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二分間娘。

1 :だれか : 2001/03/02(金) 05:41 ID:W1DxgK4Q
 娘。達は番組収録前の楽屋で、思い思いに時間をつぶしていた。今年に入ったばか
りの事だ。
 真里はいつもの様に裕子をからかった(からかわれた)後、テーブルの上の誰かが
持ってきたファッション誌を読んでいた、その雑誌にのっている服は真里の持ってい
る服に比べずいぶん大人っぽいものが多い。真里はこういう服にあこがれつつも、背
伸びになるのが分かっていたので、なんとなくため息をついていた。

2 :だれか : 2001/03/02(金) 05:41 ID:W1DxgK4Q
「ねぇねぇ、やぐっつぁん」
 後ろから肩をたたかれ、振り向くと真希が立っていた。
「今度、私達がやるミュージカルってどんな話なのかなぁ?」
 そういいながら真希は真里の隣に腰掛ける。
そういえば『春に娘。でミュージカルをやる』と言う話
は聞いたがその内容までは聞いてない。
「う〜ん……どんなのだろ? オリジナルの話だとは思うんだけどねぇ」
「地球を占領しに来たうちゅーじんをみんなで倒す話っていうのはどうですか?」
 二人の前に座っていた梨華が、突然言い出した。
「いや〜、それはさすがにないんじゃないの?」
 真里はあいかわらずこの娘は面白い事言うなぁと思いながら続けた。
「それならファンタジー風にするんじゃない? 竜を倒すとか、魔王を倒すとか」
「あぁ、なるほど〜」
 分かったのか分かっていないのか分からないリアクションを取る梨華。
 そんな会話をしていた三人に裕子が声をかけた。
「な〜にアホな事言ってんのよアンタら。んな訳ないやろ」
 そう言ってあきれたようにため息をつく。
「祐ちゃん、そんな事言っちゃあ宇宙人とか竜に失礼だよ」
 真里がそう言ってみんなを笑わせたとき、
「あれ? これ誰の?」
 楽屋の中、真里達がいたのとはちょうど反対側にいた圭が
何か光るものを拾い上げた。

3 :だれか : 2001/03/02(金) 05:42 ID:W1DxgK4Q
「なんですか〜それ?」
 駆け寄った希美に圭が見せたものは小さなピンセットだった。
「ピンセット……いや、とげぬきか、でもなんでこんなとこに?」
「ちょっと見せて、圭ちゃん」
 真里はいすから立ち上がり、圭のとこまで行くと手を差しだした。
「見覚えあるの?」
 そう言って真里の手にとげぬきを落とす。
「う〜ん、分かんないけど、さっきここにスタイリストさんがちょっ
と来たじゃん。その時落としちゃったのかなぁ、と思って」
 真里はとげぬきを光にかざしながら眺める。
「なるほどね、で? どうするの?」
「とどけてきまーす」
と、かけだす真里。
「あ、ちょ、ちょっと待ってよ」
 圭が呼び止めようとしたときにはもう真里は楽屋のとびらを飛び出
して行ってしまっていた。

4 :だれか : 2001/03/02(金) 05:42 ID:W1DxgK4Q
 圭織が廊下を歩いていた。
「あれ? 矢口? どこいくの? 本番始まっちゃうよ」
 真里が急いで事の説明をすると、圭織は渋い顔をした。
「矢口、そんな事してたら本番に送れちゃうよ、誰かに預けたら?」
「だから、急いでるんだってぇ〜、じゃあ行くね」
 再び走り出す真里、その時、どこかから『本番二分前でーす』の声
が聞こえた。
「やぐちぃ〜! あと二分だからね〜!!」
「は〜い」

5 :だれか : 2001/03/02(金) 05:43 ID:W1DxgK4Q
 スタイリストさんのいる衣裳部屋は、楽屋から少し離れたところに
あった、今日の廊下は本番前だと言うのに人っこ一人いない。
 真里は結局圭織とすれ違った後誰とも会うことなく、とげぬきを強
く握り締めたまま、目の前の角を曲がれば衣裳部屋が見えるというと
ころまで来た。真里が小走りにその角を曲がろうとしたそのとき、ふ
いに声が聞こえた。
 ――おまえ、いいものもってるじゃないか。
 真里はびっくりして立ち止まった。突然聞こえたその声以上に、そ
の声が耳からではなく直接頭に響いた感じだったのに驚いた。
 辺りを見回しても誰もいなかった。ただ、一匹の黒ネコが廊下の角
にうずくまって、まっすぐ真里を見上げていた。
(ま……さか、ね)
 真里は黒ネコを見つめて首をひねった。もう一度まわりを見回した
がやっぱり誰もいないようだ。
「気のせいか……」
 そう言って黒ネコに笑いかける。
「あはは、アンタがしゃべったような気がしたよ」
 ――気がしたんじゃない。しゃべったんだ。
 黒ネコの口は閉じたままだったが、真里の頭の中でさっきの声が響
いた。
 真里は笑うのをやめ、黒ネコをじっと見つめた。こんなことって、
……あるの? ネコがしゃべるなんて……。そんな思考をさえぎるよ
うに再び頭に声が響いた。

6 :だれか : 2001/03/02(金) 05:43 ID:W1DxgK4Q
 ――おまえ、とげぬきを持ってるだろ? それでこのとげをぬいてくれないかね?
 黒ネコは体を起こすと前足をひっくりかえし、差し出した。声と動作があっている。
信じられないが、聞こえているのがこのネコの声だと思わないわけにはいかなかった。
 真里はひざをついてしゃがむと、差し出された足の裏をのぞいた。しかし、どうも
とげが刺さっているようには見えない。
「どこに刺さってるの? 見えないよ」
 ――見えないトゲだってあるさ。
 頭のなかで声が響く。
(やっぱりこのネコが話してるんだ、でも見えないトゲってなんだろ?)
「見えなきゃ抜き様がないじゃない」
 ――抜くふりするだけで抜けるとげだってあるよ。
 ネコ特有のすましたような顔は、冗談を言っているのか、本気なのかよく分からな
い印象を真里に与える。
「え〜? それって刺さってないのと一緒じゃない」
 ――抜いてくれないかい? お礼はするよ。
「お礼?」
 ――抜いてくれれば、言うよ。
「ふ〜ん、じゃあ、抜くふりをすりゃい〜んだね?」
 真里はネコの差し出している手に自分の左手をそえて、適当なところで見えないと
げをはさんで抜く演技をした。

7 :だれか : 2001/03/02(金) 05:44 ID:W1DxgK4Q
 ――ああ、抜けた抜けた。ありがとう、おまえ、見えないとげをぬくのが
うまいねぇ。
 ネコは自分の前足を見ながら軽くしっぽを振る。真里はその仕草をみなが
ら立ち上がった。
「で? お礼ってなに?」
 ――ひとつだけ、おまえの願いをかなえてやるよ。
「え?」
 ――願い事をかなえてやろうって言ってるんだよ。
「ホントに!?」
 ――その質問の答えを聞くのがおまえの望みかい? いいともすぐにかな
えてやろう。
 ネコはそうたたみかけ、続けようとした。
「ああ〜〜!! ちがう、ちがう。ちょっと待って、今考えるから」
 ――時間が欲しいのか。
「うん、ちょっと時間をちょうだい」
 たったひとつの願い事だもんなぁ、こうなったら悔まなくていいように最
高のものを願おう。タンポポのオリコン一位? ううん、それどころかミリ
オンだって……、う〜んそれとも身長伸ばしてもらおうかな? いやいや急
に身長が伸びたりしちゃあまりに不自然だ、ミニモニ。だってあるしなぁ……
どうしよ。と、考えたときネコの声が響いた。
 ――じゃあ、とげぬきをポケットに入れて。
「え?」
 ――もうとげぬきは入らないからポケットに入れるんだよ。
 考えるのを邪魔された真里は不機嫌な顔をしながらも言われたとおりにした。
 ――両手を前に出して広げて。
「うん」
 ――しっかりつかまえるんだぜ。
 そう言うとひょいっとネコが真里の腕の中に飛び込んだ。
 ――お前の望み、時間をやろう。
 声が真里の頭に響いたとたん、まわりの景色と音が消え、黒ネコも一瞬の
重みだけを残して消えてしまっていた。

8 :だれか : 2001/03/02(金) 05:45 ID:W1DxgK4Q
声が真里の頭に響いたとたん、まわりの景色と音が消え、黒ネコも一瞬の
重みだけを残して消えてしまっていた。


9 :だれか : 2001/03/02(金) 06:41 ID:W1DxgK4Q
一行多かったか……、まいったな。

10 :だれか : 2001/03/02(金) 07:23 ID:POhscutI
暗闇に目がなれ周りを見渡すと、そこは深いの森の中だった。真里はたっ
たひとり見た事のない森の中で、ネコを受け止めた格好のまま突っ立って
いた。
 真里はしばらくそのままでいた後、大きく深呼吸して腕を伸ばすとまわ
りをゆっくり見回した。
 本物の森、しかも深い深い森だ、空は幾重にも重なった木の枝と葉のせ
いで見えないが、夜なのは間違いないようだ。
 真里は急に心細くなった、あの黒ネコはどこだろう?
「お〜い、ネコちゃ〜ん? どこにいるの〜?」
 ――俺の名前はネコじゃない。
 頭に例の声が響く。
「ああ、いるんだ。よかった。なんて呼べばいいの?」
 ――俺の名前はムスメっていうんだ。
「ムスメ?」
 ――言っておくけど、オスだからな。
 ムスメか、私がモー娘。なのと何か関係があるのかな? 真里はそう思
ったが、あまり深く考えない事にした。
「あはは、ムスメか。面白いね、オスなのにムスメか。それでキミはどこ
にいるの?」
 ――オマエから見えないところに隠れてるんだ。
「……? じゃあ、早く出てきて、元の場所に戻してよ」
 ――戻す? なんのために?
「だって、ここなんか感じ悪いじゃん……それにそう、私急いでたんだ!
本番2分前だってさっき言ってたし、私が戻らなきゃみんなに迷惑かけちゃ
う、怒られちゃうよぉーっ!」

11 :だれか : 2001/03/03(土) 05:10 ID:CgNqrQTk
 ――だいじょうぶだよ。
 ムスメはあっさりと言った。
 ――おまえがこの世界にいる間は、スタジオの時間、つまりもとの世界の時間は
ほとんど止まっているんだ。だって、この時間はおまえが望んだお前だけの時間な
んだから。
「わたしがのぞんだ?」
 ――おまえ、時間をちょうだいっていったじゃないか。
「そ……そういう意味じゃな〜〜いっ!!」
 絶叫する真里を澄ました顔で見上げるムスメ。どうやら議論しても仕方なさそう
だ、小さくため息をつくと、つくり笑顔で微笑んだ。
「いやぁ、まいっちゃったぁ〜、うっかりしちゃってたよ〜。でももういいや。私、
もとの世界に戻るよ」

12 :だれか : 2001/03/03(土) 05:13 ID:CgNqrQTk
 ――まあ、そうあわてるなよ。ちょっと俺と遊んでくれよ。いいかい? 軽いゲ
ームだ。
「ゲーム?」
 ――そう、かくれんぼだ。おまえは隠れているおれを見つけ出す。そしてさっき
のようにおれを抱いて『つかまえた』と叫ぶ。そうすりゃお前の勝ちだ。おれ達は
元の世界のさっきの時間に戻る。
 どうやらここにほっとかれるわけではないらしい。真里は少し安心した。要する
にゲームに付き合ってムスメをつかまえればいいのだ。
(でもネコなんてどうやってつかまえればいいんだろう?)
「でもさぁ、私がキミをつかまえられなかったらどうなるの?」
 ――時間はたっぷりある。おまえが年寄りになるかならないかという頃に、やっ
と元の世界では2分間が過ぎるかってくらいね。
「年寄りって……そんなに長い間かくれんぼするつもりなの!?」
 ――さあ、この世界じゃあっというまに年を取っちゃうかもしれないぜ。だから、
それまでにつかまえるんだ。
 むちゃくちゃ言うなぁこいつ。真里は舌打ちした。でもとにかく早くつかまえよ
う。暗い森の中をすばやくぐるりと見回して静かに歩く、すると、その行動を見て
いたかのようにムスメの声が響いた。

13 :だれか : 2001/03/03(土) 05:15 ID:CgNqrQTk
 ――ネコをさがしても無駄だぜ。この世界では俺の姿はネコの形をしていない。
「えっ!?」
 ――俺は何かの姿をしている。これがヒントだ。
「何かの姿?」
 ――そう、しかも今おまえから見えるものじゃない、つまり、木や地面や空じゃ
ないって事だな。
「そんなものにもなれるの?」
 ――ああ。
 そんなものどうやって見つければいいのよ。
 ――困ってるみたいだな。じゃあもう一つヒント。おれはこの世界で一番確かな
ものの姿をしているよ。じゃあな。
「あ! ちょっと待ってよ、ムスメ!」
 返事は返ってこなかった。
「ムスメ?」
 森は急に静まり返ってしまったようだ。
「ムスメ〜〜」
 大声で呼んでも、返ってくるのは木のざわめきと、どこかから聞こえてくる鳥の
鳴き声だけだった。

14 :だれか : 2001/03/03(土) 05:29 ID:CgNqrQTk
 『今、見えてないもの』、 それでいて、この『世の中で一番確かなもの』……か。
(とりあえずどこかに行かなくっちゃね。)
 そう言って空を見上げたら、空が赤く染まろうとしていた。
(ま、まずい、こんな森の中で夜になったら大変だ)
 とにかく歩こう。そう思って真里は森の中をひとり歩き出した。
 今日の真里の服装は、衣装とはいえカジュアルなものだったので、空気の冷たい
森の中でも比較的不自由なく動く事ができた。これがミニモニ。のあのごわごわし
た衣装だったりしたら大変なところだ、その点は少し運がよかったと言えた。

15 :だれか : 2001/03/03(土) 06:51 ID:zCCNb7.o

 ずいぶんな距離を歩いた気がする、空はもう赤いを通り越して暗くなり始めてい
た。歩き慣れない荒れ道は真里の気持ちをだんだんめいらせた。夜になっても森を
出られなかったらどうしよう、ムスメは女の子に野宿させる気なわけ? そう思っ
ている間にも森は暗くなりだしている、奥の方がしだいに見渡せなくなってきた。
(な……なんだよぉ〜〜、こわいじゃんかぁ〜〜)
 次第に早足になる。だが闇はものすごいスピードで真里を包んでゆく。そしてつ
いに真里は立ち止まってしまった、自分の息づかいの音が聞こえる。
 完全な闇だった。すぐ目の前の自分の手さえ見えない。空を見上げるとかすかに
星が瞬いていたが、それが返って真里を心細くさせた。
(あぁ〜〜ん、ちくしょ〜、なにがかくれんぼだ。こんなんで見つかるわけない
じゃんかぁ〜)
 しばらく、ムスメを呪うような気持ちで立ち尽くしていた。どれくらいたった頃
だろう、突然遠くに小さい光が見えた。

16 :だれか : 2001/03/03(土) 07:00 ID:dEtZJHVM

(人? かな?)
 そういえば、ムスメは『姿を変えている』と言っていた。ということは、目の前
に現れると言う事だ。うん、そうじゃなきゃ姿変える必要ないもんね。
 真里は元気を取り戻し、あかりに向かって歩き出した。
 足元が見えないので、少し苦労したが、しばらくするとずいぶんあかりは大きく
なってきた。もう少しだ。
と、急に木が途絶えた。広場にでたらしい、周りは木に囲まれているがずいぶん広
い広場だ。その真ん中では火が焚かれている。顔は見えないがまわりに多くの人が
いるようだ。
(なんか、おも〜い空気だなぁ)
 焚き火の周りには十数人の人影が見えたが、一人も話したり、動いたりしていな
い。真里はなんとなく近寄りがたくて、遠くはなれた暗闇に一人しゃがみこんで、
様子をうかがうことにした。
 すると突然、はっきりした女の子の声が響いた。

17 :だれか : 2001/03/04(日) 01:57 ID:DFyiCs2s

「私が一人で行くわけにはいかないでしょ」
 どこかで聞いた声だ。その声をきっかけに人影がゆらゆら揺れ、ざわめきが起り、
やがてその中から大きな声があがった。
「だって圭ちゃん、うちらには誰が圭ちゃんと行ったらええのか、分からへんもん」
(圭ちゃん!? さっきの声は圭ちゃん? で、今のは……みっちゃんだ)
 真里はそっと焚き火に向かって近づいた。圭やみちよだけじゃなく、近づくにつ
れ、その人影の全員が真里が知っている者だと分かった。真里に気付いておどろく
みんな。
 真里はうれしくなっておもわず声を上げた。
「みんな! なんでこんなところにいるの?」

18 :だれか : 2001/03/04(日) 02:00 ID:DFyiCs2s

 真里のことばに、みんなは顔を見合わせて首をひねったり、いぶかしげに真里を
見たりする。すると、みちよが前に出て来て言った。
「アンタは誰なん?」
「へっ? やだなぁ〜、何言ってんだよ〜、矢口じゃん」
「?……それで、やぐちさんはどこから来たん?」
「あはは、それってギャグ? じゃあ、みんなはどこから来たの?」
「うちらはこの南にある森から来たんやけど……ああ、自己紹介まだやったな。わ
たしはみちよ、『みっちゃん』でええで」
 そんな事は分かってるよ。と笑いながら言ってやりたかったが言えなかった、み
っちゃんのまわりのみんなも、私を知らない人を見る目で見ている。

19 :だれか : 2001/03/04(日) 04:20 ID:jSGfyKY.

「で? どこから来たん?」
 みちよはもう一度たずねた。
「わ、わたし? そ、そりゃあ……スタジオからだけど」
「すたじお? 聞かん名前やなぁ。まあ、ええわ、それでアンタはこれからどこに
行くところなの?」
 どこって言われても……なぁ。
「なんていうか……分かんないんだよね、それが」
「分かんない?」
 みんなのなかでまたざわめきが起こった。そりゃーそうだよね、自分でも言って
る事訳分かんないもん、まいったなー。
 その時、あさみと二人、カントリー娘。(元の世界のね)で固まって話していた、りんねが前に出て来た。
「わたし思うんだけどさぁ、もう一本の矢はこのやぐちさんための物だったんじゃ
ないの?」

20 :だれか : 2001/03/04(日) 06:18 ID:jSGfyKY.

 静まるみんな。
「それでいいじゃない」
 その声に何人かがうなずく。
(なんなの? なによ? 私の物?)
「そんな決め方でええんかなぁ?」
 みちよが首をかしげる。
「圭ちゃん、アンタはええの?」
 みんなとひとり離れてポツンと立っている圭に視線が集まる。そういえば圭ちゃ
んの服装、ワンピースだ。どちらかというと石川が着そうな感じのあざやかな白の
ワンピース。見慣れてないから違和感はあるけど、意外に似合うかも……。
 真里がそんな事を考えていると、圭が口を開いた。
「わたしは……いいけど」
「じゃあ、アンタは?」
 みんなが真里を見る。
「そう聞かれても、何がなんだか……何の話?」
 そう言ってとまどう真里に、りんねが苛立たしそうに言った。
「リュウの館に行ってくれないかって言ってるの」

21 :だれか : 2001/03/04(日) 23:36 ID:nMhAVWk6

「リュウの館? それって何? どこにあるの?」
「なんや知らへんのかいな? この森を北に抜けたところや」
 ふ〜ん、どうやら圭ちゃんがそこに行く事になってるみたいね。真里は一人一人
の顔を見た、みっちゃんにカントリーにメロンに……、みんなハロプロのメンバー
達だ、みんな真里の答えを待つように心配そうな顔をしている。でも、どうやらム
スメはここにはいないみたいだ、失礼な気がしなくもないけど、誰も『確かなもの』
には見えない。
(じゃあ、ここにいても仕方ないか……)
「どうする? 圭ちゃんと一緒に行ってくれると、うちら的には助かるんやけど……」
 まあ、一人でいるよりは誰かといた方が心細くないし、圭ちゃんとならうまくやっ
ていけそうだしね。
「いいよ、矢口も一緒に行くよ」
 そう言った瞬間、場の空気が変わった。張り詰めた空気がフッと解けるのを感じ
た。みんな飛び上がったり、抱き合ったりして喜んでいる。でも、ただ一人だけ、
圭だけが驚いた顔で真里を見つめていた。

22 :だれか : 2001/03/04(日) 23:41 ID:nMhAVWk6

 それから、圭以外のみんなはそそくさとその場を去って行った、森の南にあると
いう村に帰ったのだろう。真里はその様子を見ながら、圭に話しかけた。
「なんかみんなあわてて帰っちゃったね」
「アナタの気が変わらないうちに帰らないと大変だからね」
「……ふーん。あ、私の事は『矢口』でいいよ、圭ちゃん」
 圭はそれに目を丸くして、それから小さく笑った。
「そう、よろしくね矢口さん。でも、どうしてついてくる事にしたの? 断ったっ
てよかったのに」
 『矢口さん』という呼び方が少しむずがゆかった。
「圭ちゃんと一緒にリュウの館に行くってのがそんなに大変な事なの?」
「もしかして、何も知らなくて引き受けたの?」
「だからリュウの館に圭ちゃんと一緒に行くんでしょ?」
 それを聞いて圭は小さく息をはいた。
「リュウの”いけにえ”になりにね」
「”いけにえ”?」
「うん」

23 :だれか : 2001/03/04(日) 23:45 ID:nMhAVWk6

「”いけにえ”って……ひょっとして”生贄”?」
「”竜”のいけにえね」
「”竜”!? それってもしかして……あのへびの化け物みたいなやつ?」
「それ以外に何があるっていうのよ」
「そ、そんなのいるのっ!?」
 あきれたように真里を見つめる圭。真里は声がひっくり返りながらも続けた。
「で、圭ちゃんがいけにえになりにいくって事?」
「……矢口さんもね」
「やっ、やぐちもぉーーっ!?」
 真里はあわてて、みんなが去っていた方を振り返った。もうすでに誰も見えなくっ
ていた。
「ひ、ひどいよそんなの。誰もそんな事言ってくれなかったじゃんかぁ」
「そんな事、誰だって知ってる事だと思うけど」
「だって、なんで私達が竜のいけにえにならなくちゃいけない訳?」
「だってって……そんなの決まりじゃない。誰だっていつかは竜のいけにえになる
のよ」
「決まり? なんで?」
 ああ、なんかこっちに来てから「?」ばっかりだ。
「なんでって、そういうものじゃない。この間、2ヶ月前は紗耶香と明日香が行っ
たし」
「紗耶香と明日香?」
「矢口は知らない人。前ここにいた人よ」
 知ってるよ。言いかけて真里はやめた。

24 :名無し読者 : 2001/03/05(月) 07:05 ID:Pd7s.RNc
娘。小説総合スレッドの方であげさせていただきます。

25 :だれか : 2001/03/05(月) 07:27 ID:G/lh1hNo
了解です。ありがとうございます(^^;

26 :だれか : 2001/03/05(月) 23:33 ID:2ejwhxUc

「ハァ……、寒いね。そこにあるリュックに二人分のマントが入ってるから取って
もらえる?」
 圭がそう言って指を指したところに大きなリュックサックが置いてあった。
 言われてみれば火があるとはいえずいぶん寒い。真里は圭がそうするように、マ
ントに口の辺りまでくるまった。
「圭ちゃん……」
「なに?」
「あのさ、もう少し竜の話とかくわしく話してくれない?」
「ホントになにも知らないの?」
 そう言ってから、圭は真里に説明しだした。
「そういわれても竜の姿を知ってる人は誰も知らないのよね、竜の館に行って帰っ
てきた人がいままで一人もいないの」
「一人も? でも竜のいけにえになるっていうのは分かってるんだ?」
「竜は2ヶ月に一度、村にあるみんなの家のうち二つに矢を射るの。つまりその二
人が次のいけにえになる二人ってわけなんだけど……」
 焚き火がバチッと音をたてた。
「今回はなぜか二本とも私の家にささってたの」
「じゃあ、圭ちゃんの家に住んでる内の二人って事じゃないの?」
「二人? 家っていうのは一人で住むものよ」
「じゃあ、家族はどうしてるの?」
 圭は首をかしげた。
「もしかして村に住んでる人ってさっきのみんなで全部なの?」
「そうよ」
「じゃあ、圭ちゃんの村は、女の子だけ集まってみんなで暮らしてるんだ」
 あ、でも、みっちゃんは『女の子』って言わないか?(失礼。
「どこでもそうだと思うけど……」
 ここには竜がいて、女の子達はみんないつかはいけにえになるって事か。とんで
もないトコに連れて来られたみたいだなぁ。

27 :だれか : 2001/03/05(月) 23:57 ID:dkXb24L6

 頭は混乱していたがとりあえず話を続ける事にした。
「で、圭ちゃんのところに二本の矢が刺さってたってわけかぁ」
「うん」
「だからって、矢口のって事はないんじゃない?」
「うん……りんね、自分が行きたくないもんだからあんな事言ったんだよ、多分」
「ずるい」
 そう思うと腹が立ってきた。
「みんなそう思ってたと思う。でも、行きたくないから言わなかっただけで。みっ
ちゃんは少し引っかかってたみたいだけど」
「もしかして、圭ちゃんの家の二本の矢も、一本は誰かが自分の家から抜いて、ど
こにさせばいいか分からないから……」
「……やめよ。そういう事考えるのは」
 目を伏せてつぶやく圭。自分にも言い聞かせてるのかもしれない。真里はそんな
圭の姿をみて思った。

28 :だれか : 2001/03/05(月) 23:59 ID:dkXb24L6

「もし、さ。矢口達が行くのをやめたらどうなるの?」
 圭は驚いて顔を上げた。
「それはできないわよ」
「なんで? なにか起こるの?」
「ひどい事が起こるわ」
「どんなこと?」
「分からない。今までいけにえ出さなかった事なかったし」
「じゃあ、ひどい事が起こるか分かんないじゃん」
「それは起こるの」
「どうして?」
「そういうものよ。絶対起こるの」
「あっ!」
 真里はおもわず声を上げた。絶対って……、じゃあ竜がこの世界で一番確かなも
のじゃない? うん、きっとそうだ、ムスメめぇ、竜なんてずいぶんそれっぽいも
のに化けてくれたじゃない。

29 :だれか : 2001/03/06(火) 00:01 ID:/B6plafM

「どうしたの? まさか行かないなんて言わないでしょうね」
 圭が心配そうに真里の顔を覗きこむ。
「圭ちゃん。矢口、もしかしたら竜からみんなを守ってあげられるかもしれないよ」
 なにを言うんだ、という顔で真里をみる圭。
「あ〜〜、なんかおなか空いちゃったよ、なんかない?」
「リュックにパンとかあるけど」
「あ、ホントだぁー。じゃあ、たまごサンドをいただきま〜す。あ、圭ちゃんは何
がいい?」
「私はいいよ」
「そう?」
 真里はラップを取るとたまごサンドをほおばった。
「それにしても、よく何かを食べようって気が起きるわね」
「へ? ほぉ〜ひへ?」
 真里はサンドイッチにかぶりついたまま聞いた。
「いいから、食べて」
 クスリと笑う圭。二人の前では勢いの弱まった炎が静かに揺れていた。

30 :だれか : 2001/03/06(火) 00:14 ID:/B6plafM

 1〜13までが『1.ムスメ。』
14〜29までが『2.ファーストタイム』

と一応、章分けさせて頂きます。書き忘れ。

31 :だれか : 2001/03/06(火) 00:14 ID:/B6plafM

 1〜13までが『1.ムスメ。』
14〜29までが『2.ファーストタイム』

と一応、章分けさせて頂きます。書き忘れ。

32 :だれか : 2001/03/06(火) 00:17 ID:/B6plafM
あいたた、二重カキコ。

33 :名無し読者 : 2001/03/06(火) 07:08 ID:9vwUrFHU
娘。小説総合スレッドの方であげさせていただきます。

34 :だれか : 2001/03/07(水) 07:11 ID:E/n7WcC6
  3.矢口

 ゆっくり目を開けると、目の前に女の子の寝顔があった。
(ふぁっ! け、圭ちゃん……)
 そっと頭を上げると、目の前に白い燃えカスになった焚き火の跡がある。昨日の
事はどうも夢じゃないみたいだ。昨日の夜、毛布を一枚草の上に引いて、二人より
そって、上にもう一枚の毛布をかけて眠った。
(ここってなんなんだろ?)
 竜の支配する世界。でも女の子しか住んでいないらしい。そして定期的に竜にい
けにえをささげなくちゃいけない。
(そんなのどう信じたらいいのよ)
 今確実に信じられるのは、ここに私がいて、隣で圭ちゃんが寝てる。それだけだ。静かに寝息をたてる圭ちゃんを見ているとなんだか安心できた。

35 :だれか : 2001/03/07(水) 07:18 ID:E/n7WcC6

(ひょっとしたら、圭ちゃんがムスメじゃないよね)
 まさか、とは思いつつもそう考えると、ますますムスメじゃないかと思えてきた。
ダメもとだもんね、抱きしめて「つかまえた」っていうだけだし、間違えたってい
いんだから。
 そう思って、真里は圭の横に手をついた。でも、気持ちよさそうな寝顔で眠る圭
を見ていると、抱きつく決心が揺らいだ。
(いつもみんなとやってる様にやるだけじゃん)
 そう自分に言い聞かせるがどうにも踏み出せない。
 もし、ムスメじゃなかったらどうしよう? 冗談だったですむかなぁ。いくら圭
ちゃんだっていっても、こっちの圭ちゃんとむこうの圭ちゃんじゃ別人なわけだし、
何よりムスメは竜じゃなかった? そうだよ、圭ちゃんとはこれからずっと一緒な
んだから、捕まえようと思えばいつでもできるじゃん。
 そこまで考えて、ハァ〜とため息をつくと、真里は圭を起こさないようにそっと
毛布から抜け出して立ち上がった。
(まったく無駄なところでパワー使っちゃったなぁ)
「行っちゃうんじゃないでしょ?」
 振り向くと圭が見上げていた。
「起きてたの?」
 コクリとうなずく圭。真里はさっきまで考えていた事が知られていたような気が
して、顔が赤くなった。
「い、行くわけないじゃん」
 そう言ってリュックを開け、中から水とパンを取り出した。
「ほら、朝食にしようよ。昨日食べなかったでしょ、ちゃんと食べなきゃ」
「うん」

36 :だれか : 2001/03/07(水) 07:20 ID:E/n7WcC6

 朝食を取ったあと、二人は毛布をたたんで竜の館に出発する事にした。北に二、
三日歩けばつくはずだと圭ちゃんは言っていた。
(ダンスで鍛えてるはずなんだけどなぁ〜)
 かれこれ歩きつづけて、二、三時間は経つが景色はまったく変わらない。荷物は
圭に持ってもらっていたが、真里の足は棒の様になっていた。
(……それにしても、圭ちゃんは疲れてないのかな?)
 手ぶらの真里がこんなに疲れているというのに、圭は以外に平気な顔で歩いてい
る。荷物だって持ってるのに、タフだとは思っていたがこれ程か……。そんな事を
考えていると、前を歩いている圭が振り返って言った。
「そろそろ休もうか、矢口さん」
 出発してから、ずっと黙って歩いていたので、ずいぶん久しぶりに圭の声を聞い
た気がした。

37 :だれか : 2001/03/07(水) 23:31 ID:E/n7WcC6
 二人は近くを流れていた小川の近くで昼食を取る事にした。圭はあまり食べなかっ
たが、真里は普段よりたくさん食べた。真里が圭にもっと食べるようにすすめると、
「食欲がない」と断った。
「圭ちゃん達はさ、昨日のみんなと一緒に同じ村にすんでるんだよね?」
「うん、そうだけど?」
 真里はそれを聞くと、サンドイッチを顔のところまで上げた。
「こういうサンドイッチとか、毎日の食べ物とかってどうしてんの?」
「どうしてる?」
「どうやって、作ってるの? 材料は? 野菜とか、肉とか」
「作らないわよ。あるのよ」
「ある? 誰かが持ってきてくれるってこと?」
「分からない。そんな事考えた事なかったわ」
「じゃあ、みんなの親ってどこに住んでるの?」
「親って?」
 真里はなんかイライラしてきた。

38 :だれか : 2001/03/07(水) 23:33 ID:E/n7WcC6

「……まあいいや。じゃあ、圭ちゃん達は今までずっとあの村でみんなと一緒に暮
らしてたんだ」
「うん」
「それじゃ、今、圭ちゃんが着てる服や、靴、このマントやリュックサックは誰が
作ったの?」
「……矢口さん、私をいじめてるの?」
 少し強い口調になっていたみたいだ、圭ちゃんの目が少しうるんでる。
 真里は気をおちつけて、やさしく聞いた。
「じゃあね、圭ちゃん達はさ、毎日何をして暮らしてたの?」
「あそんでたわ」
 『あそんでたわ』って……そんな無茶苦茶な話はないよなぁ。誰かに世話しても
らってるに決まってるのじゃん、それなのに当の本人達は毎日遊んで暮らしている
なんて……。裕ちゃんが聞いたら、説教もんだよ。
 真里は圭の事を”確かなもの”だと思っていた自分に腹が立った。

39 :だれか : 2001/03/07(水) 23:46 ID:E/n7WcC6

「あのさぁ、もし分からなくても気にしないけどさ、『LOVEマシーン』って歌知っ
てる?」
「うん、知ってるよ」
「え? ホントに?」
 圭はうなづくと、振り付きでSEXYビームを繰り出した。真里は一瞬、圭が『LOVE
マシーン』知っていた事よりも、SEXYビームをやった事の方に驚いたが、すぐに気
を取り直して言った。
「ちょ、ちょっと、なんで知ってるの?」
「なんでって言われても……とにかく、知ってるのよ」
「えっ、じゃ、じゃあ、『ハッピーサマーウェディング』は?」
「知ってるよ……『紹介します。証券会社に勤めている、杉本さん。背はまぁ、低
い方だけど、やさしい人……』」
 胸の前で手を組み、せりふを完全に言ってみせる圭。
 か、完璧だ。っていうか、初めて見た、こんな圭ちゃん……。真里は面白くなっ
て、少し悪乗りしてきた。
「じゃあ、『恋愛レボリューション21』は?」
「ホイッ!」
「わぁーーーっ!! っていうかさっきから全部歌じゃないじゃないっ!!」
「たべるだぴょ〜〜〜んっ」
「振り付きだぁっ!!」

40 :名無し読者 : 2001/03/08(木) 07:17 ID:alGtFsK6
娘。小説総合スレッドの方であげさせていただきます。

41 :だれか : 2001/03/09(金) 07:39 ID:K6b3kdtY
了解です。いつもごくろうさまです。

42 :だれか : 2001/03/09(金) 07:47 ID:ELnMDLak

 結局、その後10分間、真里に乗せられるままに、圭はフリつきで歌いつづけた。
「ま、まさか、『理解して>女の子』まで……」
 しかもうまい。レッスンも何もしてないはずなのに、歌もダンスもあっちの世界
の圭ちゃんに勝るとも劣らない出来だ。無論、真里が圧倒されていたのはそれだけ
の理由ではなかったが。
「ねぇ、どこで歌やダンスを習ったの?」
「習ってないわよ」
「じゃあ、なんで知ってるの?」
「だから、とにかく知ってるんだって」
 圭はそう言って立ち上がると、唖然とする真里を尻目に、草の上に引いた毛布を
たたみ、リュックの中にしまった。
「やぐちさんといると、これから竜の館に行くなんて思えないわ」
 そう言って、微笑む圭。その笑顔を見ると真里は、やっぱり圭が”確かなもの”
に思えてきて、自分の感覚のたよりなさに肩を落とした。

43 :名無し娘。 : 2001/03/09(金) 19:19 ID:dA5CF1G2
SEXYビームはLOVEマシーンじゃなくて
恋のダンスサイトですよ。

44 :名無し読者 : 2001/03/10(土) 03:16 ID:3gYPbSQQ
娘。小説総合スレッドの方であげさせていただきます。

45 :だれか : 2001/03/11(日) 05:17 ID:CXOLrp0Y
>>43
ああっっっ!!
ごめんなさいっ。
こんな凡ミスをしてしまうとは……。
ご指摘ありがとうございますm(_ _)m


46 :だれか : 2001/03/11(日) 05:33 ID:xLiIFb.o

 結局、その日はさらに夕方まで森の中を歩きつづけた。
 真里は、圭が何の迷いもなくドンドン進んでいくのが不思議でならなかった。迷
いなく竜の館につくことになんの疑いもないように見える。
「だって、北にむかってるじゃない」
 圭はあたりまえのように言った。
「でもさぁ、なんでこっちが北だって分かるの? 歩いてるうちにそれてるかもし
れないじゃん」
「誰だって、どっちが北かくらい分かるじゃない」
「う〜ん」
「やっぱり、やぐちさんっておもしろいわね」
 圭は少しだけ笑った。
「そうかなぁ?」

47 :だれか : 2001/03/11(日) 05:34 ID:xLiIFb.o

 そらが赤くなり始めてくると、圭は枯れ枝を拾いながら歩いた。
「焚き火用にするのよ」
 だ、そうだ。真里も手伝おうと思ったが、クタクタでリュックを持って歩くのが
精一杯だった。
 圭の腕に焚き木がいっぱいになった頃、二人は立ち止まった。
「あ〜〜、つかれたぁ〜っ!」
 真里はリュックを投げ出して、草の上に寝転んだ。圭は焚き木を置くと、手近な
枝をほうき代わりに落ち葉を掃き始めた。
「やぐちさん、水を汲んできてくれる?」
 上体を起こす真里。
「水? どこから?」
「川から」
「川? あったっけ? そんなの」
「ほら、聞こえない?」
 耳をすますと、圭の言うように小さな川の音が聞こえた。

48 :だれか : 2001/03/11(日) 05:37 ID:xLiIFb.o

 水を汲んで戻ると、落ち葉は一ヶ所にまとめられて、その近くにはかわいた地面
がむき出しになっていた。圭はその中央で焚き木を積み上げ、火をつけようとして
いる。
(うまく火をつけられるかなぁ?)
 と真里が眺めていると、圭はマッチ一本であっさりとつけた。その後、毛布をさっ
き寄せた枯葉の上に広げる。真里はその手際のよさに感心しながら、水筒を圭に渡
した。
「こういうふうに、野宿するのって慣れてるの?」
 真里は毛布の上に腰を下ろして、圭に声をかけた。
「ううん、はじめて」
「じゃあ、誰かに教わったんだ」
「やぐちさんって、習うとか教わるとか、好きね」
 冗談っぽく笑う。
「だって、誰にも教えてもらってないのに、枯れ枝を集めながら歩いたり、枯れ葉
を掃いたり、火をつけたりしたっていうの?」
「そうした方がいいかな? って思うのよ」
 本能みたいなものか、と真里は思った。多分圭ちゃんに限らず、みんなこうい
う事は当然のように出来るんだろうな。

49 :だれか : 2001/03/11(日) 05:41 ID:xLiIFb.o

 食事を取り終わった頃にはもう辺りは真っ暗だった。でも昨日ほどの恐さは感じ
ない(やっぱり誰かと一緒にいるだけでもずいぶん違うなぁ)、ふと圭を見ると、
圭は自分の手のひらを見ている。
「どうしたの?」
「なんか……とげが刺さったみたい」
 真里はそれを聞いて、昨日のことを思い出した。
「それを抜いてあげたら、望みをかなえてやる、ってつもりはないよね?」
「なんで?」
「そんな事言った奴がいたのよ」
「だれなの?」
「ムスメ」
「娘。じゃ分からないよ」
「だって、ムスメだもん」
「なに? それってやぐちさんの好きな人、とか?」
「冗談じゃないよ」
 笑って真里はポケットからとげぬきを取り出した。
「あれ? どうしてそんなの持ってるの?」
「ちょっとわけありでさ」

50 :だれか : 2001/03/11(日) 05:43 ID:xLiIFb.o

 真里は差し出された、圭の手を取った。やわらかい手だった、やっぱりこういう
野宿になれてはいないみたいだ。とげは右手の親指の先に刺さっていた。
「見えないとげって知ってる?」
「……? 知らないわ」
「じゃあ、抜くフリをするだけで抜けるとげは?」
「知らない……あ、それって、心のトゲって事?」
 なるほどなぁ、と真里は思った。
「いたっ」
「あ、ごめんね」
 不器用なせいか、うまく抜けなかった。真里は手を火の方へむけて、よく見える
ようにした。
「ねぇ」
 圭の息が真里の頬にかかった。
「ん?」
「やぐちさんの事、矢口って呼んでいい?」
 思わず顔を上げると、目の前に圭の顔があった。真里はすぐに視線を手のひらに
戻し、とげぬきに集中する事にした。
「ねぇ、いい?」
「いいよ」
 真里はわざとそっけなく答えた。なぜか、圭が大人っぽく感じた。
「あ、ぬけた」
 真里はとげを焚き火の中に放り込んだ。
「ありがとう」
 圭が言った。

51 :名無し読者 : 2001/03/11(日) 07:06 ID:MW0Klo0M
娘。小説総合スレッドの方であげさせていただきます。

52 :だれか : 2001/03/11(日) 23:09 ID:rCxxEdsI

4.A Rainy Day

 次の日もふたりは森の中を歩き続けた。
 夕方近く、急に森の暗さが深くなった。見上げると、今まで晴れ渡っていた空に
侵食するように、黒い雲が広がっていった。
「まさか、雨なんて降らないよね」
 そう言っているうちに、木々の間を抜けて、冷たい風が吹きぬけた。
「雨になるわ……」
 圭は真里の手を引っ張ると大きな木の下へ駆け込んだ。見る間に滝のような雨が
襲い、地面に落ちた雨が低いところに集まり小さな川をつくる。
「……ック」
 雨音で圭の声がかき消される。
「えっ?」
「リュックを……」
 うなづいてマントの下にリュックサックを入れる。
「すぐにやむかなぁ」
 声がとどいたのかとどかなかったのか、圭は目を細めて、葉のしげみの間から空
を見上げていた。

53 :だれか : 2001/03/11(日) 23:11 ID:rCxxEdsI

 雨はやむどころか、さらに勢いを増しているようだった。地面を流れる枯れ葉が
まるで生き物のようにうねっている。木の下にいる真里達にも、次第に葉で防ぎき
れない雨水が落ちてきた。
「行こう、矢口」
 真里は驚いて圭の顔を見た。
「マジで!? もうちょっと弱まるまで待とうよ」
 圭は何か口を動かしながら、首を振った。どうやら行くしかないみたいだ。ふた
りは互いのマントを重ねて、一緒に体を包み、どしゃぶりの中に出た。

54 :だれか : 2001/03/11(日) 23:16 ID:rCxxEdsI

 滝に打たれるっていうのはこんな感覚かもしれない。厚手のマントの下でも体を
打つ雨の強さが伝わってくる。さっきより勢いの増した泥水は足首の上まで洗っ
ていき、水をすった服やマントが重く二人にのしかかった。
 真里は雨の音に包まれて、なにも考えず、ただ、足元を見つめて歩いた。
「わっ!」
 地面を流れる泥水の流れが急に横向きに変わった。この辺の雨水がすべてこの低
い谷間に集まってるみたいだ、狂ったように右から左へ流れている。二人はひざま
で泥水につかってしまった。
「圭ちゃん、気を付けて!」
 マントのすそをつかまえた泥水が二人を流れに引き込もうとする。
「きゃっ!」
 不安定な足取りですすんでいた圭が、とつぜん足をすべらせた。真里は圭を支え
ようとしたが、その小さな体で支えきれずはずもなく、次の瞬間、二人はうずまく
流れの中に倒れこんだ。
 冷たい水が体に入りこむと同時に、真里は大量の水を飲み込んでしまった。数メー
トル流された二人が立ち上がった時には、リュックがずっと遠くまで流されていた。
「リュックが……」
 追いかけようとする真里の手を圭が掴んだ。

55 :だれか : 2001/03/11(日) 23:19 ID:rCxxEdsI

「圭ちゃん」
 髪の毛を頬に貼り付けた圭が、首を振った。袋はすぐに見えなくなり、二人は水
をかいて、なんとか向こう岸までたどり着いた。
 真里は腹がたってきた。なんでこんな目にあわなきゃいけないわけ? 重くまと
わりつくマントがよけいに苛立たせる。真里はマントを脱いで、乱暴にたたんだ。
「な……で、…ぐの?」
 首をかしげる圭。(なんで脱ぐの?)と聞いているようだ。
「重いし、どうせ中まで濡れてるんだから、歩きにくいだけじゃん! これでも行っ
た方がよかったって言うのっ!?」
 真里を見つめる圭の顔がゆがんだ。雨にびしょ濡れになっていても涙が流れてい
るのが分かった。真里の胸はきゅうに冷えて、圭のマントを脱がして、さっきのも
う一枚と一緒に丁寧にたたんでやると、圭の耳元で。
「ごめん」
とあやまった。
 そして、左肩に二枚のマントをかけると、右手で圭の肩を抱いた。
「行こっか」

56 :名無し読者 : 2001/03/12(月) 07:03 ID:U6nysAyg
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57 :だれか : 2001/03/12(月) 23:10 ID:J68tFBGc

 ゆるやかな坂を登りきると、足元を流れる水はなくなった。あいかわらず雨は激
しかったけれど、さっきに比べればずいぶん歩きやすかった。
 食べ物も、毛布も、マッチもない今、なんとしても乾いた場所を見つけなくては
いけない。体もどんどん冷たくなって、指の感覚が遠のいてゆく。
「大丈夫?」
 そういう圭の声も震えていた。真里にくらべて、薄着の圭の方が寒いに違いない。あたりの暗さは時間が過ぎるにつれ増してきた、どうやら夜が迫っているらしい。このまま夜になるかと思うと怖かった。
 とつぜん圭が足を止めた。
「道だわ!」
 言われて、真里も気付いた、足元に草がない。その先を見ると、それがとぎれと
ぎれに続いていた。
 二人は急いで道をたどった、やがて先に山小屋らしき家が見えてきた。玄関の窓
から、明かりが漏れている。圭を見ると向こうもこっちを見ていた、どうやら幻で
はないみたいだ。

58 :だれか : 2001/03/12(月) 23:14 ID:J68tFBGc

「ごめんくださーい」
 二人はとびらを開けた、中から流れてくる空気が暖かい。
「誰?」
 奥からハスキーな女の人声がした。
 真里は声でなんとなく予想がついたが、奥から出て来たのは娘。を卒業した時と
まったく変わらないままの彩っぺだった。
「こんばんは」
 真里はとりあえず、普通にあいさつした。圭は後ろに少し身を隠す。少し怖がっ
ているようにも見えた。
「知ってる人?」
 聞くと、圭は逆に、彩に聞こえないくらい小さな声で返した。
「ううん、知らない……けど、ちょっと、怖い感じ」
 怖い? 彩っぺが怖いかぁ〜。確かに、初めて会った時は結構怖かったかも。そ
う思って彩の顔を見て首をひねる。
(今はそれどころかやさしそうに見えるんだけどなぁ)
「怖いと思ってるんでしょ」
 彩は意地悪そうに笑って、髪をかきあげた。

59 :名無し読者 : 2001/03/13(火) 07:14 ID:/uoDjF0A
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60 :だれか : 2001/03/15(木) 21:20 ID:3Wiw.3v2

「圭ちゃん、だいじょうぶだよ」
 真里は圭に言った後、彩におじぎした。
「私達、竜の館に行くところなんです。けど、雨で荷物を無くしちゃって……。も
しよかったら一晩泊めてもらえませんか?」
 真里にとって、彩に敬語を使うのは違和感があったが、彩は驚いたように目を開
いた。
「いままでに、竜の館に行くって言う子達が何人もよってったけど、あなたの様に
ちゃんとあいさつできた人は初めてよ。どうぞ、泊まっていって」
 彩は奥に消えた。真里は部屋の奥に見える暖炉で早く暖まりたかったが、床を水
浸しにしそうなのでやめておいた。圭は彩が消えて行った、廊下をまだ見つめてい
る。
「やさしい人じゃん」
 真里は言った。
「でも、なんか……、私達と違う……」
「違う?」
「落ち着いてるっていうか……ううん、それだけじゃなくって、雰囲気が違うって
いうのかな?」
「大人っぽいって事?」
「大人?」
 圭は首をひねった。
「う〜ん、でもね。私達も生きていれば、いつかはああいう風になると思うよ」
「私も?」
 矢口もなるよなぁ〜? いつか、多分。
「もちろん」
「……どうして矢口はそんな事知ってるの?」
「どうして? う〜ん、まあ、とにかく、知ってるんだよね」
 やがて、奥から彩っぺの呼ぶ声が聞こえた。


61 :だれか : 2001/03/15(木) 21:34 ID:3Wiw.3v2

 これでやっと三分の一くらいかな?
 一体、最後までどれだけの人が読んでくれるのか……。
 それより、今どれくらいの人が読んでくれているのか?
 やっぱりちょっとは気になるね。
 あ、そうそう。娘。のメンバー、中盤以降から全員出す予定です。

 >>59
 名無し読者さん、いつもごくろうさまです。

62 :だれか : 2001/03/15(木) 21:38 ID:3Wiw.3v2

  5.彩っぺの話

 窓から入る光で目が覚めた。昨日の大雨がうそみたいだ。昨日は暖かいお風呂に
入らせてもらって、着替えまでかしてくれて、夕食を食べさせてもらうと倒れるよ
うに寝てしまった。風呂場で洗った服と靴は、暖炉ですっかり乾いていた。
 彩っぺはこんな森の中で一人ぐらしの様に見える。真里は朝食の後、ずっと気に
なっていた事をたずねた。
「なんでこんなに親切にしてくれるんですか?」
 彩っぺは実際、二人がどこから来たのか? なんてことをたずねる事もなく、ま
るで当たり前の事のように親切にしてくれてた。
「あなた達が竜の館へ行くからよ」
 そう言って小さく笑った。
「竜の館へ行くから?」
「うん、それが私の仕事なの」
「仕事?」
 彩は一度コーヒーをすすって、一息ついた。真里は、彩のそれだけの仕草が妙に
大人っぽく感じて、少し見とれた。
「竜の館へ行くって事は、どういう事か知ってる?」
「竜のいけにえになりに行くんでしょ?」
 真里が答えると彩は首を振った。そして二人の顔を、ゆっくり見つめながら言っ
た。
「竜の館に行くって事は、竜と戦うって事なの」


63 :名無しさん : 2001/03/16(金) 01:20 ID:.2N5aQhs
読んでますよ。最初からずっと。
元ネタ知っててなんだかなつかしい気分。
でも、最後忘れたんでラスト楽しみにしてます。

64 :名無し読者 : 2001/03/16(金) 07:14 ID:amcTUX9A
>>61
有り難うございます。
娘。小説総合スレッドの方であげさせていただきます。

65 :だれか : 2001/03/17(土) 00:12 ID:y8A56Uq2
>>63
読んでくれて、ありがとう、元ネタを知ってくれている人がいて、うれしいっす。

66 :だれか : 2001/03/17(土) 00:16 ID:y8A56Uq2

「え!?」
 真里より先に圭が声を上げた。うなづく彩。
「いい? 『竜と戦う』って事は、竜を倒す事ができるかもしれないって事なの」
「竜を……倒す!?」
 今度は真里が声を上げた。
「……事ができるかもしれない。って事ね」
 顔を見合わせる真里と圭。
「そんな話、聞いた事がないでしょ? 今まであなた達の村……街かな? とにか
くその中で、竜の館へ行って戻ってきた人はいなかっただろうから。だから、あな
た達も、ただいけにえになりに行くもんだと思ってたでしょ?」
 圭の驚きもそうだろうが、真里の驚きはそれ以上だった。『竜を倒す事ができる』
って事は、『竜が一番確かなモノじゃない』って事になってしまう。
「じゃあ、ちょっと聞いて。なんであなた達が竜の館へ行かなければならないか、
話してあげる」
 彩は机の上にひじをつくと、両手の長い指を組んだ。真里は彩のくすり指に指輪
を見つけて、少し不思議な気がした。


67 :だれか : 2001/03/17(土) 00:24 ID:y8A56Uq2

「昔、この国は幸せな国だった。森のあちこちに村があって、湖の近くに都があっ
た。都には若い王様、”つんく”が城をかまえていたの」
 そこで、彩は一度言葉を切った。
「”おとな”、って言葉があるんだけど」
 圭は真里の顔を見た。真里は横目でそれに答え、うなづく。
「大人っていうのは、あなた達のより上の……、そうね、私くらいの年齢から上の
時期の事をいうの。つんく王は大人だったけど、若かった。それ故に悩み事があっ
たわ」
 それは、もしこの国が他の国に攻め込まれたら、まだ若い自分がこの国を守る事
ができるだろうか? という不安だった。

68 :だれか : 2001/03/17(土) 00:26 ID:y8A56Uq2

 その頃、どこから来たのか、湖に竜が住みついた。竜はつんくの悩みを見透かし
たように、一つの提案をした。
『知恵と力で私と戦え。もしお前が勝てば、十分お前はこの国を守る事ができるだ
ろう。だが私が勝てば、お前の若さをもらう。ただじゃない、その変わりにお前の
する仕事を、私が魔法で全てやってやろう。この国は変わりに守ってやる。』
 つんくはこの提案を受け入れた。どちらにしても国を守る事ができる。
 その夜、つんくは湖に面した広場で竜と戦った。知恵の戦いというのは、なぞの
掛け合いだった。まず、竜が問題を出した。
『全ての者が持っていながら、全員がいつか手放す、それでいてまた、手に入れる
事もあるが、竜を倒す剣でも突き通せないものはなんだ?』
 つんくは答える事ができなかった。問いに答えられなかったとき、あるいはその
答えになぜ? なんで? と疑問を聞き返したときに、知恵の勝負は決まる事になっ
ていた。
 竜の謎に答えることができなかったつんくは、逆に竜になぞをだした。
『竜の弱点はどこにある?』
 これはつんくがうまかった。答えれば、次の力の勝負で有利になる、答えなければ
知恵の勝負は引き分けになる。
 竜はいかりに目を赤くして答えた。
『それは心臓だ、この左前足のすぐ後ろにある』

69 :名無し読者 : 2001/03/17(土) 07:02 ID:8jNGYJpo
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70 :だれか : 2001/03/18(日) 03:04 ID:eaGexNos

 その瞬間、知恵の勝負は竜の勝ちとなった。つんくは剣を抜き、竜に力の勝負を
挑んだ。すさまじい戦いで、つんくは竜の心臓をねらい、竜はつんくに灰色の息を
吹きかけようとした。
 だが、思った以上の竜のすばやい動きにつんくはついていく事ができなかった。
竜が隙を見て息を吹きかけると、つんくはあっという間に老人になってしまった。
 それを見守っていたこの国の勇士が、王の若さを返せ、と竜に迫り戦いを挑んだ
が、結局彼も竜に若さを奪われ、老人となってしまった。
 こうして、それまでの者の若さを返せと、勝負を挑んだ者達が、竜に同じように
戦いを挑み、敗れ、老人にされた。竜は、自分に挑戦するものがいなくなると、誰
かが自分と戦う事を要求しだした。
 竜は毎晩の様に戦い、勝ちつづけた。だが、約束は守った、魔法によって、老人
にされた男女がこれからしたであろう仕事をすべて行った。もちろん国も守った。

71 :だれか : 2001/03/18(日) 03:07 ID:eaGexNos

 竜はこの国の全ての大人を老人にすると、今度は子供達を相手に選んだ。
 国にあふれる老人達は、森の中のあちこちの村へ追いやられ、都は畑に変えられ、
城だけが残されていた。城は竜の館と名付けられ、戦いには負けたが、数人の者が
そこに住み、集められた子供達の世話をした。
 竜は子供達にも勝ち続け、最後の少年、少女が老人になった夜、空に向かって六
十本の矢を自分の口から吹き上げた。
 六十本の矢は、森を越えて飛んでいった。一ヵ月後、三十組の少女が竜の館へやっ
てきた。それは竜によって老人にされた者達が産んで、育てるはずだった子供達だっ
た。少年がいないのは、竜が力の戦いになった時に万が一でも自分を脅かす事のな
い様に少年を産み出すことをさけたためだ。少女達ははじめから少女として産みだ
され、遠くの村で養われ、矢で呼び出されたのだった。
 竜は戦いを”儀式”と呼び、一晩に二人ずつ、三十日間少女に勝ち続けた。
 そして、二ヶ月ごとに儀式は繰り返され、誰も竜に勝つ事ができないままに年月
は流れた。

72 :だれか : 2001/03/18(日) 03:09 ID:eaGexNos
昔話終了。疲れた(´ヘ`;)

73 :だれか : 2001/03/18(日) 03:11 ID:eaGexNos

「……で、あなた達の順番が来たってわけ。あなた達に幼い頃の記憶がないのは、
あなた達は竜によって老人にされた誰かの子供達だからよ」
 彩は長い話を終えると、残ったコーヒーを飲みほした。
 真里は、若い王がつんくだと聞いたときは少しふきだしそうになったけれど、そ
の後の話で、それもいっぺんに吹っ飛んだ。いけにえになる事が、竜に敗れて、老
人にされる事だとは思いもしなかった。てっきり殺されるんだとばかり思っていた。
 突然、圭が彩にたずねた。
「竜が王に出した、なぞの答えはなんだったんですか?」
「青春よ」
 彩はあっさり答えた。
「全ての者が持っていながら、全員がいつか手放す、それでいて、また手に入れる
事もあるが、竜を倒す剣でも突き通せないもの。それは青春、青春時代ね」
 その答えに真里は思わず圭の方をチラッと見たが、圭は何と言う事もなく、真剣
に彩を見つめていた。
「竜を倒す剣はあるの?」
 真里はたずねた。そんなものがあれば、それこそ一番確かなモノだと思ったから
だ。

74 :だれか : 2001/03/18(日) 03:14 ID:eaGexNos

「どうかな?」
 彩は微笑んだ。
「竜を倒す剣があるかどうかは分からないけど、あなた達は武器を持っていないみ
たいね、私が剣の一振りでもあげるわ」
 真里は不安になってきた。竜がムスメじゃないなら、負けて老人にされたらムス
メを探してこの世界をさまようって事? もし戻れてもおばあちゃん? それはま
ずい、ホンッッットに、まずい、モーニング娘。どころの問題じゃない!
(あ、そういえば……)
 ムスメは『おまえが年寄りになるかならないかという頃に、やっと元の世界では
二分間が過ぎるかってくらい』って言ってた。矢口が竜と戦って、老人にされるか
されないかって時間、って意味だったんだ。
 それに『あっというまに年を取っちゃうかもしれないぜ。』とも言ってた。それっ
て矢口が竜に負けるかもしんない、って事じゃん。
 あれ? でも『それまでにつかまえろ』って言ってた……ってことは、それまで
にムスメが何かの姿になって現れるって事だ。じゃあ、なんの姿だろ?
「ついてきて」
 彩は、それぞれの考えにふける二人にそう言うと立ち上がった。

75 :名無し読者 : 2001/03/18(日) 07:11 ID:eB2XNq8E
娘。小説総合スレッドの方であげさせていただきます。

76 :だれか : 2001/03/18(日) 19:03 ID:eaGexNos

 案内された部屋には床がなく、地面がむき出しになっていた。中央に大きな岩が
半分埋まっていて、その上には2本の剣がつのの様に突きささっていた。
「なんですか? これ」
「ああ、これ? これもいい剣なんだけどね。なぜかこの岩から抜けないのよ。も
し抜けたらそれをあげたいんだけどね」
 真里は面白そうだと思った。
「試してみていいですか?」
「いいわよ。ダメだったら他のをあげるわ」
 真里は圭にもう片方の剣の方へ回らせ、二人同時に手をかけた。すると、二本の
剣は、あっさり岩から抜けた。
「あれ? 抜けたよ」
「彩さん……これ」
 圭の声に振り向いた彩は、岩と剣を見比べて目を丸くした。
「うそ!?」
 彩が後ずさりしながら言った。
「まさか、あなた達が……、選ばれた者?」

77 :だれか : 2001/03/18(日) 19:05 ID:eaGexNos

「えらばれたもの?」
 圭は彩の言った通りに繰り返して聞いた。
「その剣は……選ばれた二人だけに抜き取る事ができる、竜を倒す剣なの……」
「だって、さっきは、そんな剣はあるかどうか分からないって……」
「ごめんね。悪気があって言ったわけじゃないの」
 彩はうつむきかげんで続ける。
「もし、私がこれが竜を倒す剣だって言って、あなた達がこれを抜けなかったらど
うする? あなた達は、自分は選ばれたものでないから竜を倒す事ができないと知っ
て、むざむざ勝ち目のない戦いに挑まなきゃなるわ」
「……」
「私は、ここに来た人達全員にもさりげなく試させたの。もちろん誰にも抜けなかっ
たわ。だから、誰にも言えなかった。だけど、その剣が、竜を倒す剣なの、選ばれ
た者のための剣なの」
「そんな……」
「矢口!」
 圭が走りよって飛びついた。
 そんなばかな、と真里は思った。でも、目を輝かす圭と、真剣な顔で二人を見つ
める彩、そして、自分の手に握られた冷たく光る剣を見ると、この運命を受け止め
ないわけにはいかなかった。

78 :だれか : 2001/03/18(日) 19:06 ID:eaGexNos

 彩は奥の部屋から、さやのついた皮のベルトを持ってきた。腰に巻き付け、剣を
おさめるとその重さとともに真里の心は引き締まった。
「ホントは……私の仕事は竜の館へ行く子達の世話をする事なの。食事や寝床を与
えて、武器を与える。当然、武器と言っても普通の剣だから、役にはたたないんだ
けど、何も持たないよりは心の支えになるから」
 彩はさらに続けた。
「あなた達が館につけば、たくさんの子に会うと思うの、みんな剣を持ってると思
うけど、絶対にそれが竜を倒す剣だって事は教えないで。もし教えれば、竜ばかり
じゃなく、他のみんなまで敵にまわしかねない。
 だから、儀式が始まっても、あなた達の儀式の日までは我慢して、それから竜を
倒すの。知恵の戦いに負けても、その剣があれば力の戦いに勝てるし、そうすれば
みんなの若さ、みんなの人生は竜から取り戻せるんだから」
 二人は緊張した顔でお互いを見つめた。真里は初めて力の入った圭の顔を見た気
がした。

79 :だれか : 2001/03/18(日) 19:17 ID:eaGexNos
説明くさい、6.彩っぺの話は終了。
内容を消化しきれているのか心配だ。
書いた今、まさにノックアウトです。
でも読む人の方が大変ですね。すいませんm(_ _)m


80 :だれか : 2001/03/18(日) 19:19 ID:eaGexNos
>>79
あ、5.でした。

81 :名無し読者 : 2001/03/19(月) 07:05 ID:kAk/tIxU
娘。小説総合スレッドの方であげさせていただきます。

82 :だれか : 2001/03/19(月) 23:18 ID:GH9ZnvA.

  6.時間よ止まれ

 彩と分かれてから、森の中はとぎれとぎれに道が続いていた。話によると、竜の
館までは後一日も歩けば着くという。
「こんな事になるなんて、思いもしなかったね」
 圭が口を開いた。
「うん、思いもしなかった」
 真里は、他の世界から来た自分が、なぜ選ばれた者なのか不思議でならなかった。
いや、もしかしたら、だからこそあの剣を抜けたのかもしれない。
(でも……)
 ムスメの事はどう考えたらいいんだろ? 竜を倒す剣を手に入れた今、一番確か
モノはこの剣に違いない。だけど、それが二本あるって事はどういう事? ムスメ
は『一つのモノになっている』とは言ってはいないけど、だからって二つのモノに
なってるとも思えないし……まさか、それがひっかけとか? まぁ、どっちにして
もこの剣以上に確かなものなんて考えられないよね。
(じゃあ、二本ともかかえて「つかまえた」って言ってみる?)
 あ、……だめだ。そうしたら、竜は残って、剣は消える。それじゃ圭ちゃん達は
どうなる? やっぱりそれはできないか。……あ! そうか、竜を倒してからでも
遅くないんだ。それでちょうど、元の世界では二分過ぎるかどうかってくらいなん
だよね。
(ひょっとして、この世界を救うために、ムスメは私を引きずり込んだとか……)
 ……よし! 今はとにかく竜を倒す事を考えよう。

83 :だれか : 2001/03/19(月) 23:24 ID:GH9ZnvA.

 昼を過ぎた頃、突然森は途切れ、二人は村に出た。
「妙に静かだね」
「うん」
 人がいないわけじゃない。ただ、だからといって、話すものもいなければ、何か
仕事をしているものもいなかった。
「矢口、これが老人の村なんじゃない?」
 圭のつぶやきに真里は驚いた。老人の村がどんなものか想像していたわけではな
かった。だけど、自分の知っているおじいちゃんやおばあちゃんの暮らしぶりから、
それなりに楽しく生きているんじゃないかな? と思っていた。
 二人はなんとなく老人達から目を離して歩いた、並んでいた家がとぎれ田畑に入
る、遠くの牧場には牛や羊なんかが見える。
「!」
 村ももう少しで終わろうとする頃、圭が突然立ち止まった。視線が畑のはずれに
ある丘の方へ向いている。
「どうしたの?」
 真里も同じ方に顔を向けると、丘の上にある背の高い木の下に一人の老婆が座っ
ているのが見えた。
「まさか……」
 老婆をにらみつけるように見つめる圭。
「あの人……紗耶香?」

84 :だれか : 2001/03/20(火) 00:15 ID:KW8qqQyo

 圭の言葉に驚いて、真里もその老婆をよく見ると、確かに目や口元の感じが紗耶
香に似ているように感じる。
「行ってみよう」
 真里は丘の斜面を登っていった。しかし登っていくにつれ、こんなおばあちゃん
が紗耶香のわけがないと思えてきた。
 二人は老婆の目の前に立つと、大きく深呼吸した後、声をかけた。
「あの〜」
 老婆はうつむいたまま。真里は声を大きくして続けた。
「あのー、紗耶香さんですか?」
 老婆はゆっくり顔を上げると、うつろな目で真里を見る。
「紗耶香さんですよね?」
 繰り返すと、老婆の顔に少しだけ表情があらわれた。
「この子に見覚えないですか?」
 ゆっくり前に出る圭に顔を向けた老婆は目をしばたかせた。
「圭ちゃん、ですよ」
「……圭?」

85 :だれか : 2001/03/20(火) 00:17 ID:KW8qqQyo

「紗耶香……なの?」
 圭は必死に笑顔をつくろうとしたが、泣きそうな顔にしかならなかった。真里は
明日香の事を訊ねてみる事にした。
「明日香はどこにいるんですか?」
「明日香……?」
 老婆は記憶を取り戻すように空を見上げた。すると、突然その顔に驚きの表情が
走り、みるみる涙がにじんだ。
「明日香。」
 そう言うと、老婆はひざの間に顔をうずめた。肩が小刻みに震えている。
「紗耶香だわ」
 圭も涙が流れそうになるのを必死にこらえている。真里も胸をしめつけられるよ
うな思いに涙がにじんだ。目の前のこの老婆が紗耶香だと分かったのがつらかった。
世界は違っても、娘。の卒業以来に会った紗耶香がこんな姿になっているなんて。
 それまで、いけにえになるくらいなら老人になった方がましだと真里は思ってい
た。だけど、今は老人にされてしまう事の残酷さを見せられたように思った。

86 :名無し読者 : 2001/03/20(火) 18:50 ID:cee1STOo
娘。小説総合スレッドの方であげさせていただきます。

87 :だれか : 2001/03/20(火) 23:05 ID:oX8KCZLE

「明日香は……死んだわ」
 紗耶香は上着の袖で涙を拭った。
「ど、どうして?」
 二人は同時に叫んだ。
「どうして? どうしてって……」
 紗耶香は遠くを見た。そして急に鋭い目で二人を見据えた。
「順番、順番よ。そうしないと、ここは年寄りでいっぱいになってしまう。もう働
けない、もうすぐ死んでしまう者がここには来るんだから」
「もうすぐ死ぬ? 紗耶香、あなたほんの一ヶ月前までは私達と同じ子供だったん
でしょ?」
「まさか。一ヶ月前は私も働いてた、歌を歌ってお金をもらってたのよ」
 紗耶香は何かを歌おうと高い声を出した、だけどすぐに咳き込んだ。
「紗耶香は一ヶ月前、竜と戦ったんでしょ? 明日香と一緒に」
 真里は思わず強い調子で言った。紗耶香は笑った。
「ひと月前まで、歌を歌っていた私が、なぜ竜と……」
 急に紗耶香の顔から笑いが消えた。
「なぜ……?」
 言い直して、びくっと体を震わせた。
 多分、竜と戦った時、なぜ、と言った時の事を思い出したのだろう。

88 :だれか : 2001/03/20(火) 23:07 ID:oX8KCZLE

「竜と戦ったのは何十年前の事だっただろう。まだ私が子供の時……、そうだ、明
日香と一緒だった」
 紗耶香は木の幹に持たれて疲れたように話し出した。竜に老人にされるという事
は、どうやら老人になるまでの記憶も頭に刻み込まれるらしい。
「竜はどのくらいの大きさなの? どんな姿をしてるの?」
 真里がたずねるのを紗耶香は聞いていなかった。
「みんな竜の鱗になってしまった」
「うろこ?」
「私達は……私と明日香はどうなったんだろう?」
「紗耶香。」
 真里が呼びかけると、
「えっ?」
と明日香は顔を上げた。
「竜の鱗になるってどういう事なの?」
「竜の鱗……、みんな何も分からないままに竜の鱗になってしまった。あっという
まに老人になる、すると、竜の体に新しい鱗が増える。あれは二人の若さが二枚の
鱗になるんだわ。それにしても……私と明日香はどうなったんんだろう? 昔の事
だから……、忘れてしまった」
 紗耶香の目は遠くを見つめていた。

89 :だれか : 2001/03/20(火) 23:08 ID:oX8KCZLE

「竜はみんなの若さをなんでうろこにしたの?」
「あ! ああ」
 真里の質問が終わる前に紗耶香は声をあげた。
「今、なんで? と言ったわね。あなたの負け、負けだわ」
 明日香は真里を指差して、突然笑い出した。二人は思わず後ずさりした。そこに
あったのは真里の知っているどの紗耶香とも違っていたなかった。
「矢口、行こう」
 圭が真里の腕を引っ張った。もう、耐えられないといった様子だった。真里は、
かける言葉も見つからず、紗耶香に頭を下げるとその場を後にした。
 二人はそのまま一度も振り返る事無く、何も言わずに斜面を降り、村を抜け、再
び森の中に入るところで、真里はもう一度振り返った。もう丘の上には紗耶香の姿
は見えず、夕暮れの下、村の景色が広がっていた、ゆるい風になびく稲穂、赤く照
らされた家……、圭と並んで見ているこの景色は、平和そのものだった。雲がゆっ
くり流れてゆく。
「だれもいない」
 圭がつぶやいて、真里は気付いた。この景色に家があるのも、稲穂が揺らいでい
るのも、全部竜の魔法で世話されているからだったんだっけ……。
 そう考えると、景色が少しゆがんで見えて、めまいがした。

90 :名無し娘。 : 2001/03/21(水) 01:00 ID:d4tOHtXs
24時間以内に更新された作品。
共和国戦闘実験第六十八番プログラム
http://teri.2ch.net/test/read.cgi?bbs=mor2&key=979198179&st=109&to=118
「皿は見ていた。」
http://teri.2ch.net/test/read.cgi?bbs=mor2&key=978805039&st=112&to=112
なんでも誉める石川
http://teri.2ch.net/test/read.cgi?bbs=mor2&key=983641617&st=118&to=127
二分間娘。 ※
http://teri.2ch.net/test/read.cgi?bbs=mor2&key=983479282&st=84&to=89

91 :名無し娘。 : 2001/03/21(水) 01:01 ID:d4tOHtXs
すみません。すれ違いです。ごめんなさい。

92 :だれか : 2001/03/21(水) 01:11 ID:HvyRiPjA
>>91
了解。いつもごくろうさまです。

93 :名無し読者 : 2001/03/21(水) 11:38 ID:CIOcnrhc
娘。小説総合スレッドの方であげさせていただきます。

94 :だれか : 2001/03/21(水) 21:10 ID:HvyRiPjA

  7.竜の館

 夕暮れ前、二人は森を抜け、広い牧場に出た。牛があちこちから何かに引かれる
ように集まっていた。その次に通り過ぎた畑では、野菜が育てられていた。
「竜の魔法か……」
 真里には人々の若さと引き換えに得られた、その便利さが残酷に感じた。
「矢口はこんなのやだな」
「わたしも嫌だ」
 圭ちゃんも同じ事を考えてたみたいだ。
「私ね、自分で働く事って、きっと素晴らしい事だと思うわ」
 その通りだと、真里も思った。
「だから……私達でそれを取り戻すの」
 圭は力強い口調で言った。

95 :だれか : 2001/03/21(水) 21:11 ID:HvyRiPjA

 林の中、まわりが薄暗くなって空気も少し冷たくなってきたころ、木立の向こう
に小さなあかりが見え出した。
「圭ちゃん、あれかな?」
「そうみたいね」
 しばらくして、林が途切れると、広い芝生の上に大きな建物が見えた。
「こんな建物だなんて思わなかったなー」
 真里はつぶやいた。もともと王の住んでいた城だと聞いて、中世のヨーロッパの
お城のような姿を想像していた。けれど、目の前の建物は、ただの四角くて横長の
建物で三階しかない。どちらかというと学校の校舎といった感じだった。
「あれが玄関みたいね」
 圭の指をさした先には、大きな扉があった。
「いこう」
 二人は玄関に向かって歩き始めた。

96 :だれか : 2001/03/21(水) 21:14 ID:HvyRiPjA

 扉は、近づくにつれ思ったより大きかった事が分かった。ゆうに真里の二倍近い
大きさがある。二人が扉の前に立って、どうしようかと迷っていると、扉は向こう
から、勝手に開いた。
「竜の館へようこそおいでくださいました」
 扉の向こう、玄関にあたるホールのすみに灰色のガウンをまとった老人が立って
いた。
「あなたがたで五十八人、あと一組で六十人。明日から、儀式の日が始まる」
 二人に言っているのか、独り言なのか。老人は顔を上げながらつぶやいた。
「お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」
 二人の前に立って歩き出した老人の足取りは、意外に若々しい。
 ホールに入って左側の廊下に入る、磨かれたような石の床だった。かべの両側に
はランプがともされている。
「ちょうど夕食の時間です。あなたがたの席もあります」
 廊下の突き当たりから光が漏れていて、食器の音、料理のにおいが流れてくる。
老人は二人を食堂まで案内すると、玄関へ戻って行った。

97 :だれか : 2001/03/21(水) 21:18 ID:HvyRiPjA

 食堂の入り口に扉はなく、なかでは何十人もの少女達が長机に座って食事をして
いた。二人が食堂の入り口に立つと、スプーンやフォークのカチャカチャという音
が止まり、全員がいっせいにこっちを見た。
「!」
 真里ははっと息をのんだ。全員知っている顔だった。友達も入れば、圭ちゃん達
とあった時に、その中にいなかったハロプロのメンバーもいる。何より驚いたのは
裕ちゃんや圭織、なっちにごっちん、加護、辻までその中にいた事だった。裕ちゃ
んはなんだか、むこうの世界の裕ちゃんより少し若返ってる気がした。
 でも、びっくりしていたのはやっぱり真里だけだった。みんな無表情で視線を落
とすと、再び食事を続けた。圭はそんな真里を、どうしたの、という目で見ている。

98 :名無し読者 : 2001/03/22(木) 07:00 ID:TjUQtCVA
娘。小説総合スレッドの方であげさせていただきます。

99 :だれか : 2001/03/22(木) 07:42 ID:48Jfo3OI
明日から二日ほど更新できません。
狼板のようにスレがとばされない事を祈りながら。
少しだけ更新。


100 :だれか : 2001/03/22(木) 07:46 ID:48Jfo3OI

 二人は食堂の一番奥の空いている席に座った。すでに食事が置かれていて、スー
プから暖かそうなゆげが立っている。
 隣の席には加護、その隣には圭織、目の前にはなっち、圭ちゃんの前にはごっち
ん……。一体どうなってんの? と思いながら真里はみんなの顔を見ていった。
「食べないの?」
 圭に言われて、真里はスープを一口飲んだ。その途端に、このスープが竜の魔法
で作られたものだという事を思い出して、少し嫌な気分になった。
(そういえば……)
 なぜかみんな話をしない、なんでだろ? 真里は、前に座っているなつみに声を
かけた。
「どうしてみんな黙ってるの?」
 なつみはいきなり声をかけられてビックリしたように顔を上げた。そして、微妙
に真里から視線をはずしながら答えた。
「さぁ、どうしてかなぁ」
 なつみの落ち着きぶりが、真里には不思議だった。なっちだけじゃない、他のみ
んなも真里の知っているみんなより、ずっと落ち着いて見える。
(あ、そうだ……)
 竜を倒す剣の存在を知らないみんなは、もしかすると自分が竜を倒す事になるか
もしれないと思ってるんだ。
 そう考えると、真里にはみんなの落ち着きぶりが帰って痛ましく思えた。

101 :名無し読者 : 2001/03/24(土) 07:14 ID:DSn10RUk
娘。小説総合スレッドの方であげさせていただきます。

102 :だれか : 2001/03/24(土) 23:17 ID:y82qIqeg

 食事を終えた子達が、ふたりずつ席を立っていく。そこで、その全員が剣をもっ
ている事に真里は気付いた。どれもよく似ているけれど、なんの役にもたたない剣
のはずだった。真里はそっと机のしたの自分の剣に触れた。これが竜を倒す剣だっ
て事は誰にも知られちゃいけない。
 食事を終えて、真里と圭が席を立つと、灰色のガウンを着たおばあさんがやって
きた。
「食事を終えられたのでしたら、あなた方のお部屋に案内いたします」
 二人は互いにうなづき。
「お願いします」
と頭を下げた。
 おばあさんはその後何も話さず、二人を三階の、奥から二番目の部屋まで案内し
た。おばあさんが去った後、部屋の中央に吊るされたランプに火を点けて部屋を見
渡すと、小さな机といすが二つ置いてあり、奥には二台のベットが置いてあるのが
見えた。

103 :だれか : 2001/03/24(土) 23:19 ID:y82qIqeg

「静かね」
 何もする事もなく、圭がため息をついて言った。誰の声も、音も聞こえなかった。
隣の部屋には誰もいないのかな? 真里はそっと廊下にでると、様子をうかがった。
 奥の部屋には、やっぱり誰もいなかった。多分、まだ来ていないもう一組のため
の部屋だろう。さっき通り過ぎた手前の部屋からは明かりがもれている。のぞくと
食堂で隣に座っていた圭織と加護がいた。
 加護はベッドの上で、毛布をひざにかけて壁にもたれている。圭織は机の前のい
すに座って、鞘から抜いた剣を見つめていた。圭織は、それが何の役にもたたない
事を知らないんだ……、真里はなんとなく気分が沈んだ。
 部屋に戻ると、圭がベッドの上で窓の外を見上げていた。


104 :だれか : 2001/03/24(土) 23:21 ID:y82qIqeg
「どうしたの?」
 真里はそう言いながら隣に並ぶ。空には大きな月が出ていた。
「みんな、自分達が竜に勝てない、って事を知らないのよね」
 圭が小さくつぶやいた。
「それどころか、もしかしたら自分達が竜に勝てるかも知れない、と思ってるんだ
ろうね。きっと」
「なんか……、かわいそう」
「でも、もしみんなが老人にされても、矢口達がみんなの若さを取り戻してあげら
れるよ」
 真里は力をこめて言った。
「うん。そうなれば、私達がえらば……」
 圭はその後に遠慮がちに、レタモノ、と口を動かし、続けた。
「……だって、分かってもらえるもんね」
 真里はうなづいた。そしたら、矢口は剣を抱いて、ムスメを捕まえる。でも、そ
うなると、この圭ちゃんとはお別れになっちゃうんだなぁ……。
 真里は圭の目を見つめた。ランプの明かりが圭の目の中に映っている。
 森の広場での夜が、今から三日前の事だなんて、真里にはどうしても思えなかっ
た。

105 :だれか : 2001/03/25(日) 23:02 ID:4BtzKDgw

  8.選ばれた者

 次の日。昼食が始まった時、最後の三十組目の二人がやってきた。ひとみと梨華
だった。
 二人は圭の隣の自分達の席についた。真里は、この二人に他のみんなと違うもの
を感じた、表情が暗く、疲れきった顔をしている。
 真里は自分の知っている二人のそんな表情を見て心を痛めた。
 ひとみ達はほとんど食事を食べなかった。自分もあまり食べていないひとみが、
「梨華ちゃん、もっと食べなきゃだめだよ」
と、梨華にささやくのが聞こえた。
 真里がちらちらと見ているのに気付いたひとみは、小声で真里に話しかけた。
「ずいぶん静かじゃない? どうして誰もしゃべらないの?」
 真里は、何も悟られないように注意しながら、少し微笑んで答えた。
「さぁ、どうしてかなぁ」
 昨日のなっちと一緒だ、と真里は気付いた。

106 :だれか : 2001/03/25(日) 23:03 ID:4BtzKDgw

「ずいぶん、落ち着いてるんだね」
 ひとみは言った。
「そう見える?」
 言葉に注意して答えた。
「落ち着いてる。あなただけじゃない、みんなすごく落ち着いてる」
「よっすぃ〜、やめようよ〜」
 梨華が小声で言った。まわりのみんなが食べるのをやめて二人を見た。
「ごめん」
 ひとみは顔の前に片手を出して、梨華にあやまる。真里はそんなひとみの態度に、
妙に引っかかるものを感じた。

107 :だれか : 2001/03/25(日) 23:05 ID:4BtzKDgw

 夕食の時、ひとみと梨華だけが剣を持っていない事に真里は気付いた。よっすぃー
と梨華ちゃんは、ただいけにえになるためにここに来ていると覚悟しているのかも
しれない、と真里は思った。
 食事の途中で、玄関に立っていた老人が、やってきて大きな声で言った。
「食事の後、明日から始まる儀式について、館長から説明があります。ここに残っ
ていてください」
 それを聞いて、みんな、自分の相手と顔を見合わせていた。
 ずいぶん待たされた後、白髪の老人がやってきた。
「ようこそ、みなさん。私が館長です」
 よくとおる声でそう言って、館長はぐるりとみんなを見回す。
「いよいよ、明日から儀式が始まります。すでに聞いておられるかたもいるかと思
いますが、儀式は竜を倒すための戦いです。この中の誰かが竜を倒し、この国を竜
から解放してくださる事を願っております。
 とはいえ、もし竜を倒せなかったとしても、みなさんの若さが竜の力となり、こ
の国を支えていく事になるのですから、がっかりなさる事もありません」
「どっちを願ってるんだか……」
 ひとみのつぶやきに、まわりの数人が振り向いた。

108 :だれか : 2001/03/25(日) 23:08 ID:4BtzKDgw

「いずれにせよ、立派に儀式を終えて頂きたい。それではみなさんの幸運を祈って、
私のあいさつは終わらせて頂きます」
 その後、館長に変わって前に立った老人が、この国の歴史について話した。すで
に彩から聞かされて知っていた話だったが、まわりの何人かも、知っているように
うなづきながら話を聞いている。
 次に儀式のおこないかたを説明した。一晩に二人ずつ竜と戦う事。場所は館の北
の広場。まず、知恵の戦いがあり、なぞをかけあう。答えられないか、なぜ? な
んで? と言った方が負けになる。次に力の戦いがあり、剣で戦う。これもまた、
真里達は全部知っている事だった。
「では、今から、儀式にのぞむ順番を決めます」
 食堂の中に張り詰めた空気が流れた。

109 :だれか : 2001/03/26(月) 22:52 ID:OG6P8WIg

「みなさんの前にある皿の裏側に、数字が書かれているはずです。その数の順に、
明日から儀式にのぞんで頂きます」
 真里と圭の皿には”4”と数字が書いてあった。
「一番はどなたですか?」
 老人の声に、裕子と希美が立ち上がった。
「ウチらや」
 裕子の声は堂々としていた。
「二番は?」
 誰も立ち上がらなかった。
「二番はどなたですか?」
 もう一度言われて、ひとみと梨華が立ち上がった。
「わ、私達です」
 ひとみの声はかわいそうなくらいにかすれていた。
「三番は?」
「私達です」
 真希が答え。なつみと一緒に立ち上がった。
「四番」
「私達です」
「はい」
 真里と圭が同時に言って立ち上がった。
 こうして、三十番までの順番が決まると説明会は終わって、みんなは無言でそれ
ぞれの部屋に戻った。

110 :だれか : 2001/03/26(月) 22:53 ID:OG6P8WIg

 夜。真里と圭が、ベッドで眠りについてすぐの事だった。悲鳴が聞こえた。隣の
部屋の梨華の様だった。
 真里は飛び起きた。廊下に出て様子をうかがうと、梨華の泣き声が聞こえた。
「しょうがないじゃない」
 ひとみがなぐさめるのに
「分かってる。分かってるんだけど」
 梨華は泣き声で答えていた。
 真里が部屋に戻ると、ランプに火がついていた。
「どうしたの?」
 上半身を起こした圭が聞いた。
「怖いんだろうね。悪い夢でもみたのかも」
 梨華ちゃんの事だから、またネガティブにでもなっちゃったのかもしれない。

111 :だれか : 2001/03/26(月) 22:55 ID:OG6P8WIg

「矢口は怖くないの?」
「矢口? 矢口は自分が選ばれた者だって知ってるから怖くないよ」
「私さ。ここに来てからずっと疑問に思ってる事があるんだ」
 圭はひざを立てて、その上で腕を組んだ。
「村で暮らしてたときは、なんでもかんでも、ってわけじゃないけど、もっとみん
な一緒だった気がするんだよね」
「うん」
「ここではみんなばらばら。私達が他の人と話さないのはしょうがないわよ。だっ
て、この剣の事とか知られちゃいけないし、下手に仲良くなると余計な事まで言っ
ちゃうかもしれないから」
 真里はうなづいた。自分もそう思っていた。
「でも、みんなは一緒でしょ? なんでみんな怖いはずなのに一緒に話しあったり、
力を合わせたりしないの?」
「う〜ん、みんな強がってるのかも、自分達がおびえているのを見せたくないんだ
よ。それに、もしかすると自分達が竜を倒せるかも、って思ってるのかもしれない」
「じゃあ、あの二人は?」
 圭は隣の部屋を指差した。
「多分、もうあきらめてるんじゃないかなぁ? だからおびえてるんだよ。きっと」

112 :名無し読者 : 2001/03/27(火) 07:13 ID:mIFUnCRg
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113 :通学列車 : 2001/03/27(火) 23:07 ID:lT1l7tw.

 話の後、ランプを消して横になったけど、真里はなかなか寝付けなかった。
 よっすぃーと梨華ちゃんの姿が浮かんで離れなかった。二人に、矢口達が竜を倒
す剣を持っているって事を打ち明けてやりたい。だけど、それは言ってはいけない
んだ、矢口達の順番、四日目の夜が来るまで……。そこまで考えて真里ははっ、と
起き上がった。
 どうして四日目まで待たなきゃならないわけ? 四日目にならなきゃ竜に会えな
いってわけじゃないし……、最初の夜の儀式に現われた竜を倒しちゃえばいいんだ
よ。そうだよ、そうすればよっすぃーや梨華ちゃんがおびえることもないじゃん。

114 :だれか : 2001/03/27(火) 23:09 ID:lT1l7tw.

「圭ちゃん」
 真里は小さい声で呼びかけた。
「なに?」
 まだ寝ていなかったようだ。
「矢口達はさあ、竜を倒せるって事が分かってるわけじゃん。それなのにさ、他の
子が怖がってるのに四日目まで何もしないで見ていられる?」
「私もそれを考えてたんだ」
 ちょっとの間、二人は黙って闇を見つめた。
「じゃあ、明日の夜」
 抑えた声で真里が言うと、
「うん」
 圭の声が返ってきた。

115 :だれか : 2001/03/27(火) 23:11 ID:lT1l7tw.

  9。計算チガイ

 儀式の日、一日目は裕ちゃんと、辻だった。
 朝食の時も、昼食の時も、みんなの目は二人に向けられていた。でも、裕ちゃん
も辻もおびえている様子は見えなかった。それより、二日目の順番になっている、
よっすぃーと梨華ちゃんの方がよっぽどおびえているように見えた。二人とも昨日
は眠れなかったのか、疲れた顔をしている。
 長い昼間が終わり、夕食の後広場に出ると、すでにたくさんの子が二人ずつ、思
い思いの場所に立っていた。
「圭ちゃん」
 真里が呼ぶと圭はうなづいた。二人は湖と館の間を結ぶ線から少し東側に立った、
ここからなら湖から上がってきた竜の心臓を狙いやすい。
 裕子と希美は玄関の前に立っていた。館長達は見当たらない、館の中から見物す
るつもりなのだろう。裕子達が湖の前まで進み出ると、まわりのみんなは湖から距
離を置いた。

116 :だれか : 2001/03/27(火) 23:12 ID:lT1l7tw.

 長い時間がたって、とつぜん岸に波が打ち寄せ始めた。みんな目を凝らして湖を
見つめる。何かが来る気配がした。
 と、突然湖の中央から黒く、大きな塊が浮かび上がった。
「な……なにあれ」
 真里は思わず声にだした。大きかった、ちょうどダンプカーが湖から上がってく
る感じだった、竜は湖の中から岸に這い上がると、裕子と希美の前に体を降ろした。
 竜は想像した姿と全く違っていた。とかげ……ヤモリやイモリをそのまま大きく
した感じ。草に似た匂いの生臭さが辺りを包んだ。
 真里と圭は、竜が岸に上がったら飛び出すはずだったが、足がすくんで動き出せ
なかった。
 ――娘達よ、わたしになぞをかけよ。
 竜の声が響いた。真里は驚いた。竜の声はムスメと同じように、直接頭の中で響
いていたからだ。

117 :名無し読者 : 2001/03/28(水) 07:05 ID:Tf5iJcfU
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118 :だれか : 2001/03/28(水) 17:10 ID:XhGfJ5Cg

「辻、大丈夫やで」
 裕ちゃんは立派だった、震える辻を後ろにかばうように立って、竜に言った。
「竜。ウチらのなぞに答えなさい」
 さすがに声が少し震えている。
「心打たれるから落とし、
 落ちれば心を打つ。
 無くすから落とし、
 落としても無くならないもの。
 それはなんや?」
 真里は答えを考えたが分からなかった。短い静寂の後、竜が答えた。

119 :だれか : 2001/03/28(水) 17:12 ID:XhGfJ5Cg

 ――それはな、涙だ。
 竜は体を起こした。
 ――娘達よ、わたしのなぞに答えよ。
   過ぎたものなのに、
   誰もが出会い、
   過ぎる事がなければ、
   そのものに出会う事も無い。
   それはなんだ?
 裕子は答えにつまった。希美を振り返ったが、希美にも分からなかった。竜は一
歩前に出た。
「……しゃあない、辻。行くで」

120 :名無し読者 : 2001/03/29(木) 07:00 ID:xL/m/Azg
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121 :だれか : 2001/03/29(木) 23:18 ID:qTfGEOfM

「は、はい!」
 辻のひっくり返った返事を受けて、裕子はうなずくと、剣を抜いて竜の左横に回
り込んだ。
 二人は竜の左足の裏側に回り込み、心臓がある辺りの胸をめがけて、同時に切り
かかった。金属的なキィィィンッ、という音が二つ響き、剣は二人の手元で真っ二
つに折れてしまっていた。
 もはや、二人はなすすべも無く、ただ呆然と、つかだけになってしまった自分の
剣と竜とを見比べていた。
 竜はゆっくりとした動きで、希美を裕子の方に押した。二人は重なって倒れ、そ
して竜は大きな口を開けた。

122 :だれか : 2001/03/29(木) 23:19 ID:qTfGEOfM

(食べられる!)
 と真里は思った。だが竜はそのまま口から灰色の霧をふきだし、二人を包んだ。
霧がもう一度竜の口の中に吸い込まれると、そこには二人の老人が座り込んでいた。
それと同時に竜の背中で二枚の鱗が光るのが見えた。
 映画を見ているようだった、今起きた事と自分が、現実に繋がっているとはとて
も思えなかった。声も出す事も、動く事もできなかった。
 竜はゆっくり向きを変えて、のろのろと湖に引き返し始めた。真里は動く事もで
きずただ、通り過ぎる竜を見送っていた。
「矢口」
 突然、圭に肩をたたかれて、真里は我に返った。剣に手をかけ、すらっ、と引き
抜いて大きな声で叫んだ。
「竜、待て!!」
「待ちなさい!!」
 圭が遅れて、剣を抜きながら叫んだ。
 どこかで誰かが
「やめて!」
と叫んだ気がした。

123 :名無し読者 : 2001/03/30(金) 07:02 ID:QYpXcU92
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124 :だれか : 2001/03/30(金) 23:02 ID:wIzspa0U

 二人は全力で、竜の後ろから大きく左側に回り込むと心臓の辺りを、剣を両手で
握り、走りながら全力で打ち込んだ。
「!」
 信じられない事が起こった。二人の剣は高い金属的な響きと両手のしびれととも
に、つかから折れてしまった。
「な……んで?」
 竜を倒す剣で、竜を倒せない?
 竜は上半身をゆっくりひねり、二人を見下ろした。
 そのとき、誰かが後ろから走りよって、真里と圭の服を掴んだ。
「逃げるわよ!」

125 :だれか : 2001/03/30(金) 23:04 ID:wIzspa0U

 二人は引きずられるように走り出した。館の玄関辺りで振り返ると、竜はゆっく
りと湖に帰ろうとしていた。
 真里は力が抜けてその場にへたりこんだ。”腰が抜ける”ってこういう事を言う
んだ……。圭も、二人を助けてくれた娘も座り込んでいた。真里はその時になって
やっと、その娘がひとみである事に気付いた。
 座り込んだ三人のまわりを、何組もの娘達が、通り過ぎて館に戻っていった。誰
も真里達に声をかけなかった。
 真里は大きく息を切らせながら、そんなみんなをぼーっと見ていた。ひとみが肩
で息をしながら、真里と圭に言った。
「こうしてさ、通り過ぎてく娘達が、私達をどう思ってるか分かる? あわれで、
愚かで、かわいそうだ、って思ってるのよ」
 真里は、なんとなくひとみの話を聞いていた。ひとみは続けた。

126 :だれか : 2001/03/30(金) 23:04 ID:wIzspa0U

「だけど私には、あなた達がなぜ飛び出したかよく分かるの。あなた達は……」
 一瞬、ためらったように言葉に詰まった。だが思い切ったように続けた。
「あなた達は、竜を倒す剣を持った、選ばれた者だったのよ」
 真里と圭は驚いて、ひとみの顔を見た。
「よっすぃー」
 咎めるような声に後ろを振り向くと、梨華が立っていた。
「いいの」
と、ひとみは梨華を見上げた。
「私、二人には話してあげようと思うんだ」
 ひとみは立ち上がった。
「私達の部屋に行こう」
 歩きだすひとみと梨華に、真里達は体を引きずるようについていった。

127 :名無し読者 : 2001/03/31(土) 06:35 ID:M50p8C5c
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128 :だれか : 2001/03/31(土) 23:03 ID:f1h7kVQA

 四人はふたつのベッドに向き合って座った。
 ひとみは目を落としたまま低い声で、話し始めた。
「私達は、梨華ちゃんと二人で村を出たの、三日くらい歩くと、小屋に着いた。そ
の小屋には元気なおばあさんが住んでて、私達はそのおばあさんに一晩泊めてもら
う事にしたの……」
 その後の内容は、真里達が彩の小屋であった事とほとんど変わらなかった。竜の
話を聞き、剣をくれる事になって、奥の部屋に案内された。

129 :だれか : 2001/03/31(土) 23:04 ID:f1h7kVQA

「その部屋には、剣が突き刺さった大きな岩があったの、そして私達がそれを簡単
に抜くと、おばあさんは大げさに驚いて「竜を倒す剣を抜いた」、「選ばれた者
だ」って言ったわ」
「そ、それって……」
 真里が言うのをひとみは制した。
「分かってる、聞いて。私達はその時まで竜のいけにえになるのがすごく怖かった
の。どこかに逃げ出せるものならば、逃げ出したかった」
 だけど、自分達が選ばれた者となれば話は別だ。勇気を持って館にいける。そん
な二人におばあさんは忠告した、竜の剣の話は誰にもしてはいけない事、他の者の
剣は気休めに過ぎない事。
 二人はお礼を言って出発した。その後すぐ、梨華がハンカチを忘れた事に気付い
て、二人は小屋に戻った。

130 :だれか : 2001/03/31(土) 23:06 ID:f1h7kVQA

 おばあさんは奥の部屋にいた、耳が遠いのか二人が戻った事に気がつかなかった。
「その時、おばあさんは何をしてたと思う?」
 ひとみは真里と圭の顔を見た。
「おばあさんは、二振りの剣を持ってた。そしてそれを、岩の穴にひょいっ、て簡
単に差し込んでたの」
 振り向いて驚くおばあさんに、ひとみは腰の剣を抜いて迫った。
「これはどういう事なの?」
 おばあさんは目の前に剣を突き立てられながら、震えて訳を話した。少女達はど
の村から竜の館に向かっても、かならずこの小屋と同じような小屋を通る道筋になっ
ている事。そしてどの小屋でも少女達は竜の剣を手に入れ、自信を持って竜の館に
行けるようになっている事、それがおばあさん達の仕事である事。

131 :名無し読者 : 2001/04/01(日) 07:26 ID:uAuktbhc
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132 :だれか : 2001/04/01(日) 23:24 ID:/Mg7MC5I

「なんで、こんな人を騙すような事をするの?」
 ひとみはさらに迫った。竜は希望を持った子供達から若さを吸い取りたい、だか
ら自分達は少女達に希望を与えてやっているんだ、とおばあさんは言った。
「そんなもの、ホントの希望なんかじゃない」
 さっきまで、二人の胸にあふれていた自信は無くなって、さっきまで自分達が選
ばれた者だという自信を持っていた自分が恥ずかしくなって、おばあさんに対する
憎しみがいっぱいになって、ひとみは思わず剣を振り上げた。
「まって、ちょっと聞いてください」
 おばあさんは言った。普通の剣でも竜を倒す事はできる、と。
「どういう事?」
 おばあさんは一息つくと、本当の話を始めた。

133 :だれか : 2001/04/01(日) 23:26 ID:/Mg7MC5I

 竜を倒すのに特別な剣はいらない。ただし、竜のうろこを落とす事ができなけれ
ばダメだ。なぜなら、竜のうろこは人々の若さでできている。
「あなた達も聞いたでしょ?」
「?」
「竜を倒す剣にも突き通せないもの、それが”青春”だって」
 だから青春、若さ、時間。つまりうろこを落とす事さえできれば、誰にでも、ど
んな剣でも倒す事ができる。
「どうすれば、うろこは落ちるの?」
 おばあさんは、なぞの戦いに勝つ事だ、と答えた。竜になぜ? なんで? とい
わせる事ができれば、それだけで竜の鱗は落ちる。
 しかし、竜に知らない事はない、と言った。
「つまり、どんななぞでも竜に勝つ事はできないって事」
 ひとみは疲れた目を上げて、ため息をついた。
「私達にはもう、おばあさんに剣を振り上げる元気は残ってなかった」
 ひとみの話が終わると、部屋は静かになった。
 そうか、だから、誰もおびえてなかったんだ。だから、裕ちゃん達は折れた剣を
見てびっくりしてたんだ。
「私達だけが、びくびくしてた訳が分かったでしょ」
 ひとみは力なく笑った。

134 :だれか : 2001/04/01(日) 23:27 ID:/Mg7MC5I

「私達は、この事はだれにも話さないでいようと思った。言えばみんな竜と戦うま
での時間が苦しくなる、同じ老人にされるなら、その時までは希望を持ってた方が
いいと思ったから。でもあなた達に話せてよかった。あなた達は自分の順番を待た
ずに剣を無くしたから、話した方がいいと思ったの」
 真里は大きくうなづいた。
「ありがとう。もしこの話を聞かなかったら、どうして剣が折れたのか、そればっ
かり悩むところだったもんね」
 笑おうとしたけれど、思うように笑えなかった。それくらい疲れきっていた。

135 :だれか : 2001/04/03(火) 04:56 ID:BXG0ydW6

  10.WHY


 朝。いつの間にか眠ってしまっていたみたいだ。かけた覚えの無い毛布は、圭
ちゃんがかけてくれたのだろう。
 真里は、体を起こして、隣のベッドで眠る圭を見た。ほおに涙の後があった。
「自分が特別な人間だなんて思ったのが間違いだったのよ……」
 昨日の夜、寝る前に圭が言っていた言葉を思い出し、重い気持ちでベッドから降
りると、ポケットからとげぬきがこぼれ落ちた。
(ムスメ……)
 真里はハッとした。そうだ、やっぱりムスメは竜だったんだ。竜に知らない事が
なきゃ、なぞで負ける事もなく、鱗を落とす事もない。だから誰にも竜を倒す事は
できない。この世界で一番確かなもの、それは竜だ。
(よし、今晩竜に抱きついて「つかまえた」って叫ぼう)
 そうすれば、竜はこの世界から消えて、圭ちゃんも老人にならずにすむ。

136 :だれか : 2001/04/03(火) 04:58 ID:BXG0ydW6

 朝食の時、すでに裕子と希美はいなかった。
 ひとみと梨華は、一度だけ真里達と目を合わせると、それからは知らん顔をして
いた。今日はこの二人の順番だ。みんなはそんな二人をちらちら見ていた。
 哀れみのこもった視線。真里はなんとなく嫌な気分になった。みんな自分が竜を
倒す者だと信じているんだ。

137 :名無し読者 : 2001/04/03(火) 07:04 ID:.Ny0lao6
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138 :だれか : 2001/04/04(水) 00:36 ID:CHf5vQ/o

 朝食の後、真里は圭と外へ出た。今晩しようと思っている事を全部話すつもりだっ
た。
 二人は日のそそぐ芝生の中、大きな木の下に腰を降ろした。
「私達がさ、最初に会った時の事覚えてる?」
 先に口を開いたのは圭だった。
「うん」
「矢口は何にも知らなかったよね。でも、変な事言ってた、私を助ける事ができる
かもしれない、って」
 真里はそれをきっかけに話す事にした。
「圭ちゃん。矢口、その事で圭ちゃんに話さなきゃいけない事があるんだ」
 真里の言葉の力強さに、圭は少し驚いた。真里は一呼吸置いて、思い切って言っ
た。
「矢口ね……、この世界の人間じゃないんだ」

139 :だれか : 2001/04/04(水) 00:41 ID:CHf5vQ/o

 圭は首をひねった。
「それ、どういう事?」
 どういう反応をしていいのか困っているようだ。かまわずに真里は続けた。
 ムスメとの出会い、そしてゲームの事。ムスメをつかまえれば、ムスメと真里は元の世界の戻ってしまう事……。
「だから、矢口はあの時、竜がムスメだと思ったんだ。圭ちゃんが『竜は絶対』だ、って言ってたから。つまり、矢口が竜に抱きついて『つかまえた』って叫べば、矢口と竜はこの世界から消えて、圭ちゃんはいけにえにならずにすむ。助ける事ができるって思ったの」
「思った……って、今は?」
「その後は、竜を倒す剣がムスメだと思った」
「じゃあ、なんで剣を抱いて『つかまえた』って言わなかったの?」
「そんな事したら、矢口と剣が消えて、竜が残っちゃうじゃん。だから、竜を倒してから消えるつもりだったんだよね」
「あ、そうか」

140 :名無し読者 : 2001/04/04(水) 07:28 ID:sGSl.2dU
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141 :だれか : 2001/04/04(水) 23:57 ID:FS7hytU2

「でも、剣は一番確かなものじゃなかった。ちょっと回り道しちゃったけど、竜が
ムスメだって答えにたどりついたんだよ。矢口は今日の儀式の前に竜と一緒に消え
ちゃう。だから圭ちゃん達はおばあさんにならずにすむよ」
 真里の話が終わると、圭はだまって目をふせた。
「私……喜んでいいのか、分からない」
「なんで? 老人にならなくていいんだから、喜ばなきゃ」
「私……、私は矢口と一緒に老人になったっていいと思ったんだ」
 そう言って圭はまたうつむいた。

142 :だれか : 2001/04/04(水) 23:57 ID:FS7hytU2

「そんな事言っちゃダメだよ。この世界の老人は死んでるのと一緒でしょ? ホン
トの人生を生きた人間って、あんなもんじゃないはずだよ」
 真里は圭の肩に手をかけた。
「圭ちゃん。この世界は間違ってる。矢口が竜と一緒に消えたら、みんなでこの世
界を最初っからやり直すの」
 真里は、自分のセリフにちょっと照れくささを感じた。圭は涙目で真里を見つめ
て黙った。
 風がひとつ吹いて。
「矢口。元の世界に戻っても、私の事、忘れないでね」
 圭が言った。

143 :名無し読者 : 2001/04/05(木) 07:01 ID:Pd7s.RNc
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144 :だれか : 2001/04/05(木) 23:21 ID:8ZFs3RJk
 夕食がすむと、北の広場には昨日と同じようにみんなが湖の周りに集まっていた。
 湖の岸に、剣を持たずにひとみと梨華が立ち。館長達が館に引き上げると、広場
は静まり返った。
 やがて、岸に波が打ち寄せ、竜が現われた。のっそりと岸に上がってくる。
 真里はごくりとつばを飲み込んで竜を見据えた。
「矢口」
 圭が真里の手を握った。真里はその手を強く握り返し、そして離した。
 真里は飛び出した。一気に駆け抜け、竜の横、左前足に飛びついた。生臭い草の
匂い、ざらざらした肌ざわり。真里は思いっきり息を吸うと叫んだ。
「つかまえた!」

145 :だれか : 2001/04/05(木) 23:23 ID:8ZFs3RJk

 竜が首をひねり、真里を見た。真里はその頭を見上げたまま、動かなかった。竜
の目が赤く変わる。次の瞬間、竜は左前足をぐっ、と振り、小さい真里はひとたま
りもなく数メートル吹っ飛ばされてしまった。
 竜は赤い目で、ゆっくり真里に近づこうとした。その時、ひとみの声が響いた。
「竜。あなたの相手は私達でしょ!?」
 竜は、真里に向かって歩き出した。真里は動けなかった。ひとみはさらに叫んだ。
「儀式のじゃまをされるのが、そんなに嫌なの!?」
 竜の動きが止まった。
「今です。早く逃げて!」
 梨華の声に、真里は逃げだし、圭のところまで戻ると転んだ。竜は追ってこなかっ
た。赤い目がすっ、と引き、ひとみと梨華の方に向き直った。

146 :名無し読者 : 2001/04/06(金) 07:07 ID:9vwUrFHU
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147 :だれか : 2001/04/06(金) 23:50 ID:iEUM/tGo

「矢口」
 圭が真里の肩に手をかけた。真里は圭の顔を見上げた。
「どういう事?」
 圭は首を振った。その時竜の声が頭に響いた。
 ――娘達よ、わたしになぞをかけよ。
 竜はもうひとみと梨華の前に立っていた。
「竜。儀式の邪魔をされるのがそんなに嫌なの?」
 ひとみがからかうように言った。竜の目が再び赤くなる。
 ――娘達よ、わたしになぞをかけよ。
「あなたの思うようにならないのは、そんなに我慢できない事なの?」
 ひとみの声が震えていた。

148 :だれか : 2001/04/06(金) 23:53 ID:iEUM/tGo
 ――では娘達よ、わたしのなぞに答えよ。
「いやだ」
 ひとみはバカにしたように横を向いた。目をさらに赤く燃え上がらせた竜は、い
きなりひとみと梨華に迫りよった。思わず仰向けに倒れる二人。
 ――娘達よ、わたしのなぞに答えよ。
「あなたの思うように儀式が出来ないのは、我慢出来ない事なの?」
 竜は突然、二人を踏み潰そうとするように右足を持ち上げた。梨華がひとみにし
がみつく。
「私達を殺してもいいの?」
 ひとみは叫んだ。竜は一瞬動きが止まり、前足をそのまま二人の足の上に置いた。
 ――娘達よ、わたしのなぞに答えよ。
 竜の声にはいかりがこもっていた。
「いやだ。そんな無駄な事はしたくない」
 竜は前足にゆっくり重みをかけた。静けさの中、にぶい音が聞こえた。ひとみと
梨華が悲鳴を上げる。

149 :名無し読者 : 2001/04/07(土) 07:04 ID:KLTEINaM
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150 :だれか : 2001/04/07(土) 23:04 ID:6K5Fn162

 ――娘達よ、わたしのなぞに答えよ。
 竜の声が響く。
「殺せばいいでしょ。私達を殺しなさい!」
 竜は前足をひねった。しぼりだされるように出るひとみの叫び声。梨華はぐった
りとして動かない。
「なんで殺せないのよ!!」
 ひとみが叫ぶと、竜は前足をゆっくり二人の足からどけた。二人の足が折れてい
るのは離れて見ている真里にも分かった。
 ――言ったな。今、言ってはならない言葉を言ったな。
 竜は勝ち誇ったように声を上げると、二人に霧をはきかけた。霧が再び吸い込ま
れると、そこには二人の老人が倒れていた。
 竜は向きを変えて、荒々しく湖に帰っていった。

151 :だれか : 2001/04/07(土) 23:06 ID:6K5Fn162

「よっすぃー!!」
 抱き起こすと、変わり果てた姿のひとみは、弱々しい顔で真里を見上げた。
「あなたは……誰?」
 枯れた声を聞いて、真里は思わず顔をそむけて、涙をこらえた。
「どうして私はこんなところで眠ってたんだろう?」
 顔を上げると、圭は梨華を抱いて泣いていた。梨華はそんな圭を不思議をそうに
見ていた。
 しばらくして館から出て来た灰色のガウンを着た老人達が、ひとみと梨華の体を
支え、連れて行った。二人は自分の足で歩く事ができなくなっていた。
 みんなが館に引き上げ、広場に真里と梨華の二人だけになると、真里は急に体が
痛くなってきた。竜に飛ばされた時に打ちつけたらしい。
「矢口」
「ん?」
「元の世界に戻れなかったね」
 真里はうなづいた。
「これで、矢口達は竜と戦っておばあちゃんになっちゃうんだね」
 圭はため息をついた。

152 :だれか : 2001/04/08(日) 23:04 ID:eqmdYcQ6

「竜が確かなものじゃないんだとしたら、この世界で一番確かなものって、なんだ
ろ?」
 真里がつぶやくと、圭がハッと顔を上げた。
「矢口。竜は倒せるかもしれないよ」
「えっ!?」
 真里はおどろいて圭の顔を見た。圭は首を振った。
「ううん、どうすればいいのかは分かんない。だけど、これで私達には、竜が一番
確かなものじゃないって事が分かったじゃない」
 真里はじっと圭の顔を見て。何度もうなづいた。
「すごい! すごいよ! 圭ちゃん!」
 圭はにこっと笑った。
「後二日あるから、何かいい考えが浮かぶかもしれない」
 立ち上がった圭につられて、真里も立ち上がった。

153 :だれか : 2001/04/08(日) 23:06 ID:eqmdYcQ6

 部屋に戻った二人は、どうすれば竜を倒す事ができるのか、考えてみる事にした。
「まず、竜を倒すのに特別な剣はいらないのよね」
「うん、竜を倒す剣なんてものはないし、選ばれた者だっていない」
「ただ、剣で竜を倒すためにはなぞの戦いに勝って、鱗を落とさなきゃならない」
「って事は、竜に答えられないなぞを考えて、竜になぜ? って言わせればいいわ
けでしょ?」
「でも竜に知らない事はないのよ」
「じゃあ、ダメじゃん」
「ダメじゃないはずよ。だって竜は一番確かなものじゃないんだから」
「だってさぁ……」
「あ、ちょっと待って」
 圭はベッドから立ち上がった。

154 :だれか : 2001/04/08(日) 23:07 ID:eqmdYcQ6

「よっすぃーが、なんで殺せない、って言ったら、竜は、言ってはならない言葉を
言った、って言ったでしょ? あの時私、ずるいって思ったのよ」
「ずるい?」
「うん。だって、そのなんでっていうのは、なぞに対して言った訳じゃないじゃな
い」
「なるほどね」
「だから、そんな事でいいなら、竜になぜ? って言わせればそれでいいのよ」
「なぞでなくてもいいんだ」
 確かにその通りだと真里は思った。

155 :名無し読者 : 2001/04/09(月) 07:21 ID:q0Um7Lqk
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156 :だれか : 2001/04/12(木) 00:19 ID:xt5iaYFg
「でも、竜のなぞにも答えなきゃならないんだよ。昨日の竜が出したなぞの答え、
分かった?」
「なんだっけ?」
 真里は天井を見上げ、思い出した。
「過ぎたものなのに、誰もが出会い、
 過ぎる事がなければ、そのものに出会う事も無いもの。
 あれだって、矢口にはさっぱり分かんない。もし同じ問題を出されたらお手上げ
だよ」
 圭は真里を見つめた。
「あせる事はないわよ。まだ私達には時間があるし」
「なんとかなるかなぁ」
「なんとかするの」
 なんだか、圭ちゃんが頼もしく感じた。やっぱりこういう圭ちゃんの方が圭ちゃ
んらしい。

157 :だれか : 2001/04/12(木) 00:21 ID:xt5iaYFg

 ベッドに横になると、よっすぃーと梨華ちゃんの事が、頭に浮かんだ。なんであ
んなに竜を怒らせるような事をしたんだろ? 真里のまぶたの裏で、竜の赤い目が
ちらついた。
「圭ちゃん」
「なに?」
「竜はさ、思い通りにならないと怒るっていうのも、なんか使えるかもね」
「うん」
 圭は暗闇の中答えて、
「私も、あの二人の事を考えてたんだ」
と、言った。
 その後、真里がしばらく寝つけずにいると、
「矢口、まだ起きてる?」
 圭の声が聞こえてきた。
「おきてるよ」
「私ね……」
 圭は、間を開けて続けた。
「私、今、矢口と一緒だって気がするよ」
「え? なに?」
 意味の分かりかねた真里がたずねると、
「ううん、なんでもない」
 圭は毛布を深くかぶった。

158 :名無し娘。 : 2001/04/12(木) 04:47 ID:eFVHmDb6
初めて読んだけどオモロイです。
やすやぐ良いな〜。

159 :名無し読者 : 2001/04/13(金) 06:58 ID:/uoDjF0A
モーニング娘。板名作集の方であげさせていただきます。

160 :名無しさん : 2001/04/13(金) 19:30 ID:r9.2LNok
本屋をブラブラしてたら元ネタの本を発見!
が、読むと先を思い出してしまってこっちが
つまらなくなりそうだから我慢した。
結構気に入ってた話しなのにストーリーをほぼ
完璧に忘れてるからな、自分(w

これから出かけて週明けまで帰ってこないけど、
その間にいっぱい更新されてることを祈ってます。


161 :だれか : 2001/04/14(土) 00:41 ID:WfDZXkjY
>>158
長いのに読んでくれてありがとうございます。(^^;
>>159
ごくろうさまですm(_ _)m
>>160
まだ本屋にあったりするんですねぇ。
俺の場合は元々家にあったもの。この間偶然押し入れの奥から見つかったんです。
それで懐かしいなぁ、と思って読んでたんだけど、
名無しさんと同じく、見事にストーリーは飛んでました(笑

162 :だれか : 2001/04/14(土) 00:47 ID:WfDZXkjY

  11.未来の扉


 次の日、二人は自分達の剣がなかったので、ひとみと梨華の部屋から二振りの剣
をもらう事にした。
「なんだか、あの二人に助けられてばっかりだね」
「これが必要になればいいんだけど……」
「必要になるよ」
 朝食の時、となりによっすぃー達がいないのは、真里達の気分を曇らせた。今日
は前に座っているなっちとごっちんの番だ。そして、明日は矢口達の番……。
 真里は前に座るなっちに話しかけた。
「今晩だね」
「うん」
 なつみの落ち着きぶりが、真里にはかえって痛ましかった。
「最初の日の竜の出したなぞの答え、分かった?」
 なつみはうなづいた。
「なんだったの?」
「過ぎたものなのに、誰もが出会い、
 過ぎる事がなければ、そのものに出会う事も無いもの。
それは、誕生日」
「なるほど……誕生日か」
 真里は感心した。

163 :だれか : 2001/04/14(土) 00:54 ID:WfDZXkjY

「なんで教えてあげなかったの?」
 圭が強い口調で言った。なつみは驚いた顔で圭を見かえした。
「ひとりひとりの問題でしょ?」
 真希が横から冷ややかに言った。まわりのみんなは食事をしながら、この会話に
聞き耳を立てているようだ。
「みんなで力を合わせたらいいじゃない」
と、圭が言うと、なつみは言い返した。
「竜は選ばれた者に倒されるんだよ」
 食事の音がぴたり、と止まった。真希がなつみの顔を見る。
「……、そういう話を聞いた事があるの」
 再び食事が始まった。
 これじゃだめだ。みんな自分達が選ばれた者だと思ってる。みんなで力を合わせ
ればいい、って圭ちゃんは言った。その通りだ、でもどうすればいいんだろ?
(やっぱり……)
 よっすぃー達の話をみんなに話す、それしかない。でも、何から話せばいい?

164 :だれか : 2001/04/14(土) 01:01 ID:WfDZXkjY

 その時、朝食を食べ終わったらしいミカとアヤカが、むこうの席で立ち上がった。
真里はぐるりと食堂の中を見回して、老人がひとりもいない事を確かめた。
「ちょ、ちょっと待って。今、大事な事を話すから席に戻って」
 真里は早口で、出て行こうとするミカ達に言った。二人はいぶかしげに真里を見
て、みんなも驚いて真里を見た。
「この館の老人達が私達の味方かどうか分からないからさ、誰かが来たら話せなく
なっちゃうんだよ。急いで席について」
 ミカとアヤカは顔を合わせて首をひねった。真里は圭に言った。
「圭ちゃん。入り口で見張っててくれる? 誰か来たら手を挙げて欲しいんだ」
 圭がうなずいて、立ち上がる。それと同時に真希がなつみをうながして立ち上がっ
た。
「行こ、なっち。付き合ってらんないよ」
 なつみはうなづきながら、テーブルの下の剣を取って立ち上がった。他の何人か
も席を立とうとしていた。
「それは、竜を倒す剣なんだよね」
 真里が低く強い声で言うと、食堂は静まりかえった。

165 :だれか : 2001/04/15(日) 00:37 ID:L3vQt6xM

「それで、二人は選ばれた者なんでしょ?」
 真希がなつみを振り返る。
「何が言いたいの?」
 なつみは真里をまっすぐ見つめた。
「それを知られたらみんなを敵にまわす、って思ってるんだろうけど、大丈夫だよ」
 真里はみんなを見回した。
「だって、ここにいる全員が選ばれた者で、竜を倒す剣を持ってるんだからさ」
 低いざわめきが食堂に広がった。
「座って。話を聞いて」
 なつみと真希が力が抜けたように席につくと、ミカとアヤカも席に戻った。
「今から話す事は、昨日老人にされたよっすぃー達に聞いたの。二人は私達が、順
番が来る前に剣を折っちゃったから教えてくれたんだ」
 真里は手短に、森にある老人の小屋と、誰もが竜の剣を手に入れているはずだ、
というひとみの話をした。
 何人かが、机に顔を伏せた。
「泣いてる場合じゃないよ」
 真里は意識して強い口調で言った。

166 :だれか : 2001/04/15(日) 00:40 ID:L3vQt6xM

「よっすぃー達は、みんなにこの事を話さなかった。話せばみんなが希望を無くす
と思ったから。よっすぃーは誰も竜に勝つ事ができないと信じてたんだよね。だけ
ど、私は竜は倒す事ができるって信じてる、だからみんなにこの話をしたの」
 みんなは体を固くした。
「ここにいるみんなは、自分の剣を信じてた。なぞの戦いで負けても、剣で竜を倒
せるって思ってた。だけどそれじゃダメなんだよ。竜のうろこはいけにえの若さで
できてる。若さ、つまり青春は竜を倒す剣にも突き通せないものだから」
 誰も何もしゃべらない。
「で、ここからが大事なんだけど。竜の鱗は、なぞの戦いで勝てば落ちる。そして、
鱗が落ちればどんな剣でも竜は倒せるの」
「じゃあ、どうすれば、なぞの戦いに勝てるの?」
 圭織がたずねた。それが分からないのは真里も一緒だった。見張っていた圭が低
い声で言った。
「少なくとも、竜のなぞにはみんなで力を合わせる事ができるわよ。答えの分かっ
た人が教えてあげられ……」
 圭は急に話を止めると、手を挙げて食堂を出て行った。
「みんな、食事を続けて」
 真里が言うと、再び食事の音が始まり。おばあさんが一人入ってきた。
 真里が食堂を出ると、圭は玄関ホールで待っていた。二人は外に出て、昨日と同
じ木の下に腰を降ろした。
「言っちゃった」
「言った方がよかったと思うよ」
「大丈夫かな?」
 真里は、二人と同じように、外へ出てくるみんなを見ながらつぶやいた。
「じゃなきゃ、困るわね」

167 :だれか : 2001/04/15(日) 20:30 ID:zbSDWgLM
 昼食の時にはみんなの態度はまったく変わっていた。よそよそしい感じは消えて、
低い話し声があちらこちらで聞こえた。
「……私思ったんだけどさあ」
 そう言った圭織に注目する、真里達。
「竜の目と口の中には、鱗がないんじゃないかなぁ」
 なるほど、と真里は思った。するとなつみが、
「なっち達も同じ事考えてたんだ」
と、言った。
「そうか、何も心臓だけを狙う事はないのよね」
 圭がつぶやく。
「みんなで一斉に竜に向かって行くってのはどう?」
「でも、儀式に立ち合えるのって二人だけじゃないの?」
「関係ないよ」
 昼食の後も、みんなは色々相談しあっているようだった。真里と圭も、どうすれ
ば竜になぜ? と言わせる事ができるか話し合ったが、どうしても『竜に知らない
事はない』というところで突き当たってしまった。

168 :だれか : 2001/04/15(日) 20:36 ID:zbSDWgLM
 夕食の席で、この後儀式に望む事になっているなつみは、みんなに聞こえるよう
に言った。
「なっち達は、一人で住んでる竜には分からないはずの問題をだすつもりなんだ」
「どんな問題?」
「それはまだないしょ」
 真希が答えた。
「このなぞも竜に答えられるかもしれない。けど、なっち達にはこれ以上のなぞを
考えられなかったんだよね」
 なつみの後に真希が続けた。
「私達には時間がなさすぎたから。でも、負けるにしても、みんなの参考になるよ
うな負け方をするつもり」
「頑張ってね」
 まわりから声が飛んだ。
 二人は、緊張した顔でうなづいた。

169 :名無し娘。 : 2001/04/18(水) 00:58 ID:CDFEShYY
保全

170 :名無し読者 : 2001/04/18(水) 07:06 ID:eB2XNq8E
モーニング娘。板名作集の方であげさせていただきます。

171 :だれか : 2001/04/18(水) 23:20 ID:SbPcs4Og
>>169
すいません。ありがとうございます。
>>170
新スレですね。ありがとうございます。

172 :だれか : 2001/04/18(水) 23:25 ID:SbPcs4Og

 3日目の儀式。なつみと真希は玄関からゆっくりと湖に向かって歩き出した。他
のみんなも昨日までと違って、湖の近くに集まっている。
 なつみ達が湖の前まで来ると、やがて、竜が現われ、二人の前に体を降ろした。
 ――娘達よ、わたしのなぞに答えよ。
 竜が言うと、なつみが叫んだ。
「竜。わたし達のなぞに答えなさい」
 続いて真希が言った。
「5は0より上にあるが、
 2が5より上にあり、
 0がその2よりも上にある。
これはなに?」
 真里には答えが分からなかった。
 ――なるほど、考えたな。
 少し後ろに下がるなつみと真希。
 ――それはな、じゃんけんだ。じゃんけんの指の数だ。
と答え、さらに続けてなぞをだした。

173 :だれか : 2001/04/18(水) 23:27 ID:SbPcs4Og

 ――五十ある内の、始めの二つにすぎないが、
   数え切れないものがある。
   それはなんだ。
 真里は答えを必死に考えた。だけど頭の中で竜の声が響いて、考えをかき回され
てしまう。
 突然誰かが叫んだ。
「ひらがな五十音や。最初のあい、”愛”や!」
 振り向くと、叫んだのは加護だった。なるほど、愛、亜衣ね。
 竜の目が、さっと赤くなった。
「愛よ!」
 なつみと真希が同時に叫んだ。竜は少し間を開けて答えた。
 ――間違いだ。
「なんでよ!?」
 反射的に言い返して、真希はハッと口をつぐんだが、遅かった。
 ――言ったな。
 竜の赤い目がスッと引いた。
「愛じゃなかったら、なんなのよ」
 誰かが叫んだ。竜は体を起こし、バカにしたように答えた。
 ――もちろん愛だ。
「ずるい」
「ひきょうよ」
 まわりのみんなが口々に言った。竜の目が赤くなりかけた。その瞬間なつみと真
希は剣を抜き、竜の目をめがけて投げつけた。
 しかし、剣は竜の目には当たらず、甲高い金属音とともに鱗にはじかれた。竜は
目を赤く燃え上がらせ、なつみと真希を荒っぽくひとまとめにすると、ゆっくり霧
をはきかけた。

174 :名無し読者 : 2001/04/19(木) 07:07 ID:kAk/tIxU
>>171
どういたしまして。こちらです。

◇ モーニング娘。板名作集 第8版 ◇
http://natto.2ch.net/test/read.cgi?bbs=morning&key=987545866

モーニング娘。板名作集の方であげさせていただきます。

175 :だれか : 2001/04/20(金) 02:55 ID:jj.m2AlE

  12.4日目


 ついに竜と戦う日が来た。
 真里達には、昨日思いついた一つの計画があった。ひょっとすると、竜になぜ?
と言わせる事ができるかもしれない。ただ、あまりにも簡単な計画だったので、う
まくいくかは自分達でも疑問だった。
 昼食の後、真里達の部屋に、隣の圭織と亜衣がたずねて来た。
「頼みがあるの」
 圭織が言った。
「矢口は、この館の老人達が、圭織達の味方かどうか分からないって言ったでしょ。
圭織達はそれを知りたいの。で、一つ方法を思いついたんだ」
「方法?」
「儀式の前に、館長になんらかの情報を流すの。竜がそれを知っているかどうかで、
どっちの味方かどうか分かるでしょ?」
「そっか」
「もし館長達が竜の味方だとしたら、今度はそれを利用して、竜になぜって言わせ
る事ができるかもしれない。ウソの情報を流したりさ」
「なるほどね」
「だから、とにかく館長達がどっちの味方か分からなきゃなんないのよ」
 真里達は頼みを受け入れる事にした。
 そして、夜。玄関の前に真里達が立つと、間もなく館長達が二人の元にやって来
て、話しだした。
「まず竜が『娘達よわたしになぞをかけよ』という……」
「その順じゃなきゃいけないの?」
 真里は口をはさみ、館長の目をさぐるように覗いた。
「もし矢口達が『そっちから先になぞを出せ』って言ったらどうなるの?」
「なぜそんな事を……」
 そう言って館長は言葉をのんだ。真里はにやりと笑った顔を館長に見せて、圭と
目を合わせた。
「……幸運を祈る」
 館長はそれだけを言い、そそくさと館に消えた。

176 :だれか : 2001/04/20(金) 02:58 ID:jj.m2AlE

 湖の前に立った。まわりには、みんなが緊張した顔で集まっている。
「落ち着いてね」
 圭が静かに言った。
「うん」
 もう何も言っておく事はない。落ち着いて、その時を待つ。
「遅いね」
 誰かが言った。間違いない、館長は竜の味方だろう。多分館長はなにかしらの方
法でさっきの情報を竜に伝えてるはずだ。
「来た」
 声があがった。岸に波がうちよせる。見る間に波をかきわけ、竜が姿をあらわし
た。足が震える、目の前に立つ竜、草のような生臭さが鼻をついた。
 ――娘達よ。今日はわたしからなぞをかけよう。
 頭で声が響く。真里は、やっぱり、と思いながら。
「な……」
 と叫んだ。同時に圭が、
「矢口!」
と、真里の腕を引っ張る。打ち合わせどおりだった。
 ――な、の次はなんだ?
 からかうような竜の声が響く。真里は考えるフリをしながら、館の方を見た。二
階の中央、玄関の上にあたる部屋の窓に館長達らしき影が見えた。
「なんでもないよ」
 竜は少し目を細めた。

177 :名無し娘。:2001/04/20(金) 21:17 ID:ZBtQy7OM
とうとう竜との戦いですね!果たして矢口は勝てるのか!?

178 :名無し読者:2001/04/21(土) 06:14 ID:N3QXHGds
モーニング娘。板名作集の方であげさせていただきます。

179 :だれか:2001/04/22(日) 03:19 ID:JT9nd2Ts
>>177
それでは続きをどうぞm(_ _)m

180 :だれか:2001/04/22(日) 03:21 ID:JT9nd2Ts

 ――娘達よ、わたしのなぞを答えよ。
   それは、つまりOでありながら、
   Qより後にあり
   Jの二つ後にあり、
   一番最後にあるものだという。
   それはなんだ。
 なに? どういう意味?
 真里は答えを考えるどころか、問題の意味する内容すら満足に理解できなかった。
振り返ると、圭も真里を見つめている。やはり分からないみたいだ。遠くから、誰
かが何か叫んだような気がした。なに? もう一回言って。心でそう思った瞬間、
まわりの声を邪魔するように竜がなぞをくりかえし始めた。
 ――それは、つまりOでありながら、
   Qより後にあり、
 竜の目が赤い。まわりの声に腹を立てているようだ。
 ――Jの二つ後にあり、
 遠くで誰かが叫んでいるが、頭の中で竜の声が響いて聞きとる事ができない。
 ――一番最後にあるものだという。
   それはなんだ。
   あと一度だけ言う。
   それは、つまりOでありながら、
 真里はまわりの声を聞きとる事をあきらめて目を閉じた。つまりOって、それが
答えじゃないの?

181 :名無し読者:2001/04/22(日) 07:04 ID:TjUQtCVA
モーニング娘。板名作集の方であげさせていただきます。

182 :名無し娘。:2001/04/22(日) 20:33 ID:sQu3ldeA
今日はこれで終わりかな?

183 :だれか:2001/04/23(月) 00:53 ID:NRVrk8Aw
>>182
続きをどうぞ、と言っておきながら、
もう少しあげるつもりで寝てしまいました(^^;


184 :だれか:2001/04/23(月) 00:56 ID:NRVrk8Aw
 ――Qより後にあり、
 OはQの前だし。
 ――Jの二つ後にあり、
 それはLでしょ。
 ――一番最後にあるものだという。
 Z……。分からないよぉ。
 ――それはなんだ。
 圭が強く手を握ってくる。
 ――娘達よ、
 圭?
 ――これで終わりだ。
 圭!?
 ――おまえ達の負けだ。
「ちょっと待って!!」
 竜の最後の言葉に重ねて真里は叫んだ。
「その答えは……」
「矢口!」
 圭が心配そうに見つめる。矢口はうなづいた。
「その答えは、けい、Kだよ」
 もとはといえば『O』をアルファベットだと思ったのが間違いだった。後に出て
きた、QとかJのせいでてっきり『O』だと思ってた。『O』は『おう』のままで
よかったんだ。王、キング、つまりトランプでいう『K』は、クイーンの『Q』よ
り前にあり、ジャックの『J』より二つ後にあり、『一番最後』の13を表す……。

185 :だれか:2001/04/23(月) 00:58 ID:NRVrk8Aw

 ――間違いだ。
 竜が言ったが、真里達はひっかからなかった。
「その手はもう古いよ」
 竜は、いまいましそうに頭をまわしながら真里達をにらみつけた後、口を開いた。
 ――娘達よ、わたしになぞをかけよ。
 いらいらした竜の声にも、真里と圭はひるむ事なく前に出た。
「果てしなく続くものの、始まりより前に存在し、
 何もない、という事を表すもの。
 それはなに?」
 真里が問うと、あっさりと答えが返ってきた。
 ――それはな、ゼロだ。

186 :だれか:2001/04/23(月) 01:07 ID:NRVrk8Aw

 竜が答えを言ったとたん、圭がよく通る声で叫んだ。
「言ってはならない言葉を言ったわ!」
 竜は黙り込んだ。圭の言葉の意味が分からなかったらしい。真里は竜の前に進み
でると子供に説明するように言った。
「『その答えはな』の後に『ゼロ』。分かる?」
「言ってはならない言葉を言った!」
 まわりのみんなも竜に向かって叫ぶ。
 ――いかさまだ。おれはなぞの答えを出しただけだ。
 声に押されながら、真っ赤に燃える目で竜は言う。その体から、かすかに蒸気の
ようなものが立ち上った。
 そのうち広場は叫び声でいっぱいになり、竜の目はあまりの怒りで赤を通り過ぎ
て、ほとんど白く透き通る。
 ――なぞの答えだ! それがなぜ……!
 そう続けた瞬間、すさまじい蒸気が竜の体から立ち上った。
 身体を仰け反らせた竜がすごい声で叫ぶ。真里と圭は思わず後ろに下がった。
 苦しみに身をよじる竜から次々にうろこが落ち始めた。みんな、息を飲んでその
光景を見守る。はげしく蒸気を吹き上げながら、うろこは身体中からはがれおち、
そして空中に溶けて消えていった。

187 :名無し読者:2001/04/23(月) 07:16 ID:xdUNonKU
モーニング娘。板名作集の方であげさせていただきます。

188 :名無し娘。:2001/04/23(月) 20:02 ID:LLkNBG5g
おおっ!?勝ったの!?

189 :名無しさん:2001/04/24(火) 00:11 ID:LlFQCUuw
おお!
やっと話の最後を思い出した!って、思い出したらダメじゃん!!(w
もうちょいでラストですね。
がんばって下さい〜。

190 :名無し娘。:2001/04/25(水) 04:34 ID:CNHzOErU
hozen.

191 :名無し娘。:2001/04/25(水) 16:58 ID:cQ1X5ym6
傑作ですね。読んでてほんとにドキドキする。
今から元ネタ本買いに行ってきます。

192 :だれか:2001/04/25(水) 21:05 ID:ZKm5EzxM

  13.みんな

 竜はもはや竜には見えなかった。
 いまやうろこを全部なくし、ひとまわり小さくなったその生き物は、焚き火の光
に照らされて生まれたままの姿でうずくまっていた。
 なぞの戦いの後には力の戦いが残されていた。真里は静かに息をついて剣を抜い
た。圭もそれにならった。二人のまわりでも剣が抜かれる。
 竜はさっきから少しも動かない。うろこと一緒に心まで落としてしまったようだっ
た。
 剣を抜いた娘達が焚き火の前に出た。
「まだ……力の戦いが残ってるよ」
 真里が呼びかけた。
 ――みんなで、か?
「みんなで、だよ」
 真里が答えた。

193 :だれか:2001/04/25(水) 21:07 ID:ZKm5EzxM

竜はゆっくり頭を上げると、館の二階の老人達を見据えた。
 ――王よ。終わりだな。
「言うな!」
 館長が叫んだ。
「王?」
 娘達は顔を見合わせる。
 ――昔、年老いた王が、なぞの好きな竜と取り引きをした。
「娘達よ、戦うのだ!」
 誰も動かなかった。竜は館長の叫び声を無視して話を続ける。
 ――年老いた王は、よその国から攻め込まれないかと不安だった。しかしそれ以
上に、若い者に自分の地位を奪われる事におびえていた。そこで王は湖の竜と取り
引きをした。それというのも、竜は魔法を使う事ができたからだ。
「うそだ!」
 館長の叫び声。みんなが構えていた剣はすでにおろされていた。

194 :だれか:2001/04/25(水) 21:10 ID:ZKm5EzxM
 ――王は自分の国の、自分より若いものの時間、つまり若さを竜に与えると約束
した。かわりに竜はその魔法で王の国の生活を守り、王自身もそれ以上年を取らぬ
ようにしてやった。ただ、竜の魔法とはいえ、ただ人々から若さを奪う事はできな
い。そのためには儀式をつくり出す必要があった。なぞが好きで、知らぬ事のない
竜は、いけにえとなぞの戦いをすることを思いついた。そして魔法のかぎの言葉と
して、なぜ……。
 竜は体をがくりとくずれた。しかし再び頭を持ち上げ、続けた。
 ――という言葉を選んだ。生きのびた王とその一族は、竜と王の昔話をつくりあ
げ、王自らは竜の館の館長になった。王よ、のぞみの暮らしは楽しかったか?
 その瞬間、シュッと乾いた音がし、矢が竜の頭に深く突き刺さった。矢口が驚い
て振り向くと、そこには弓を構えた館長の姿があった。
「戦え! 娘達よ、戦え!」
 館長は叫びながら、次の矢をつがえる。誰も動かなかった。竜の目は赤く燃えて
いた。

195 :だれか:2001/04/25(水) 21:34 ID:ZKm5EzxM
>>187 名無し読者さん
お疲れです。
>>188
勝ちました(〜^◇^〜)
>>189
あらら。思い出しちゃいましたか……。
頑張ります。ありがとう。
>>190
どなたか存じませんがありがとう。
なんか飛ばされた小説も多いみたいですね。
>>191
元ネタ本、ありました? なかなかレアだと思いますよ。

dat逝きも怖いんで、再びペースアップで更新したいと思います。
あ、保全でもいいのか……。

196 :名無し娘。:2001/04/26(木) 12:24 ID:deAGZB4s
>>195
保全ではなくて是非更新でお願いしますよ。
すごく面白いです、これ。
元ネタって何ですか?小説かなにか?


197 :名無し娘。:2001/04/26(木) 22:22 ID:.vesu8P.
面白いです。
最後まで頑張って下さい。

198 :だれか:2001/04/26(木) 23:09 ID:3VDOtXEs
>>196
できるかぎり頑張ります。元ネタは小説、と言っても児童文学のジャンルに入るの
で本屋にはまずないと思います。図書館とかならあるのかな?
>>197
ありがとうございます。

199 :だれか:2001/04/26(木) 23:12 ID:3VDOtXEs

 ――矢を射るほどわたしが憎いか? では王よ、のぞみの暮らしは楽しくなかっ
たのか?
 かすれた声でつぶやき、竜はゆらりと立ち上がると、ゆっくりと館に向かって進
みだした。真理達は竜に道を開けるように左右に広がった。
 王の放った二本目の矢が、さっきと同じ場所に突き刺さった。玄関の階段をのぼっ
た竜は、力を振り絞るように上体を持ち上げ、玄関のひさしに前足をかけた。目の
前に館長がいた。
 ――王よ、のぞみの、くらしは……、
 そこまで言った時、音をたててひさしが崩れ落ちた。竜がかすかに頭を持ち上げ
ると、すさまじい叫び声が上がった。
 竜の叫び声が尾を引きながら消えていくのと同時に、突然館長達の叫び声が聞こ
え、館が鈍い音を響かせながらゆっくりと崩れ始めた。真里達が呆然と見守るうち
に、やがて館の形はなくなり、そこには巨大な岩山が残るだけになってしまった。
 いつのまにか、空には月が出ていた。みんな、声もなく静かだった。
 真里はなぜだかむなしい思いにとらわれていた。必死になって頑張ったわりに、
一番重要な場面に参加できなかったまま、事が終わってしまったような気がしてな
らなかった。

200 :だれか:2001/04/26(木) 23:14 ID:3VDOtXEs

(これからどうすればいいんだろ……)
 そう考えてふと、ムスメの事を思い出した。結局、この世界で確かなものってな
んなんだろう?
 なぜか真里は、あれほど憎んでいたはずの竜に、哀れみを感じた。ゆっくり岩山
に近づくと、誰にも聞こえない声で竜にむかって呼びかけた。
「この世界で何も知らぬ事のなかった竜よ。この世界で、一番確かなものってなん
だったの?」
 すると、とぎれとぎれに、かすかな竜の声が真里の頭の中で響いた。
 ――……のなぞは……誰にとって……しかなものは……問わなけれ……分か……。
「誰にとって?」
 ムスメはそんなこと言わなかった。
「誰にとって、ってどういう事?」
 真里はもう一度呼びかけてみたが、竜の声は戻ってこなかった。
「それは、矢口にとってって事じゃ……」
 振り向くと、言葉を途中で切った圭が立っていた。

201 :名無し読者:2001/04/27(金) 05:57 ID:FhZ42Pgw
>>195
どういたしまして。

モーニング娘。板名作集の方であげさせていただきます。

202 :名無し娘。:2001/04/27(金) 14:59 ID:bm.rpTKI
だれかage

203 :だれか:2001/04/28(土) 22:00 ID:w89TwxsM

「聞いてたの?」
 圭はうなずいた。
 その時、みんなが声をあげた。岩山の向こう側から誰かがやって来たようだ。近
づくと、老人にされたはずのひとみと梨華、なつみと真希、裕子と希美だった。
「信じられないよ。竜を倒したんだね」
 ひとみがうれしそうに言った。
「わたし達地下室にいたんだけど、急に若返ったっていうか、元に戻ったんだ。そ
れであわてて部屋から出たらいきなり館が崩れ出してきたんだよ」
「で、誰が竜に、なぜって言わせたの?」
 なつみがたずねると、みんなが真里と圭を見つけた。
「二人とも、そんなとこにいないでこっちに来なよ」
 みんなが二人を引っ張り出す。
「ちょ、ちょっと待って、待ってよ」
「竜になぜって言わせたのは、みんなのおかげだよ」
「どういうこと?」
 そう聞く六人に説明する者。大声でばんざいと叫ぶ者。竜、そして王につ
いての話。みんなはそれぞれの感想を話し合い始めた。
「矢口さぁ。一番確かなものがなんだったか分かったよ」
 ざわめきの中、真里は圭に言った。圭はすっと笑顔を消した。
「なに?」
「みんな。ここにいるみんなだよ。圭ちゃんの言葉で分かったんだ」
 圭は少し寂しそうに笑った。
「じゃあ、ためしてみようか」

204 :だれか:2001/04/28(土) 22:03 ID:w89TwxsM

「ためす?」
「みんなで手をつないで、つかまえたって言うのよ」
 真里は思わず自分の手とみんなを見比べた。
「ためしてみる?」
 圭の問いに真里はうなづいた。
 まだ喜びあっているみんなに、圭は声を張り上げた。
「ねぇ、みんな。ちょっと集まって座って。わたし達、これからの事を話し合わな
くちゃ」
「そうか。これからは何もかもわたし達でやっていかなきゃなんないんだ」
 圭織が言い。賛成の声があがって、みんなは輪になって座り込んだ。圭がもう一
度言った。
「話をはじめる前に、みんなで手をつないでくれない?」
「どうして?」
「これからわたし達でやってくためのわたし達の儀式、みたいなものかな」
 儀式なんてよそう、という声も上がったが、みんなは手をつないでくれた。

205 :だれか:2001/04/28(土) 22:05 ID:w89TwxsM

「矢口」
 圭が真里の手をぎゅっとにぎる。真里は少しとまどった。それを言ってしまえば、
みんなと別れてここから消えてしまう。
(……いや、違う)
 真里は首を振った。みんなとは別れない。みんながムスメなら、消えるのはみん
なと一緒だから。
 もう一度圭が手を強く握った。真里はうなづくと、叫んだ。
「つかまえた!」
 何も起こらない。
「何をつかまえたの?」
 すぐとなりでひとみが尋ねた。圭は、複雑な表情の真里を横目に答えた。
「わたし達の……ホントの暮らしをつかまえたのよ」
 そして、そっと手をほどくと、にっこり笑ってみんなに言った。
「じゃあ、これからの事を相談しようか」

206 :名無し娘。:2001/04/30(月) 03:07 ID:KU87ocA6
保全

207 :だれか:2001/04/30(月) 05:44 ID:uVLT.hDs

  14.Never Forget

 みんなの話し声。真里はそれを遠くに聞きながら、ぼんやりと焚き火の炎を見つ
めていた。
 みんなは、これからどうするかということを話し合った。自分達の村の様子も見
に行かなくてはならない、老人の村のみんなも若返っているはずだった。
「とりあえず、明日さしあたって役立ちそうなものを館から掘り出してさ。老人の
村に様子を見に行こうよ」
「ああ、それから一緒に自分の村のみんなを助けにいけばええな」
 明確な予定がはっきりした事で、みんなはいくらかの元気を取り戻した様だった。
 真里はその間ずっと発言せず、圭も真里を気づかうように黙っていた。話し合い
が終わった時、ひとみが真里を振り返り、
「なんか、他人事みたいな顔してるんだね」
と、冗談混じりに言った。
 その後みんなは館のくずれた岩山から毛布やマットを掘り出し、それぞれ好きな
場所で横になった。
 真里と圭はみんなから少し離れたところで、森の中でそうしていたように一緒に
毛布でくるまった。
 しばらく続いていた話し声がとだえるとみんな眠ってしまったのか、広場は急に
静まりかえった。

208 :だれか:2001/04/30(月) 05:52 ID:uVLT.hDs

「矢口」
 圭がささやいた。
「なに? 圭ちゃん」
 真里も小さな声で答えた。
「矢口さ。この世界に住んじゃいなよ」
「なりたくなくても、そうしなきゃ仕方ない気がしてきたよ」
 真里は冗談っぽく言った。
「嫌なの?」
 圭がこちらに顔を向ける。
「嫌じゃないよ」
 ふと元の世界が頭をよぎって、そんな答え方しかできなかった。
「じゃあ、なっちゃいなよ」
 圭の息が頬にかかる。真里はそれには答えず、
「圭ちゃん?」
と、呼んだ。
「なに?」
「圭ちゃんは、みんながムスメじゃないって知ってたの?」
「なんで?」
「そんな気がした」
 圭はゆっくり目を閉じ、うなづいた。
「違うって思った」
「?」
「確かにみんながいたから竜は倒せた。でも竜がムスメなら、それを倒したみんな
もムスメじゃないって思ったの。確かなものって倒すとか倒されるとか、そんなん
じゃない気がしたの」

209 :だれか:2001/04/30(月) 05:56 ID:uVLT.hDs

 圭の言葉の後、静寂が二人をつつむ。しばらくして真里が口を開いた。
「圭ちゃん、ひょっとしてムスメが誰だか知ってるんじゃないの?」
「どうしてわたしに、矢口の一番確かなものが分かるの?」
「分らなくても、そうじゃないかなって思ってる事があるんじゃないの?」
 真里は起き上がった。
「圭ちゃん、間違っててもいいよ。教えて」
 圭は目を閉じ、息をととのえる。
「わたし、矢口にここにいて欲しいと思ってるんだよ」
 声が震えている。
「そんなわたしがさ……、誰がムスメか、知っていたとしても言うわけないじゃな
い」
「圭ちゃん」
 圭は閉じていた目を開き、真里を見上げた。真里はずっと前にこうしてまっすぐ
見上げられた事があったなと思った。
「ムスメ……だ」
 真里はあの日、廊下の角で、こうして黒ネコに見つめられた事を思い出した。
「……やっぱりそうだったんだ。圭ちゃんがムスメだったんだ」

210 :だれか:2001/04/30(月) 05:59 ID:uVLT.hDs
>>206
保全ありがとうございます。

211 :だれか:2001/05/01(火) 00:44 ID:yJDI.Dz2

 圭はさみしそうに笑った。
「ちがうよ」
 矢口は圭の言う事も聞かずに続ける。
「何度か圭ちゃんがムスメじゃないかって思ったんだけど、やっぱりそうだ。ずっ
と矢口の側にいて、そう、矢口が竜を倒そうと思ったのも元はと言えば圭ちゃんの
ためだった。矢口にとって、この世界で一番確かなもの。それが圭ちゃんだったん
だ」
 真里はそう言うと圭に飛びつき、力いっぱい抱きしめて、低い声で叫んだ。
「つかまえた」
 世界は変わらず、ただ、圭の泣き声が聞こえた。真里は何がなんだか分からなかっ
た。圭は泣きながら、声にならない声で言った。
「矢口、あんた、ばかだよ。でも、矢口にとって一番確かなものって、言ってくれ
て、ありがとう……」
 真里は呆然と、しばらくそのまま圭を抱きしめていた。やがてそれに気付いて圭
から身体を離すと、圭は顔を上げずに囁いた。
「教えてあげる。矢口にとってこの世界で、ううん、どの世界でも一番確かなもの。
それは矢口、矢口自身だよ」
 真里は驚いて真里の顔を見つめる。

212 :だれか:2001/05/01(火) 00:46 ID:yJDI.Dz2

「そんな……、そんなわけないよ」
「ううん。多分、間違いない」
「だって……、矢口は確かなものなんかじゃない」
 圭はゆっくり首を振った。
「誰に取っても、一番確かなのは自分自身なんだよ」
 そういうと圭は真里のほおに手をあてた。
「わたしだって……、わたしにとって一番確かなものは矢口だって、そう思ってい
たいわたし自身なんだよ、きっと」
 真里はそう言った圭から目を離して、自分の体を抱いた。この小さな体、こんな
ちっぽけな自分が一番確かなものだなんて、当たり前すぎて信じられなかった。で
も考えてみれば、自分の他にはもう何も残っていなかった。
 圭が身を起こして、まっすぐ真里を見つめた。焚き火の炎に照らされた、圭の顔。
「行っちゃうの?」
 真里は目を見開いて圭を見つめると、自分の肩から手を離した。

213 :名無し読者:2001/05/01(火) 07:14 ID:cLAe1qTc
モーニング娘。板名作集の方であげさせていただきます。

214 :だれか:2001/05/02(水) 00:40 ID:8jA/nkqw

 今、消えてしまってもいいのか。もちろん、自分が消えても圭達はうまくやって
いくだろう。いればそれなりに役立つだろうけれど、どうしてもいなければならな
いというわけではなかった。みんながこれからの事を相談していたとき、なんだか
取り残された感覚だったことを思い出した。やはり自分は別の世界の人間なのだ。
 でも、圭ちゃんはどうなる? 矢口の事を一番確かなものだと言ってくれた圭ちゃ
ん。自分だって、さっきまで一番確かなものだと信じていた。その圭ちゃんを残し
て消えてしまってもいいのか。
(ああ……)
 こんなにあやふやで、自分の事さえ決められない自分。これでもほんとに一番確
かなものなのか。
 元の世界に戻らなくちゃならない。圭ちゃんとは別れたくない。……一番確かな
ものを知りたい。
 焚き火の炎がゆらりと揺らいだ。泣きたいのに泣けなかった。今、自分で決めな
くてはならない事を苦しいくらい分かっていた。
 その時だった、
 ――時間がないぞ、真里。
 頭で声が響いた。
「ムスメ」
 ――元の世界じゃ、そろそろ二分間になるぜ。おまえ、急いでたんだろ?
 確かにムスメの声だった。

215 :だれか:2001/05/02(水) 00:44 ID:8jA/nkqw

「どうしたの?」
 圭が不安そうに真里を見る。
「聞こえない? ムスメの声」
「ううん。聞こえない」
 ――おれをつかまえられないんだったら、もう元の世界に戻すよ。おまえときた
ら、いつまでたってもおれを見つけられないんだからな。
「ムスメ。見つけたよ」
 真里は圭を見る。圭は聞こえない、と首を振った。
 ――じゃあ、つかまえてみろよ。
「ちょっと待ってくれない?」
 ――まだ時間が欲しいのか?
「少しでいいから」
 ――ああ、分かったよ。じゃあ二分待ってやる。二分たったら、もしおまえがお
れをつかまえられなくても、おれ達は元の世界に戻るからな。
 そう言って、ムスメの声は消えた。

216 :名無し読者:2001/05/02(水) 03:50 ID:BdFnFcGY
モーニング娘。板名作集の方であげさせていただきます。

217 :名無し娘。:2001/05/02(水) 16:21 ID:GXgDW./k
この原作大好きだったんで、なんか嬉しいよ。
頑張ってクダサイ!ひっそりと応援してます。

218 :名無し娘。:2001/05/03(木) 02:02 ID:1hgh6ALw
クライマックス楽しみです。頑張ってください。

219 :sage:2001/05/04(金) 00:57 ID:uVIxY7vI
hozen

220 :だれか:2001/05/04(金) 11:04 ID:UTqaYtgA
明日の夜まで更新できないので、保全。
>>216-219ありがとう。

221 :保全:2001/05/04(金) 23:35 ID:9AyO6llA
保全

222 :名無し娘。:2001/05/05(土) 21:31 ID:XGMU30H6
hozen

223 :だれか:2001/05/05(土) 23:13 ID:ea39F8yg
>>221-222 保全ありがと。

224 :だれか:2001/05/05(土) 23:20 ID:ea39F8yg

  15.娘。

 突然のまぶしさに目がくらんで思わず手をかざした。と、同時に、黒ネコが腕か
ら飛び降りた。
 つぶった瞳が明るさに慣れていくにつれ、真里を見上げる黒ネコが、大きく伸び
をしているのが見えた。
「ムスメ!」
 ――なかなか面白かったな。
 頭で声が響いたが、真里はあまりの周囲の変化に心がついていかなかった。
 ――そろそろ二分間だぜ。おまえ、急いでたんだろ? さっさと行ったほうがい
いぜ。
 たった二分間!? 真里の頭の中を、さまざまな記憶が駆け抜けた。圭ちゃんと歩
いた森の中、竜の館、そして竜との戦い……、
 あわててポケットに手を入れると、とげぬきがあった。このとげぬきは、あっち
の世界で圭ちゃんが持ってるはずじゃん。あんなにしっかり握り締めてたのに……。
 ムスメは真里から目を離すと、何事もなかったように廊下のむこうに歩き出した。
真里は少しだけ荒っぽくムスメを呼び止めた。
「ちょっと待ってよ。なんでここにこれがあるの? 圭ちゃんは……、あの世界は
どうなったの?」

225 :だれか:2001/05/05(土) 23:22 ID:ea39F8yg

 ――あの世界?
 黒ネコは振り返り、面倒くさそうに座るとしっぽを軽く揺らした。
 ――もう、ないよ。
「ない?」
 ――あの世界は、おれとおまえだけの世界だったんだよ。はじめに言ったろ?
こいつはおまえだけの世界だって。
 ムスメは腰を上げ、体をいっぱいに伸ばして、のびをした。
 ――じゃあな。
 黒ネコは、真里に背を向けて、頭としっぽを軽く振りながら歩き出した。
 あの世界はもうない。矢口の望んだ……、矢口だけの時間。真里はとげぬきを握
り締めたまま、ぼんやりと立ち尽くしていた。
「矢口」
 突然、懐かしい声で呼ばれて振り向くと、圭が立っていた。

226 :だれか:2001/05/05(土) 23:25 ID:ea39F8yg

「圭ちゃん!」
 一瞬あの世界からやってきたのかと思ったが、違った。衣装のワンピースがなん
だかまぶしかった。
 圭は勢いよく自分の名前を呼ばれたのに驚いて少したじろいだ。そして、
「ごめん!」
と、頭を下げた。
「へっ?」
「わたし、すぐに言うつもりだったんだけどさ。矢口があまりに早く飛び出してい
くもんだから言えなかったんだ。ごめんね」
「なんの事?」
「あのとげぬき、わたしのだったんだ。ちょっと辻をからかってやろうと思ってさ」
「なに? このとげぬき、圭ちゃんのだったの?」
 真里は、握り締めていた手を開いた。
「なんだ、まだ持ってたの?」
 真里は、やっぱりこれは圭の手に戻る事になっていたんだと、一人うなづいた。

227 :だれか:2001/05/05(土) 23:27 ID:ea39F8yg

 圭は不思議そうに真里の顔をのぞいた。
「怒んないの?」
 真里はそれには答えず、とげぬきを圭の手に握らせた。
「矢口の事だから、絶対に怒ると思ったんだけどなぁ」
 真里は首を振った。圭はそれを見て不思議そうな顔をしたが、やがてはっと目を
見開いた。
「あ! 早くスタジオに行かなきゃ。娘。がそろわなきゃ本番始まんないよ」
 ムスメと言ったのかと、真里は驚いた。もちろん圭が知っているはずはない。廊
下を振り返ると、黒ネコの姿はもうどこにも見当たらなかった。
「そうだね。わたしがムスメだもんね。いや、ムスメが矢口かな?」
 その言葉に、圭はとげぬきをポケットにしまいながら、真里の目をのぞきこんだ。

228 :だれか:2001/05/05(土) 23:29 ID:ea39F8yg

「娘が……誰だって?」
 真里はその目を見返して、軽く笑った。
「それが問題だったんだよ」
 何か言いたげな圭の肩をたたくと、真里はスタジオに向かって歩き出した。
「そして、圭ちゃんがムスメで、みんながムスメなんだよ」
 真里が言う。あわてて真里の横に並んだ圭が聞いた。
「それ、どういうこと? 『みんなが』って?」
「そのつもりになったら、いつか話すよ」
「何よ、ずいぶんもったいぶるじゃん」
 真里はちらりと圭の顔を見た。
「そりゃそうだよ。だって、それを考えるのに二分間もかかったんだもん」
 スタジオから、みんなの声が聞こえてきた。

                                 (おわり)

229 :だれか:2001/05/05(土) 23:45 ID:ea39F8yg
読んでくれたみなさん。レスくれたみなさん。
名無し読者さん。小説紹介スレの名無し娘。さん。
その他、色々なところでこの小説を紹介してくれたみなさん。

さんくすふぉーおーるm(_ _)m

230 :名無し娘。:2001/05/06(日) 00:11 ID:ykZ8Qtyo
おお・・・ついに完結したんだ・・・
ありがとう。だれか・・・

231 :名無し娘。:2001/05/06(日) 00:13 ID:hIsxXKog
お疲れ様でした。
最高に面白かったです。
マジで。

更新されてるかどうかいっつもこの時間にこのスレ覗いてましたよ。
つー事でまた面白いの書いて下さい。

232 :231:2001/05/06(日) 00:14 ID:hIsxXKog
ゴメン。揚げちゃった。

233 :名無し娘。:2001/05/06(日) 01:54 ID:gHnDufLo
結局原作ってなんだったんすか?
誰か教えてください!

234 :名無し娘。:2001/05/06(日) 05:31 ID:kPIQ/wh2
おもろかったぁ〜。
自分も原作知りたい。

235 :名無し読者:2001/05/06(日) 07:08 ID:Ku4s3PYk
>>229
御脱稿おめでとうございます。
モーニング娘。板名作集の方であげさせていただきます。
お疲れ様でした。

236 :名無し娘。:2001/05/06(日) 17:45 ID:V4isFd9s
今日初めて見たんですけど一気に全部読んでしまいました。
大傑作ですね。

237 :名無し娘。:2001/05/06(日) 19:29 ID:Pn0LHCGQ
お疲れ様でした。ほんとに面白かったです。
191で元ネタ本買いに行くと書き込んだものですが、偕成社の文庫で売っていました。
このアレンジは、素晴らしいと思います。
原作名は言っていいのかな?「二分間」と「児童文学」の検索ですぐ見つかりますよ。

238 :名無し娘。:2001/05/06(日) 21:37 ID:WZWgrhwA
236さんと同じで今日はじめて見かけて一気に読んだ。
ずっと沈んでいたのは知っていたが、ネタスレと思ってた。
『だれか』さん、お疲れ様でした。いい話をありがとう。

239 :名無し娘。:2001/05/07(月) 00:21 ID:6A90zaqI
凄く良かったです。
面白い話をありがとう。

240 :だれか:2001/05/07(月) 00:49 ID:UILzvlVk

>>230
いやいや、こちらこそありがとうございました。
>>231
ありがとうございます。
次かぁ、次はオリジナルでいきたいんだけど、ただ、今のdat逝きのペースを見ると2chは難しいかなぁ。忙しくって。
>>233-234
ありがとうございます。そういえば原作のタイトル言ってませんでしたね(^^;
原作については>>237さん参照です。よかったら読んでみてください。
>>235
ありがとう&ごくろうさまでした。感謝してます。
>>236
こんな長いの一気に読んでくれてありがとう。読みづらくなかったですかね?
>>237
ありがとうございました。文庫版なんて出てたんですね。欲しいなぁ。
原作名の事、お気遣い頂いてすいません。
>>238
ネタスレ(笑
「いい話」だと、みなさんが感じていただけたらこんなうれしい事はないです。

p.s.保存みちよさん&保存依頼してくれた方もありがとう。
  今日気付きました。

241 :だれか:2001/05/07(月) 00:52 ID:UILzvlVk
>>239
読んでくれてありがとう♪

242 :名無し娘。:2001/05/08(火) 15:15 ID:IqEZ4B7g
ちょっと気になったのですが、もしかして215と224の間に話がぬけてませんか?

243 :だれか:2001/05/08(火) 21:52 ID:Zp6tbgBU
>>242
ご指摘ありがとうございます。そうです。その通りです。
ああ……、やっちまったよ……。
一応間抜けたは次のスレに乗っけときます。
ああ……。
後日、某スレのあぷろだの方へ修正版をあげる予定なのでもしよろしければどうぞ。

ホントにすいませんm(_ _)m(泣

244 :だれか:2001/05/08(火) 21:54 ID:Zp6tbgBU
>>215の続き)

「ムスメは何て言ったの?」
 圭が静かにたずねる。真里はムスメの言った事を伝えた。
「あと二分で行っちゃうんだ」
「もう、一分ちょっとしかないよ」
 圭はさみしそうに笑った。
「矢口は、きっと竜を倒すためにここに来たんだよ。今度は、矢口の世界の竜を倒
すために戻るんだわ」
「矢口はそんなにかっこいいやつじゃないよ」
 そう言いながら真里は、やっぱり一番確かなものが自分だという事に自信が持て
なかった。みんなや圭の方がずっと確かなものに感じて仕方なかった。
 ――あと一分。
 頭でムスメの声が響いた。
「矢口。とげぬきもらえる?」
 真里はポケットからとげぬきを取り圭に渡すと、立ち上がり、周りを見渡した。
月明かりの下、竜の住んでいた湖はゆうゆうと広がり、館の跡を吹きぬける風が軽
く砂埃を上げる。焚き火の周りで毛布にくるまり寝息をたてるみんな。そして、す
ぐ目の前でとげぬきを握りしめ座っている圭。それなのに……。
(それなのに……)
 ムスメは、自分が一番確かなもので、みんなや圭ちゃんは確かじゃないって言う。
 ――あと三十秒。
 ムスメの声が遠く、響いた。
「圭ちゃん。多分、圭ちゃんの教えてくれた答えは間違ってないと思う。だけど、
だから矢口が考えた事も間違いじゃないと思うんだ。それは矢口がそう思ったから。
矢口が一番確かなものなら、矢口が確かだって思ったもの、みんなも、そして圭ちゃ
んもきっと矢口にとって確かなものなんだよ」
 圭は黙って真里を見つめていた。
「圭ちゃんの事、忘れないよ」
「わたしも」
 真里はそっと自分の身体を抱き締めた。そして、叫んだ。
「つかまえた!」
 ――あたり!
 ムスメの声が響いた。

>>224へ)

245 :242:2001/05/09(水) 00:09 ID:hloUhZAM
補完ありがとうございました。
大変面白かったです。原作も今度読んでみようと思います。
お疲れ様でした。次回作も期待してます。

246 :だれか:2001/05/11(金) 01:28 ID:kDGiIlOo
改訂&修正版。あぷろだにあげました。

http://www.musume2ch.f2s.com/up/files/241.htm

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