.2Z42
 ■■■■■■■■■
■■■■√ === │
■■■√ 彡    ミ │
■■√   ━    ━ \
■■  ∵   (●  ●)∴│
■■    丿■■■(  │  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
■■     ■ 3 ■  │ < ageするぞageするぞ
■■■   ■■ ■■ ■  │ おおいにageするぞ
■■■■■■■■■■■   \__________
■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■
 ■ ■■■■■■■

294 :名無し娘。:2001/05/14(月) 20:45 ID:Q3gL/rRw
いしごまでいいと思ふ。
そんな人もいるです・・・

295 :名無し娘。:2001/05/14(月) 22:29 ID:09F7Pf0w
やった!チャミ剣さんお帰りなさい!

296 :チャーミー剣士:2001/05/15(火) 22:50 ID:mqa3Ii0w
続きいきます

297 :チャーミー剣士:2001/05/15(火) 22:50 ID:mqa3Ii0w
―――ピッ
携帯の待ち受け表示を見ると、日付は7月16日だった。
あれからいろいろと考えてきたが、この結論に到達したのは自分でも納得している。
仕方ない。
そんな気持ちだった。
仕方ない。
自分はいつもこうやって生きてきた。
これから目の前に立っている少女にかける言葉は、これまでにも数回、誰かしらに
言った言葉。
自分がこの言葉を口にするたびに、私は自分の価値を下げていった。
今度もそうだろう。
いや、今回はさらに酷い。
でも、仕方ない。
後悔するのはもっと後で良い。
今は後悔するために動くことが最優先だ。
そう、仕方ない。
仮面をかぶって、機械のように話せ。
さあ、行くぞ。

298 :チャーミー剣士:2001/05/15(火) 22:51 ID:mqa3Ii0w
「よっ、後藤」
「!?」
「なぁに驚いてんのよ、せっかくお友達のいない真希ちゃんと
遊んであげようとたずねてきてあげたのに!」
「…何の用なの?」
「だぁから!遊びに来たって言ってるじゃん!!」
「先輩、あんたも暇じゃないんでしょ
とっとと用事すませて帰って」
「…あら、言ってくれるわねー
ほんとに遊ぼうと思ってきたのに」
「…」
「なに黙ってんのよ
そんなだからお友達の1人もできないのよ?」
「うるさいよ」
「…はぁ…
ま、別にいいけどさ。私には関係ないことだし…」
「先輩いったい何しに来たの?マジで」
「ちょっとぉ、そんなに怒らないでよ
後藤ってばただでさえ恐いんだから」
「…どっちが」
「あら!私は明るくて楽しいみんなのまりっぺだもん
恐いだなんてひっどいなー
あ!そうそう、この服どう?似合ってる?
この前つい衝動買いしちゃってさー、もう結構高かったんだから」

299 :チャーミー剣士:2001/05/15(火) 22:51 ID:mqa3Ii0w
「…」
「それでさ、そこの店の人ってば『お客さん可愛いから何着てもお似合いですよ』
とか言うわけ!ねー、これって嫌だよね!
なんか誉められてるのにバカにされてるみたいな気がしてさー
…?
後藤ってば聞いてんの?もう…」
「そんなこと言いに来たの?」
「そんなことって、大事なコトじゃん!
後藤なんかには分かんないかなー、この乙女心
あ、でもこの服はすっごい可愛いでしょ?
店の人はあんまりすすめてくれなかったんだけど、まああの人じゃあ私の感性にぴっ
とくるものがなかったんだろうね、全然ダメだったわ」
「…」
「あー!それからさ!!」
「先輩」
「私もそろそろ…ん?何?どしたの?」
「用があるなら早く終わらせて欲しいんだけど」
「…」
「…」
「…はぁ」
「何よ」
「まあ、私もさ、最後くらいは後藤と友達になろうと思ったけど…
やぁーっぱダメだね」
「は?」
「なんかさ、いつも通り話してればいいかなーとか思ったけど
どうも上手くいかないんだよね」
「何言ってんの?気でも狂った?」
「そう、そうなのよ
私どうやら気が狂っちゃったみたい」
「ははっ、あんたでもたまには面白いこと言うんだ」
「あれ?冗談に聞こえちゃった?
違うよ、ほんとに気が狂ってるのよ、アタシ」
「…」
「なによその顔はー
少しは心配しなさいよね」
「…」
「ねぇ…後藤」
「は?」

300 :チャーミー剣士:2001/05/15(火) 22:53 ID:mqa3Ii0w
「この前言ったよね?覚えてる?」
「この前?」
「覚えてないの?ほんとバカだねー
仕方ないな、もう1回だけ言うからちゃんと聞いてよ」
「なんの話よ」
「あーもう、いいから聞きなって!
私が、この前後藤と話した時に言ったよね
…『待ってな』って」
「ああ」
「あれ?そんだけ?
もう少しびっくりしてよ」
「どうせ本気じゃないんだろ?」
「私も最初はそのつもりだったんだけどね…
ちょっと考えが変わっちゃった
ごめんね、後藤」
「!?ちょっ!!
マジで言ってんの?」
「だぁから言ったじゃん
気が狂っちゃったのよ、私」
「うそっ!?」
「最後くらいは仲良しさんで終わりたかったのにね、後藤…
それじゃ、もう会うこともないだろうけど
これからもがんばって生きていってちょうだいね、バイバイ」
「待て!
何言ってんの!?うそでしょ?
ちょっと!待ちなって!」
「だーめ!
私がこの携帯の通話ボタンを押したら、後藤はもう終わりなの!」
「うそっ…!
てめえ!!矢口!覚えてなさいよ!!
絶対に復讐してやるからね…っ!!!」
「…できたらね」

「できないと思うけど…」

301 :チャーミー剣士:2001/05/15(火) 22:53 ID:mqa3Ii0w
「んなぁー…ぁぁっ!」
なんとも形容できない声を上げて、梨華は気持ち良く背伸びをした。
時計は軽く10時を回っている。にもかかわず、まだパジャマ姿で部屋の中をくつろいで
いられることは最高に気持ちよかった。
今日は7月20日。まだぱっと思い出せないが、海の日だ。
とはいえ世間の学生は夏休みに入っているし、梨華もその例外ではなく学生にだけ許され
た休息時間を贅沢に使っていた。
「今日もあっつそぉ!!」
まだ朝だと言うのに、太陽はまるで自分の存在を誇示するかのように、地面に熱を注いで
いる。
見ただけでも熱そうなアスファルトからはすでに陽炎が昇っていた。
窓を閉めてもしつこく聞こえてくるセミの声に少し脱力感を覚えるが、気を取り直して
部屋を出て階段を下っていった。
「おはよー」
リビングのドアを開けると、母がソファーに寝そべって主婦向けのニュース番組を見て
いた。テーブルの上には美味しそうないちごがガラスの容器に並んでいる。
「ん、おはよー」
梨華の声に反応して、母はだるそうにソファーから起き上がり、こちらを見て笑う。
手にはいちごが2つ握られていた。
「今日も外は暑そうだねー」
「ほんと暑かったよ
梨華も洗濯物干してみたら分かると思うけどぉ」
そう言って何かを訴える母の目を巧みにそらして、梨華はテーブルのいちごを1つ取る。
「あっ、梨華ちゃん冷たいなー
もう少し早起きして手伝ってくれるだけで、お母さんは幸せなのに…」
いかにも芝居じみた口調で目を伏せる母に、梨華は毎度のことながらと思いながら口を
挟んだ。
「でもよっすぃーはまだ寝てるよ、たぶん」
いちごを食べながら言う。
「あら、そうなんだ」
長い休みのたびに何回も話したことなのだが、母はいつも忘れていた。
たまに客としてやってくる『良い子』な吉澤の印象が強いのだろう。

302 :チャーミー剣士:2001/05/15(火) 22:54 ID:mqa3Ii0w
「よっすぃーって全然そんなことないのに
しっかりしてるって思われやすいんだよね、得だなー」
吉澤に聞かれると怒られそうだが、まあ今はいないから大丈夫だろう。
「日ごろの行いが良いんじゃないの?
梨華の場合はそうはいかないもんね」
「うわっ!実の娘に向かってそんなこと言う?」
「実の娘だから言えるんだってば」
「うー…」
その通りと言えば、その通りだ。
何かひっかかる言い方だけど、明日は少しだけ早起きしてお洗濯でもやってみようかな。
そんなことを考えながら、もう1ついちごを取った。
「そのいちごおいしいでしょ」
「うん!これすごくおいしいよ!」
本当にそう思った。
起きて喉が渇いていたからかもしれないが、久しぶりにこれはおいしい!と言えるいちご
だと思う。
「でも、いちごだけじゃあれでしょ
何か食べる?
この時間だとお昼御飯になっちゃうと思うけど」
「うーん、どうしよっかな…
別にお腹は空いてないからいいかな?」
「あらそう、それならいいけど」
そう言うと、母は再びソファーにごろんと寝転んだ。
梨華もそれにならって隣のソファーの上で横になる。
「気持ち良いー!」

303 :チャーミー剣士(休憩):2001/05/15(火) 22:55 ID:mqa3Ii0w
更新です。
このくらいの頻度で更新したいです・・・
あ、ストーリーにはあまり触れないようにします

それでは、お楽しみください

304 :ななっすぃー:2001/05/16(水) 19:58 ID:pL6m.Lgg
後藤と矢口に期待sage

305 :名無し娘。:2001/05/17(木) 09:05 ID:m2cbF8iE
矢口・・。

306 :チャーミー剣士:2001/05/17(木) 22:46 ID:bXxmS16Y
続きです

307 :チャーミー剣士:2001/05/17(木) 22:46 ID:bXxmS16Y
昼寝だとか、疲れた時に少し休むといった時は、ベッドに横になるよりもこんな風に
ソファーに寝そべる方がずっと気持ちが良い。
母は、この休息のために朝がんばって働いてるのよ、と言っていた。
確かに、多くの主婦がそうしているように、お昼時のテレビはサラリーマンがたばこ
を吹かして一息つくようなものかもしれない。
とにかく、梨華もせっかくだからしばらくはこの恩恵を受けることにした。
「そういえばさ」
テレビを見ながら今にも眠りそうだった母が話しかけてきた。
「なぁに?」
「梨華、夏休みは部活ないの?」
「あるんだけど、今はないの」
テーブルに手を伸ばしていちごを掴もうとするが、取れない。
仕方なく少し体を起こしてガラス皿を見ると、いちごはすでに無くなっていた。
「あー!お母さんいちご全部食べたの!?」
まだ少し横になっていた体を全部起こして梨華は文句を言った。
せっかく眠りながらいちごを食べるという幸せを描いていたのに、これじゃあ台無し
になってしまう。
「あ、ごめんね
もう2つしかなかったし、食べちゃった」
母は軽く返してきた。
そして、そんなことは重要じゃないのよ、といった様子で後を続ける。
「それより、今はないってどういうこと?
そのうちあるの?」
いちごに未練を感じながらも、梨華は少し言葉に刺を含んで答える。
「夏休みに入る前に、3年生の最後の大会があったでしょ
それが終わってしばらくはお休みなの」
「あ、そうなんだ」
いつものことなのか、軽く頬を膨らませている梨華のことなど気にせずに母は言った。
梨華のほうも本当に怒っているわけでもないので、これ以上は文句は言わない。
「でも美味しかったね、ごちそうさま」
寝転んだままの母にそう告げて、梨華は微笑む。
すると母も「また買ってくるよ」と言って、ここからは見えないけれども、笑っていた。
梨華と母はいつもこんな調子だった。

308 :チャーミー剣士:2001/05/17(木) 22:47 ID:bXxmS16Y
しばらく母と他愛の無い雑談を交わしていたが、何かに気付いたのか母は寝転んだまま
テレビのリモコンを探し出した。
「どうしたの?」
梨華はテーブルの上にあったリモコンをはい、と渡す。
すると、母はテレビの音量を最低まで下げる。
「あれ?どうしちゃったの?」
「しーっ・・・」
不思議そうにたずねる梨華を手で制して、母は耳をすませていた。
「ね?梨華、聞こえない?」
「聞こえるって・・・なにが・・・?
・・・あっ!!」
よく耳を澄ましてみると、2階から何やら小さな音楽が聞こえてきた。
「私の携帯!」
梨華はそれだけ言うと、大急ぎで階段を上っていった。
階下からは「早くしないと切れちゃうよー」という面白がっている母の声が聞こえた。

「はい!!」
なんとか間に合ったようだ。大急ぎで通話ボタンを押して、携帯に向かって大声で
答える。
相手も電話の向こうで驚いたかもしれないが、バタバタと走ってきたところで冷静に
受け取れと言われても無理がある。今回は我慢してもらおう。
急いでいたので着信画面を見ることができなかったが、たぶんよっすぃーかな?
そう思っていたのだが、電話から聞こえてきたのは全然知らない声だった。
『もしもし?』
「あ、はい・・・えっと、どちら様でしょうか?」
携帯電話に知らない人からかかってくるなんて、思っても見なかったために梨華は
かなり戸惑った。
『あ、良かった。繋がった・・・』
どこかで聞いたかもしれないと思い出そうとしても、やはり分からなかった。
分からなかったが、次の声で梨華も相手が誰だか気付いた。
『あの、こちら「ふるさと総合病院」と申しますが、ええと、誠に失礼ですけれども
どなた様でしょうか?』

309 :チャーミー剣士:2001/05/17(木) 22:47 ID:bXxmS16Y
おかしな話だなと思いながらも、梨華は言われるままに名前を告げた。
「あ、あの、石川といいます」
普通に考えて電話をかけてきた方が、かけた相手の名前も知らないことなんてあるの
だろうか?
名乗った後で、言わないほうが良かったかな、と思い始めた。
だが、それは向こうもそう思っていたらしく、梨華が素直に名前を言ったことに対し
て安心したようだった。
『すいません。いろいろとご質問があるとは思いますが、こちらの話を聞いて
いただけますか?』
話口調から言って、危険な電話だとは思えなかったし、確かに病院というだけあって
電話の向こうからはざわざわとしている。
そんなことを考えながら、梨華は話だけならいいかなと思って聞いてみることにした。
「はい」
『ああ、よかった。
ええと、実はですね、先ほどうちの病院に急患の患者さんが運ばれたんです』
「はあ」
それと自分の関係がよく分からない。
曖昧な返事をする梨華に、向こうは立て続けに話した。
『その患者さんが、ええと、意識も無い状態なんですが、身元不明でご家族の方にも
連絡が取れない状態でして、ええと、とにかく個人の情報というものがまったく
分からないんです』
『こちらとしても患者さんの様態を考えると、ご家族の方に連絡を差し上げたい
ところなんですが・・・名前も分からないのでどうしようもないんです』
「はい、はい」
あまり良い話ではないみたいだが、梨華はこの話を真面目に聞いていた。
おそらく看護婦なのだろう、この声に律義に相づちを打っている。
『それでこの患者さんの、ええと、上着のポケットの中にこの、石川様の
電話番号が書いてある紙を見つけまして、こうしてお電話しました』
「あ、そうなんですか」
これでやっと梨華に電話がかかってきた理由は分かった。
だが、相変わらずその患者が誰で、どうして梨華の電話番号を知っていたのかは分から
ない。
一瞬、吉澤や希美の顔が浮かんでくるが、家族に連絡がつかないわけはないと思って、
不安ではあったがそうではないと結論づけた。
『あの、お心当たりは・・・』
向こう側もそのことを聞いてくるが、梨華には思い当たる人物はいない。
「うーん、いない・・・です」

310 :チャーミー剣士:2001/05/17(木) 22:47 ID:bXxmS16Y
『そうですか・・・』
あからさまにがっかりした声で看護婦は言った。
そのあまりの落胆ぶりと、自分の番号を知っていた人が気になった梨華は、その患者の
ことを聞いてみることにした。
「あ、あの、その方はどんな方なんでしょうか?
その、年齢とか、髪型とか!」
向こうもそれは説明するつもりだったのだろう、梨華がまだ話を聞きたがっていること
を確認すると、1つ1つ丁寧に話し始めた。
『ええとですね、たぶん年齢は20歳にはいってないと思います
あの、失礼ですが石川様の年齢は・・・』
「16歳です」
『あ!そうなんですか!
たぶんこの方もそのくらいだと思います!
ええと、それで、そうですね。髪を茶色に染めてまして、服装は・・・』
「!!」
そこまで聞いて、梨華の脳裏に1つの記憶が蘇った。
電気が走るようにすべてを思い出す。
「後藤さん!!!」
『え?お知り合いの方ですか?
あの、後藤さんと言う方なんでしょうか?』
電話の向こうで何か言っているようだが、梨華にはほとんど聞こえてなかった。
「あの!今から行きます!」
それだけ言って電話を切る。
それから急いで着替えて階段を降りた。
バタバタと音を立てて降りてきた梨華に、母が「お出かけ?」と声をかけると
「うん、ふるさと総合病院に行ってくる!!」
と言って梨華はそのまま玄関へ走っていった。

311 :チャーミー剣士(休憩):2001/05/17(木) 22:52 ID:bXxmS16Y
更新です
この調子で書ければいいと思ってます

そろそろ人間関係がわかってきます
一番気になるのは、矢口なんでしょうか?やっぱり

312 :名無し娘。:2001/05/17(木) 23:18 ID:6Yh4J8YA
な・・・とうとう後藤はあの子にやられた・・・!?

313 :名無し娘。:2001/05/18(金) 12:46 ID:K9lHr6s2
後藤が、・・!?
うわ〜っ、続き気になりますね・・。

続き期待しています。

314 :名無し娘。:2001/05/18(金) 14:02 ID:DvxLWTwI
>>270 余計なところに触れちゃってたんならスマソ…単なる願望ですんで、お気になさりませぬよう。

いやしかし、先の展開が気になりますねぇ…まったく読めない。

315 :名無し娘。:2001/05/18(金) 14:35 ID:DW9DjaAA
どうなるんだ!期待。

316 :ポルノ:2001/05/18(金) 15:06 ID:gj82fufc
ご、後藤・・意識不明か・・
矢口・・・
続き期待。

317 :名無し娘。:2001/05/18(金) 19:06 ID:f58aQENo
期待。脇汗が出る程

318 :名無し娘。:2001/05/19(土) 01:36 ID:NwWxQJik
チャーミー、いちごだけで大丈夫か?

319 :名無し娘。:2001/05/19(土) 15:42 ID:hFu47AgQ
sagarisugi

320 :名無し娘。:2001/05/19(土) 21:37 ID:MjrCRZyw
sage

321 :チャーミー剣士:2001/05/20(日) 23:41 ID:xP3qhuM6
続きです

322 :チャーミー剣士:2001/05/20(日) 23:42 ID:xP3qhuM6
外に出て、やっと病院がどこにあるのか、ということを考え始めた。
幸いにもと言っていいのか、梨華はこれまで大きな病気や怪我をしたことは無い。
病院なんて年に3回も行くことはあっただろうか?記憶に残ってないところをみると
それも怪しい。
そういうことで、パッと病院の位置を考えてもそう簡単に浮かんでくるはずもない。
いったん、その場で立ち止まって考える。
「・・・」
しばらく考えても思い浮かばない。
仕方なく家に引き返して、母に聞いてみることにした。
少しの時間でも大事にしたいところだったので、一言「ふるさと総合病院ってどこ?」
と聞いてみる。
「電車で3つか4つくらいのところだったわよ、確か」
それだけ聞くと、梨華は再び勢いよく外へ飛び出した。

今日はあの急な上り坂も問題にならない。
一気に上りきると、息をきらしながら切符売場へ向かった。
覚えが無いところを考えると、たぶん学校とは逆方向にあるのだろう。
頭上にある看板で駅を確認する。
「えっと、280円ね・・・」
切符を買うとそのまま急いでホームに上がる。
すると、ちょうど電車が到着したようで、梨華はその電車に駆け込んだ。
外の熱気に比べると、クーラーの風がとても気持ち良い。
ホームに発車を知らせるベルが鳴ると、扉が閉まって電車はゆっくりと走り出した。

「後藤さんが・・・」
病院にいる人物が後藤である保証はない。
だが、後藤のはずだった。
頭の中で、これまで後藤と交わしてきた言葉を思い出す。
すると、自分で思っている以上にその回数が少ないことに気付いた。
「命の恩人・・・」
命の恩人だから、自分は今病院へ向かっているのか?
何も分からなかった。
ただ、後藤のことが気になってどうしようもなかった。
とにかく、病院へ行ってみよう。
そこに後藤真希がいるから。

323 :チャーミー剣士:2001/05/20(日) 23:42 ID:xP3qhuM6
――そこにいたのは、確かに後藤真希だった――

梨華は病院へ到着してすぐに、受付に座っていた看護婦に尋ねた。
「あの、先ほど電話を頂いて・・・
私、石川といいます!ええと、あの、私の携帯にそちらの方から・・・」
何と言っていいのか迷いながらも必死に説明する。
「え?
あの、予約をされた方ですか?」
やはり分かってはもらえず、看護婦も怪訝な表情を見せたが、受付に座っていた人と
別の看護婦が梨華に気付いてこちらへ話し掛けてきた。
「あの、石川さん?」
そこにはカルテらしきものを持った、笑った顔が特徴的な看護婦が立っていた。
「あ、はい!
あの、電話を頂いて、それで、私ここに来るって言って」
「ええ、分かってるわ
電話をしたのも私だから」

その看護婦の名前は「保田 圭」という人だった。
清潔な白衣を着て、姿勢良く歩いている姿を見ると「ああ」と誰もが納得するような、
典型的な看護婦とでも言うのだろうか。
昼間の病院はかなり騒がしいものだったが、それでも保田が歩くときの靴の音は梨華
の耳に響いている。
看護婦としてはまだ若いのだろう。廊下をすれ違う医者や他の看護婦に、いちいち深
くおじぎをしていた。
梨華が後藤のことを聞こうと話し掛けると、保田は人懐っこい笑顔を見せて
「まあまあ、そんなに焦らなくても今から行くんだから」
と言って何も語ろうとはしなかった。
つかみ所がないのだが、なぜか安心するような、そんな感じの人だった。

324 :チャーミー剣士:2001/05/20(日) 23:43 ID:xP3qhuM6
ピッ・・・ピッ・・・
よくドラマで見るような、何という名前なのかは分からない機械。
ドラマだと最悪なシーンに使われることが多いために、どうしても良い印象は持てな
いのだが、静かに眠る後藤の隣にはその機械が置いてあった。
小さなモニターには後藤の心音に合わせて、小さな波が流れていた。
思わず目をそむけたくなったのだが、肩口には大きく包帯が巻かれて固定されていた。
「後藤さん・・・」

「あ、やっぱりその娘のお友達だったんだ!良かった!
ほんとに身元が分からないから心配してたのよ」
後藤の腕から伸びた点滴の袋を取り替えながら、保田が言う。
反射的に針の刺さっている後藤の腕を見てしまい、梨華は苦い顔をして答えた。
「あの・・・でも私お友達とかそういう関係じゃあ・・・」
無表情に眠っている後藤を見ると、胸が苦しくなる。
「え?」
一瞬保田の手が止まったが、すぐにまた忙しく動き始めた。
「まあ、そんなことだとは思ってたけどね
運ばれてきた時からちょっと嫌な予感がしてたんだよ」
「嫌な予感?」
「事件的っていうの?
普通の事故じゃないんだよ、たぶん」
保田はとても快活に話す人だった。
梨華が何かをたずねるとすぐに返事が返ってくる。
表裏が無いような、そんな気がする。
梨華も相手が保田だから安心できるのだと思うが、一番気になっていたことを聞いて
みることにした。
「あの!後藤さんはどうして・・・」

325 :チャーミー剣士:2001/05/20(日) 23:43 ID:xP3qhuM6
保田は梨華を面会者用の椅子に座らせると、静かに語りだした。
「それがね、あ、この娘救急車で運ばれてきたんだけど
救急車が着いたときにはもう意識が無かったんだって・・・」
「あの?どうして・・・」
「肩に巻かれてる包帯、あれね」
「はい」
「誰かに切られたと思うんだけど、ナイフか何かの傷があったの」
「・・・え?」
「あ、これ」
突然思い出したように、保田は胸のポケットから小さな紙切れを取り出した。
「あ・・・私の・・・」
そこにはくしゃくしゃになった、梨華にも見覚えのある紙が握られていた。
「意識がなくてもさ・・・この娘、右手だけぎゅっと握り締めてて・・・
もう私がどんなに頑張っても手を開かなかったのよ。すんごい力だったな、あれは」
自分の手でその場面を再現しながら、保田は続けた。
「それで、2人がかりでやっと手を開いてみたら、この紙を持ってたんだ
よほど大事だったのかな、私がこれ取ってから、またすぐに手を握ったよ」
「・・・」
「この娘、両親とか今どうしてるのかな?」
「え?」
「たぶん・・・さ
あなたしかいなかったのよ」
「私・・・しか?」
「そ、頼れる人って意外に少ないもんだよ、実際はね・・・
無意識でもあなたの電話番号は離さないくらいだよ?すごいじゃん」
「私だけ・・・」
「うん、どんな関係か分からないけどさ
この娘が目を覚ましたら、ゆっくり話してあげな?」
保田はそう言って、また人懐っこい笑みを見せる。
「あの!後藤さん大丈夫なんですか?
ちゃんと気が付くんですか??」

326 :チャーミー剣士:2001/05/20(日) 23:46 ID:xP3qhuM6
コンコン・・・ガチャ
「あ、やっぱりここだったのね・・・
保田さん?今日はこれからミーティングでしょう?早く行きなさい」
突然病室に現れた、いかにも怖そうな看護婦は保田にそう告げると、すぐにドアを閉め
て帰っていった。
「あ!はい!分かりました!」
保田も立ち上がり、緊張した声で返事をすると急いで部屋を出て行こうとする。
そして、梨華に「ごめんね、すぐに戻ってくるからちょっとだけ待ってて?」
と言って出て行ってしまった。
「あ、はい・・・あの!」
ガチャ
「あ、そうそう」
梨華の声が聞こえたのかそうでないのか、保田は一度閉めたドアを再び開けて、そこか
ら顔だけを出して梨華に告げた。
「その娘のことだったら大丈夫
ちゃんと気が付くよ、安心して!」

保田が病室を後にすると、小さな部屋はとたんに静寂に包まれた。
後藤の隣に置かれたあの機械だけが、一定したスピードで波をうっている。
「後藤さん・・・」
梨華は保田に渡された紙切れを見た。
「頼れる人、私なんかで良いのかな・・・?」
点滴の針が刺さっていない、左手に手を伸ばそうとして、少し戸惑った。
人から触れられることを拒むようなオーラ。眠っていてもそれは変わらない。
「目を覚ましたら、また怒られちゃうかな」
そう思いながらも、梨華は思い切って後藤の手を握った。
「冷たい・・・」
驚くくらいに後藤の手は冷たかった。
「なんでだろう・・・悲しいよ・・・
後藤さん、いったいどうしちゃったの・・・?」
この手で、こんなにも頼りない小さな手で、梨華が渡した小さな紙切れを守っていた。
なんの価値もないただの電話番号なのに・・・

梨華の前で、文句も言わずにただ黙って眠っている。
そんなこと考えもしなかったのに、何故か梨華は1つ、小さな涙を流した。

327 :チャーミー剣士(休憩):2001/05/20(日) 23:49 ID:xP3qhuM6
更新です

今回、看護婦に保田を持ってきたのは予定外でした
書いてる途中に「保田でもいいかな」と思って、それでです・・・
でも意外にいい感じだったのでよかったです

それでは、今後もお楽しみください
梨華はいろいろと大変です・・・

328 :ななっすぃー:2001/05/21(月) 01:15 ID:Qb7z06pU
更新sage

329 :名無し娘。:2001/05/22(火) 04:31 ID:rPXmNfPA
一気に読んだけど面白いよ。
続き楽しみにしてます。

330 :チャーミー剣士:2001/05/22(火) 22:19 ID:/JH66SVY
続きいきます

331 :チャーミー剣士:2001/05/22(火) 22:20 ID:/JH66SVY
――「お母さん!お母さんってばぁ!」
幼稚園を出たくらいだろうか、小さな女の子が母と思われる女性の周りをせわしなく
動き回っていた。
「なーに、もうお母さん忙しいんだから
お姉ちゃんに遊んでもらいなさいな」
「でもお姉ちゃん今寝てるからだめだもん!」
「あら、また寝てるの?あの子ってば・・・
ほんと困ったもんだわね」
そう言うと、その女性はカゴに入った洗濯物を再び干し始める。
そんな女性をしばらく眺めていたが、仕方なく女の子はその庭を後にした。

332 :チャーミー剣士:2001/05/22(火) 22:20 ID:/JH66SVY
――「・・・お母さん?」
小学生に入ったばかりだろうか、小さな女の子が母と思われる女性の前に立っている。
「なに!?またあんた?
もういい加減にしなさいよ!
こっちだって大変なんだから少しは黙ってなさいよ!」
「え、でも・・・」
「うるさいわね!!」
パンッ!
「ひっ!」
女の子は自分が悪いことをしたとは思ってないし、実際怒られるようなことをしたわけ
でもなかった。
倒れ込む女の子を横目に、女性は正気とは思えない目で虚空を見つめていた。

333 :チャーミー剣士:2001/05/22(火) 22:20 ID:/JH66SVY
――「お母さん・・・」
やはり小学校の低学年、1年生をやっと終えたくらいの女の子が、大きな木製の箱と
その上に飾られた母の写真を見て呟いた。
「元気出すのよ」
隣にいた知らない女性が突然話しかけてきた。
ビクっと大きく震えると、女の子はぎこちなく笑顔を作った。
「へへ」
笑うことを強要されてきたために、どんな時でも笑わなければいけないと思っていた。
なのに、周りの人間は予想外の反応を示した。
「何この子?母親が亡くなったのに笑ってるわよ?」
「なんて不謹慎な!」
「酷い子ね・・・」
女の子は、笑うこともいけないことだと学んだ。

334 :チャーミー剣士:2001/05/22(火) 22:21 ID:/JH66SVY
――「何か用?」
小学校の低学年を過ぎたくらいだろうか、まだまだ幼い女の子は、自分の前に現れた
女性に向かって言った。
「かわいそうな子・・・
辛かったでしょう?さあ、もう泣かなくてもいいのよ?おいで」
目の前の女性は、女神様のような顔で笑ったと、女の子は後になって思った。
ただ、何を言われても女の子は信じなかった。ずっと無表情だった。
「うそ」
機械のように冷たい女の子の言葉に、女性はぽろぽろと涙を流して言った。
「嘘じゃない、ね?信じて・・・」
その女性は女の子をぎゅっと抱きしめた。
それは女の子が長い間忘れていた感触だった。
「ほら、これきれいでしょう?
――草っていうお花なの」
上手く聞き取れなかったが、確かにきれいだな、と思った。

335 :チャーミー剣士:2001/05/22(火) 22:21 ID:/JH66SVY
――「おねーえちゃんっ!」
そろそろランドセルもちょうどよい大きさになっただろうか、小学校の4年生くらいの
女の子が、こちらへ背を向けて料理をしている女性に元気に話し掛けた。
「ほぉら!危ないってば!もぅ
しょうがないなぁー!ほんとに甘えん坊なんだから」
そう言って、女性はエプロンで手を拭いて女の子の頭にぽんと手を置いた。
「えへへ・・・」
女の子は気持ち良さそうにその手に体を預けた。
「ねぇ?」
女の子のほっぺたを撫でながら、女性はたずねた。
「なぁに?」
「――は今、幸せ?」
「うん!とっても!」
女の子は元気に答えた。
「うん、良かった
私は絶対にどこにもいかないからね?安心してね」
「・・・うん!」
女の子は、女性のエプロンにしっかりとしがみついた。

336 :チャーミー剣士:2001/05/22(火) 22:22 ID:/JH66SVY
――「お姉ちゃんのうそつき!!!」
やはり小学校の真ん中あたりだろう、女の子が目の前で泣きながら座っている女性に
大声で叫んだ。
「ごめんね、ごめんね」
声にならない声で、女性は泣きながら何度も少女に謝っている。
「なんで!なんで急にこんなこと言うの!?
うそつきっ!うそつきっ!ひくっ・・・」
女の子も泣いていた。
「ごめんね――ちゃん、ほんとにごめんね・・・
許してなんて言わないよ、お姉ちゃんほんとに・・・酷いよね」
「お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん・・・!!
いかないで、お願いだから、行かないで!」
女性は懇願する女の子を、胸が締め付けられるような苦しい思いをしながら見つめていた。

337 :チャーミー剣士:2001/05/22(火) 22:22 ID:/JH66SVY
――「・・・」
まだ高学年とは言えないだろう、女の子の前には誰もいなかった。
1人ぽっち。
ネコみたいだな。そう思った。
「こんなことなら・・・」
最初からお姉ちゃんがいなかった方が良かった。
女の子は何回も同じことを思った。
こんなことなら・・・
女の子はここを離れたかった。でも、離れなかった。
「もう、いつまで待ってても」
来ないよ。
分かっているのに、離れられない。
コホン
女の子は小さな咳をして、冷たいアスファルトに寝そべった。
硬いベッドだな。何回も同じことを思った。
私は誰も信じないし、誰も私を信じないよ。これからもずっとね。

338 :チャーミー剣士:2001/05/22(火) 22:24 ID:/JH66SVY
「・・・」
ピッ・・・ピッ・・・
「・・・んん・・・?」
どうやら眠っていたようだ。
まだ眠っている頭で、梨華はゆっくりと起き上がった。

どこかで聞いたことがあるが、人間の心音のリズムというのは人間が一番安心できる
リズムだそうだ。
母に抱かれて眠る赤ちゃんしかり、確かにそうなのだろう。
快適な空調と、外部とは閉ざされた静かな空間。それに、後藤の心音に合わせて聞こえて
くる機械の音。有り余った時間。
これだけそろえば梨華でなくても眠ってしまうような気がする。
「・・・あ、後藤さん!」
まだ動きたくないと訴える脳を無理矢理起こして、梨華は後藤の顔を覗き込んだ。
「・・・」
後藤はまだ昏睡していた。
来た時と変わった様子もなく、ただひたすら眠っている。
後藤から目を離して時計を見ると、午後1時を回っていた。
どうやら小一時間ほど眠っていたらしい。
「あ、えっと・・・」
保田さん、だっけ?あの看護婦さんはどうしたのだろう。
直ぐに戻ってくると言ったきり帰ってこない。
もしかしたら自分が眠っていた間に来たのかもしれないとも思ったが、それなら梨華を
起こしてくれる気がする。
向こうだって後藤のことについていろいろと聞きたいはずだ。

ガチャ
「ごめーん!待った?」
ちょうど良いタイミングと言っていいのか、病室のドアが開いて保田が入ってきた。
「あ、いいえ
私今まで寝ちゃってたんです」
「あー、ここ眠るには持ってこいだもんね
そうなんだ。良かった良かった」
保田は梨華の隣にある付き添い人用のベッドに腰掛けると、梨華に向かって苦笑いを
浮かべた。
「あーあ、また怒られちゃったよ」
いつものことなのか、対して気にしてない様子の保田に、梨華も思わず笑みがこぼれ
てしまう。

339 :チャーミー剣士(休憩):2001/05/22(火) 22:25 ID:/JH66SVY
少し痒いところで止めてしまいましたが、
更新です。

次は、うまくいけば木曜日に更新します
遅くても金曜日までには・・・

今回は誰かの心の内でした

340 :ポルノ:2001/05/22(火) 22:30 ID:rBwOl51.
誰かの過去・・・なんか悲しいですね。。
次の更新待ってます

341 :名無し娘。:2001/05/23(水) 10:08 ID:HWioy0Mg
続き気になりますね・・。

更新、待ってます。

342 :椎名旋:2001/05/24(木) 12:33 ID:YrE48Vn2

誰かって後藤…?
あ〜、続き気になるぅ…
更新待ってます。

343 :チャーミー剣士:2001/05/24(木) 22:42 ID:uwiwNw6Q
続きです

344 :チャーミー剣士:2001/05/24(木) 22:43 ID:uwiwNw6Q
「よく眠ってるねぇ」
怪我をしているとは思えないくらいぐっすり眠っている後藤を見て、少し羨ましそうに
保田が言った。
「あの、後藤さんって、肩をその・・・切られたんですよね
それって相当酷いんでしょうか?」
やっとゆっくり話ができそうだ。
そう思って梨華はいろいろと聞いてみることにした。
「えっとね・・・
実はちょっと不思議なことがあってさ」
「え?」
「この子、肩の傷自体は大したことないんだよ
普通だったら、あー、精神的なショックは別にしても
もっと元気なはずなんだけど」
「それじゃあ・・・」
これは外傷で昏睡しているわけではないのだろうか?
「うん。そこら辺もいろいろ調べてみないとダメなんだけどね
それで、過去の病気とか家族の人に聞いておきたかったのよ」
「そうなんですか・・・」
「ねえ、石川さんこの子のご家族ってどこにいるか分からない?
あ、家の電話番号とかが分かれば最高なんだけど」

後藤に関する個人の情報なんて、何も知らなかった。
これまでに2,3回言葉を交わしただけで、まだほとんど他人といってもいいくらいだ。
「私・・・後藤さんのこと何も知らないんです」
下を向いて、小さな声で訴える。
「同じ学校だったことも知らなかったくらいだし・・・」
「うーん、そうなんだ」

345 :チャーミー剣士:2001/05/24(木) 22:43 ID:uwiwNw6Q
「あれ?でも学校が同じだったら、学校に聞いたら家族とか分かるよね、普通」
「あっ!」
そうだった!という顔をしてハッとする梨華を見て、保田はまたあの人懐っこい笑顔を
向ける。
「もう!簡単なコトじゃないの
石川さんってば気付くのおっそいよー」
そう言って、保田はてぎわ良くペンと紙を取り出すと、梨華に学校名を聞き出す。
「今生徒手帳とか持ってないかな?」
「あー、今日は持ってきてないです、すいません」
「ま、それもそっか
夏休みにまで誰が生徒手帳なんて持ち歩きますか!?って感じだもんねー」
少し大きな声で笑った後、改めて学校名だけを聞くと保田は立ち上がる。
「あ、ちなみにこの子のクラスとか分かる?
担任の先生とかが分かれば良いんだけど」
後藤のクラスについては吉澤から聞いた記憶があった。
確か3組だった。
「担任はちょっと覚えてないですけど、クラスは3組だったと思います」
「そう、ありがと!
じゃあ、私ちょっと電話してみるね
あ、石川さんどうする?まだここにいるかな?」
眠ってはいたものの、確かに梨華はここに来てからずっと何もしていない。
看病とはこういうものなのだろうが、後藤がひとまずは大丈夫だと分かった以上、少し
暇になったといえばその通りである。
「うーん、もう少しいようと思います・・・
けど、どうしようかな。少しお腹も空いちゃったし」
そういえば、いちごを口にしてから何も食べてなかったな。いったんそう思い出すと
何故かやたらとお腹が空いてきた。
そんな梨華の様子を見て、保田はさらに大きく笑顔を見せて言った。
「あ、じゃあここの食堂でお昼食べない?
病院だと思って甘く見たらびっくりするくらい美味しいんだよ、ここ」

346 :チャーミー剣士:2001/05/24(木) 22:43 ID:uwiwNw6Q
――
「あぢー・・・」
中年のサラリーマンのようなだらしない声を上げて、吉澤はソファーに倒れ込んだ。
今日は海の日だったか。地球の母である海に感謝をする日らしい。
本当にそうなのかは分からないが。
「あー・・・あっちー」
ぐったりとソファーに沈み込み、特に気になる話をやっているわけでもないテレビの
ニュースを見る。
吉澤の家は両親ともに働いているため、昼間は1人だった。
うるさい親がいないとどれだけだらしない格好でも許される。長い休みになるとそれが
嬉しかったが、こうも暑いとだらけようにもだらけられない。
「クーラー・・・」
ソファーに転がっていたリモコンを手にとってスイッチを入れる。
すると、すぐに外からインバーターの回る音が聞こえ始め、部屋の中に冷たい空気が
送られてきた。
「ふぃー!」
自分でも情けないと思うのだが、暑いものは暑い。
1人の時くらい我慢しないで過ごすのだって、立派な自己管理だ。
吉澤は自分にいつもそう言い聞かせて、結局昨日と同じことを繰り返していた。
このままソファーでぐったりとしていたかったのだが、せっかくクーラーを付けたとい
うことで、力を振り絞って立ち上がる。
「よいしょっ」
そのままよろよろと歩き回りながら、部屋を密室にするために廊下のドアを閉める。
そして、帰りにふと思い付いて冷蔵庫まで行ってアイスキャンディーを持ってきた。
「んー!」
先ほどと同じようにソファーに倒れ込むと、今度は涼しい顔をしてアイスを舐める。
吉澤流の夏の過ごし方だった。
プルルルル・・・プルルルル・・・
今日もこのままだらだら過ごそうと考えていると、電話の音が鳴り始めた。
「えー!?」
せっかく座ったのになぁ、と思いながらも吉澤は立ち上がって電話を取る。
すると、そこから聞こえてきたのは吉澤も知っている声だった。
『あ、矢口と申しますけれども、ひとみさんはご在宅でしょうか?』

347 :チャーミー剣士:2001/05/24(木) 22:43 ID:uwiwNw6Q
「ほんと、おいしい!」
内装からしても病院だとは思えない豪華さだったが、保田の言った通りに味も相当な
ものだった。
「でしょー?ちょっとしたレストランよ」
梨華の歓喜の声に保田も満足したのか、少し誇らしげに笑っている。
梨華の前にはいかにも夏らしい、氷のたくさん入った冷やし中華が置いてある。
容器も凝っているようで、実際はガラスなのだが氷をくりぬいて作ったような形に
なっていた。
「病院じゃなかったら毎日大混雑ですよー」
おいしいおいしいと言いながら、梨華はあっという間に冷やし中華を食べてしまった。
向かいに座っている保田は、これもおいしそうなエビドリアを食べている。
保田がこれを頼んだ時は夏なのに暑くないのかなとも思ったが、いざ食べている姿を見る
と、やはり夏でも食べたくなる味なのだろう。とてもおいしそうに食べていた。
「だよね。私だってそう思うよ
看護婦の私が言うのもなんだけど、病院じゃなかったら良かったのにねー!」
真顔で言っているために冗談なのか本気なのかは分からない。
ただ、ここの料理は本当においしかった。

「石川さんはもう少しいるんだよね?」
「あ、はい
そのつもりです」
遅めの昼食を終えて、後藤の病室に帰ろうかと歩いているときだった。
「それじゃあ、学校の電話の確認してみるから先に行っててくれないかな」
「あ、分かりました
それじゃあ、お昼御飯ありがとうございました」
丁寧にお礼を言う梨華に少し苦笑いを浮かべながら、保田はナースセンターへと歩いて
行った。
梨華が1人で昼食を食べに行くと言ったときに、保田は「1人じゃつまんないでしょ」
といってついてきてくれることになった。
友達だという看護婦に代わりに電話をしてもらうことになったため、保田はその確認に
行ったのだろう。
こういう親しみやすい看護婦さんもいるんだな。保田と知り合えたことを喜びつつ、
梨華は後藤の眠る病室へと向かった。

348 :チャーミー剣士:2001/05/24(木) 22:44 ID:uwiwNw6Q
後藤が目覚めたかもしれない。そう思って静かに病室ドアを開ける。
「後藤さん・・・?」
後藤に近づいて顔を覗き込むが、出て行ったときを変わることはなく後藤はすやすや
と寝息を立てていた。
「はぁ、まだ眠ってる・・・」
本当にこれは病気じゃないんだろうか。そんな不安が襲ってくる。
目が覚めないことなんか考えたくないが、ここまでぐっすり眠られるとそう思うのも
仕方がない。
少し考えて、梨華は自分の顔を思い切り後藤の顔に近づけた。
相手が眠っていると分かっていても、緊張する。
寝息がかかるくらい間近で後藤の顔を見ると、やはり少し苦しそうだった。
肩の傷なのか、それとも別に苦しいわけでもあるのか。梨華には後藤から何一つ聞いて
あげることができない。
自分は助けてもらったのに、お返しの1つもできなかった。
「ごめんね・・・」

「?」
梨華は、ふと後藤の目元が小さく濡れていることに気付いた。
「後藤さん、泣いてる・・・?」
確かにそれは涙に見えた。
夢でも見ているのだろうか、後藤の目がしだいに潤っていく。
ピッ、ピッ
それに合わせて、心臓の音も少し早くなったようだ。
「後藤さん?どうしたの?」
意識がないためにどうしようもないのだが、梨華はそれでも声をかける。
「お・・・ねえちゃん・・・」
寝言だろうか。確かに後藤はそう言った。

349 :チャーミー剣士(休憩):2001/05/24(木) 22:47 ID:uwiwNw6Q
更新です

吉澤の出番が少ないと自分でも思ったんで・・・
後に入れる予定だった場面を、間に少しだけです

不幸と幸福は紙一重です・・・

350 :あ名無し娘。:2001/05/24(木) 23:18 ID:0wVt4ZiE
続きがきになりますよーー
ごっちん・・・

351 :名無し娘。:2001/05/25(金) 10:31 ID:c4UKb8xg
くぅ〜っ、
続き読みたい・・。

更新お待ちしております。

352 :椎名旋:2001/05/25(金) 20:05 ID:hhrn1ORU

続きがスッゲェ気になる。
頑張って下さい。

353 :名無し娘。:2001/05/26(土) 04:55 ID:vRD2HEC6
おねえちゃむ…
そして、吉澤…(ドキドキ

354 :名無し娘。:2001/05/28(月) 05:21 ID:u7C32C9Y
(#´▽`)´〜`0 )<保全

355 :名無し娘。:2001/05/28(月) 20:14 ID:N2SlkJQk
あげ

356 :チャーミー剣士(休憩):2001/05/28(月) 22:51 ID:hkXKnHNw
続き書こうと思ったんですが・・・
板が変に飛んでるみたいですね

なので、更新は明日、スレが復活したらということで・・・

357 :名無し娘。:2001/05/28(月) 23:00 ID:8TwzRWDc
>>356
グ〜〜ッ
早くスレ復活してくれ〜〜ッ
つ、続きが・・・気になる・・・

358 :名無し娘。:2001/05/29(火) 02:17 ID:xV9bTuBU
>>356
待つ身は辛いぞ。

359 :チャーミー剣士:2001/05/29(火) 21:25 ID:3OPR4okc
続きいきます

360 :チャーミー剣士:2001/05/29(火) 21:26 ID:3OPR4okc
――
「でも矢口さんから電話がくるなんて思わなかったなー」
「ちょっと用事があって学校行ったらさ
職員室でひとみちゃんの家の電話番号見つけたからかけてみたんだよ」
灼熱地獄のような状態の外に出ることは避けたかったが、それが矢口の要望とあっては
仕方がなかった。
矢口からの電話は「暇だから買い物でもどう?」というものだった。
いきなりの、しかも自宅への電話に吉澤も不思議に思ったが、不信がったところで何か
あるわけではない。
特に用もなかったので矢口の誘いを素直に受けることにした。
「で、どうしよっか?買い物?お茶?」
「あー、涼しいところがいいです
それだったらどこでも」
汗一つかいてないように見えるが、やはりそれでも暑いらしい。
まるで若さを見せない吉澤に、矢口は呆れたように1つため息をつく。
「ひとみちゃん・・・ぐーたらだねぇ」
「ぐーたらって・・・どこの言葉ですかー」
あははと笑って答える吉澤に今度こそ本気で呆れたようで、矢口もこれ以上外で連れ
回すことを諦めた。
「うーん、じゃあさ
私の家に来ない?とっても冷たいアイスコーヒーくらいなら出すよ」
これは吉澤にとっては願ってもないことだった。
「あ!行く!
そうしましょう!」
と、急に元気になっている。
そのあまりの変わりように、矢口はまた呆れて呟いた。
「ひとみちゃん・・・
そういうのって、水を得た魚っていうのよ」
「え?魚がどうしたんですか?」

361 :チャーミー剣士:2001/05/29(火) 21:26 ID:3OPR4okc
――
「だーめだぁ!」
突然病室のドアが開いたを思うと、保田が大声を上げて入ってきた。
「び、びっくりした・・・
どうしたんですか?」
さっき保田と別れてからすでに30分近く経過していたため、梨華はまた眠る体制に
入っていた。
まだ驚いている体を落ち着かせながら保田の話を聞く。
「この子よー
なんかフクザツな環境みたいでさ、担任にも家族構成とか連絡先とか分からない
みたい」
保田は、後藤を指さして疲れたように後を続けた。
「まあ、でも中学校と連絡とれたからまだ良かったかな
特に変なアレルギーもないようだし」
「はぁ」
専門的なことは何も分からない梨華にはただうなずくしかない。
「とゆーわけで、今から壮大な検査に入るわ
明日の午後には全部分かってると思うから、もしまたお見舞いにきてくれるなら
それ以降にしてくれる?」
1人でどんどん話を進めているようで、梨華もその勢いに押されて席を立ってしまう。
「あの、検査って・・・?」
「うーん、この子の場合はそうねー
やっぱりなによりCTだろうね
って石川さんには分からないよね、うん」
梨華の質問にも1人で結論を出し、そのまま後藤が寝ているベッドの止め具をはずす。
「あ、もうはじめちゃうんですか?」
ベッドを運ぼうとする保田に聞いてみると「うん」という言葉が返ってきた。
これだと今日のところは帰るしかないかな、と思って梨華も半分流されるようにドア
へと向かった。
「あ、石川さん」
と、お別れの挨拶をして出て行こうという時に保田が声をかけてきた。
「はい?」
「あのさ、この子のためにも・・・
また来てちょうだいね」
そう言って笑う保田は、どことなく寂しそうに見えた。

362 :チャーミー剣士:2001/05/29(火) 21:26 ID:3OPR4okc
――
「・・・ここは、どこの国ですか・・・?」
「へ?」
矢口の家に到着するなり、吉澤は固まっていた。
それもそのはずで、目の前に建っているものはとても普通の家だとは思えない。
そう。例えるなら、テレビなんかで良く言っている『豪邸』という言葉がそっくり
そのまま当てはまるような家だった。
「矢口さんの・・・家?」
矢口と家を交互に見比べて、暑さも忘れてその場に立ち尽くす吉澤の姿に、矢口も
どうしていいのか分からないといった感じだった。
「えっと、とにかく中に入らない?
ね、ここ暑いし」
「あ、はい」
それでも暑いとは思っていたのか、吉澤は矢口の言葉に素直に応じた。
「あははっ
ひとみちゃんってやっぱり面白いね」
矢口は相変わらずの声で笑うと、吉澤の手を引いて大きな門の中に入っていった。
大きな門をくぐると、それだけで吉澤の家なら2,3件は入りそうな広い庭があった。
テレビの豪邸そのままのイメージで、庭には小さな池があって鯉が泳いでいる。
芝生が気持ち良さそうな庭の真ん中に伸びている石畳を進むと、そこにやっと玄関が
あった。
「矢口さんってお嬢様だったんですねー・・・」
どことなく金銭的に余裕があるような気がしていたが、ここまで由緒正しきお嬢様
だとはまったく思ってなかった。
当の矢口も、そのことに対して特に何を言うわけでもなく吉澤を中へと誘導した。
「はぁー・・・」
中に入って吉澤はまた感嘆の声をあげる。
玄関が広い家に住みたいと思ったことはこれまでに数え切れないくらいあるが、これは
吉澤が考える『広い玄関』のさらに倍以上は広いものだった。
「遠慮なく上がってよ」
軽く言ってくれる矢口だったが、どうも緊張してしまう。

363 :チャーミー剣士:2001/05/29(火) 21:27 ID:3OPR4okc
内部は豪邸というよりは屋敷といっても良いくらいで、矢口の部屋に案内されるまでに
優に1分は歩いたと思う。
「ここが私の部屋だから、中に入って待っててくれる?
コーヒー持ってくるわ」
そう言うと、矢口はパタパタと今きた廊下を引き返していった。
「はぁ」
呆けた返事を返し、少しの間どうしようか迷ったのだが、意を決して矢口の部屋だと
言われたドアを開けてみる。
「ん?」
そこにあったのは、確かに広かったのだが、あえて表現するならひどく殺風景な部屋
だった。
矢口の見かけ、言葉、性格。いろいろなことを総合してもこの部屋は浮かんでこない。
もしかするとカーテン付きの中世にあるようなベッドの1つでも置いてあるかも、と
本気で思っていたのだが、吉澤の期待は軽い形で裏切られた。
「おもったより・・・」
矢口さんらしくないなぁ。
もっとこう、梨華の部屋とまでいかなくてももう少し女の子風の部屋だと思っていた
だけに、逆に気後れしてしまう。
奥にある、壁一面の大きな窓の側にベッドが1つ。その周りにタンスが2つ。
床はカーペットが敷かれていて、ベッドの反対側、つまりこちら側にテレビとコンポ、
それに小さなテーブルが置かれているだけだった。
ぬいぐるみや可愛い置物といったものは、ぱっと見回した限りだと見つからない。
これだけのものが、軽く見積もっても10畳以上はあるだろうと思われるこの広い部屋
にあるだけ。
「でもこれが贅沢っていうのかもねー」
余ったものは余ったもの。
広い部屋を埋める必要性がないというのは確かに贅沢だろう。

364 :チャーミー剣士:2001/05/29(火) 21:27 ID:3OPR4okc
「おまたせー」
そこへ、手にお盆を持った矢口がドアを背中で開けて入ってきた。
お盆の上にはアイスコーヒーが2つと、メロンの形をしたアイスが乗っていた。
「ひとみちゃんって極度の暑がりみたいだからね」

「それにしても広い部屋ですね
うらやましいなー」
「にしては何もないでしょ」
「あー、はい」
間髪入れずに答える吉澤に、矢口は思わず苦笑する。
「・・・はっきりしてるねー」
「そんなことないですよぉ!」
「あははっ
それよりもさ、ひとみちゃんって夏休みの間って何してるの?
もしかしてずっと家で涼んでるの?」
吉澤の暑がり様を見る限りだと、外に出るとすぐに引き返してきそうだ。
「あー、基本はそうかな
でもたまに梨華ちゃんとかと出かけますよ」
「お、また梨華ちゃん
ほんと仲良いよねー」
吉澤と話すと必ず梨華の名前が出てくる。
吉澤自身も、過去を振り返るまでもなく自分が梨華と過ごす時間がどれだけ長いもの
なのかは分かっていた。
普段はそんなこと考えないのだが、たまに珍しい人に会うとこのことを思い出したり
する。例えば、今の矢口のように。

365 :チャーミー剣士:2001/05/29(火) 21:27 ID:3OPR4okc
「あれ?」
と、吉澤はテレビ台の下に何か落ちていることに気付いた。
「矢口さん何か落ちてますよー」
「えー?どこ?」
「ほら、あそこ」
テレビの下の方を指差す。
そこにはハガキくらいの大きさの紙が、台と床の間に挟まっていた。
吉澤は立ち上がって、その紙を拾う。
「なんですかこれ?・・・写真?」
最初はハガキかなにかだと思っていたが、確かにそれは写真だった。
10年くらい前のものだろうか、今見てもすぐにそうだと分かるくらい変わってない矢口
が、友達らしき子供と肩を組んでピースをしている。
「うわー!!
矢口さんかっわいい!!!」
顔は今の矢口をぐっと幼くしただけで、見た感じも矢口そのものだった。

「あ・・・」
止める間もなかった。
というか、別に止める気もなかったのだが。
できればその写真は人に見せたくないものだったため、最初矢口は自分で拾おうとした
のだが、ちょっとした隙というか、ふとした自然の流れでこうなってしまった。
別に小さい頃の自分を見られるのが恥ずかしいわけではなかった。
そんなもの誰にどれだけ見られても何とも思わない。
ただ・・・
「あれ?」
こういう時はどんなに相手が鈍感でも感づかれてしまうものだ。

366 :チャーミー剣士:2001/05/29(火) 21:27 ID:3OPR4okc
「矢口さんの隣の子、なんか見覚えあるなぁー・・・」
確かにそうだ。
つい最近、どこかで見たような気がする。
「うーん・・・誰だろう・・・」
考えるそぶりを見せながら、矢口の方をちらっと見る。
教えてくれないかな、といった感じで視線を合わせる吉澤に矢口も半ば諦めたようだ。
「はぁ・・・そりゃ見たことあってもおかしくないよ」
「あ!やっぱり
で、誰なんですか?この人・・・私も知ってる人ですよね?」
アイコンタクト成功!といったばかりの笑顔を見せ、吉澤は今度こそ写真を見て考えは
じめた。
そんな吉澤の姿に、言うまで諦めないだろうと思ったのか、呆れた顔を浮かべた矢口は
自分からゆっくりと口を開いた。
「後藤・・・」
「え?」
「後藤さんよ、それ」
もう一度言い直すと、矢口は「はぁ!」と大袈裟なため息をついてベッドに寝転んだ。
吉澤はもう一度写真を見つめ、やっと気付いたように声をあげる。
「あー!ほんとだ!
確かにこれ後藤さんですね!」
写真の中で、親友のように肩を組んで笑っている2人。
それは紛れもなく矢口と後藤だった。
「矢口さんって、後藤さんの知り合いだったんですか?」
そういえば、前に『I WISH』で会ったときもそんなことを言っていたような気が
する。
「腐れ縁ってやつかな・・・
まあ、向こうもそう思ってるっぽいけどね」

367 :チャーミー剣士(休憩):2001/05/29(火) 21:30 ID:3OPR4okc
更新です
なるべく複雑に絡ませようとしてますが、うまくいってるか心配です・・・
正義も人それぞれなのです

>>358さん
すいません・・・
確かに自分がそうなると待ち遠しいですね
でも、逆に考えるとそれだけ楽しみしてくれてるんですよね
ありがとうございます・・・

368 :名無し娘。:2001/05/29(火) 22:42 ID:KyAsuYuE
>>367
凄く楽しみにしてるよ。でも、無理はしないでね。
人物の関係や事件の真相が想像できないし、結構意外な
展開があったりして、ミステリアスな雰囲気を出してて
いい感じだと思う。全くの素人の感想だけどね。

369 :名無し娘。:2001/05/30(水) 01:56 ID:n0SoyjPU
なるほど…。

370 :名無し娘。:2001/06/01(金) 00:17 ID:RFqJmIXk
ホゼムシトク?

371 :名無し娘。:2001/06/01(金) 00:24 ID:3/zxLby.
ウン、ホゼムスル。

372 :チャーミー剣士:2001/06/01(金) 23:19 ID:GjFZ/3Bo
更新です

373 :チャーミー剣士:2001/06/01(金) 23:19 ID:GjFZ/3Bo
――
後藤が意識を取り戻したと連絡があったのは、梨華があの時病院に行ってから2日後
のことだった。
携帯の向こうから聞こえてくる保田の話だと、どうやら後藤はおとなしく療養してい
るらしい。
梨華が病院に着いたときも、後藤はベッドで休んでいた。

「こんにちは」
梨華は少し遠慮しながら病室のドアを開け、中へ入った。
一瞬眠っているのかと思ったのだが、後藤はちらりと一度だけこちらを見て視線を天井
へと向ける。眠ってはいないらしい。
「あ、あの、大丈夫?」
入院している人に向かって大丈夫もないかな、とも思ったがこれ以外の上手い言葉が見
つからない。
「何しにきたの?」
梨華を見るわけでもなく、視線は天井にはわせたままで後藤は言った。
まだ包帯が巻かれているために肩の傷の具合は分からないが、痛々しさは前見た時と
変わってない気がする。
「あの、お見舞いに・・・」
そこまで言い終わらないうちに、後藤は梨華をきっと睨み付けた。
「帰って・・・!」
冷たい目だった。
後藤と会うたびに今日こそはと思っているのだが、いつも空回りしてしまう。
少しずつ後藤との関係は進展していると思っているのは自分だけ。向こうは自分のこと
なんて何にも気にしてないのではないか。
「なんであんたに見舞ってもらわなくちゃいけないの?
もう私に近づかないでよ、帰って」
眠っているときは近くに感じた後藤が、今はとても遠い存在に見える。
それと同時に、力いっぱいに人を拒んでいる後藤の姿を見るとどうしようもなく悲しく
なってきた。

374 :チャーミー剣士:2001/06/01(金) 23:19 ID:GjFZ/3Bo
「でも・・・!!」
言いかけて、そこで踏みとどまる。
『でも、後藤さんは私を頼ってたんでしょ!?』
こんなこと言ったらどうなるか分からない。
後藤の手に握り締められていた小さな紙切れ。なぜか梨華は今でもそれを持っていた。
「でも?」
それでも後藤には梨華が何を言おうとしていたのかが分かったのか、整った顔に小さな
しわが1つ2つ浮いている。
「ううん、なんでも・・・」
後藤のためにも、自分のためにも黙っておくべきだろう。
お互い心の中で分かってることを、わざわざ口に出すこともない。
そんな梨華のどちらにも傾けないといったふわふわした態度に、後藤の苛立ちはさらに
酷くなっていく。
分かっていても怒ってしまう、反抗期の子供。
まさにその通りだった。
後藤自身も分かっていた。ここで梨華を責めても意味がない。
それどころか、責める理由だって本当は分からない。
だからこそ、怒ってしまう。相手を、そして自分を。
「後藤さん・・・肩、大丈夫?」
「・・・別に」
どうしようもなくここから離れたくなる衝動に駆られるが、梨華は何とか自分を抑えて
後藤に話し掛けた。
この前保田から言われた言葉が頭に残っていたからかもしれない。
頼れる人。
後藤には他に頼れる人がいるのだろうか?

375 :チャーミー剣士:2001/06/01(金) 23:20 ID:GjFZ/3Bo
コンコン・・・ガチャ
「こんにちはー!」
元気に声を上げて、保田が病室に入ってきた。
「あ、石川さん、来てくれたんだ
こんにちは」
保田はそう言うと梨華の方を向いて笑った。
正直、保田が来てくれて助かったと思いながら、梨華も保田にあいさつをする。
「あ、はい
こんにちは」
2人の様子に、後藤はまた額にしわを作ったようだが、それに気付いてか保田が子供に
説教をする母親のような声で言う。
「だーめじゃないの、後藤さん
せっかく石川さん来てくれたのに
ほらほら、もっと笑顔で笑顔で」
保田の言葉を聞きながら、梨華は内心ひやひやしていた。
(や、保田さん、後藤さんにそんなこと言っちゃ・・・)
案の定、後藤も頭に来たようで思い切り保田を睨み付ける。
「も、もう、そんな顔しないの!
後藤さん可愛いんだから笑わないと損だよ」
一瞬驚いたようだが、さすが看護婦とでもいうのか保田は後藤を優しくなだめはじめる。
1人で緊張している梨華をよそに、後藤は保田から目を離すとそのまま壁の方を向いて
ベッドに寝転んだ。
「はぁ」
後藤が気付いてから同じ事を繰り返してるようで、保田の顔には「またか」といった
表情がうかがえる。
保田はそんな後藤に小さなため息を吐くと、くるりと梨華の方を向いた。
「石川さん、ちょっといいかな?」
そう言うと、保田は病室から出て梨華を誘導しようとしていた。
突然自分に振られて梨華も少し驚いたが、もう体を動かしそうにない後藤を見ると今日
のところは話すどころではなさそうだ。
素直に保田についていくことにした。

376 :チャーミー剣士:2001/06/01(金) 23:20 ID:GjFZ/3Bo
保田に案内されたのはナースステーションだった。
普通の人は入れない場所なので、梨華も興味半分、緊張半分といった感じで保田の後ろ
にぴったりとついて歩く。
「んーと、とりあえずそこに座ってくれる?」
「あ、はい」
梨華は手近にあった椅子に座って、保田の次の言葉を待った。
保田も奥から1つ椅子を持ってきて、梨華の前に持ってくる。
「実はね、後藤さんのことだけど・・・」
「はい」
後藤の話であることは分かっていたので、すぐに答える。
ついでに言えば、良い話ではないような気もしていたが。
「あのね、今のところ後藤さんの知り合いって呼べる人が石川さんだけだから
一応言っておかないとって思うんだけど」
梨華の目の前で椅子に座り、下から覗き込むように話す。
「はい」
ああ、まだ家族の人見つからないんだ。と趣旨とは違うことを考えながら梨華はうなず
いた。
自分が知っておくべき事。
それが何かは想像もつかないが、どう考えても良いことではないだろう。
「後藤さん、肩の傷はほんとに大したことないの
それこそ後1週間・・・もう少しかな?
でも、そのくらいで治っちゃうんじゃないかな」
保田は時々視線だけを上に向けて、考えるそぶりを見せながら話している。
肩の傷はもうすぐ治る。
それが聞けただけでも嬉しいことだったが、保田の表情から察するにやはりこれで終わ
りというわけにはいかなそうだった。
「ああ、そうなんですか
良かった・・・」
それでも梨華は素直に喜んで、保田に笑顔を見せる。
保田もそれに答えるように一回笑って、後を続けた。

377 :チャーミー剣士:2001/06/01(金) 23:20 ID:GjFZ/3Bo
「あの子、先天的なのか後天的なのかはまだ分からないけどね?」
いきなりの難しい単語に少し戸惑うが、とりあえず話を聞くことにする。
「あー、あのね生まれつきかそうじゃないか、っていうことなんだけど」
それでも保田には分かっていたようで、怪訝そうな顔の梨華に補足説明をする。
「ああ!」
梨華もどこかで聞いたことがあった用語だったのか、思い出したように小さく手を叩く。
「うん、それで、ここからが重要なんだけど・・・」
「はい」
保田は1回深呼吸をして、梨華に告げた。
「たぶん、あの子心臓病を持ってる・・・」
心臓病?
梨華の頭は、その単語に関する情報を探すためにフル回転で働きはじめる。
その副作用なのか、外からは呆然としているように見えるらしい。保田がぼーっとして
いる梨華の顔の前でパタパタと手を振った。
しばらくして、梨華の頭は1つの答えを導き出した。
「あの、心臓って言えばあのよく発作とかで危なくなる・・・」
梨華の答えに、保田は大きくうなずくと後を続けた。
「うん、そうなの
でも、あの子の場合はまだ完全な『心臓病』じゃないみたい」
「完全な?」
「あのね、心臓病っていっても色々種類があってさ
症状が重いものものあれば、逆にあまり問題がないものもある
そこら辺はなんとなく分かる?」
まるで学校の授業みたいだな、と思いながら梨華はうなずく。
「はい」
「で、あの子の持ってる心臓病は、まだそんなに重くないの」
保田は一度何かを思い出すように上を向く。
「えーと、そう
正式な病名は『狭心症』って言うの」
「狭心症?」

378 :チャーミー剣士:2001/06/01(金) 23:20 ID:GjFZ/3Bo
「簡単に言うと、狭心症がもっと悪くなったのが
よく言われる心臓病ってやつなのよ」
保田も何の知識も持っていない梨華に説明するのが難しいようで、1つ1つ言葉を選ん
で話すためにペースはゆっくりとしたものだった。
「普通に暮らす分には全然困らないけど、やっぱり運動なんかはダメ
急に心臓が止まっちゃうことだってあるの」
「え!?」
後藤は肩を怪我しているだけで、それが治れば退院できるものだと思っていた。
それだけにこの思わぬ病気の宣告は梨華を驚かせる。
「今回意識がなくなったのもこのせいだと思う
誰かから・・・たぶん肩を切られた人から逃げてる途中に発作が起きて
それで耐えられなくなったんじゃないかな」
「発作・・・」
「うん、いくら心臓病としては軽くてもね・・・
結局心臓なのよ」
それから、保田はまた1回深呼吸をして続けた。
「正直、今回だってもしかしたら危なかったんじゃないかな
一種の、奇跡って言えるかも」
そう言う保田は、苦笑いを浮かべて梨華に告げる。
「あの、それ・・・後藤さんには」
「まだ言ってないけど、今日中に言っておくわ
あの子の様子見てると早めに言わないと無理しそうだからね」
後藤が心臓病。
このことに後藤本人は気付いてないのだろうか?
何か、後藤なら知っていそうな気がする。
なんとなくそう思いながら、梨華は保田に質問をする。
「あの、それって治るんですか?」
保田は小さく首を振って答えた。
「いろいろね、難しいのよ・・・」

379 :チャーミー剣士(休憩):2001/06/01(金) 23:21 ID:GjFZ/3Bo
更新です
中々ペースが上がらなくて申し訳ないです・・・

自分が後藤になった気持ちで考えてみて下さい
後、梨華にも。
難しいのは矢口だと・・・

某映画の例えですが
人生はチョコレートの箱のようなものなのです・・・

380 :名無し娘。:2001/06/02(土) 00:28 ID:rrCOtxDU
感情移入がしやすくて良いです。しかし他のメンバーは
出なさそうな感じ・・・

381 :名無し娘。:2001/06/03(日) 00:59 ID:TvZjmtPE
ガンピズムダネ。
ホゼムシチャウヨ?

382 :ななっすぃー:2001/06/03(日) 05:45 ID:TzRPtiYo
タベテミナケリャナカミハワカラナイホゼム

383 :頬袋:2001/06/04(月) 19:56 ID:/LQwur42
保全。

384 :チャーミー剣士:2001/06/04(月) 21:34 ID:2LxbCwlo
「ふわあ・・・」
小さなあくびを1つして、梨華はベッドに転がり込んだ。
時計の針は既に夜中の2時を通り越している。
つけっぱなしのテレビは深夜のバラエティ番組もそろそろ終わりを告げる頃で、寝るには
ちょうど良い時間だろう。
「寝よっかな」
小さく呟いて、ベッドの近くまで垂らしてある電気から伸びた線を引っ張る。
パチッと音がして部屋はテレビのチカチカとした明かりだけになった。
結局、あれから後藤とは話さなかった。
病室に戻って、一言「それじゃあ、またね」と言って帰ってきた。
後藤は返事をしなかったが、少しこちらに目を向けたような気はする。
「おやすみ・・・」
誰に言うわけでもなくそう呟いて、テレビを消した。
ブン・・・とテレビから静電気だか何かの音が響く。

それにしても・・・
(後藤さんが心臓病・・・)
意識が無かったのは気になったけど、まさか心臓病なんて思わなかった。
(恐いよね)
もし、これが自分だったらどう思うだろう。
医者と、ほんの少しの看護婦が知っているだけで、家族も来ない。
友達も来てないようで、結局この何日間で後藤を訪ねてきたのは自分だけだった。
学校の担任でさえも、保田が電話をかけてからまったく連絡がないそうだ。
(不安だよね・・・)
自分だけ。自分だけが後藤の病気を知っている。
そして、後藤も口には出さないけど、認めたくないだろうけど、心の奥では自分を
頼ってくれているはず。
(がんばろうね)

心の中で後藤を応援しながら、梨華は眠りについた。

385 :チャーミー剣士:2001/06/04(月) 21:35 ID:2LxbCwlo
――
ふわふわ、ふわふわと浮いている。
(あれ・・・?ここどこ?)
「あははっ!!ねえ、真希ちゃん!早くぅ!」
(可愛い子・・・でも、どこかで見たことがある気がする)
「待ってよー!真里ちゃーん!」
(あれ?あそこで泣きそうになってるのは・・・私?)
「もう、しょうがないなー
・・・はい、つかまって?」
「えへへ、ありがと」
(真里・・・先輩なんだ、あれ)
「真希ちゃん、甘えんぼうだなぁ、もう」
「えへへ、そうかな?・・・うーん、そうかも」
(仲、良さそう・・・
あんなに楽しそうに笑ってる)
「でも私、真希ちゃん大好きっ!」
「うん!私だって!」
(馬鹿だな・・・どうせ裏切られるのに
ほんと、馬鹿だよ・・・私)
(・・・)

目覚めてからも不思議な感じは残っているようだった。
時計を探してみたが、手探りだと見つけようが無い。
こんなことなら明るいうちに確認だけでもしておけば良かったなと思いながら、今度は
外を見る。
カーテンが閉まっていて月を見ることもできなかったが、周りの静けさや自分の感覚
から予想しても、まだ夜中の3時が良いところだろう。
「なんで今更あんな夢見たんだろ」
天井を見上げたまま、少し自虐的な笑みを浮かべる。
あの頃は2人とも公平で、誰よりも平等だった。
いつからこうなったか、きっかけはどこかにあったはずなのに忘れてしまった。
「心臓病・・・」
予想もしなかった。
走ってる途中で急に苦しくなって、動悸が異常に速くなった。
おかしいと思ってたけど、これが心臓病だったとは。
「はは、私にぴったりの病気じゃない・・・」

386 :チャーミー剣士:2001/06/04(月) 21:35 ID:2LxbCwlo
ドタタタタ・・・バタン!!
「お姉ちゃーーーーーん!!!
朝よーー!!起きなさーーーい!!」
希美は隣の家まで聞こえるような大声で叫ぶと、梨華が寝ている布団をそのまま剥ぎ
とった。
「・・・んん」
あまりの声量にさすがの梨華も目を覚ますが、起き上がろうとはしないで右手だけで
器用に布団を探している。
「ほーら、起きるの!」
パシッと梨華の手の甲を叩く。
「あうっ」
まるでかたつむりの様に叩かれた手を引っ込めて、梨華はしかたなく布団なしで眠る
体勢に入る。
「あのねー・・・」
体を丸めて猫のように眠りに入る梨華を見て呆れたように呟くと、希美は腕組みを
して何やら考え込む。
「よし!」
1つ大きく気合を入れて、希美はそのまま梨華の上空へダイブした。
「おきろー!!!」
ドサッ!
「ぐえっ!」
とても梨華の口から出たとは思えないような情けない声をあげると、ようやく起き上が
って希美と顔を合わせた。
バランスをくずしてベッドの上でバタバタしている希美の足首を掴んで転がす。
「痛い!お姉ちゃん痛い!ぎ、ぎぶ!」
顔をベッドに押し付けて変な体勢で転がっている希美が声をあげると、不機嫌そうな
表情の梨華もしかたなく手を放した。
「はぁ、はぁ」
希美も朝からこんな運動をするとは思ってなかったのか、必要以上に疲れた顔をして
立ち上がる。

387 :チャーミー剣士:2001/06/04(月) 21:36 ID:2LxbCwlo
「ののちゃん、朝から疲れることしないで・・・」
梨華はベッドに座りこんだまま、同じく隣に座っている希美に言う。
「だ、だって、あれくらいしないとお姉ちゃん起きないもん・・・」
2人とも疲れた顔で笑いあう。
と、希美の格好を改めて見てみると、これから部活でもあるのか制服を着ていた。
おはよう。さっき希美が言った言葉を思い出す。
まだ時計を見てないが、突然軽い不安に襲われた梨華はゆっくりと枕元に置いてある
はずの目覚し時計を見てみた。
「・・・の、ののちゃん・・・」
案の定。予想通りだった。
時計は朝のさわやかな日差しを浴びながら、7時を指していた。
昨日の夜梨華が寝てから4時間くらいしかたっていない。
「あれ?どうしたの?」
不思議そうな顔で覗きこむ希美に、梨華はため息をつきながら答えた。
「私、今日学校とか無いんだよぉ・・・」
「・・・へ?」
希美はしばらく考え込んでいたが、梨華の言った意味を理解すると突然ベッドから
立ち上がった。
「あ、えーと、それじゃあ!
おやすみなさーい!」
そのまま何事も無かったように部屋から出ていこうとする。
「あー、目が覚めちゃったよー!!」
梨華はそう叫んでベッドに体ごと突っ込む。
そのまま梨華を置いて学校に行こうにも、やはり気になったのか、希美はしばらくして
戻ってくると梨華の耳元でささやいた。
「朝御飯、一緒に食べようよ・・・?」
その声に梨華も起き上がって希美を見る。
そして、今日初めての笑顔を見せてうなずいた。
「うん!そうしよっか!」

388 :チャーミー剣士:2001/06/04(月) 21:37 ID:2LxbCwlo
「えー!?それじゃあまだ4時間くらいしか寝てないじゃん!」
朝御飯を食べながら梨華が昨日の夜のことを話すと、希美は驚いて声をあげた。
いつも通り梨華の母親が作っていった朝御飯。特にメニューが日替わりで違うわけでも
なく、御飯に味噌汁、卵焼きといったごく普通の内容なのだが、それでも毎日おいしい
と感じられるのはとても幸せなことだった。
「お姉ちゃん、睡眠不足はお肌の天敵なのよー!
もっとよく寝ないと!」
どこまで理解しているか分からないが、希美の説教に梨華は目を細めて反論する。
「起こしたのは誰よー・・・」
一瞬静寂が流れる。
「あはっ、この御飯おいしーね!」
「・・・もう」
今となってはもう眠たさを感じないため、希美を責める気持ちは全然ないが、やはり
少し体がだるい気がする。
確かに希美の言う通り、もっと良く寝ないと健康に悪いかもしれない。
「どうしよっかな、また寝ようかな」
「私が部活で汗流してるのに、お姉ちゃん寝てる場合じゃないよー!」
梨華が悩んでいると、希美が良く分からない非難を口にした。

「よっすぃーいるかな・・・?」
朝御飯も食べ終わり、希美が出ていってしまうと急に暇になってしまった。
元々昼前まで寝てるつもりだったのだから当たり前だが、なんとか暇を潰そうと吉澤に
電話をしてみることにする。
プルルルル・・・
携帯の向こう側で呼び出し音が何度か繰り返されるが、出る気配はない。
しばらく待っていると、留守番電話に切り替わったようだった。
『はーい、今寝てまーす
私が起きた後にまたかけ直してください』
「起きた後でって・・・」
呆れながらも、梨華はそのまま電話を切った。

389 :チャーミー剣士(休憩):2001/06/04(月) 21:37 ID:2LxbCwlo
更新です
なぜか土日の方が更新できてないという状態に・・・
先見の明というか、このまま行くと6月中には終わらないです

吉澤との絡みは少しコミカルに書こうとしてます
というか、梨華が元々天然という話もありますが

七転八起。次の希望こそは幸せであるはず・・・

390 :名無し娘。:2001/06/05(火) 02:31 ID:vn2oxa6Y
太く長く継続キボンヌ

391 :名無し娘。:2001/06/07(木) 00:13 ID:Mgdl/jDE
ホゼム

392 :チャーミー剣士:2001/06/07(木) 20:47 ID:O//JKlz2
続きです

393 :チャーミー剣士:2001/06/07(木) 20:47 ID:O//JKlz2
例えば、ごく身近な友人や家族といった人物では知らないことも、赤の他人であれば
そのことを知っていたりする。
例えば、ごく身近な友人や家族には言えないようなことも、赤の他人であれば気軽に
話せたりする。
世の中なんてそんなもので、どちらが良いかなんて誰にも分からない。
ただ、なんとなく考えていると霧のようにゆっくりと疑問が浮かぶ。
例えば、ごく身近な友人や家族が存在しない場合は誰に伝えれば良いのだろうか?
例えば、伝えたいことなんか無くても友人や家族は必要なのだろうか?
そして、伝えるべき人を見誤った場合はどうするのだろう。
世の中なんてそんなもので、悩んでいる人に近づくのは2種類の人間しかいないもの
で、その2種類の比率は五分五分だろう。
天使と悪魔。どっちだろうが、大したことはない。
それに自分を合わせていけば自然と流れていくものだから。

394 :チャーミー剣士:2001/06/07(木) 20:47 ID:O//JKlz2
「まっさかこんな近くにいたなんてねー」
暑そうな顔をした矢口の前には大きな病院が構えていた。
およそ病院とは無縁の服装だったが、別に診察を受けに来たわけでもないから問題は
ないだろう。
「病院なんか行く予定なかったのに・・・」
面倒くさい仕事を任されたような顔をして、そしてその仕事をすばやく済ませようと
矢口は病院の中へと入っていく。
手には小さな紙袋がぶら下がっていて、駅前の洋菓子店の名前がプリントされていた。
こういう『ダサい』紙袋はなるべく持ちたくないのだが、大事な親友のためだ。我慢
して運んであげよう。
2重になっている自動ドアをくぐると、矢口はそのまま真っ直ぐ受付に向かう。
ブーツの足音が意外に響くが、なるべく気にしないようにした。
「あの、すいません」
「はい、初診ですか?」
自分の格好を見ればお見舞いに来た人ということくらいは分かりそうなのだが、ただ
機械的に事務をこなしているこの受付の態度はどうしたものか。
矢口は少し苛立ちながらもいつものように答えた。
「いえ、ここで入院している友人のお見舞いに来たんですけれども
病室が分からないもので・・・」
受付に座っている看護婦も、矢口の見た目とは正反対の口調に多少驚いたようだった。
急に友好的になったようで、矢口に向かって笑顔で答えた。
「あ、そうなんですか、すいません
あの、そのお友達のお名前はなんて言うんでしょうか?」
冬山の天気のような看護婦に、心の中でため息をつきながらも矢口は今まで通りの言葉
を吐き出した。
「後藤真希さんです」

395 :チャーミー剣士:2001/06/07(木) 20:48 ID:O//JKlz2
授業中に自分の意志ではどうしようもないくらい眠くなる経験は誰にでもある。
とにかく、それは夜になって「さあ眠ろう」と思ったときに来て欲しいものなのに、
そういう時に限って来ないものだ。
梨華も今は眠るつもりではなかったのだが、いつのまにかその睡魔に襲われてベッド
の上で小さな寝息を立てていた。
時間が緩やかに流れていく部屋の中で、つけっぱなしのテレビからは今では子守り歌に
しかならない旅番組が流れていた。

それから30分くらいが過ぎた後、部屋の暑さとテレビからではない別の音で梨華は
目を覚ました。
少し汗ばんだ額を手でぬぐうと、流行の音楽を流しながらテーブルの上で震えている
携帯電話を取る。
着信画面には『よっすぃー』と書いてある。
「はぁい」
寝起きでまだ働いていない喉の奥からなんとか声を出し、電話の向こうで待っている
だろう吉澤に答えた。
『梨華ちゃん電話したでしょ?何でしょうかー?』
どうやら吉澤も寝起きらしく、いつもより少しテンションが高い。
「うん、寝てるかなーと思ってたけど、やっぱり寝てたね」
『そりゃそうだよー
休みの日に8時前に起きるわけないじゃん』
今日に限っては梨華もそう思っていたのだが、ちょっとした事故で起こされてしまった
ものは仕方が無い。
「だって、私7時にののちゃんに起こされたんだよ!
今日はゆっくり寝てる予定だったのに・・・」
『あーそうなんだー』
「あ、それでさよっすぃー」
『うん』

396 :チャーミー剣士:2001/06/07(木) 20:48 ID:O//JKlz2
あれから梨華は吉澤を買い物に誘ったのだが、電話の向こうで散々ごねていた吉澤を
説得するのに30分はかかった。
「梨華ちゃん暑いよー!
もう死ぬー!!」
駄々をこねる子供みたいに文句を言っている吉澤を横目に、梨華はマイペースで歩道
を歩いている。
もう駅は目の前で、そこからデパートへ入るまでは1分とかからない。
ここからだと引き返す方が時間がかかるのだが、そんなことは考えられないほど吉澤は
まいっているようだった。
「梨華ちゃんのためならエーンヤコラぁ」
どこで覚えたのか分からないおかしな歌を歌いながら、なんとか吉澤はついてくる。
梨華が買い物に行く目的は2つあった。
まずは、というかこっちの方がついでなのだが、何か良い洋服でもないかなという
いわゆるウィンドウショッピング。
そして、今日吉澤を誘った最大の理由として、入院している後藤へのお見舞いの品物を
何か選びたい、というものだった。
たぶん吉澤が折れたのもこの理由のおかげだと思う。
ただ単に服が買いたいだけだとたぶん断られていただろう。
「ほおらよっすぃー、後少しだからがんばって!」
やっとたどり着いた入り口の前で、ゆっくりと歩いてくる吉澤の手を引いて自動ドア
の中へと入っていく。
「・・・はぁー」
入ったとたんに感じられる冷たい空気で、それこそ吉澤は蘇った。
あれだけだらけていた態度を一変させて、急に元気になって梨華を誘導する。
「梨華ちゃん!早く早く!
まずどこ行くっ?」
梨華はため息をつきながらも、元気になった吉澤の後について歩き出した。
何年も同じことを繰り返している、毎年夏になると行う恒例行事のようなものだ。
それでも、梨華はこの買い物が楽しくてしかたがなかった。

397 :チャーミー剣士(休憩):2001/06/07(木) 20:48 ID:O//JKlz2
更新です
ちなみに一番書きにくいのは吉澤だったりします・・・
書きやすいのは希美、矢口です

6合目を過ぎたあたりでしょうか
梨華の体力も6合目くらいかも・・・

398 :名無し娘。:2001/06/07(木) 22:43 ID:uM1c3YYQ
梨華の体力も6合目、ってなんか不吉な事でもあるのかYO!

399 :名無し娘。:2001/06/09(土) 03:05 ID:gZKGjNko
レズ……

400 :名無し娘。:2001/06/10(日) 04:10 ID:chV52xIU
買い物シーンって萌えるね

401 :名無し娘。:2001/06/12(火) 03:57 ID:/CVycVvM
保全しちゃう

402 :チャーミー剣士:2001/06/12(火) 22:15 ID:OQUPx1nc
続きです

403 :チャーミー剣士:2001/06/12(火) 22:16 ID:OQUPx1nc
最初、お見舞いに持って行くものと考えて頭に浮かんだのは例の雑貨屋だった。
可愛い置物や邪魔にならないアクセサリーなんかが良いかも、と思っていたのだが、
よくよく考えるとあの雑貨屋で買っていくのも変に意味深そうでやめることにした。
梨華は気にならなくても、後藤がいろいろと言ってきそうだ。
そこで吉澤に助けを求めたところ、こんな答えが返ってきたのだった。
「お見舞い?・・・花とか、本とか」
吉澤も吉澤でまさか自分がついていくことになるとは思ってなかったため、何も考え
ずに軽く答えていた。
言った後でしまったと思ったのだが、次に梨華が言った言葉は予想通りのものだった。
「あー!!
それならさ、よっすぃー明日デパートに行くの付き合って!お願い!」
こうなってしまうと、さすがの吉澤も断れない。
昼間の暑さを想像して憂鬱な気分になりながらもしぶしぶ約束を交わし、急に明るく
なった梨華の声にやはり少し安心していた。

2人はまず洋服を見てみることにした。
いきなり吉澤の助言とは関係ない場所だったが、梨華と買い物に出かければこうなる
ことは吉澤には分かりきっていることだった。
知ってか知らずか、梨華は自然に色とりどりの服が並んでいる売り場を歩く。
そして、見計らったように「よっすぃー見て見て!あれ可愛い!」と立ち止まる。
いつものことだったので吉澤も特に気にならなくなったことだが、それでもお気に入り
服を手にこちらに向かって歩いてくる梨華の目には慣れることはない。
「よっすぃーに似合うと思うなぁ」
梨華が手に持っていたのは、やはり今日もピンク色だった。
「あはは・・・」
吉澤は曖昧に笑いながら梨華に渡された服を体にあててみる。
さあ、ここからどう切り出そう。

404 :チャーミー剣士:2001/06/12(火) 22:16 ID:OQUPx1nc
それから2人はしばらく服選びを楽しんだ。
休みに入っていつも寝てばかりだったためか、吉澤も今日は普段より積極的に歩き
回り、いくつかか試着もした。
「うーん、これ買っちゃおうかな」
そう言って悩む吉澤の手には、自分で選んだ青っぽいシャツが握られていた。
「えー!?
よっすぃーそういうのいっぱい持ってるじゃない
もっと別のにした方が良いって!」
梨華が持っているピンク色の服も、梨華の家で同じような感じのものを見たような気
もするが、本人はそれに気付いてないらしい。
そして、吉澤用にキープしていたらしい服を持ってこちらに歩いてくる。
買うならこっち!といった表情で譲る気配はない。
「しくしく・・・」
どうやらこの服を買うには目の前の大きな敵を片づける必要があるらしい。
とは言っても、実際はそんなに思うほど欲しいわけでもなかったのだが。
確かに梨華の言う通り、同じような服はたくさん持っていた。
というか、ほとんどがこんな服だったと思う。
これが自分のファッションだ!と言い張れる誇りやポリシーがあれば良いのだが、悲し
いことにそこまで意地になれる理由がない。
慣れない服を着るのが恥ずかしい。それから、ちょっと恐い。そんな感じ。
だからというか、こんな風に梨華にいろいろと選んでもらうのも嫌じゃない。
自分1人だと絶対にできないことだし、女の子っぽくて好きだ。
「梨華ちゃん良いよねー
女の子っぽければとりあえず何でも似合うし」
言うつもりはなかったのだが、思わず口から漏れていたようだ。
「よっすぃーそれって誉めてるのー?」
梨華は梨華で、たまには吉澤のような格好良い女性といったスタイルに憧れることも
あって、素直には喜べない。
そんな2人が並んで歩くと、とてもバランスの取れた組み合わせになるから不思議だ。

405 :チャーミー剣士:2001/06/12(火) 22:16 ID:OQUPx1nc
服選びも軽く1時間を超えたあたりで、珍しいこともあったもので梨華の方からこの
作業を打ち切った。
「ダメよ、よっすぃー
今日はもっと別の目的があるんだからっ」
梨華なりに後藤のことを気にしての決断だろうが、それでも1時間だ。
吉澤はいろいろと複雑な思いを抱きながら苦笑いで対応する。
「いや、梨華ちゃん
立ち止まったのもあーたでしょ」
「あれ?そうだっけ??」
本当に忘れていたようで、梨華は不思議そうな顔をする。
「こーいう時はとってもポジティブ・・・」
梨華は笑いながら、そして吉澤は少し呆れながら2人して歩き出す。
学生は休みでも世間的には平日であるため、デパート内は混雑するほどではなく並んで
歩いても人を避けるようなことは滅多にない。

2人は次に本屋へとやってきた。
今までずっと健康に過ごしてきた梨華には分からない感覚だが、入院してベッドで寝る
ということは予想以上に暇らしい。
昔、足の怪我だか何かで吉澤が1週間くらい入院したときも、確かにそんなことを言っ
ていたような気がする。
「後藤さん漫画とか読まないよねぇ」
少女漫画のコーナーを一通り見てみたが、特に目を引くものはなかった。
元々梨華も漫画を読むほうじゃないため、自分のオススメというものもないし、何が
面白いのかなんて分かりようがない。
吉澤の方はコアではないにしても漫画好きで、気になった本を手にとったりといろいろ
物色していたが、いざ後藤へのお見舞いとなるとやはり思い浮かばないようだった。

406 :チャーミー剣士:2001/06/12(火) 22:16 ID:OQUPx1nc
「提案した私が言うのもなんだけど
本は失敗だったねー」
目の前に置かれたコップから伸びるストローを加えながら、吉澤が言った。
小説、エッセイ、果ては何かの写真集まで店内を探し回ったが、やはり「これ!」と
言えるだけの本は見つからなかった。
洋服を見る分にはどれだけ時間をかけても疲れを見せない梨華も、今度はさすがに疲れ
たようだ。
30分もたたずに音を上げた2人は、隣にあった喫茶店で休んでいた。
「後藤さんがどんな人かもまだ分かんないのに
どんな本が好きかなんて分かりっこないもんね・・・」
梨華の前にも吉澤と同じアイスコーヒーが置かれていた。
たっぷりとミルクを入れて白くなったコーヒーをぐっと飲み込む。
喉の奥に広がっていく冷たさが心地よかった。
「これはもう、それこそあれだよ」
どうにもとれない表現で話し掛けてくる吉澤に何と言って良いのか分からないが、取り
あえず目だけで返事をした。
「花しかない!
きれーな花で後藤さんの心をゲットしよう!」
心をゲットだとか分からない話は抜きにして、花しかないというのは納得できる。
結局お見舞いに持って行くものナンバー1のものになってしまうが、それでも使えない
別の何かを送るよりは良いに違いない。
「やっぱりお花が一番安心かな?」
「うん、安心かなぁ
私だったら食べ物とかで嬉しいけど」
「へ?食べ物?」
今まで考えもしなかったことだが、確かに食べ物はよくお見舞いに使われるような気
がする。
花と同率一位じゃないだろうか?

407 :チャーミー剣士:2001/06/12(火) 22:17 ID:OQUPx1nc
「食べ物かぁ、それ良いね!
食べ物にしよっかな」
「ベーグル?」
「いや、それは分からないけど・・・」
後藤が相手だと、何を持って行くにしても難しくなってしまう。
どんな花が好きなのか、どんな食べ物が好きなのか。予想すらできない。
そう考えると不思議な人だと思うが、なんとなくだけど逆に何をあげても心の中では
喜んでくれそうな気がした。
「気持ちが大事よね、よっすぃー」
梨華は問い掛けるようにそう言うと、少しいたずらっぽい笑顔を見せた。
「うんうん!
気持ちが大事!
梨華ちゃんならだーいじょうぶっ」
吉澤も笑顔で答えると、2人はもう一度顔を見合わせて笑う。
2人の間の決め事というか、何か問題が解決するたびに同じことをしてきた、一種の
合図みたいなもの。
これで悩みも無くなったね?というお互いの気持ちだった。

それから、2人はしばらくデパートの中を無駄に動き回った。
梨華としてはもう用もなくなったから帰ろうとしていたのだが、吉澤の
「まだ外は暑いよー
夕方までガンバロウよ」
という言葉で今まで時間を潰していたのだった。
空はそろそろオレンジ色に変わる頃で、外に出ないと分からないがさすがに吉澤でも
文句は言わないくらいの温度じゃないだろうか。
そう思って梨華は吉澤に言った。
「そろそろ帰るか!よっすぃー!」
「おうよ!」

408 :チャーミー剣士(休憩):2001/06/12(火) 22:17 ID:OQUPx1nc
更新です
この辺は少しいしよし風味が強いと思います
やっと2人の絡みを書けたという感じです・・・

>>398さん
すいません
6号目なのは作者の体力の方でした・・・

更新、もう少し頑張ります

409 :名無し娘。:2001/06/13(水) 16:09 ID:c1JjdY16
good job!!

410 :名無し娘。:2001/06/14(木) 09:03 ID:V3GQcCbY
(・∀・)イイ!

411 :ポルノ:2001/06/14(木) 13:53 ID:S/UuP.jk
矢口が気になる・・・・。

412 :名無し娘。:2001/06/16(土) 09:08 ID:U8qB6jgM
ホゼムー

413 :ポルノ:2001/06/17(日) 15:30 ID:T0LYMSdQ
保全。

414 :名無し娘。:2001/06/19(火) 00:36 ID:NwWxQJik
ほぜーん

415 :名無し娘。:2001/06/20(水) 02:34 ID:dVzS9zfs



416 :名無し娘。:2001/06/21(木) 05:21 ID:vzup6Czc

 。

417 :ポルノ:2001/06/22(金) 16:01 ID:bLejaGiQ
こんなに空くのは珍しいな・・・
まあ、のんびりやってくださいな

418 :名無し娘。:2001/06/22(金) 19:16 ID:UieqXS1s
もしや、作者さんの体力が、6合目から土砂崩れを起こして
大変なことに…。お体には気を付けて。保全

419 :名無し娘。:2001/06/23(土) 02:59 ID:uL5AXchM


420 :名無し娘。:2001/06/23(土) 03:00 ID:xWukn0rM


421 :名無し娘。:2001/06/23(土) 13:10 ID:qzOhj7T.


422 :名無し娘。:2001/06/24(日) 00:22 ID:KCjq8fFk
( `.∀´)<保全よッ!

423 :名無し娘。:2001/06/25(月) 01:29 ID:2H7VaA.k
…そろそろ催促しちゃってもいい?

424 :ポルノ:2001/06/25(月) 18:19 ID:LTq2qQuw
保全。

425 :名無し娘。:2001/06/26(火) 19:45 ID:6mGWGRUA
保全

426 :チャーミー剣士:2001/06/26(火) 22:44 ID:W7k02VWU
つ、続きです

427 :チャーミー剣士:2001/06/26(火) 22:45 ID:W7k02VWU
2日後、梨華は再び病院の前に立っていた。
本当は昨日行きたかったのだが、自分でもよく分からない間に時間がなくなり、いつ
の間にか面会時間を過ぎてしまっていた。
右腕に抱えている少し大き目の袋の中には、先日の吉澤との買い物で決定したお菓子
と花が入っている。
「後藤さんいるかな?」
入院してるんだからいて当たり前なのだが、後藤のことだ。
何をしているか分からない。
少し不安になりながらも梨華は後藤の病室へ向かう。

「こんにちはぁ」
遠慮がちにドアから顔だけを覗かせて中の様子を見る。
だが、それも無意味だったようで、こちらを見ていた後藤としっかり目が合ってしま
った。
「あ、こんにちは」
もう一度言いながら、梨華は中へと入った。
後藤は相変わらず無口で、目だけ動かして梨華を観察している。
「後藤さん、具合はどう?」
後藤がこういうやり取りが嫌いなのは十分知っているつもりなのに、どう頑張っても
同じことを繰り返してしまう。
自分に少し呆れながら、後藤の顔をちらりと見てみると、やはり気分を損ねたようで
額にシワを作っていた。
「あ、あのね、お花持ってきたの
それからお菓子も・・・」
本当はもう少し引っ張るつもりだったのだが、会話が途切れたのが居心地悪くてつい
切り札的に使ってしまった。
心の中で「あーあ」とため息をつきながら、それでも周りを見てなにか花瓶でもない
かな?と探してみる。
「花瓶とかないかなぁ?」

428 :チャーミー剣士:2001/06/26(火) 22:45 ID:W7k02VWU
一通り見回してみると、前の患者の置き土産なのかこの部屋のオプションなのかは分
からないが、少し汚れたガラス製の花瓶が窓の横に立ってるのを見つけた。
「うーん、仕方ないかな」
手に取ろうかと少し迷うくらいのものだが、埃がかぶっているだけで洗えば普通に使
えそうだ。
「ちょっとこれ洗ってくるね」
後藤にそう言い残して、梨華は一度部屋を出る。

まだここに来て5分とたっていないのに、梨華は花瓶を持って洗い場へと向かっていた。
「慣れないなぁ・・・」
こういう時には、希美のような性格が羨ましくなる。
相手が身を引いていると、自分も身を引いてしまう梨華の性格だと、このまま永遠に後藤
とは仲良くなれないような気もする。
少し強引にでも後藤の心に踏み込まないと、と思ってはいるが実際は難しいものだ。
洗い場について、水道の蛇口をひねると、気持ちの良い冷たさの水が流れてきた。
いつもと変わらないといえば、変わらない。
吉澤は感情が顔に良く出るタイプだから、怒ったりするとすぐに分かって面白かったり
するのだが、後藤だとそうはいかない。
とにかく、何においても梨華がこれまで接してきた人間とはまったく違う性格の後藤には
まだまだ慣れることはなさそうだ。
「こんなものかな?」
いろいろと考えながらも手はしっかりと花瓶を洗っていた。
洗剤等は洗い場に無かったために使わなかったが、水で少し洗っただけでも見違える
ように奇麗になっていた。
とりあえず満足して、水を止める。
排水溝に流れていく水と、蛇口から流れてくる水滴を何とはなしに感慨深く眺めている
と、後ろから聞いたことのある声がした。
「はい、これ」

429 :チャーミー剣士:2001/06/26(火) 22:45 ID:W7k02VWU
はっとして振り向くと、そこには手に布巾を持った保田が立っていた。
「あ、保田さん。おはようございます」
「布巾ないでしょ?
これ使いなよ」
言われてはじめて、梨華は手に持っている花瓶がポタポタと水を落としていることに
気付いた。
「あ」
花瓶を洗ったのに拭くことを忘れている梨華を見て、保田は呆れたように少し笑うと
梨華の手に布巾を握らせた。
「ほらほら、早く拭かないと水滴が乾いて逆に汚くなっちゃうよ」
「は、はい!ありがとうございます」
保田から布巾を受け取ると、丁寧に拭き始める。
「後藤さん元気にしてる?」
暇なのか、保田は後ろに置いてある長椅子に腰掛けると質問を投げかけてきた。
「元気・・・だとは思います
けど、あんまり見分けがつかないから」
そう言って少し悲しげに笑う。
「何回も言って私おばさんみたいだけどさ
あの娘は石川さん来てくれて、喜んでるまではいかなくても
全然嫌だと思ってないはずだよ?
ちょっとね、少しだけど態度が変わるのよ」
「態度が・・・?」
「うん、はっきりとは分からないけどさ
あの娘、人を拒む壁というか、空間持ってるじゃん
それがさ、石川さんの前だとすこーし薄くなるのよ」
やけに抽象的な表現で分かりにくいが、保田の言いたいことは理解できた。
誰の前でも解くことのない後藤の壁。
自分にはそれが他人とどう違うかなんて分からないけど、保田が言うには壁が薄くなる
らしい。
少しとはいえ、喜ぶべきことだと思う。

430 :チャーミー剣士:2001/06/26(火) 22:45 ID:W7k02VWU
「こんなとこかな?」
すっかり奇麗になった花瓶を見て、保田の方へと向き直る。
「保田さんは今休憩なんですか?」
「休憩というか、サボりというか・・・
まあそんなとこかな」
いつもの人懐っこい笑顔で保田は答えた。
それから「あっ」と小さく声をあげて、椅子から立ちあがった。
「あのさ、ちょっと話があるから
後でナースステーションまで来てもらえないかな?」
「え?もしかしてまた後藤さんの病気のことですか・・・?」
また何かあったのではと思って、少し緊張して答えたが、違うのよとでも言うように
保田は首を振った。
「ううん、確かに後藤さんには関係あるけど
今度のは病気の話じゃないし、そんなに重大なことでもないから安心して」
それを聞いて梨華も安心する。
これ以上心臓がどうとかいう病気のことを言われると、頭がパンクしそうだ。
「あ、そうなんですか
それじゃあ、後でナースステーションに行きます」
梨華は笑顔で挨拶をすると、後藤の待つ病室へと引き返していった。
と、10mくらい歩いたところで「あっ!」というと急にこちらに向き直り、小走りで
戻ってきた。
「保田さん、これ
ありがとうございました!」
梨華は保田に布巾を返すと、にこっと一度笑って再び歩き出した。
「いい娘じゃない」
花瓶を持って歩いていく梨華を見ながら、保田は小さな声で呟いた。

「花瓶洗ってきたよ」
入るときに何を言おうか少し迷ったが、いきなり「ただいま」もないだろうし、普通に
入ることにした。
案の定というか、さっきの保田の言葉が信じられなくなるが、後藤はちらりと少しこち
らを向いただけで、口を開くことはなかった。

431 :チャーミー剣士:2001/06/26(火) 22:46 ID:W7k02VWU
「えっとね、私もお花はそんなに詳しくないんだけど
このオレンジ色のがガーベラと、えっと、うーん・・・
あ、そうそう!スプレーカーネーションっていうんだって!
で、この白くて可愛いのがカスミ草かな」
嬉しそうに話している梨華に、後藤もどう反応して良いのか分からないらしく、いつ
ものように怒った様子もなくただ話を聞いている。
「私、後藤さんの好みとか良く分からないけど
こんなので良かったのかな・・・?」
ひとしきり説明した後、梨華は少し小さな声で呟くように後藤に聞いてみた。
花とお菓子!と決めたのは良いけど、後藤が気に入らなかったらお見舞いの意味がなく
なってしまう。
ここに来るまでに何回も考えたことだが、結局は吉澤と最後に言っていた「気持ちが
大事」という言葉を信じて不安を消していた。
「・・・ああ、うん」
どっちとも取れない返事。
それでも、これが本当にいらないおせっかいなら、後藤のことだ。
回りくどい言い方はしないで、嫌なら嫌だと言うだろう。
自分に都合の良い考え方とも思ったが、真意は後藤本人しか分からない。
前向きに考えて、梨華は奇麗に彩られた花瓶を日の当たる窓際に置く。
「わあ・・・思ってたより全然奇麗・・・」
少し水に濡れた花が、日の光を浴びてキラキラと光っている。
その様子は一種幻想的で、持ってきた梨華でもこんなに奇麗なものだとは知らなかった。
「・・・」
後藤の方を振り返ると、少し目を輝かせて花を見ているような気がする。
さすがの後藤もこの光景は気分の良いものらしい。
文句も言わず、しばらくは花を見ていた。

432 :チャーミー剣士:2001/06/26(火) 22:46 ID:W7k02VWU
「あ、それとね」
梨華は持ってきた袋からもう1つ、小さな箱を取出した。
「お菓子もあるよ」
内心のドキドキを隠すように笑顔で言った。
後藤の前まで行って、梨華も椅子に腰掛ける。
そして、後藤に見せるようにしてベッドの上で箱を開けた。
「何にしようかなーって思ったけど、後藤さんの好みがあんまり分からなくて・・・
でも、これだと大丈夫じゃないかな、って」
ベッドの上で開けられた箱の中には、様々な形のクッキーが詰められていた。
お菓子屋で、いろいろと悩んでいたときに店員にアドバイスされたのだが、クッキー
はお見舞いに持っていくには一番安心らしい。
もちろん、病気によってはお菓子自体がダメなこともあるが、食事制限がない普通の
病気だと、ベッドで休みながら間食するといったことには都合が良いとのことだった。

「さあ、どうぞ」
目の前に広がるクッキーの甘い香りに、梨華は今にも手が出そうだったが、お見舞い
で持ってきた以上は先には食べられない。
後藤が普段見せる圧迫感が薄くなってきたと感じたのか、梨華も少し落ち着いて話が
できる状態になっていた。
後藤は少し戸惑っているようだったが、梨華に「はい」と直接渡されると受け取るしか
なかった。
仕方ないといった感じで、渡されたクッキーを口に運ぶ。
後藤が食べたことを見届けると、やっと自分も食べられると思ったのか、梨華が笑顔で
話しかけてきた。
「ね、私も1つもらってもいいかな・・・?」
「・・・ああ、いいよ」
クッキーは好きなのか、梨華に渡された1つにとどまらずに後藤も自分から箱に手を
入れてはクッキーを掴んでいた。

そのまま、2人で何を話すわけでもなくゆっくりとクッキーを味わった。
そして、箱が半分ほど空になったころ、梨華は後藤の口から思いがけない言葉を耳に
した。
「・・・ねえ」
「え?」
「・・・・・・ありがとう」
最後の方はほとんど聞き取れなかったが、それは間違いなく梨華に向けた感謝の言葉
だった。

433 :チャーミー剣士:2001/06/26(火) 22:46 ID:W7k02VWU
「んーと、ここで良かったかな?」
梨華の立っているドアの前には、ナースステーションと書かれたランプが点いている。
確か前に来たときもここだと思ったけど、病院の中にはいろいろと似たような場所が
あっていまいち確信がない。
「ここだよね?」
それでもずっとここに立っているだけだと時間の無駄なので、とりあえず中に入って
みることにした。
「すいませーん」
ドアを開けて中を覗いてみると、そこで雑談をしていた看護婦たちの目がいっせいに
梨華へと向けられた。
「ぅ・・・」
思わず小さくうめいてしまうが、喉の奥に力を入れてできるだけ大きな声で看護婦たち
に聞いてみた。
「あ、あの、保田さんにお話があって来たんですけれども・・・」
すると、奥のテーブルでジュースを飲んでいた看護婦が「ああ」と言ってこちらの方
へと歩いてきた。
「あなた石川さん?」
結構太目の30代前後といった感じの女性で、目の前に立たれると後藤とはまた違う
圧迫感を感じる。
「あ、はい」
「ごめんね、今保田さんちょっと患者さんの病室回ってるから
少し待っててもらえないかな?」
見た目に反して温厚な性格のその女性に多少驚きながら、梨華は素直に待たせてもら
うことにした。
大きな女性に自分の隣に座るように言われて、梨華は言われた通りに腰を下ろす。
「あなたあの後藤さんのお友達なんだよね?」
保田から聞いていたのか、その女性は手に持ったジュースを飲みながら言う。
(モコモコしてる・・・)
口には出さないが、その女性の動きが少し可愛くみえて梨華は思わず笑顔になる。
「あれ?どうしたの?」
不思議そうに、それでも可愛らしい動きの女性に梨華は首を振って答えた。
「あ、いいえ!
でも、友達なのかなぁ、私・・・」
梨華の曖昧な答えに、その女性はさらに不思議そうに首を傾けた。

434 :チャーミー剣士:2001/06/26(火) 22:53 ID:kDGQNYDs
「ふぅ、ただいま帰りましたぁー」
そこへ、疲れた様子で保田が帰ってきた。
手には片手ではもちきれない量のカルテを抱えている。
「保田さーん、石川さん来てるわよ」
隣で大きな女性が大きな声で保田を呼んだ。
言われてやっと気付いたのか、保田も梨華を見つけると「あ、ごめーん!」と言いなが
ら梨華の前にあるテーブルにどさっとカルテを置く。
「はぁ!疲れた!」
うなだれるように梨華の前の椅子に座り込むと、腕をマッサージしながら言った。
「もうほんっと大変なんだからー
石川さん間違っても看護婦になろうなんて思っちゃダメよ」
「ほんとそうよね
私みたいにおっきくないと看護婦なんか勤まらないわよ!」
保田の言葉に、梨華の隣の大きな女性が同意する。
確かにこの女性なら保田が持っていたカルテも軽々と運べそうだ。
「大変なんですね」
よく見た目よりも重労働な仕事だと聞くが、想像以上にきついようだ。
「うん、これじゃ彼氏なんて無理無理!
できっこないよ」
はぁ、とため息をつきながらも笑って話す保田に戸惑いつつ、梨華も笑顔を返した。

「あ、そうそう
で、話なんだけどさ」
保田は急に顔を上げると、梨華をまっすぐに見つめる。
「あ、はい」
「ちょっと不思議なことがあったのよ」
「不思議なこと・・・?」
今度は梨華が首をかしげて保田の言葉を待つ。
「後藤さんにさ、昨日かな?
石川さんくらいの娘がお見舞いに来たのよ」

435 :チャーミー剣士(休憩):2001/06/26(火) 22:53 ID:kDGQNYDs
更新です・・・
すいません。とんでもなく遅くなってしまいました。
最近あまりにも忙しくてなかなか時間が無いです・・・
今日は思いがけず3時間以上暇になったので続きが書けました

なんとか早め早めに更新したいと思ってますので
最後まで読んでもらえると嬉しいです・・・
>>418さん
ご心配ありがとうございます
体は特になんともないです
>>423さん
すいません
間が空いちゃったらどんどん催促してください
実は今日ここまで進んだのもこういう励ましのおかげだったりするので・・・

436 :名無しさん。:2001/06/27(水) 01:35 ID:mGJXdTnw

思いがけず3時間の暇……。
自分なんて9時―5時の仕事以外はほとんど暇……。
こんなヤツに言われてもしょーがないだろーど、
作者さんがむばって!!

437 :名無し娘。:2001/06/27(水) 02:08 ID:fs4zt.KQ
チャーミー剣士さん、また読めてうれしいです。
貴重な時間を小説に費やしてくれてありがとう!

438 :名無し娘。:2001/06/27(水) 07:08 ID:B9EcrBGs
やたっ!更新マンセー!

439 :名無し娘。:2001/06/27(水) 13:45 ID:Qc5Aq0ZA
更新うれしい限りです。気にせず気長に書いとくれ。

440 :名無し娘。:2001/06/28(木) 04:05 ID:gC9UfzSM
後藤が少し心を開いてくれたね。よかったよかった

441 :ポルノ:2001/06/28(木) 12:43 ID:ZeJlKNF2
ついに矢口の行動が分かるのかな?
更新期待。

442 :名無し娘。:2001/06/30(土) 12:39 ID:lWs06RYs
hozen

443 :くそったれ娘、:2001/07/01(日) 00:43 ID:S3LrEHDA
( ´D`)y-~~<晒しage

444 :名無し娘。:2001/07/02(月) 01:19 ID:qBFvrrrY
ごまいし風味…くぅぅ〜っ。

445 :名無し娘。:2001/07/02(月) 15:53 ID:3e8Qj7z6
hozen

446 :チャーミー剣士:2001/07/03(火) 22:16 ID:FAkIxQdg
続きです

447 :チャーミー剣士:2001/07/03(火) 22:16 ID:FAkIxQdg
「え?」
後藤にお見舞い?
誰だろう、と考えてみるが分からない。
別に、後藤に同年代の友達がいないとは聞いてないし、普通は入院した友達のお見舞い
に行くなんてことは当たり前だ。
そう思うとそんなに不思議なことでもないようだが、これまでに何度も患者のお見舞い
に来る人を見てきた保田には不思議な訪問者だったらしい。
「えっとね金髪で小さい娘だったんだけど・・・」
それだけで、梨華にはそれが誰だか分かった。
「あ!その人・・・」
「え?石川さんの知ってる人なの?」
(矢口さんしかいないよね・・・)
知り合いといえば知り合いだが、本当にただお互いに顔を知ってるだけの関係。
それをどう説明して良いのかは分からないが、とりあえず知り合い以上で友達未満とでも
言っておくべきだろうか。
「ええと、知ってる人なのは間違いないですけど
同じ学校で、何回か会ったことがあるだけで・・・」

あれ?これってどこかで見たことあるぞ?
そう思って良く思い出してみると、そっくりそのままあの時の梨華だった。
最初に後藤のことを聞いたときの梨華の言葉。
『あの・・・でも私お友達とかそういう関係じゃあ・・・』
後藤とも友達じゃなければ、今回お見舞いに来た娘とも友達じゃない。
石川ってつくづく微妙なトコロに立ってるんだなぁ、と思って梨華を見つめる。
(ま、でもこの娘なら大丈夫でしょ)
頼りなさげに見えるけど、芯は太くて強い心を持っている。
見習いとはいえ、看護婦の自分が言ってるんだから間違いはないはずだ。

448 :チャーミー剣士:2001/07/03(火) 22:17 ID:FAkIxQdg
「あの、それで・・・」
見つめられたっきり急に黙り込んだ保田だったが、梨華に言われて正気に返る。
「あ、ごめんなさい
ちょっと石川さんがドラマか何かの登場人物に見えちゃって」
保田はそう言って「あははっ」と少し大袈裟に笑った。
意味は分からないが、笑われているのは確かなので梨華はとりあえず反論しておく。
「なんだか良く分からないけどひっどいなぁ」
「あははっ、ごめんごめん
だって石川さんってすごく微妙なんだもん」
微妙という言葉がまた梨華を混乱させるが、これ以上文句も言えないので素直に話を
聞いてみることにした。
「まだちょっと引っかかるけど・・・
まあ、それは置いといて、その人がどうしたんでしょうか?」
「あ、うん
とりあえず、その人の名前って分かるかな?」
まだ顔は緩んでいたが、やっと真顔になって保田は質問をしてきた。
「えっと、矢口さんっていう人だと思います」
保田の話だと、金髪で小さな自分くらいの娘としか聞いてないから断言できるわけでは
ないが、まず矢口で間違いないだろう。
「あの、その人って髪を横に2つに分けてて
厚底はいてて、今時の女子高生っていう感じじゃないですか?」
これも結局は梨華の見た矢口像でしかないのだが、イメージでなんとなく分かってもら
えるだろう。
「ああ!」と言って手を叩く保田を見ても間違いはなさそうだ。
「そうそう、『ていうかぁ?』って言いそうな感じの娘だったよ
外見に似合わず言葉使いはすっごく丁寧だったって知り合いの看護婦さんが誉めてた」
『ていうかぁ』が今時の女子高生のバロメータだと思い込んでいる保田を見てると、年
の差を感じずにはいられないが、確かに印象はその通りだと思う。

449 :チャーミー剣士:2001/07/03(火) 22:17 ID:FAkIxQdg
「それでね、その娘がちょっと不思議な娘だったのよ」
不思議という言葉を強調するためか、保田はいかにも不思議そうな表情を見せる。
「不思議・・・」
「うん、私も何て説明すれば良いのか分かんないけどさ
そうだなぁ・・・
私が見ても友達同士って感じじゃなかったのよね」
そうだろうな、と思う。
あの時、廃ビルで聞いた2人の会話を思い出してみても、2人が友達同士だなんてこと
は考えられない。
「よくさ、授業のノートを届ける人を決めるじゃんけんとかで
負けて、とも思ったけどそんな感じじゃないし
しかもそれって女の子だと有り得ない話だしねー」
「あ、矢口さんって3年生なんですよ
だからあんまり学校とは関係ないんじゃないかな・・・?」
「ええっ!?そうなの?
見た目からして同級生か、もしかしたら2人の方が年上かと思ってた・・・」
10人いたらほとんどの人はそう思うだろう。
事実、矢口によく懐いている吉澤と2人でいるところを見ても、吉澤の方が年下だと
は普通考えないと思う。
「はぁー、そうだったんだ・・・
あ、それでね、その娘が来てから後藤さんの様子が少し変なのよ」
3人の複雑な関係や、矢口のキャラクターのおかげで話が中々核心に触れないが、これ
は仕方がないかもしれない。
梨華自身でさえ、自分の周りで起こっていることが理解できずに混乱しているというの
に、ほとんど何も知らない保田にとっては疑問だらけであるはずだ。
説明しようとして、新しい疑問が湧いてくる。その繰り返しだった。

450 :チャーミー剣士:2001/07/03(火) 22:17 ID:FAkIxQdg
保田の話をまとめるとこうだ。
矢口が訪ねてくる前は、保田を初めとした看護婦に対して必要以上に後藤が口を開く
ことは決してなかった。
病気の説明をしたときもただ黙って聞いていて、そのままベッドに寝転んでしまう。
そんな感じだったから、いい加減積極的に自分から後藤に話しかける人も少なくなって
いた。
また、保田はまだ見習いの身だが、それと同時に患者を選べる立場でもない。
そういう経緯から、自然と後藤の担当は保田ということになっていったそうだ。
だから、保田は特に口は聞かないものの、後藤の顔は毎日見ていた。
後藤の様子は梨華が訪ねてきたときも同じで、確かに梨華の言っていたように2人は
親しい友人には見えなかったらしい。
ここで、保田は一呼吸置いて梨華に「ごめんね」と言った。
とにかく、梨華がここに来るようになってからも後藤の様子は変わることはなかった。
病院側としては、身元不明の後藤をいつまでも置いておけるほどの余裕もなく、どうに
かして親族を探しているのだが、それも上手くはいっていないらしい。
後藤が入院してからすでに1週間以上は経っている。
確かに病院から見たらそろそろ限界だろう。
それから、しばらくして矢口が後藤のもとへと現れた。
矢口が後藤と面会している間は、邪魔をしちゃ悪いと思って保田は病室に入らずに自分の
仕事をしていたらしい。
ドアの前を通ることはあったが、とても友達が訪ねてきたとは思えないくらい静かだった
そうだ。
「まあ、後藤さんなら仕方ないと思ったんだけどね」
そう言って笑った保田が印象的だった。
そして、思ったよりも早く、1時間程度で矢口は帰った。
帰り際に受付の看護婦に一言挨拶する丁寧さから、見た目以上に看護婦の中では評判が
良かったそうだ。

451 :チャーミー剣士:2001/07/03(火) 22:17 ID:FAkIxQdg
「でもね、後藤さんなんだけど
その矢口さんが帰ってから少し変なのよ」
「変?」
首をかしげる梨華に、保田は答える。
「急に、しかも自分からよ?
私に話しかけてきたの」
その時の驚きを再現するように、保田は両肩を大きく上げた。
「それがさ・・・
この病気は治るのか?って」
「そう聞いてきたんですか?」
「そう」
矢口が帰った後になって急に病気の心配をするなんて、確かに不思議なことだ。
「私も困っちゃったけどさ
後藤さん相手だと、下手なこと言っても信頼されないと思って
本当のこと全部言ったのよ
たぶん治らないけど、病気としては軽いから日常生活に支障はないって」
後藤相手に「きっと治るから心配しないで!」とは確かに言いづらいが、たぶん治ら
ないと言えてしまう保田の性格はすごいと思う。
「そのこと後で先生に言ったらすっごい怒られちゃってさ
病気のことを話すときは主治医に連絡しろ!って」
特に悪かったという様子もなく笑っている保田に呆れながらも、梨華は後藤の変化が
気になった。
普通に考えて、後藤を襲ったのは矢口と見て間違いないだろう。
肩に残る痛々しい傷が矢口によってつけられたものなら、それは許されないことだ。
でも、そこまでした後にわざわざ病院にまで来るだろうか?と考えると、悩んでしまう。
矢口の性格を把握しているわけではないが、ただ後藤に会いに来るためだけに病院に
来ることはなさそうだ。
(後藤さんに聞いてみるしかないのかなぁ・・・)
気は引けたが、梨華は後藤の病室に戻ってみることにした。

452 :チャーミー剣士:2001/07/03(火) 22:18 ID:FAkIxQdg
帰ったと思っていた梨華が戻ってきたことに、後藤は少し驚いたようだった。
「・・・なに?」
ベッドの上にはクッキーの箱がまだ空けられていた。
よほど気に入ってもらえたのか、まだつまんでいたようだ。
自分で持ってきたのか、ベッドの隣に置いてある棚の上にはお茶があった。
「あ、それ美味しかったよねぇ
また今度持ってくるよ」
梨華は嬉しくなり、後藤の隣に座り込む。
少し嫌な顔をしたが、後藤も文句を言うことはなかった。
「あのね、ちょっと後藤さんに聞きたいことがあるの・・・」
後藤の頭の上にハテナマークが浮かぶのが分かったが、梨華は構わずに続ける。
「この前、ここに矢口さんが来たんだよね?」
「!」
梨華の口から矢口という名前が出てくるなんて全く予想していなかったに違いない。
明らかに後藤が身構えるのが分かった。
「なんで?」
知ってるの?と言いたいのだろう。
「あの、今保田さんから聞いちゃって・・・」
梨華が戸惑いながら答えると、後藤は小さく舌打ちした。
「・・・あいつ」
保田のことを言っているのだろう。
何で言ったんだ?黙ってればいいのに。
そんな顔をして、もう一度梨華の方を向く。
「・・・来たよ、確かに
で、それでどうしたの?」
開き直るとはまた違うようだが、とにかく梨華とこの話をするのはやめたいらしい。
見るからに不機嫌になっているのが分かる。

453 :チャーミー剣士(休憩):2001/07/03(火) 22:18 ID:FAkIxQdg
更新です
1週間たってしまいました・・・
そろそろ後藤と矢口の関係が明らかに、です
真希ちゃん真里ちゃんの仲だったのに今ではその影もない2人。
そして、梨華ちゃんよっすぃーの今でも親友の2人。
正反対だけど、良く似た関係なんです・・・

454 :名無し娘。:2001/07/04(水) 22:24 ID:gOV5IO7c
祝更新sage

455 :名無し娘。:2001/07/05(木) 02:36 ID:pkbeFWtU
いしよし好きだけど、ここではいしごまの方が萌える。

456 :ポルノ:2001/07/05(木) 19:58 ID:kBY6ZdrE
ゴトーと矢口、昔の関係に戻ってくれんのかな?
更新期待sageデス

457 :チャーミー剣士:2001/07/07(土) 01:12 ID:TyVmXvgo
続きです

458 :チャーミー剣士:2001/07/07(土) 01:12 ID:TyVmXvgo
「あの、矢口さんお見舞いに来たの・・・?」
そうじゃないことは予想できていたが、あえてお見舞いという言葉を使う。
すると、後藤から返ってきた答えは意外なものだった。
「前・・・ビルで先輩と話してるの聞いてたんでしょ?」
「えっ?」
「言ってたんだよ
あいつが。聞かれたって」
気付かれてた?
あの時、確認はしなかったけど見つかっているはずはなかった。
矢口がドアを開けてから、自分が路地の角を曲がるまでに気付くわけがないと思って
いたのだが、それは甘い考えだったのだろうか。
「あ、あの・・・それは・・・」
後藤がそう言っている以上、矢口に見つかっていたのは確かなのだろう。
だが、それをどう説明していいか分からない。
「別に良いよ・・・
どうせそのうちあいつが自分から言うんだから」
梨華の方は見ずに、ただ前を見て話す、いつもの後藤。
いつの間にか開けられていた窓からは、夏の暑い熱気とともに少し冷たい風が流れこ
んでいた。
ちょうど窓の外に立っている大樹のおかげなのだろうが、心地良い樹の香りも手伝って
そう暑い気はしない。
「ごめんなさい・・・
話を聞くつもりはなかったの・・・
ただ、矢口さんが気になって・・・」
梨華は下を向いて、小さな声で言った。
今になって、自分がどれだけ馬鹿げたことをしていたのかと思うと恥ずかしくて後藤
と顔を合わせられない。
「良いって言ってるだろ・・・
それよりさ」
少し言葉に刺が出てきたが、後藤自身もなんとかそれを抑えようとしていた。
自分の欠点。
短気というか、はっきりしない人を見るとどうしようもなくイライラする。
マルかバツか。それだけで良いのに、何で前後にいらない言葉を付けるのか。
ただ、それでいちいち頭に血が上る自分はもっと嫌だった。

459 :チャーミー剣士:2001/07/07(土) 01:12 ID:TyVmXvgo
「あんた、先輩とどういう関係?」
先ほどから言っている先輩とはもちろん矢口のことなのだが、梨華自身が普段は矢口
さんと言っていることと、彼女の容姿から考えてどうもピンとこない。
先輩と聞いてからああ矢口さんだ、と出てくるまでに時間がかかってしまう。
「関係・・・?
私と矢口さんはお互い顔を知ってるだけだよ?」
梨華は素直に答えたつもりだったが、後藤にはそれが不服だったらしく、もう一度
小さく舌打ちをした。
「・・・」
それから何かを考えていたようだったが、しばらくして口を開く。
「・・・ま、いいけど」
今の後藤を見て、梨華はついさっき保田に言われた言葉を思い出した。
確かに、いつもと違うかもしれない。
同じだと思って見ると同じだが、一度でも違和感を感じてしまうとそこしか見えなく
なってしまった。
いつも以上に良く話す気がする。
保田に自分から声をかけるくらいだからその通りなのだろうが、まさか後藤から矢口
との関係を聞かれるとは思いもしないことだった。
それと同時に、梨華はある1つの疑問がしだいに大きくなっていくことも感じていた。

後藤と矢口はどういう関係なのか?
何かあるたびにこの2人は繋がっている。
お互いにそこまで相手を意識する理由というのが全く分からなかった。
「後藤さん」
後藤が、梨華と矢口の関係を知りたがっていたように、梨華も2人の関係が特に気に
なっていた。
後藤を潰すと言っていた矢口の言葉。
そして、実際に誰かに襲われた後藤。
梨華の中で何かが動き出した。

460 :チャーミー剣士:2001/07/07(土) 01:13 ID:TyVmXvgo
「後藤さんと矢口さんって・・・
その、どういう関係なの・・・?」
ずっと聞きたかったことだった。
あの時の2人の信じられない会話を聞かなければ、こんなことを疑問に思うこともな
かっただろう。
後藤が何か大変なことに巻き込まれているような気がした。
遠くで鳴いていたセミの声も一瞬途切れたようで、病室の中が昼間特有の静寂に包ま
れる。
「・・・それは・・・」
きっと怒るだろう。そう思っていたのだが、意外にも後藤は返答に戸惑っていた。
それほど深い事情があるのか、それとも別の理由があるのか。
相変わらず前を見つめたままで、ぴくりとも動かない。
再びうるさく鳴き始めたセミの声と、急に吹き込んできた風になびいているカーテン
が妙に存在感を強調していた。
「それは・・・」
後藤はもう一度そう呟くと、ふいに梨華の方に顔を動かした。
梨華の目を覗きこんで、そして、また目を背けてから言葉を吐き出した。
「言えない・・・」
後藤の手を見ると、シーツをしっかりと握っていた。
梨華の勝手な解釈だが、言いたくても言えない。そんな感じだった。
「言えないって・・・
そう・・・なんだ・・・」
それじゃ納得できない。教えて欲しい。
そう思っても、梨華にはそれを後藤に伝える術はなかった。
言いたくないというなら、言わなくてもいい。
後藤なりに考えて、それで出した結論なら梨華には何も言う権利はなかった。
また、この四角い部屋の中が沈黙に包まれる。
中で起こっていることが分かっているかのように、セミも息を潜めていた。

461 :チャーミー剣士:2001/07/07(土) 01:13 ID:TyVmXvgo
「言いたくないのよ」
何を言って良いのか分からず、頭の中でいろいろと言葉を探っていたときに後藤が口
を開いた。
「えっ?」
少し驚きながら後藤の方を見ると、後藤は顔をうなだれるようにして下を向いていた。
その表情はいつもとは明らかに変わっている。
影が射すように暗く、力がない。
「・・・今はまだ・・・
言いたくない」
やっぱり、おかしい。
これまでとは全く違う梨華に対する後藤の態度。
キーワードが矢口であることは分かりきっているが、後藤はその矢口と自分がどんな
関係なのかは言えないと言う。
それに、何よりも元気がないのが気になる。
さっき、最初はおいしそうにクッキーも食べてくれた。
「・・・それに」
後藤はまだ先を続けた。
「これ以上聞くと・・・
また、あんたも、巻き込まれる・・・」
「・・・また?」
巻き込まれるということよりも、梨華には『また』という言葉の方が気になった。
何が『また』なんだろう。
「後藤さん・・・
それって・・・あの、矢口さんのせいなの?」
後藤の肩に巻かれた包帯の辺りを指差した。
その問いにも、後藤は答えることはなく、ただ「言えない」と繰り返すのみだった。

462 :チャーミー剣士:2001/07/07(土) 01:13 ID:TyVmXvgo
帰り道。
思わぬ時間をとったためか、空は夕焼けを通り越して星が光っていた。
夏休みだというのに、駅には制服を着た学生が多く見られる。
そのほとんどは友達と笑いながらおしゃべりをしているだけだが、中にはベンチに
座り込んで1人で参考書を読みふけっている人もいた。
あれから、梨華が帰ろうと立ち上がったときに、後藤が最後に言った言葉。
「言ったら、たぶん・・・私が嫌いになるよ」
矢口と自分の関係を話すと、梨華は自分を嫌いなるはずだ。
だから言えない。
そう、自虐的に呟いた。
それを聞いて、梨華は一瞬で頭に血が上って、後藤に向かって叫んでいた。
「そんなことない!
なんで!?私が後藤さんのこと嫌いになるわけないよ!
なんでそんなことが言えるの!?」
後藤は突然怒り出した梨華を見て驚いていた。
泣きそうになりながら、体全体で子供を叱るように話す梨華を、後藤はただ黙って見て
いるしかなかった。
「後藤さん、もう少し・・・
頼りないけどさ・・・私を信じて」
後藤の顔は見ていないが、シーツを握っていた手にさらに力が入ったのは分かった。

切符を買って、ホームに上がって電車を待つ。
「矢口さん・・・」
どうやら、後藤と矢口は想像以上に深く関係しているようだ。
矢口は知っているのだろうか?
後藤が入院しているのは肩の傷のせいではない。
そのことを知っているのか。
唇をかみ締めて、梨華は携帯を取出した。
ピッピッ・・・
画面に『よっすぃー』と出たところで指を止め、そして通話ボタンを押した。

463 :チャーミー剣士(休憩):2001/07/07(土) 01:14 ID:TyVmXvgo
更新です
何とか今週のうちに更新できました
忙しさもなんとか山を越えたと思うので、今後は以前のペースに
戻ることができそうです・・・

矢口と梨華、後藤と吉澤をどの時点で絡ませるか
悩みどころです・・・

464 :名無し娘。:2001/07/07(土) 01:59 ID:xynLCXRY
>>461 『また』ってことはやっぱりあれは矢口なのか。

465 :名無し娘。:2001/07/07(土) 02:26 ID:YK7vYgGQ
なんか、無愛想な後藤が「マリア」のキャラとかぶるね。

466 :名無し娘。:2001/07/08(日) 23:36 ID:H2GUL9Tw
期待してますホゼム

467 :チャーミー剣士:2001/07/09(月) 22:11 ID:LowHqEPc
続きです

468 :チャーミー剣士:2001/07/09(月) 22:12 ID:LowHqEPc
――
「それってやっぱり矢口さん・・・なのかな?」
「だって、それ以外に考えられないよ」
今日は特に蒸し暑かったようで、日が落ちても気温が下がった気がしない。
それどころか、夜になって湿度が高くなったのか外に出るだけで服が体にまとわりつく
ようで気持ち悪かった。
たまには吉澤を自分の部屋に呼びたかったのだが、やはり梨華の願いは「暑い」という
吉澤の一言で消えてなくなってしまった。
「矢口さんが・・・
信じられないよ」
クーラーの効いた吉澤の部屋で、2人はいつも通りの位置に座りこんで話していた。
「どっちかっていうとね
私は信じられるな・・・」
吉澤の枕を抱いて、ベッドの上にちょこんと座っている梨華が上目がちに言う。
矢口を気にいっている吉澤に言うのは確かに忍びない。
だが、もし本当に矢口が関わっていたなら吉澤にも注意してもらわないとダメだろう。
「梨華ちゃん・・・」
予想通り吉澤は何か言いたそうな顔をするが、梨華がこんなことで嘘は言わないことを
分かっているため、文句の1つも言えないようだ。
確かに、吉澤自身も矢口が本当はどんな人かなんてことはまだ分かってない、と思う。
普通に話しをして、家まで連れていってもらって、それでも梨華の話を聞くと矢口が
怪しく思えてしまう。
「後藤さん元気だった?」
ごまかすつもりはなかったのだが、別の質問を梨華に返してしまった。
「え?うん・・・
なんか、後藤さんも少し様子が変だったよ・・・」
「変?」

469 :チャーミー剣士:2001/07/09(月) 22:12 ID:LowHqEPc
「うん、なんていうか・・・
矢口さんのこと相当気にしてた」
梨華の言葉に、吉澤はしばらく考えるように黙っていたが、1つ小さく息を吐くと
梨華の目を見て言った。
「あのさ、私矢口さんの家で写真見つけたんだ」
写真?そんなことこの話に関係ないじゃない。そう思いながらも黙って話を聞く。
「そしたら、小さいころの矢口さんと後藤さんが一緒に写ってた」
「え?」
「5歳とか6歳とか、そのくらい小さい頃のなんだけど
2人ともすっごい仲良さそうだったよ」
後藤と矢口が仲良さそうに写真に写っていた。
それにも多少驚いたが、そんなに昔から2人が知り合いだったことにさらに驚く。
「昔からのお友達だったんだ・・・」
「うん、矢口さんは腐れ縁って言ってたけどね」
まるで私とよっすぃーみたい。そう思うと、今の2人の関係が信じられなかった。
幼稚園も同じだったような2人が、今ではお互いを傷つけるような関係にまでなって
いる。
こんなこと有り得るのだろうか。
「・・・でも、やっぱり矢口さんが・・・」
最後までは言わないが、梨華はぎゅっと持っている枕を抱きしめながら言う。
「・・・うん」

470 :チャーミー剣士:2001/07/09(月) 22:12 ID:LowHqEPc
「あーぁ!」
大きな声でわざとらしくため息をつくと、梨華はそのまま吉澤のベッドに倒れ込む。
「疲れちゃった!
もー眠い!」
いろいろと考えることに疲れてしまった。
どうせ、どれだけ考えても真実は後藤と矢口にしか分からないのだ。
「もう!
梨華ちゃん寝ないでよねー!
寝相悪いんだから」
「そんなお母さんみたいなこと言わないでよー
ああ、よっすぃー・・・僕はもう疲れたよ・・・一緒に眠ろう・・・」
「そんなこと言ってもダメ!
私パトラッシュじゃないし」
軽く切り捨てる吉澤に、梨華は口を尖らせて言う。
「冷たいな、そんなことで良いのぉ?
私よっすぃーとは親友だと思ってたのに・・・悲しい」
「んなこと言ってもね!
梨華ちゃん覚えてないかもしれないけど、前に脇腹思いっきり蹴られた時は
死ぬほど痛かったんだよ!?
起きてるならともかく、不意打ちは効くんだって!」
そういえば前にもそんなことを言っていたような気もするが、起きてる人に向かって
寝ている時のことを注意してもあまり意味が無いだろう。
痛さを思い出したのか、脇腹を押さえながら話している吉澤を見ると悪い気はするが
どうしようもないことだった。
「しかも梨華ちゃんいつの間にか足で私を挟んでるし・・・」
まだ何か言っているようだが、梨華はあえて聞こえないふりをした。
「どっちにしろ!」
眠いのは変わらないが、力を振り絞って立ち上がる。
「後藤さんたちの場合、ただの喧嘩じゃないんだよね」

471 :チャーミー剣士:2001/07/09(月) 22:13 ID:LowHqEPc
「喧嘩じゃ入院まで行かないって」
「だよねぇ」
梨華と吉澤の場合は、2人のタイプがまったく違うことが理由なのかは分からないが、
喧嘩という喧嘩はしたことがなかった。
大抵は悪ふざけで終わるし、吉澤の男っぽいけどのんびりしているという良く分から
ない性格だと怒ること自体がとても少ない。
梨華の方はというと、これはあまり良いことではないと思うのだが、怒りたくても周
りの空気や人を気にしすぎて怒ることができない人だった。
「喧嘩なんてしない方が幸せなのにねぇ」
そう呟く吉澤を見ると梨華も安心する。
「うん、良いことなんかないよ」
そう言って梨華は再びベッドに寝転んだ。
「だから、よっすぃーも怒ったりしないで、ね?」
「それとこれとは別でしょー」
吉澤を上手く誘導したつもりだったのに、またもや軽くあしらわれてしまった。
今度こそ梨華はすねたようで、吉澤の方をちらちらと見ながらベッドから起き上がる。
「・・・よっすぃー頑固だなぁ」
「頑固って・・・」
吉澤も呆れたような顔をするが、すぐに興味は別のことへと移行していく。
「実際、後藤さんと矢口さんってどんな関係だったのかな?」
「え?」
急に話が変わったためにすぐには対応しきれないが、そんな梨華には構わずに吉澤は
続けた。
「だってさぁ、普通そこまでするほど嫌いにはならないよね」
「うん、まあ・・・」
自分にそういう経験がないのはその通りだけど、どんなに苦手な人でもここまで憎む
ことが本当にできるのか?
2人は同じようなことを思っていた。

472 :チャーミー剣士:2001/07/09(月) 22:13 ID:LowHqEPc
――
「やっぱり、後藤さんに聞いてみよう・・・!」
今にも降ってきそうなほど、空には無数の星が光っていた。
まだまだ外は暑いが、たまに吹き抜ける風が気持ち良い。
ついさっき、吉澤の家を出るときは10時前だった。
梨華としては、本当に眠たかったこともあって吉澤のところに泊まることを結構本気
で考えていたのだが、結局1人で帰ることになってしまった。
こんな時間にかよわい乙女を外に出して良いの?と何度も言ったが効果なしで、なつ
いても構ってもらえない猫の気持ちが少し分かった。
ただ、こんな時間に外に出ることは冗談ではなく気味が悪い。
後藤が襲われて、自分も巻き込まれるかもしれないようなことを言われたのだ。
梨華ではなくても暗い夜道は恐いだろう。
「このままだと何にも進まないもんね」
幸いにも、今日の空は透き通るように奇麗で、星の光が眩しいほどだ。
夏の夜のちょうど良い散歩と考えれば気も紛れる。

後藤が何と言おうと、矢口との関係を聞き出す。
このままだと自分も辛いし、何よりも後藤が1人で全部抱え込んで潰れてしまうこと
が恐かった。
何もできないかもしれないし、逆に何か問題を起こすかもしれない。
それでも、それで後藤の負担が少しでも軽くなるのなら、後悔なんてするはずがない。
「明日も行ってみよっかな」
これで1歩でも進んだと思う。
月に励まされながら、梨華は静かとは言えない夜の道を歩いていた。

473 :チャーミー剣士(休憩):2001/07/09(月) 22:15 ID:LowHqEPc
更新です
自分で見返しても、この小説は心の動きを書くことが多いです
物語上、心を描くことのできない後藤や矢口は動作や言葉で
なんとか表現しようとしてます・・・
上手くいってるかはともかく、そろそろ後藤の背景が見えて
きます
期待してください
>>465さん
それ言われると言葉も出ないです
もし、これで後藤を白血病とかに設定してたらと思うと・・・
マリアはなるべく見ないようにします・・・

474 :名無し娘。:2001/07/11(水) 04:08 ID:f0n2uJGQ
後藤・矢口もうまく表現できているよ。続き期待。

475 :チャーミー剣士:2001/07/11(水) 23:17 ID:r5dhvrH.
続きです

476 :チャーミー剣士:2001/07/11(水) 23:17 ID:r5dhvrH.
――
翌日。久しぶりに訪れた黒い雲が空を覆い、今にも雨が落ちてきそうな天気だった。
たまにゴロゴロと雲の奥で雷が轟いている。
約束通り、と言って良いのかは分からないが、梨華は病院にいた。
右手にはピンク色の傘を持って、そろそろ見慣れてきた病院内を後藤の病室に向かっ
て歩いている。
「あ、石川さーん!」
と、遠くで梨華を呼ぶ声がした。
予想するまでもなく保田だと分かったが、なんとなく驚いたような顔をしてしまう。
「あ、保田さん」
保田は梨華が自分に気付いたことを確認すると、笑顔でゆっくりと近づいてきた。
「こんにちは」
「はい、こんにちは」
梨華が頭を下げると、保田もそれにならっておじぎする。
「あの・・・」
「あのね!ちょっとすごいことが起きたのよ!
聞いてもらえる?」
梨華が質問をする前に、保田は興奮したように大きな声で言った。
「は、はい」
圧倒されるように梨華が身を引きながら返事をすると、保田は1回「よし」とでも言う
ようにうなずいてみせて、梨華を近くにあったナースステーションへと誘導した。

「あのね、ちょっといきなり本題に触れるけど
石川さん、この前ここで矢口さんの話したよね?」
最初から核心を言ってもらうことは良いのだが、矢口も絡んでくるとは意外だった。
お見舞いに来た不思議な人だけでは片づけられない問題でも起こったのか、どうやら
今回は矢口に関係のある話のようだ。
「あ、はい」
「それでね、ちょっととんでもない話なんだけどさ」
そう言うと、わざと期待を持たせるように時間を置いて後を続けた。

477 :チャーミー剣士:2001/07/11(水) 23:18 ID:r5dhvrH.
「えっとね、言いにくいんだけど
後藤さんがこのままだと、入院費用とかでいろいろと面倒なことになる
・・・っていうのは分かってもらえてるよね?」
確認するように目で訴える保田に、梨華は黙ってうなずいた。
保田としても、本当に後藤を心配してお見舞いに来てくれる梨華に対して、こんな
ことは言いたくはないのだが、これから話すことを分かってもらうためには前置き
として理解してもらわなくてはいけなかった。
「それでさ、うちも相当困ってたんだよ
人を救うことが仕事の病院なのに、後藤さんを退院させようっていう話まで
出てきちゃって
ほんと恥ずかしいんだけど」
照れたように笑う保田の顔は、どこか悲しそうだったが、梨華はそれ以上に後藤が退院
させられるかもしれないという事実に驚いた。
「え!?
病院ってそんなこともやってるんですか・・・?」
素直に驚き、そして素直に非難をする梨華に、保田も本当に申し訳なさそうに言った。
「こんなこと、ほんとに石川さんには言いたくなかったよ・・・
自分で言ってても、こんなに恥ずかしい言葉ってないよね
世の中結局お金だって認めてるようなもんだしさ」
「いえ!そういう意味じゃあ・・・」
ただ驚いただけで、保田に文句を言うつもりは全然なかったために、保田に落ち込まれ
ると困ってしまう。
「あ、分かってるって
びっくりしたんでしょ?うん、私だってびっくりだもん
どっちにしてもとんでもない話だけどさ」

478 :チャーミー剣士:2001/07/11(水) 23:18 ID:r5dhvrH.
「あ、また話が飛んじゃってるね
いや、私だってパッパッと終わらせたいんだけど
かなりフクザツだから説明がどうしても長くなっちゃうんだよね・・・」
そう言って笑う保田は、すでにさっきの悲しい感じは見られない。
どうやら立ち直りも早いらしい。
「それでさ
昨日、石川さんが帰った後にとんでもないことが起こってさ」
早くとんでもないことの内容を言って欲しいが、そんな梨華をさらに焦らす
ように保田はゆっくりと後を続ける。
そして、それは梨華をさらに混乱させる内容だった。
「あのね、後藤さんの入院代、それから治療費・・・
とにかく全部を『矢口』っていう人が払ってくれるんだって!!」
「へ?」
考えもしなかったことで、頭に入ってそれを理解するまでに時間がかかるが、
保田の言った通りなのだろう。
「へ?って思うよねぇ!
なんで家族でもない人が他人の入院代を払うの?って」
矢口というのは、あの矢口のことなのだろうか?
それ以外には考えられないが、あの矢口が後藤の入院代を払う理由があるのだ
ろうか?
「あの、矢口さんって・・・」
「うん、お見舞いに来た矢口さんのお父さんだって
そのお父さんが後藤さんにかかる治療費はすべて負担しますって」
矢口の家に行った吉澤は、矢口はすごいお金持ちらしいとは聞いていたが、それ
とこれとは問題が別のような気がする。
後藤の肩の傷が矢口によるものなら、どうしてその治療にまで世話を焼くのか。
梨華の中での矢口イコール敵だという認識が、少し揺らいだ気がした。

479 :チャーミー剣士:2001/07/11(水) 23:18 ID:r5dhvrH.
コンコン、ガチャ
「こんにちは」
どうせノックしてもしなくても返事はないんだから、と思っても自分の癖なの
かつい手が出てしまう。
「あ・・・」
またいつも通りすぱっと流されるかな?
そう思っていたのだが、後藤は梨華を見て何かを言おうとしたようだ。
でも、それ以上は何も言わない。
「こんにちは
ごめんね、今日はてぶらなの」
梨華の方を見て何か言いたそうな後藤に、梨華は笑いながら今日はお土産がない
ことを告げる。
「いや、いいよ」
後藤がぶっきらぼうに答える姿を見て、梨華は思わずもう一度笑いそうになるが、
なんとか抑えて後藤の隣へと向かう。
「・・・今日は、何?」
昨日と今日、この2日間で後藤の様子は目に見えて変わったと思う。
梨華に対しても、以前のように突き放すことがなくなった。
後藤なりになんとかしようと頑張っているのが分かり、微笑ましい感じがする。
ただ、こんなことを口に出しては言えないが。
「うん、あのね
私、昨日家に帰ってからもずっと考えてたの
後藤さんと、矢口さんのこと・・・」
「・・・え?」
「やっぱり、話を聞かせて欲しいの
矢口さんってどんな人なのか、後藤さんとどういう関係なのか
それから・・・そしたら!
後藤さんのこともっと分かると思うの
ちゃんとしたお友達になれると思うの・・・」

誰かが自分のことを考えてくれる。
忘れていた感情だとか、そんな格好良いことを言うつもりなんか無い。
ただ、とても懐かしい感じ。
それだけ。
でも、それだけで十分だった。
この人なら。梨華になら話しても良いかもしれない。
そう思った。話してみよう。

480 :チャーミー剣士:2001/07/11(水) 23:18 ID:r5dhvrH.
「私はね・・・」
「え?」
「聞きたいんでしょ?
なんで先輩があんなにムキになってるか」
「う、うん!
聞きたいよ!」
こんなに簡単に教えてくれるとは思わなかった。
今日は後藤と口論してでも聞いてやる!と意気込んでいたために、逆にあっけ
ないくらいだ。
唐突なことで、梨華は何も話せなくなってしまった。
後藤の言葉をただ聞くしかない。
「私はね、いつからか知らないけど
両親がいなかった」
静かに、まるで独り言のように後藤は語り出した。
自分で思い出しながら、ゆっくりと言葉を選んで、おそらく誰にも言ったこと
のないだろうことを梨華に向けて話し出す。

そう、周りには誰もいなかった。
両親だけじゃない。親戚も、友達も。
だから・・・だからなのかは分からないけど、物心ついたときには孤児院に
いた。
笑えるよね、今のご時世に孤児院だって。
でもさ、それでも結構楽しかったよ。
全部で6人だったかな?ん?7人だったかも。
まあ、そんなのどうでも良いか。
とにかく、孤児院っていう響きよりは楽しく過ごしてたと思う。
他の子の名前なんて覚えてない。遊び相手に名前なんていらないもんだしさ。
そこにいれば良いんだよ。
でも、1人だけ。絶対に忘れられない人がいた。
そ、矢口真里。あいつのことはまあ忘れることはないんじゃない?

481 :チャーミー剣士(休憩):2001/07/11(水) 23:19 ID:r5dhvrH.
更新です
後藤の過去、その1です
疑問が一気に解決したと思います・・・

次も後藤の独白です
想像してみてください・・・

482 :名無し娘。:2001/07/12(木) 03:55 ID:KQ5.InY.
うむ、孤児院か
後藤は影のある感じが似合うね

483 :ポルノ:2001/07/13(金) 13:20 ID:1J.GG3Bc
後藤と矢口は孤児院で会ったのかあ。

どんどん謎がとけていくねえ。
更新期待。

484 :チャーミー剣士:2001/07/14(土) 01:00 ID:vQ9IM1VM
続きです

485 :チャーミー剣士:2001/07/14(土) 01:00 ID:vQ9IM1VM
実はさ、先輩もそこの孤児院にいたのよ。
私と一緒。両親がいないの。
びっくりするでしょ?今は金持ちのお嬢様なのに。
先輩と私はいつも一緒に遊んでた。周りから見ても姉妹みたいだって言われて
たよ。
あの頃は先輩のこと「お姉ちゃん」って呼んでたしね。
今になってこんなこと言いたくないけどさ・・・あの頃は楽しかった。
子供だから毎日遊ぶことだけ考えてれば生きていけたし。
でも、だんだんとそれができなくなってきた。
1年か、2年か。あの頃の時間の感覚なんて適当だからさ、どれくらいの間かは
さっぱり分からないけど、少しずつ変わっていったんだよ。
え?違うよ、私たちじゃなくて、私たちの・・・お母さんがね。
後で分かったことだけど、結局金がなかったんだよ。
私たちが大きくなって、わがまま言うようになって。それでも良い人だったか
らそれに答えてた。
でも良い人と良い親っていうのは全然違うんだよね。
あんまり叱れない人だから、私たちのわがままもどんどん酷くなった。
分かる?孤児院って言っておきながら、実際は普通の家族以上の生活をしてた
んだよ?
まあ、そう思ってたのは私たちだけだけど。
たまにサングラスかけたヤクザみたいな、今だったら笑えるけどその頃は恐か
ったよ、そんな変な男が来るのが不思議だったけどね。
そ、借金取り。
子供って無知なんだよ。不思議に思うけど、恐いけど、ただそれだけ。
後は分かるよね?
私たちのお母さんが壊れちゃったの。
ノイローゼっていうのか、あれだけ優しい人だったのに、子供が血を吐くまで
殴ったりしてるんだよ。
地獄だったよ。

486 :チャーミー剣士:2001/07/14(土) 01:00 ID:vQ9IM1VM
でも、完全に狂ってるわけじゃなかった。
ちゃんと、買い物にも行ってたし、御飯も作ってくれてた。
普通の人みたいに。
でも、何がきっかけだか分かんないけど、突然おかしくなっちゃう。
いつ、どこでそうなるか私たちには全然分からないからさ、みんなとにかく
あの人を刺激しないように静かにしてた。
子供が何人もいるのにみんな物音立てずに静かにしてんの。
気持ち悪いったらないよ。

で、結局私たちのお母さんはそのまま死んだ。
何が原因だったんだろうね。
気付いたときには動いてなかったよ。
それから、私たちはそれぞれ誰かに引き取られたりして、みんな離れていった。
私以外はね。
中には遠い親戚が見つかって引き取られた子もいたみたい。
でも、まあ期待はしてなかったけど、私にはやっぱり親戚はいなかった。
それに、何にもしゃべんなかったし、笑いもしないし、とにかく可愛げがない
もんだから、私だけはそのままだった。
新しい家族もいないし、知り合いもいない。
何ヶ月かな。1年までは長くなかったけど、その何ヶ月は前よりももっと酷い
地獄だったよ。
働く暇があったらスーパー行って食べ物盗め、って感じ。
実際、働けないでしょ?たかだか小学生だしね。
あの頃は、子供ながらにこんな生活を一生続けていくんだな、って思ってたよ。
嫌だったけど、死にたいとかそういうことは思わなかった。
バカだったから、思いもしなかったんだよ。そんな方法で逃げられるって。

487 :チャーミー剣士:2001/07/14(土) 01:01 ID:vQ9IM1VM
そんな時に、ある人が現れた。
偶然なのか、近所で誰かに聞いたのかは知らないけど、その人は私に話しかけ
てきた。
あー、また文句言われるのかな、っていつも通り無視してたらさ。
そしたら、その人が突然泣き出して、寂しかったね、って。
今でもどうしてなのか分からないよ。
なんであんな生意気で汚い子供を育てようと思ったのかなんて。
とにかく、その日から私はその人の家に住むことになった。
2人暮らし。
最初の何週間か、私はずっと黙ってた。
その人が信じられなかったからね。
でも、1ヶ月とか。2ヶ月経つと、もうすっかり家族みたいだったよ。
お姉ちゃん、って呼んでた。
たぶん、あの時にはじめて「幸せ」っていう言葉の意味が分かったと思う。
ほんと、幸せだった。
言っちゃ悪いけど、前のお母さんよりも料理もずっと上手かったしね。
布団は2つあったけど、用意するのはいつも1人分。
とにかく、それくらいに幸せだった。
今でもこの頃のことが一番よく思い出せるよ。
同年代の友達なんか1人もいなかったけどね。
今でも思うよ。
あの頃に戻りたいって。
夢でも良いからずっとあのまま暮らしたかった。

488 :チャーミー剣士:2001/07/14(土) 01:01 ID:vQ9IM1VM
「・・・」
「・・・後藤さん?」
ゆっくりとはいえ、着実に話を続けてきた後藤が急に黙ってしまった。
突然訪れた静けさの中で、後藤は下を向いたまま何も言おうとはしない。
「・・・どうしたの?」
おそるおそる、梨華は後藤の顔を覗き込もうとした。
「・・・も・・・」
「え?」
聞き取れたのが奇跡なくらい、小さな声で後藤が何かを呟いた。
そして、もう一度何かを問おうとする梨華の方へと、ゆっくりと振り向いて
喉の奥から押し出すように言葉を吐き出した。
「でも」
「ご・・・とう・・・さん?」
後藤は泣いていた。
鳴咽を漏らさないようにしっかりと唇をかみ締めて、手は痛そうなくらいに強
く握られていた。
それでも、ボロボロと流れる涙はとどまることがなかった。
「あはっ」
涙に濡れる中、崩れた笑顔を見せる後藤に梨華は何も言えなかった。
「泣いたのなんて、久しぶり」
後藤の涙はまだ溢れている。そして、まだ笑っている。
心の奥に何か重いものが流れ込んできた。
殉教者のような目で、後藤は梨華を見つめていた。
「でも、お姉ちゃんもいなくなった・・・」
「・・・え?」
「理由なんて分からない
ただ、ある日突然いなくなったの」
拭うことなく顔から流れ落ちた涙は、小さな跡を残しながらベッドに吸い込ま
れていった。

489 :チャーミー剣士:2001/07/14(土) 01:01 ID:vQ9IM1VM
あれだけ強いと思っていた後藤が、梨華の前で泣いている。
子供の頃の出来事でも、それだけショックが大きかったのだろう。
「後藤さん・・・」
梨華は、最初にここに来た時のことを思い出した。
まだ意識が無かった後藤の口から漏れた「お姉ちゃん」という言葉。
あの時も後藤の目は濡れていた。
後藤の心の中では「お姉ちゃん」の存在が痛いくらいに大きいのだ。
「3回目・・・」
「え?」
「私、3回も捨てられたんだよ」
そう言いながら、後藤はもう一度笑顔を見せた。
「最初は生まれたとき
次に孤児院がなくなったとき
そして、お姉ちゃんに捨てられたとき・・・」
今まで悲しい笑みを浮かべていた後藤の顔が、ゆっくりと崩れていった。
「もう・・・イヤ」
ついには顔を伏せ、堪えようともせずに鳴咽を漏らし始めた。
「後藤さん・・・」
梨華は心の中がしだいに温かくなっていくような気がした。
後藤は過去に引っ張られて、他人に対して極端な壁を作っていた。
今度は自分が後藤を助ける番だ。
今の後藤を助けることができるのは自分しかいない。
「大丈夫・・・
後藤さん、大丈夫だよ・・・
私はどこにも行かないし、ずっとお友達でいられる」
梨華は後藤の頭を優しく抱え込んで、子供を諭すような声で言った。
胸の中で、後藤が泣いている。
彼女は、強くなんかなかった。
心の中ではいつも泣いていた。
ただ、それを伝える方法と、伝えるべき人を知らなかったんだ。

490 :チャーミー剣士(休憩):2001/07/14(土) 01:02 ID:vQ9IM1VM
更新です
空いた時間で、最初の方を少し読み返したのですが・・・
あまりの恥ずかしさに途中で読むのやめました
思ったより下手だなぁ、と・・・
書きながら成長したいと思ってますので、付き合っていただけると
嬉しいです

後藤の過去、その2です
謎だった子供時代がようやく書けました
長かったです・・・

491 :名無し娘。:2001/07/14(土) 03:18 ID:RT5F/sT6
ごっちん萌え〜〜〜

492 :名無し娘。:2001/07/14(土) 07:03 ID:vQijhG92
某ベーグル王子はなかなか出てこんな〜(w

493 :ポルノ:2001/07/14(土) 22:17 ID:YwOLnvPw
ゴト−可哀想。。。

494 :名無し娘。:2001/07/16(月) 05:59 ID:7SmWPFjQ
保全

495 :名無し娘。 :2001/07/17(火) 21:10 ID:mMQG4p96
やばい・・・後藤が好きになった・・・

496 :チャーミー剣士:2001/07/18(水) 22:36 ID:EQkLuna.
続きです

497 :チャーミー剣士:2001/07/18(水) 22:36 ID:EQkLuna.
後藤はしばらくそのまま泣いていたが、やがて梨華から離れると照れくさそう
にあさっての方を向いて黙り込んだ。
「後藤さん」
「え?」
「私、後藤さんのお友達だと思って良いよね・・・?」
声は聞こえなかったが、後藤がほんの少しだけ頭を下げてうなずいたのを梨華
は見逃さなかった。
ようやく、やっと後藤の友達になれた。
長かったな、と思いながらも梨華は心が満たされていた。

「それでさ・・・」
自分の中で心の整理でもしていたのか、後藤はかなりの時間黙っていたが、そ
ろそろ落ち着いてきたのか、再び話し始めた。
ただ、相変わらず梨華は見ないで。
いくらなんでも、急に友達だからと笑って話せるとは梨華だって思わない。
後藤の方だってまだ大きな戸惑いがあるに違いない。
ただ、お互いがお互いを許しあっている。そのことは2人にとってとても大き
なことだった。
赤ちゃんがはじめて歩行器から手を放して歩き出す時の1歩。
後藤の決断は、それくらいに勇気のいる1歩だった。
だから、今はこれ以上進んで欲しいとは言わない。
ゆっくりと、自分の歩調に合わせて進んでいけばそれで良い。
立ち止まったって全然構わない。
その、最初の一足が私の望んだすべてに繋がるから。
「うん」
いろいろな思いが交差するなか、梨華は心から満足したようにうなずいた。

「お姉ちゃんも、誰もいなくなって
私は文字どおり1人ぽっちになった」
ただ、後藤の話はまだ終わってはいない。
それを思い出させるように、後藤の言葉は梨華を現実へと引き戻した。

498 :チャーミー剣士:2001/07/18(水) 22:36 ID:EQkLuna.
その時は、はじめて死にたいって思った。
私の全部の希望はお姉ちゃんがいてくれることが前提だったし。
夢も希望もない、って言うのかな。
どうしようもなかったよ。
思い出すのもイヤなくらい。
それに思い出すような思い出もないしね。
だから、ここら辺の話は言わないよ。
聞きたいのは先輩の話でしょ?別に良いよね。

で、中学に上がる前の春休みなんだけど。
私だって忘れてたんだよ、来月から中学生だったなんて。
いきなり中学校に入れてやる、っていう人が出てきたの。
私にあるのは名前だけ。親も家もないのに、なんで学校なんか入れるんだろう。
ってまず思った。
学校の仕組みなんて知らないし。まあ、それは今もだけど。
にしてもおかしかった。
目の前に立ってる変な親父のことなんて知らないし、ほんとに怪しかった。
でも、その親父の後ろにいた奴を見つけたときに、全部分かった。
そう、それが先輩だったの。
子供の頃とそっくりだったからすぐに気付いたよ。
っても3年くらいしか経ってないから分かって当然なのかな。
その親父は先輩の遠い親戚だったんだって。
先輩も運が良かったよね。偶然見つかった遠い親戚が大金持だもん。
そりゃ親なんかより全然良いよ。

499 :チャーミー剣士:2001/07/18(水) 22:37 ID:EQkLuna.
それで、その大金持の親父が私の学費だとか全部出してくれるんだって。
断れば良かったのに、あの時も私バカだったしね。
それに・・・心のどこかで、また先輩に会えたことを喜んでた。
私の唯一の友達だった人だよ?そりゃ喜びもするって。
結局、私はその日から先輩の家で、先輩の隣の部屋に住むことになった。
しばらくは学校にもちゃんと行ってたし、先輩とも仲が良かった。
でも、孤児院にいた頃は同じように生活してたのにさ、それから後の環境が
全然違ったせいなのかは分からないけど、だんだん先輩といるのが嫌になって
きた。
分かるんだよ。向こうだってそう思ってることも。
私と別れてから先輩が何してたかなんて知らないけど、恐いくらいにプライド
が高くなってた。
友達とかが家に来るとね、私を隠すの。
なんでかな?って思ったよ。
簡単だよね。
私を見られたくなかったから。それだけだよ。
なんで?って・・・
そんなの先輩に聞かなきゃ分かるわけないじゃん。
でも、私なりに考えて出した答えならある。
それはね、先輩のプライドの高さ。
先輩の友達は、昔この人が孤児院にいたことなんて全然知らない。
たとえ本人がそうだと言っても信じられないくらい、先輩と孤児院の繋がり
が見えなかったしね。
それで、自分の過去を消したかったんだよ、先輩は。
まあ、その気持ちは分かる。私だって嫌だし。

500 :チャーミー剣士:2001/07/18(水) 22:37 ID:EQkLuna.
でも、先輩の場合は異常だった。
今だから言えることってのもあるけど、学校に全然行かなかった私も悪いと
いえば、まあ悪かったんだけどね。
でも、あの頃の私にはそんな気力がなかったんだ。
仕方ないでしょ?
先輩にまで嫌われようとしてたんだよ?
私と一緒に住んでることをとにかく友達に知られたくなかったみたい。
最後には大きなタンス?みたいなところに押し込まれて、外から鍵かけられた
こともあった。どうしようもないから、1日中そこで座ってんの。
いろいろ考えたよ。

で、最後に行き着いたのが「ここを出て行く」ってことだった。
え?うん、そりゃあ、そんな簡単に決めたわけじゃなかった。
だってさ、2年くらいはそこに住んでたからもっと酷いこともあったし、たま
にだけど良いこともあったよ。
でもそんな話は今するようなことじゃないと思う。
だから、悪いけど聞かないでくれないかな?
もう・・・ここまで話せば先輩と私の関係なんて予想つくでしょ?
とにかく、家を出たのよ。
もともと私の持ち物なんて無かったから、服を少しとリュックに食べ物だけ入れ
てね。まるでピクニック気分だよ。

それからは・・・そう。
あんたが見た私だよ。あんな感じ。
毎日そこら辺の汚いビルの周りを歩きまわって、必要なものがあればどっかから
持ってくる。その繰り返し。

501 :チャーミー剣士:2001/07/18(水) 22:37 ID:EQkLuna.
――
夕暮れ。そして夜。
今日に限っては、暗い夜道も明るく見えてしまう。
それくらいに明るい1日だった。

後藤と友達になれた。
さっきから梨華の頭の中はこの言葉が繰り返されいてる。
あの後は梨華も少しは知っていることだったため、特に興味深い話は聞けなか
った。
後藤と矢口の不仲の原因は、結局矢口の完璧主義のせいらしい。
ただ、どれだけそう言われても梨華には信じられなかった。
後藤が矢口のことを誰にも言わなければそれで終わりなんじゃないのか?
誰だってそう思うだろう。
後藤は「それが先輩のイヤなところなんだよ、邪魔なものは絶対に片づけない
と気が済まない性格だからね」と言っていた。
邪魔なもの。
矢口にとって後藤は邪魔な存在なのは分かった。
でも、後藤はどうしてそこまで分かっているのに、何もしないのだろう。
矢口に狙われていることを分かっているのに、何か対策をしているわけでもな
いし、どこかへ逃げようともしない。
梨華は、後藤にはまだ何か秘密があるような気がした。
もっと深いところにある、根本的な何かが。

「到着っ!」
考え事をしていたためか、いつもよりも早く家に着いた気がする。
中から漏れてくる美味しそうな香りに誘われるように、梨華は玄関のドアを
開けた。
「たっだいまー」
靴を脱いでさあ上がろうとしていると、ドタドタと誰かが走ってきた。
「遅ーい!!」

502 :チャーミー剣士:2001/07/18(水) 22:38 ID:EQkLuna.
「あれ?ののちゃんじゃない
どうしたの?」
ごく当然の反応だと思うのだが、そう尋ねた梨華に向かって希美は眉間にしわ
を寄せて、梨華の手をとって引っ張り出す。
「いいから、早く来てよー!」
「なっ、なに?
もうののちゃんどうしたのよー!
あ、ちょっとそんなに引っ張らないでっ」
引きずられるような格好で希美に文句を言うが、聞こえてないのか聞かない
ようにしてるのか、希美はさらに強く梨華を引っ張って行く。
「もう・・・」
何を言っても駄目そうだったので、梨華も諦めて連れて行かれることにした。
すると、希美はどうやら食卓に行きたかったらしく、梨華をいつもの位置に座
らせると、自分もその前の椅子に座った。
「お姉ちゃん!」
「はい!」
すぅっと大きく息を吸い込んだ後、希美は梨華に向かって大きな声で言った。
梨華は、希美の勢いに押されて思わず返事をしてしまう。
「今何時だと思ってるの!」
そう言われて、梨華は改めて壁にかかっている時計を見た。
「えっと・・・9時半・・・」
「えっとじゃないでしょ!
9時半よ?9時半!いつまで待たせりゃ気が済むのっ!」
良く分からないまま希美に怒られていると、騒ぎを聞きつけたのか2階から母
が降りてきた。
「まあまあ、ののちゃんもそんなに怒らないで」
希美の肩に手を置いて、文字どおり子供を諭すように笑顔で言う。
「うー・・・」

503 :チャーミー剣士:2001/07/18(水) 22:38 ID:EQkLuna.
目の前で唸っている希美に恐怖を感じながらも、梨華は母に聞いてみることに
した。
「の、ののちゃんどうしたの?」
「梨華が帰ってくるまで夜御飯食べないでずーっと待ってたの
もう大変だったんだから・・・」
「遅ーい!!」
既に右手には箸を持って待機しながら、希美はまた文句を言ってきた。
「あ!そうなんだ!
ごめんっ、早く言ってくれれば良かったのに!」
「早く言おうにもお姉ちゃんいないじゃん!
もうお腹空いたぁー!!!」
希美も、だんだんと文句を言うよりも食欲の方が大きくなったようで、梨華を
睨むことよりも目の前のテーブルに広がる食事を見ることが多くなっていた。
「あ、それじゃあ梨華を責めるのはこれくらいにして
とりあえずは御飯食べよう!」
母のこの一言でなんとか梨華は開放された。
みんなで口をそろえて「いただきまーす」と言ったと同時に、希美の意識は
料理に集中していた。
「あはは・・・」
呆れたように乾いた笑いを浮かべながら、梨華はようやくある疑問に気付いた。
「あれ?ところでなんでののちゃんがいるの?」

「家族がみんな旅行に行っちゃったんだって」
食べながら目で訴える希美の方はとりあえず置いておいて、母から事情を聞く
ことにした。
「ののちゃん置いていかれたの?」
梨華の質問に希美は心外だと言うようにこちらを向いて何か言っているが、
口の中の物のせいで梨華には聞き取れなかった。
「部活があるから行けないんだって」
代わりに答える母の方を見て、希美は満足そうに頷く。
「そうなんだ・・・
じゃあ、しばらく家に泊まっていくの?」
たずねる梨華に、希美は今日初めての笑顔を見せると大きく頷いた。

504 :チャーミー剣士(休憩):2001/07/18(水) 22:45 ID:Rqek67YA
更新です。
なんというか、すいません
いしごまになってます・・・
まさか後藤がここまで動いてくれるとは・・・

9回目で連続投稿で引っかかるんですね
繋ぎなおしました・・・

505 :名無し娘。:2001/07/19(木) 00:02 ID:BdjuYqn2
>>504
お疲れさまです。
いしごまでいっちゃってください。

506 :名無し娘。:2001/07/19(木) 01:18 ID:P.QoQOk2
いしごまでもいしよしでもどっちでもOK。おもしろい

507 :名無し娘。:2001/07/20(金) 05:25 ID:NpWlrlVI
よすぃごきげんななめ(*O`〜 ´O*)プンプン!

508 :名無し娘。:2001/07/20(金) 14:23 ID:PnkpCOgw
よいよい。このままどんどんいっとくれ!

509 :ポルノ:2001/07/20(金) 14:29 ID:0cIXHXkM
がんばってくだsage

510 :名無し娘。:2001/07/21(土) 11:21 ID:sfaXXz4g
面白いです!
続き楽しみにしてまする!

511 :名無し娘。:2001/07/21(土) 17:23 ID:MZ4ky/X6
sage

512 :名無し娘。:2001/07/22(日) 21:16 ID:ga2o2cr6
ほぜぇむっ

513 :名無し娘。:2001/07/24(火) 00:18 ID:Ll6hbt1A
よっすぃーがんばらないと梨華ちゃんとられるぞ!!

514 :名無し娘。:2001/07/25(水) 04:55 ID:svjUCzoE
いしよしなシーンにも期待

515 :チャーミー剣士:2001/07/26(木) 03:38 ID:3sRzD2IU
すいません
諸事情により今週は更新できないです・・・
楽しみにしてくれてるみなさん、本当にすいませんです
来週早々には更新したいと思います・・・

516 :名無しっぺ:2001/07/27(金) 01:11 ID:dhLHUqTA
( ^▽^)<待ってまーす♪

517 :名無し娘。:2001/07/28(土) 08:48 ID:u7C32C9Y
ホゼム!

518 :名無し娘。:2001/07/29(日) 16:01 ID:Xyzumj3o
大丈夫、大丈夫!
待ち続けるべ!

519 :名無し娘。:2001/07/30(月) 01:21 ID:VBxVaAVA
保全

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